1 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 21:54:43.85
ID:ygWmT1FG0 先生「高橋、藤田――女」
女「……」
先生「おーい女? 眠ってるのか?」
女「はっ、すみません! ぼうっとしてました!」
先生「返事しないと欠席にするからなー」
アンニュイな表情で出席確認を取る黒髪の綺麗な女性―――それが私たちの担任の先生。
低血圧だから朝は苦手だそうで、いつも眠そうにしています。
その仕草一つ一つに、私は見とれてしまっていたわけで……。
女「で、どうやったら付き合えると思う?」
友「いや、土台無理なわけで」
3 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 21:56:05.48
ID:ygWmT1FG0 女「そこを何とか!」
友「あんたのこれまでの人生で『そこを何とか!』が通じた試しがあるの?」
女「何とかそこを!」
友「言い方の問題じゃないっての」
女「うー」
友「はあ……。とりあえず、話す機会を多くしてみれば?」
女「と言うと?」
友「最近配られた進路調査票、問題有りなら二者面談だから」
女「なるほど! 問題児を装って二人きりでお喋りし放題!」
友「教師を落とそうとしている時点で問題児ではあるが」
女「ありがとう、友! 私頑張るね!」
5 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 21:58:46.89
ID:ygWmT1FG0 先生「……どうしてだ」
女「?」
先生「可愛い子ぶって首を傾げても無駄だ。この調査票に書かれたことをもう一度確認しろ」
女「『お嫁さんになりたい』と書いてありますね」
先生「他人ごとのように言うな! お前が書いたんだろう」
女「すみません、これはちょっと書き間違えたんです」
先生「はあ……ならさっさと書き直すこと」
女「『先生のお嫁さんになりたい』と書くつもりだったんです。それでは訂正してきま――」
先生「待て」
7 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:02:49.72
ID:ygWmT1FG0 女「なんですか? 急いで訂正しないといけないのですが」
先生「……ああ、なんか面倒くさいな。教師って」
女「先生お疲れなんですね。ちょっとお茶を淹れてきます」
先生「悪いな、ありがとう」
女「いえいえそんな」
こぽぽぽ
先生「ずず………ふう」
女「あっ、茶柱」
ぽかっ
女「痛い! よりにもよってこのタイミングで突っ込みますか!?」
8 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:05:47.78
ID:ygWmT1FG0 先生「うるさい! それよりなぜだ? なぜ無難に『進学』の二文字を書いてくれない?」
女「私の進路は、先生のお嫁さんって決めたんです」
先生「私には、そのつもりはない」
女「ところで先生、『嫁』って漢字がありますよね」
先生「え? ああ」
女「家に女が来ると『嫁ぐ』。でも、これって古い考え方ですよね」
先生「確かに、近代以前の『家』という制度が、そのまま漢字として残ったとも言えるな」
女「……」
先生「……」
女「先生のお家って、どちらにあるんですか?」
先生「さっきまでの話はどこにいった?」
9 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:07:41.31
ID:ygWmT1FG0 女「いえ、大して話す内容を思いついていたわけでもないので」
先生「ああ、もやもやする……」
女「先生は、確かアパート暮らしでしたよね」
先生「え、どうして知っているんだ?」
女「なるほど、メモメモっと……」
先生「あ! はめたなお前!?」
女「いい感じで情報が集まって来ました」
先生「私の情報、集められていたのか……?」
女「ええ。先生の初恋の相手が、女性だってことも調べがついてます」
先生「―――――!!」
その時、先生の麗しいご尊顔がにわかに凍りつきました。
あれれ、「なぜならその初恋の相手こそ、この私!」って冗談が言える雰囲気じゃなくなったよ……?
10 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:10:26.25
ID:ygWmT1FG0 女「せ、先生? 今のは冗談ですよ?」
先生「あっ…………あはは! そうだよな、うん。大人をあんまりからかうなよ?」
女「ご、ごめんなさい」
うわ、どうしてここで謝っちゃうの私……。
さっきまでの楽しい雰囲気がますます壊れちゃうよ。
先生「それじゃあ、進路調査はちゃんと書き直して提出な」
女「はい……」
11 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:13:58.95
ID:ygWmT1FG0 女「もう死にたい……」
友「変な話だね、それ」
女「なんか触れちゃいけないところに触れたこの感じ。ああもう死にたい……先生の胸の中で」
友「あんたらしさがちょっと残っててほっとしたよ」
女「私、どうすればいいいかなあ」
友「『お嫁さんになりたい』以上のボケをかましていくしかないって」
女「えー!? あれだって、顔から火が出るほど恥ずかしかったのに!」
友「あ、人並みの恥じらいは持ってたんだ」
女「それに、あれ以上の進路なんて思い浮かばないよ」
友「『先生の彼女になりたい』は?」
女「うわ、それっ……!」
彼女って言葉はリアルっていうか、すごく生々しくて。
私はなんだか顔からプラズマでも放出できそうな気分になってしまいました。
友「まあ、頑張りなさい」
12 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:15:55.87
ID:ygWmT1FG0 先生「書き直してこいって言っただろ」
女「ごめんなさい」
先生に提出した進路調査票は、白紙のまま。
結局「彼女になりたい」は恥ずかしすぎて書けなかったのでした。
先生「進学するかどうか、迷ってるのか?」
女「はい。うちは母子家庭で、母親の収入だけじゃ厳しかったりもして……」
お、なんか本当に進路相談って感じ。
先生「女の成績なら、奨学金が貰える可能性もある。就職まで考えると、やっぱり大卒のほうがいいんだ」
そりゃあ、普通科を修了した高校生の就活なんて、勤め口は限られて当たり前ですけど。
女「奨学金かあ……。そうなると、これまで以上に勉強を頑張らないといけませんね」
先生「当然そうなる。それが女のためだ」
14 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:19:20.13
ID:ygWmT1FG0 女「私、数学とっても苦手で……。でも、先生がつきっきりで見てくれれば、頑張れるかもしれません」
先生「いくらでも見てあげる。約束するよ」
女「やった! 先生と一緒に多くの時間を過ごせるなら、私、進学します!」
びし! 決まった!
先生「そういう理由で、か……」
どうしてか分かりませんが、先生は不満顔でした。
ともあれ喜ばしいことに、先生と一緒の時間が増えました! めでたしめでたし。
15 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:22:22.97
ID:ygWmT1FG0 女「ということで、ひとまず成功でした」
友「友達として、あんたの将来が本当に心配になってきたわ」
女「なんで? 順調に先生との距離を詰めてるよ?」
友「それはそうと、あんた中学から数学はめちゃめちゃ得意だったじゃない」
女「先生の担当教科が数学って分かってから、テストはわざと間違えてきたもん。馬鹿な子ほど可愛いって言うから」
友「わあ、それはもう馬鹿の対極『ずる賢い』だよ……」
16 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:26:24.77
ID:ygWmT1FG0 先生「うーん、この問題が難なく解けるなら、こっちも少し考えれば解けるはずなんだが……」
女「私って、抽象的な思考を汎用して問題を解決する作業がすごく苦手なんですよ」
先生「その割には女、物理の成績は良いんだよな」
いけない、これからは物理の点数もセーブしないと。
先生「これは私の、数学教師としての未熟さの問題か」
女「そ、そんなことないです! 先生の教え方、とっても分かりやすくて好きですよ?」
先生「そうは言っても、現に女が問題を解けていないんだから」
女「あ! なんか今なら解ける気がします!」
先生「ん? それじゃあこっちの類題をやってみようか」
17 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:30:27.44
ID:ygWmT1FG0 ちょちょいのちょいっと。
女「できました!」
先生「は、早いな。見せて」
女「……どうですか?」
先生「考え方は全く正解だ。惜しいことに、最初に定義したX≠0を忘れている」
女「あちゃ、うっかりですね」
この辺は如才なく、数学苦手アピールを織り込んでおきました。
先生「よかった、ちゃんと解き方は理解しているな」
女「はい! だから、先生の教え方が悪いってわけじゃないんです」
先生「それなら、いいんだが」
18 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:34:17.38
ID:ygWmT1FG0 女「私、これからもずっと先生に数学を習いたいです。えへへ」
先生「……」
あ、いま先生ちょっと照れたのかな?
これはいける……!
女「それから、数学以外のことも、習いたいなあ……なんて」
先生「無理だ。文系科目はからっきしだし、理系科目に関しても専門の教師のほうが教えるのは上手い」
女「うー」
先生って、やっぱり鈍感。
……だがそれがいい!
19 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:38:20.96
ID:ygWmT1FG0 委員長「それでは、文化祭の議事に入りたいと思います。まずは、クラスの出し物から……」
先生「あ、その前にいいかな」
委員長「なんですか?」
先生「今年はクラスの出し物をする場所として、教室以外に体育館や屋上のスペースが使えるようになった」
先生「その前提のもとで、自由に企画してくれ。以上」
委員長「連絡が抜けて、すみませんでした」
先生「いや、つい昨日の職員会議で決まったことだし。委員長は悪くないよ」
委員長「は、はい。それでは意見のある人は、挙手を――」
女「……」
なんか最近、先生と委員長の距離が近い気がする。
文化祭を控えて色々な話を二人でしているんだろうけど、ちょっとジェラシー。
20 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:44:25.73
ID:ygWmT1FG0 友「女、なにか出し物について考えた?」
女「コスプレ喫茶で先生を着せ替え人形に――」
友「やめなさい。先生はまだ恥を捨てられる御歳じゃないでしょ」
女「そう言う友は?」
友「そうね……せっかく体育館が使えるんだから、劇とか」
女「えー、劇!?」
私は思わず大声を上げてしまって、クラスの目線が一斉にこちらへ。
先生「女、意見があるなら挙手で」
女「すみません」
委員長「じゃあ案の一つに加えて、演劇ね」
その後も喫茶店という案が持ち上がって、どういう方向性の喫茶店にするかで議論は白熱。
メイド喫茶は他と被るということで、和風の女給喫茶なるものにとりあえず決定。
21 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:47:58.58
ID:ygWmT1FG0 女「演劇の話、全然出なかったね」
友「まあ喫茶のほうが楽で面白いから」
委員長「それでは今日の案を生徒会で持ち寄って、来週またクラスで話し合いましょう」
そして次の週―――
委員長「ごめんなさい! 喫茶店の提案通りませんでした!」
クラスに響く驚きの声。
委員長によると、喫茶には校内での出店数上限があったそうです。
今年はその上限を超えて喫茶店が人気、その結果どのクラスが店を出せるか抽選が行われ―――
委員長「運悪く、抽選漏れでした……」
先生「先週、他に出た案はなかったか?」
委員長「体育館で演劇、という案だけです」
クラスはなんだかどよんとした空気。
うう、なんか間接的に私が責められているような……。
22 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:51:07.66
ID:ygWmT1FG0 先生「んー、演劇か。私も学生時代やってたな」
は!
女「皆さん、聞いてください!」
バンと机を叩いて立ち上がると、教室は静まり返りました。
女「演劇は素晴らしい! かのシェイクスピア先生も仰っていました!」
女「『人間もまた舞台の上で立ちまわる役者で、人生こそが劇なのだ』的なことを!」
友「引用しっかり!」
24 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 22:55:57.70
ID:ygWmT1FG0 女「どうですか皆さん、これから生きていく上で、一生を演じいく上で」
女「高校最後の文化祭を、素晴らしい舞台に、思い出にしようじゃありませんか!」
女「私たちの青春に捧げる、卒業歌として!」
私が叫ぶと、クラス中から拍手が起こりました。
あまりの名演説に涙を流す者まで現れました。
委員長「じゃあ皆賛成みたいなので、劇に決定です」
委員長だけがあまりに冷静でした。
26 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:00:55.03
ID:ygWmT1FG0 先生「女が劇をやろうと言うとは思わなかった」
女「意外ですか?」
先生「ああ。……あの演説は、録音したかったくらいだ。感動した。涙が出た」
お前だったのかよ。
読者の代わりにツッコミを入れておきます。
女「劇の方でも、先生に色々と教えて頂けたらなと思います」
先生「まずは数学が先だ」
女「はい!」
先生と二人きりの、放課後の勉強会は、至福のひととき。
私が問題を解いているあいだ、先生は細かい事務仕事や授業内容の整理をしているようです。
先生「あ、委員長に連絡を忘れてたな」
女「委員長さんにですか?」
先生「ああ。女、連絡先知ってたりしない?」
女「わかりますよ」
先生「じゃあ『頼んでいた件、もうしなくていいよ』とだけ伝えておいて。それでわかると思うから」
女「はい……」
27 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:03:59.33
ID:ygWmT1FG0 先生と委員長のあいだにある、信頼関係。
それが私をちょっぴり不機嫌にさせました。
先生「……? どうした、手が止まってる」
女「先生、委員長さんと仲がいいですよね」
先生「仲って。……あの子はよく働いてくれるし、仕事を頼むことも多い」
女「先生が委員長に、気楽に話しかけてるのも見かけます」
先生「そうかな。気楽に話せる生徒と言うなら、私は女を一番に挙げるが」
女「ふぉ!?」
ふぉ!?
先生「あ、いや。今のは少し贔屓っぽいかもしれないな」
女「贔屓ばんざい!」
先生「いいから手を動かせ……ったく」
問題を解きながら、私は頬の緩みを抑えることが出来ませんでした。
私が、この私が、先生に一番近しい生徒……!?
28 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:05:14.25
ID:ygWmT1FG0 女「えへへへへへ、ぐふっ、ぐふふふふふ」
友「うわ、友達辞めたくなるくらい気持ち悪い顔」
女「辞めてもいいよ……えへっへへへ」
「辞めたらこうなるけど」
女「うわ、友がモブキャラに!」
「あー、なんかこっちのほうが気楽だわ」
女「やめて! 戻ってきて!」
「いちいち括弧の前に『友』って打つの面倒くさいしなあ」
女「メタ発言禁止!」
友「先生と順調なのは喜んでいいのかな、友達として」
女「もしかして、友も先生のことを?」
29 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:07:20.31
ID:ygWmT1FG0 友「レズはクラスに一人でいいよ」
女「駄目だよ友。『レズ』は差別っぽいニュアンスを含むことがあるから、『レズビアン』あるいは『ビアン』って呼ばなきゃ」
友「誰もそんなガチっぽい注釈期待してなかったよ!」
女「言っておくけど、先生は渡さないから」
きりっ
友「このままもし先生と付き合ったら、どうなると思う?」
女「……結納?」
友「飛ばしすぎ」
自覚はあった。
友「そうじゃなくて、教師と生徒の恋愛沙汰なんて、発覚したら免職ものでしょ」
友「大好きな先生に、迷惑かけていいの?」
女「友は勘違いしてるなー」
友「なにを?」
30 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:09:37.75
ID:ygWmT1FG0
女「迷惑をかけるかもなんて心配するような、半端な気持ちなら、私は先生と付き合わない」
友「――――あんたの感情の切っ先、鋭い。知らなかった」
女「でしょ?」
能ある鷹は爪を隠す。
恋する乙女は想いを秘める。
女「これ、ギャルの鉄則」
友「一気に軽い言葉になったな」
軽い言葉、ふとした仕草。
そういうものに、本当の感情は見え隠れするものです。
友「しかし、劇の件は大丈夫なの?」
女「劇?」
友「まさか女が主役に立候補するとは思わなかったから」
ここで話は少し前、私の名演説の後の、劇についての話し合いに遡ります。
31 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:12:21.85
ID:ygWmT1FG0 委員長「ということで、何の劇をやるかは決まりました」
委員長「配役もシンプルですから、このまま決めてしまいましょう」
委員長「まずは主役――」
女「はい!」
バンと机を叩くのは本日二度目。
委員長「はい、女さん立候補。他には誰かいませんか?」
友「ちょっと、どういう魂胆?」
女「主役への演技指導、経験のある担任、導きだされる少女漫画的ルート!」
友「普段のあんた見てると、演技指導は要らないんじゃ……」
32 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:15:14.40
ID:ygWmT1FG0
女「大丈夫、演技が苦手な演技もちゃんとするから」
友「もはや天才だよ」
女「へへ。照れる」
友「頼むから、皮肉を皮肉として受け取ってくれないかな」
女「送料はそちら持ちで」
友「私とあんたの心的距離って、宅急便を使うほどだったのね」
遡るの反対ってなんでしょうね? 下るかな。
ここで話は下って、友との会話。 33 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:16:59.56
ID:ygWmT1FG0 女「今日、台本が渡されたから、いよいよ練習だー」
友「読みあわせからか。頑張りなさいよ」
女「先生と一緒なら、どんな壁でも超えられるもの……!」
友「性別の壁より高い壁って、なかなか無いからね」
その壁はたぶん、性別のせいじゃなくて、社会的認識の欠如のせい。
友「先生、今日は演技指導に来てくれる?」
女「数学に毎日付き合ってもらってるし、お願いすれば大丈夫」
そっか、二人きりの数学の時間、少し減っちゃうのか……。
残念だなあ。
友「暗い顔してないで、頑張りなさいよ」
女「……うん」
34 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:20:06.98
ID:ygWmT1FG0
先生「ほら、声をだして」
女「……っ!!」
先生の白くて綺麗な手が、私のお腹に触れています……。
ただの発声練習なのに、なんて美味しいシチュエーション!
先生「あー」
女「……あ、あー………」
先生「ここから息を吐くんだって。はい、ふー」
女「ふー」
先生、吐息が耳元に当たってます!
そしてお腹をさすらないでください。溢れてしまいます……色々と!
先生「もう一度、あー」
女「あー……」
先生「うーん、駄目だな。少し荒っぽいが……」
先生の手が上がって両脇に!?
先生「うりゃ」
女「あっ、あはははははっ! や、やめて下さい先生! あはははは!」 35 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:22:13.32
ID:ygWmT1FG0 先生「そう、その笑い声の感じ! それが腹式呼吸の発声だ!」
女「わ、分かりましたって……あははははっ!」
五分後。
女「はあ、はあ……ひどいです、先生のえっち」
先生「トレーニングの一環」
女「死ぬかと思いました、本当に」
先生に触られるのが嬉しくて。
先生「これで声が出るだろう」
女「あー」
先生「よしよし。じゃあ、私は他の子を見てくるから」
先生は私から、つと離れていってしまいます。
至福のひととき終了。
36 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:23:49.94
ID:ygWmT1FG0
先生は、ここが女子高であるにも関わらず人気です。
それは先生が他の同性の嫉妬を許さないほどの美貌の持ち主だからでした。
だから、先生と仲良くなると、むしろ他の女子生徒からの風当たりが強くなります。
私はそれを覚悟した上で、先生に近づいているつもりでしたが
女「――!」
委員長さんがこちらを悔しそうに見ているのに気づいてしまった時、
とても平常心でいることは出来なかったのです。
37 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:26:51.23
ID:ygWmT1FG0
友「だから、クラスに一人で十分だって」
女「本当なの。すごく羨ましそうに、こっちを見てた」
友「あの良い子ちゃんが?」
成績優秀、容姿端麗、ついでに言えばお家は金持ち。
なんともスキのない設定の委員長さんでしたが、なんと先生に横恋慕。
友「いや、横恋慕は意味が違うから」
女「どうしよう、委員長さんに勝てる気がしないよ……」
友「珍しく弱気なのね」
女「だって家がお金持ちなんだよ?」
友「あんたの性格の悪さが透けて見える」
経済力以外は勝っている、なんてことは言いません。
思ってもないし。
38 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:30:07.54
ID:ygWmT1FG0
女「これはもう、先んじて先生に色仕掛けをするしか……」
友「あんたの色香なんか空気1に対して1ppmだから」
女「分かりづらい単位で馬鹿にされた!」
友「まあ、段飛ばしで階段を上ったら、ずっこけることもあるでしょう」
女「……転がり落ちて、大怪我ってことね」
友「慎重に行くに越したことはないって」
女「ありがとう、友。いつも相談に乗ってくれて」
友「あ、二人がくっつく方に私二万賭けてるから」
女「最低だよ! 今の感謝を返せ!」
そんなこと知りたくなかった!
友「賭けに勝ったらね。『二万円ありがとう』って言うから」
女「人の感謝を汚して返すなっ!」
と言うか、いったい誰と賭け事なんかを!
39 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:32:08.89
ID:ygWmT1FG0
先生「文化祭、そろそろだな」
女「台詞はもうばっちり覚えました!」
数学の問題を解きながら過ごす時間。
中間テストやら、文化祭準備やらで忙しいここ二週間の、数少ないオアシス。
先生「大変だっただろう?」
女「いえ。先生と一緒だから、頑張れました」
先生「……いつも、女はそう言うけど。大変な時は、大変だと言ってくれよ」
女「先生大変です。この問題、さっぱり」
先生「どれどれ」
先生が問題を、私のすぐ横から覗き込みます。
心臓が2ビートから一気に16ビート。
委員長「失礼します」
先生「ん、用事?」
委員長「明日の文化祭準備の段取りですが……」
40 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:34:38.43
ID:ygWmT1FG0
先生「ああ、これね。これは―――」
委員長「――――」
先生「――、―――――」
女「……」
この問題が解らないと言ってしまった手前、先に進めることも出来なくて、手持ち無沙汰。
先生、はやくこっち来てー。
委員長「あ、女さん。数学を教えていただいてたの?」
先生が来るように祈ったら委員長さんが来ました。
女「うん。私、数学だけはどうしても苦手で」
委員長「わざわざ先生のところに来なくても、私で良かったら、いつでも教えてあげるよ?」
にこり。委員長スマイル、プライスレス。
女「……うん、今度よろしくね」
にこり。私のスマイル、ワースレス。
心情的に。
42 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:36:42.59
ID:ygWmT1FG0
委員長「じゃあ、失礼しました!」
委員長は嬉しそうな声で挨拶して、去っていきました。
先生「あんな委員長、珍しいな」
女「そ、そうですね」
怖い! 委員長が怖いよ!
内心ガタガタふるえる私に、先生が気づいた様子はありませんでした。
そして、あっという間に文化祭前日。
43 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:39:09.09
ID:ygWmT1FG0
委員長「じゃあ、大道具さんお願いします!」
委員長の指示の下、体育館ステージ上に運び込まれる数々のセット。
とてもいいものに仕上がっています。
「女さん、次、これの衣装合わせお願いします」
女「はいはーい」
先生「凛々しいな」
委員長「うん、すっごく似合うよ女さん!」
女「えへへ、そうかなあ」
なんだか顔が熱い。
「委員長、これどこだっけー?」
委員長「あ、それは役者の立ち位置との兼ね合いだからもう少し待って」
「りょーかい」
「これは?」
委員長「えっと……あの右のやつが来てから、その右にお願い」
「はーい」
45 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:41:30.17
ID:ygWmT1FG0
友「委員長、すごいなあ。全部覚えてるんだもん」
先生「この劇のために一番尽力しているよ。間違いなく」
女「そうですね」
そう、一番頑張っているのは委員長さん。
私なんぞが弱音を吐いてはいられない。
委員長「じゃあ立ち位置の確認も兼ねて、リハーサルします」
「「はーい」」
委員長「女さん、こっちにお願いね」
女「あ、うん」
委員長「このくらいでいいかな。照明も……よし」
委員長「じゃあ幕が上がったと思って、冒頭から場面転換のところまで行きましょう!」
女「お願いします!」
弱音を吐いては、いられないんだ。 46 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:43:39.56
ID:ygWmT1FG0
委員長「はい、お疲れ様です!」
女「……はあ、はあ」
委員長「女さん、素敵だったよ。思わずみとれちゃった」
女「ありが……と?」
委員長が揺れてる? と思ったら、揺れていたのは私の視界でした。
二、三歩ふらついて、私は委員長さんにもたれかかってしまいました。
委員長「お、女さん? 大丈夫?」
女「たぶん、大丈夫」
私の足元がふらついている様子は、舞台袖のカーテンで隠れて先生には――皆には見えていないはずでした。
委員長「女さんの身体、とっても熱い……」
女「少し休めば、きっと」
委員長「……すみません、副委員長! リハの進行お願いします」
女「ちょっと、委員長さん?」
委員長「とりあえず、保健室行こう」
47 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:45:10.95
ID:ygWmT1FG0
そんなわけで、無理やり保健室に連れていかれ、無理やりベッドに寝かされ。
無理やり熱を測られて、体温計は無理やり38度6分を計測。
委員長「最後のは無理やりじゃないよ」
女「大丈夫だから、体育館に……」
委員長「だめ!」
女「うー」
委員長「そうだよね、女さん、中間テストに向けて数学を頑張っていて」
委員長「その上、役者として台詞をあれだけ覚えなくちゃいけなかったんだから……」
保健の先生による診断は、疲労蓄積が原因の発熱。
二、三日大人しくしていれば熱はすぐに引くそうだ。
女「ねえ、委員長さん。お願いがあるんだけど」
委員長「なに? 大抵のことは認めないよ」
女「私の体調のこと、皆には内緒にして」
49 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:48:14.28
ID:ygWmT1FG0
委員長「……それって、その体調で明日劇を演じるってこと?」
女「うん」
委員長「嫌だよ、そんな!」
女「嫌って、なにが?」
委員長「私一人、女さんの体調を案じながら劇に臨むなんて……辛すぎるもん」
女「わ、私のほうだって辛いよ!」
体調的な意味で。
……って、あれ? 私は今、身も蓋もないことを言っている?
委員長「……私が、どうして今日まで頑張って来れたのか、分かる?」
女「委員長さんが、真面目で忍耐強い性格だから」
委員長「違うよ。……私は、真面目なんかじゃないもん。ただずる賢くて、打算的なの」
女「どうして……?」
委員長「……ちょっとでも、女さんの気が引けたらなって思ってた」
50 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:50:17.71
ID:ygWmT1FG0 女「―――!」
―――ああ、私は先生を鈍感だなんて言う資格はなかったんだ。
これっぽっちも。
委員長「初めて私と会った時のこと、たぶん覚えてないよね」
委員長「一年生の時、女さんと同じクラスで。私、ずっとあなたのこと目で追ってた」
委員長「女さんは、どんな時でも明るくて、話が上手くて、勉強だって出来てしまう人で」
委員長「その頃、引っ込み思案だった私とは正反対。ずっと憧れていたけど、いつの間にか好意に変わってた」
確かに一年生のころ、委員長は今ほど委員長らしくはない、大人しい優等生でした。
51 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:53:01.97
ID:ygWmT1FG0
委員長「私、あなたに必死に追いつこうとして、勉強も頑張ったし、他人と話すのも上手くなった」
委員長「二年生の時は、クラスが離れちゃったけど。三年生でまた一緒になれて、嬉しかった」
委員長「春に委員長になったのも、女さんの気を引こうって計算だったの」
委員長「女さん、全然気がついてくれなくて、心折れそうだったけど」
挙句には、こちらは勝手にライバルと認識していたのだから始末に終えません。
女「あの時、妙な目でこっちを見ていたのも……?」
委員長「あ、バレちゃってたの? 先生に少し、やきもち焼いてたから」
あの悔しそうな視線の先にいたのは、私ではなく、先生。
そして私に数学を教えると申し出てくれたのも、単純な厚意からで―――
52 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:56:40.67
ID:ygWmT1FG0
女「……ああ、もう死にたい」
委員長「ええっ! ひとの告白の最中に!?」
女「……出来れば先生の胸の中で」
委員長「私の想いは全然届いてなかったー!」
閑話休題。
女「ありがとう、委員長さん。でも、私」
委員長「分かってる。先生が好きなんでしょう?」
女「ど、どうして分かるの?」
委員長「見ていれば分かるもん。先生くらいじゃない? 気づいてないのは」
女「そんなに分かりやすいかなあ……」
むしろ、クラス公認なら心強く思ってもいいのかしらん。
53 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/07(土) 23:59:25.94
ID:ygWmT1FG0
委員長「友さんは、二人が付き合う方に二万円賭けてたよ」
女「冗談じゃなくて本当の話だったんだ、それ!」
裏付けが取れてしまった。
委員長「私は、私が女さんと付き合うに同額賭けたけど」
女「賭け相手は委員長だった!」
しかも、自分に二万も賭けていらっしゃった!
女「それで、……このことは皆に」
委員長「その前に、理由を聞かせてよ」
女「理由って?」
委員長「女さんが、そこまで無理をする理由」
54 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:03:17.73
ID:VGYVZ6kp0
そう直接に聞かれると答えづらかったりもするんですが、委員長さんの告白を洗いざらい聞いた後ですし
こちらが隠し立てすることは出来ません。
女「ええと、その……先生に言われた通り演じきって」
委員長「うん」
女「先生に、『いい子だな、よしよし』って褒めてもらいたいの」
しばしの沈黙。
委員長「……いいよ、内緒にする。頑張って演じてね」
女「ありがとう、委員長さん」
委員長「なんなら、役と心中してくれてもいいから」
女「さらりと怖いこと言わないで……」
確かに、作中で主人公は死ぬけどさあ。
56 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:05:07.58
ID:VGYVZ6kp0
委員長「明日、楽しみにしてるよ。女さんの晴れ舞台!」
女「うん! それじゃあ―――」
私の唇に、柔らかな感触。頬にかかる、委員長の髪。
……キス、を、されている? されて、いた。
委員長「乾燥してるね。リップ貸そうか?」
女「えっと……」
委員長「リハの進行、そろそろ副委員長だけじゃ厳しいかな。戻るね」
走っていく委員長の後ろ姿。
私はどっと疲れを覚えて、深い眠りに落ちたのでした。
57 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:07:02.34
ID:VGYVZ6kp0 友「おはよう」
女「あれ? 私、ここ、自宅?」
友「委員長さんが上手くごまかした。で、熱で意識がはっきりしないあんたを、タクシーで私が連れ帰った」
女「あ、そうなんだ。ありがとう……」
こんな調子で、明日は上手くやれるのかな。
女「委員長さん、なんてごまかしたの?」
友「持病の痔がどうとか」
女「最悪だ!」
しかも全然ごまかせていないし。 58 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:08:44.15
ID:VGYVZ6kp0
女「明日みんなにお尻の心配されるんだ……!」
友「あんたの尻拭いとしては上出来でしょ」
女「言葉のチョイス考えようか!」
友「委員長さん、そのあとはもう尻に火がついたような忙しさで」
女「わざとか!」
友「それに応えるように、みんなのテンションも尻上がり」
女「もうやめてよぅ!!」
鬼畜! 悪魔! そんな誹りも通じませんでした。
友「まあ明日に備えなさい。今日はもう寝て」
女「もう、病人をいじめるだけいじめて……」
おやすみ、と言い残して友は行ってしまいました。
目をつむると、すぐに睡魔がやってきました。
60 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:11:29.21
ID:VGYVZ6kp0 「おはよう、女さん」
女「おはよう」
「お、女さんおはよう」
女「おはよう」
友「……」
女「ねえ、友?」
友「なに」
女「どうして皆、私のお尻にばっかり目をやるのかな」
友「形がいいからじゃない?」
女「思春期の男子みたいな視線じゃないの」
女「なにかを深く憐れむような、そんな目付きなの」
友「深く考えるのはよそう」
女「そうだね」
委員長「おっはよ、女さん。お尻、大丈夫?」
女「うわあああああああん!」
やっぱり怖い! 委員長の人格が怖い! 61 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:12:53.70
ID:VGYVZ6kp0
委員長「大変! やっぱり……まだ?」
女「『……まだ?』じゃないよ! なんでそんなに真に迫った演技が出来るの!?」
クラス演劇主演も脱帽。
委員長「ごめんね。とっさに出てきたのが、あんな嘘で」
女「こんなデマが広まっちゃったら、もうお嫁に行けないよ……」
友「先生には、私から違う理由を話しておいたから大丈夫」
女「やっぱり友は親友だ!」
62 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:14:13.57
ID:VGYVZ6kp0
友「これでくっつかなかったら二万円がパアだしね」
女「友とはしばらく絶交!」
「えー?」
委員長「もう大分元気みたいだね?」
女「一晩ぐっすり眠ったから」
微熱は続いていますが、ふらつく程でもない感じです。
「今日はあんたに期待してるから」
委員長「頑張ろうね!」
63 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:17:01.91
ID:VGYVZ6kp0 本番前。
熱がちょっと上がってくるのを感じました。それは――
「うわ、すごい人だね」
委員長「ここまで人が入るなんて……」
体育館は人で隙間がないほどの超大入り。
痔持ちの主演を応援しようみたいな空気でもないので、
観客の皆さんは純粋に劇を見たいから来てくれているのでしょう。
熱のこもらない方がおかしいというものです。
委員長「じゃあ、始まる前に円陣組もうかー」
委員長のもとにワラワラと集まり、皆で肩を組みます。
その中にはもちろん、先生の麗しいお姿も。
委員長「辛いなか、頑張ってくれている人もいます」
委員長「皆、今日は頑張りましょう。ファイトー」
「「「おー」」」
もう、やめて。
そんな感じで開演。
64 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:18:22.99
ID:VGYVZ6kp0
女「私の名前を呼ぶのは、誰だ!?」
先生の教えてくれた発声、
女「王は私を殺そうと画策しているのか……?」
気持ちの入れ方、
女「はっはっは、下郎め。追い詰めたぞ」
活き活きとした仕草の演出、
女「どうして、君が……君でなくてはならないのだ!」
それらすべてを活かして、私は
女「この身は朽ちても、祈りだけは、……永劫!」
私は、演じきったのでした。
女「……ん?」
先生「ああ、起きたか」
66 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:21:11.37
ID:VGYVZ6kp0 女「ふぁ……あれ、保健室」
先生「熱があったそうじゃないか。幕が降りたあと、いきなり倒れたからびっくりしたぞ」
女「あ……あはは、心配かけてごめんなさい」
先生「……全くだ!」
びくり、と体が震えました。
先生のそんな大声を、私は一度も聞いたことがありませんでした。
先生「私は言ったよな? 大変だったら大変だと言え、と」
そして、自分が悪いと思わされるような低い声。
先生「無理をしてたんだろう? 助けてもらいたかったろう?」
先生「私はそんなに、頼りない教師だったかな……女」
それから、悲しくなるほど、優しい声。
67 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:23:26.12
ID:VGYVZ6kp0
女「わ、私は……褒めて欲しくて」
先生「え?」
女「先生に、よくやったって褒めて欲しかったから、頑張って……」
頑張りすぎて。
先生「……その気持ちは、分からなくもない」
女「先生?」
先生「私も、学生時代に、そんな経験をしたから」
女「――私、先生のことが好きです」
先生「……私も、好きだよ」
女「そういう『好き』じゃないんです!」
先生「分かってる。分かってるけど……」
68 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:25:00.19
ID:VGYVZ6kp0
女「先生……?」
先生「ごめん、私のことは――」
女「『先生が、私を好きじゃなくても構わないんです。せめて、好きでいさせてください』」
先生「……!」
私の言葉に、先生は目を見開いて―――
それから、涙をこぼしました。
70 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:27:21.14
ID:VGYVZ6kp0
女「ど、どうしたんですか?」
先生「あ、いや。昔のこと、思い出して」
女「昔のこと、ですか?」
先生「昔、そっくり同じ事を、先生に言ったんだ」
女「え……」
先生の恋する乙女時代。
ちょっと、いやかなり気になるのですが!
先生「数奇なものだな。馬鹿にしてるよ、本当」
女「誰が、なにをですか?」
先生「すべてが、私を、だよ」
先生は、破顔なさった。
71 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:28:37.36
ID:VGYVZ6kp0
先生「付き合おう、女」
え? えっ!?
女「ほ、本当ですか?」
先生「ああ、本当」
やったやった、やった!
女「先生、大好き―――」
先生「卒業してからな」
と、そうきましたか。
72 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:32:46.56
ID:VGYVZ6kp0 女「それって、『卒業したら私の家に来い!』ってことですか!?」
先生「違う。お前は進学するんだ。それを条件に、付き合おうじゃないか」
女「うわああ、幸せです! 今なら死ねる! 先生の胸の中で!」
私は半ば本気で言ったのですが、先生はこつんと私の額を叩きました。
先生「生きてくれ。私のために」
――――――――――
―――――
―― 73 :
気に入りません ◆EXypm9zea. 2012/01/08(日) 00:34:03.25
ID:VGYVZ6kp0 友「機嫌、直ったみたいだね」
女「え、どうして分かるの?」
友「絶交宣言がいつの間にか解かれてるから」
女「あ、『友』ね……」
友「けっきょく、先生はどうして女を受け入れるつもりになったわけ?」
女「知らない。そんなの私は知らなくていいんだよ、たぶん」
友「ふうん」
恋する乙女は想いを秘めて
恋した乙女の過去は今……?
それが語られるのは、次のお話。
- 関連記事
-