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女「あなたって風車みたいな人ね」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:33:34.34 ID:SmlOtNdC0


そう言って、彼女は飛び降りた。

――――――――――

――――

会長「ちょっと」

女「あら、生徒会会長が屋上でサボり?」

会長「そこ、私の場所」

女「私の場所でもあるわ」

会長「教師に言うわよ」

女「職権濫用ねぇ。はいはい分かりました」





3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:36:41.67 ID:SmlOtNdC0


会長「いつもここにいるの?」

女「お天気のいい日はね」

会長「噂どおり、不良ね」

女「貴女に言われたくないわ」

会長「いいのよ私は。今体調が悪いんだから」

女「じゃあ保健室に行ったら」

会長「行っているわ。私は今保健室で寝てるの。少なくとも記録上はね」

女「……へぇ、生徒会ってすごい権力があるのねぇ」

会長「個人的な人徳よ」



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:39:45.46 ID:SmlOtNdC0


会長「まあ、職務上このまま見逃すわけには行かないわね?」

女「そのときは貴女も共倒れよ?」

会長「貴女と私じゃ、人徳が違うの」

女「こわーい」

会長「そもそも屋上は立ち入り禁止よ」

女「説得力の欠片もないわ」

会長「怖くないの?」

女「なにが?」



5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:42:55.13 ID:SmlOtNdC0


会長「あなた、普段から問題ばかり起こしているでしょう」

女「私にとっては別に問題じゃないことを、勝手に問題にされてるだけよ。貴女みたいな人に」

会長「停学じゃすまないかもしれないわね」

女「望むところ」

会長「ふんっ……可愛く無いのね」

女「おあいにく様。少なくとも貴女よりは可愛いつもりだけど」

会長「本当に容赦しないわよ」

女「で? どうやったら見逃してくれるの?」

会長「……私のことも黙っていること」

女「おやおや」

会長「私と貴女は今日から運命共同体」

女「そんな難しい言葉で言われても分からないわ」

会長「私は、少しでも自分の経歴に傷をつけるわけにはいかないの。貴女と違って」

女「空々しい言葉だこと」

会長「もう戻らないと怪しまれるか……いいわね、約束よ」



6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:45:39.57 ID:SmlOtNdC0


女「それならこちらからも条件」

会長「自分の立場をわきまえた方がいいわよ」

女「明日も、ここに来ること」

会長「なんですって?」

女「貴女のことがなんだか気に入ったわ」

会長「理解不能ね」

女「条件は条件よ」

会長「貴女の言うことを信じる人がいるとは思えないけど」

女「思っているから口止めしたんでしょ」

会長「……」

女「ほら、早く戻らないと」

会長「約束は守りなさい」

女「はいはい」


女「……」



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:48:37.00 ID:SmlOtNdC0


女「流石、約束は守るのね」

会長「貴女に脅されているからね」

女「どちらが先に?」

会長「……ふん」

女「まあ、これでも食べたら」

会長「3時のティータイムには少し早いわね」

女「甘いものを食べる時はいつでも3時」

会長「意味不明。――美味しいわねこのマフィン」

女「あの生徒会長様のお眼鏡にかなって光栄ね」

会長「まさか貴女が作ったの?」

女「そのまさか」

会長「大したものね」

女「嘘だけど」

会長「……」



9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:51:22.08 ID:SmlOtNdC0


会長「貴女、色々やってるようね」

女「あら、取調べ? こんな青空の下じゃ雰囲気出ないわ」

会長「はぐらかさないで」

女「それでは何から話しましょうか警部殿?」

会長「……本当のことなの?」

女「さて、何の話でしょう」

会長「万引きの常習犯とか」

女「身に覚えがありませんねぇ」



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:53:50.45 ID:SmlOtNdC0


会長「小学生を恐喝したとか」

女「なんのことやら」

会長「援助交際とか」

女「……待って、それは本当に知らない」

会長「もっぱらの噂よ」

女「怖いものねぇ人の噂って。この分だと次は銀行強盗でもやらかしそうね」

会長「皆あなたを怖がっているわ」

女「嫉妬しているのよ」

会長「貴女は美人だもの」

女「皆そう言うわ」

会長「……性格は最悪」

女「お互い様。似たもの同士ね私たち」

会長「え?」

女「貴女ももうちょっとお洒落でもしたら?」

会長「大きなお世話」



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:56:26.87 ID:SmlOtNdC0


女「何故そんなに優等生でいるの?」

会長「自分のためよ」

女「へぇ、なんでまた?」

会長「貴女のような人生は送りたくないもの」

女「随分手厳しいわね」

会長「私はちゃんとした大学に進学して、ちゃんとした人生を歩むの」

女「尊敬するわ」

会長「貴女に尊敬されても嬉しくない」

女「そんな生き方だから嫌味の一つも分からないのね」

会長「……もう、戻るわ」

女「あら残念。もっとお話したかったのに」

会長「私はあなたと仲良くなるつもりはないの」

女「酷いわね。ますます貴女が好きになったわ」

会長「……馬鹿なことを」

女「明日も待ってるわよ」



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 16:59:40.20 ID:SmlOtNdC0


会長「……そう、お父さんが」

女「病気の母さんも小さな妹も、家族を全部捨てるほどの女ってどんなのかしらね。会ってみたいわ」

会長「貴女にそんな過去があったなんて……」

女「安い同情はいらないわよ」

会長「まさか。私の家族も似たようなものだもの」

女「え?」

会長「私の場合は母親だったわ。たまたま知り合った悪い男に騙されて……」

女「……」

会長「身も心もぼろぼろにされて、残ったのは山のような借金」

女「……ちょ」

会長「父さんはそんなお母さんを見捨てた……酷い男よ」

女「……いや、あの」

会長「毎月申し訳ばかりのお金を送ってくるけど……そんな自分の罪悪感を
   誤魔化すための汚い金をどうして使えるというの」

会長「だから私は、立派な人間になってお母さんを楽にさせてあげるの」



14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:03:51.67 ID:SmlOtNdC0


女「……えーっと」

会長「これで分かったでしょ」

女「あ、うん……」

会長「それでも……時々自分が分からなくなる。なんで私があんな女の面倒をみなければならないのか」

女「……」

会長「被害者面してるけど、最初に家庭を捨てたのはどっちよ」

女「……」

会長「だからこうやって……私はたまに悪い子になるの」

女「……ふーん」

会長「そうすれば……またちゃんとした私に戻るから」



15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:07:55.82 ID:SmlOtNdC0


女「…………」

会長「…………」

女「なんか、随分重い話になったわね」

会長「貴女のせいよ」

女「……今更なんだけど」

会長「何?」

女「私の家庭の話、全部嘘」



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:12:11.97 ID:SmlOtNdC0


会長「え?」

女「妹じゃなくて弟だし、父さんも母さんも普通に仲良し」

会長「……嘘でしょう?」

女「……ごめん」

会長「……」

女「……」

会長「ほんと、嘘つきなのね」

女「女は嘘をつくものよ」

会長「……まあ、いいわ」

女「もう行く?」

会長「ええ。また明日ね」

女「……」



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:16:32.48 ID:SmlOtNdC0


会長「今日は少し暑いわね」

女「……そんな家庭じゃ、男が嫌いでしょう」

会長「何を急に。この間の話?」

女「私なら、そうなっていたわ」

会長「別に、そんなことはないわよ」

女「へぇ、あの会長が男好き宣言とは」

会長「ふざけないで」

女「じゃあ、こんなのは?」

会長「え?」

チュッ



19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:21:05.03 ID:SmlOtNdC0


女「…………」

会長「…………」

女「もうちょっと反応したら?」

会長「嫌よ」

女「可愛くないのね」

会長「そういう人だったのね」

女「貴女が可愛すぎるから、つい」

会長「矛盾しているわ」



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:25:22.22 ID:SmlOtNdC0


女「言ってるじゃない、貴女が好きだって。
  あ、勘違いしないでよ。別に私の父親のことは関係ないから」

会長「冗談が過ぎるわよ」

女「本気よ」

会長「……」

女「……」

会長「……」

女「……黙らないでよ」

会長「……行くわ」

女「あっ、逃げるのね」



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:29:36.14 ID:SmlOtNdC0


会長「……もっと真面目になったら、貴女のこと好きになってあげるわ」

女「これはこれは、ありがたいお説教ね」

会長「そういう冗談も言わなくなったらね」

女「それは無理だわ」

会長「本当に行くわよ」

女「行けば?」

会長「……」

女「どうしたの?」



23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:33:50.47 ID:SmlOtNdC0


会長「……ファーストキス」

女「え?」

会長「どうしてくれるの?」

女「どうしてと言われても」

会長「……いや、忘れたわ。今の出来事は」

女「あら、現実逃避?」

会長「忘れた」

女「早く行かないと皆に怪しまれるわよ」

会長「いけない。……いい、貴女も忘れるのよ」


女「……」

女「……ファーストキスを忘れろと言われてもねぇ」



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:38:07.88 ID:SmlOtNdC0


女「らーらららー……」

会長「……」

女「らららーらー……」

会長「……」

女「らららーらー……」

会長「それ、何の曲?」

女「……立ち聞き?」

会長「公共の場所で歌っている貴女が悪いのよ」

女「公共の場所ねぇ」

会長「少なくとも私と貴女のね」

女「……」

会長「綺麗な声をしているのね」

女「お褒めにあずかり」

会長「タバコなんか吸ったら勿体無いわ」



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:42:15.69 ID:SmlOtNdC0


女「あら、また楽しい楽しい噂話?」

会長「貴女がちゃんと否定しないから、好き放題言われるのよ」

女「否定だなんて、どうして貴女がそんなこと言えるのかしら。私の何を知っていて?」

会長「知っているわよ。キスする時、匂いがしないもの」

女「……」

会長「最近、少し可愛くなってきたわね」

女「好きになった?」

会長「真面目ではないもの」

女「くやしい」

会長「くやしければ、自分を変えることね」

女「不貞寝してやる。膝、借りるわよ」



26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:46:29.21 ID:SmlOtNdC0


会長「ちょ、ちょっと」

女「いい枕だわ」

会長「相変わらず、おふざけが上手ね」

女「……」

会長「……本当に寝るの?」

女「……すう」

会長「……」

会長「……まったく」

会長「これじゃ、授業に戻れないじゃない」

会長「……」

会長「……ま、少しくらい待ってあげるわ」

女「……すう」



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:50:36.49 ID:SmlOtNdC0


会長「なっ……」

女「おやおや、これは酷い」

会長「貴女ってそんなに成績良かったの……?」

女「毎日サボってりゃ、クラス一の優等生もこんなものなのね」

会長「悔しい……」

女「まあ世の中得てしてこんなもんよ」

会長「……来ない」

女「え?」

会長「次のテストまで、もうここには来ない」



29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:54:44.63 ID:SmlOtNdC0


女「……そう」

会長「もう受験のことも本気で考えなければならないし……」

女「そうね」

会長「しばらくの間、お別れよ。落ち着いたらまた……」

女「いいえ」

会長「え?」

女「そんな、中途半端じゃいけないわ。もう、大分疑われているんでしょう」

会長「……」

会長「……そうね」

会長「貴女との関係もこれでおしまい」

女「……その方がいいわ。もう、遊んでいる時期じゃないもの」

会長「……悪く思わないで」

女「いいのよ。私と付き合ってるってだけで、あなたの評判に響くんでしょう」

会長「これまで……」

女「……」



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 17:58:54.41 ID:SmlOtNdC0


会長「これまで……私……」

女「私は、楽しかったわ」

会長「……ごめんなさい」

女「それでこそあなたよ」

会長「きっとまた何か機会があれば、お話しましょう」

女「ええ」

会長「……それじゃ」


女「……」

女「……そろそろ、屋上じゃ寒くなってきたわね」

女「……」

女「……どうしちゃったかな、私」

女「……」

女「……もう、潮時かな。私のお遊びも」



31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:03:02.63 ID:SmlOtNdC0


会長「……」

えー、諸君らはー、当校を卒業いたしましてー、新たな人生を歩んでいくわけですがー

会長「……またの機会もなにも」

この学校で学んだことはー、間違いなく貴重な財産になりますのでー

会長「……勝手に退学しちゃったら、どうしようもないじゃない」

そのことをー、いつも胸の中においてー、頑張っていただきたいというお願いをー、お祝いの言葉に代えさせていただきます

それでは、次に卒業生代表挨拶です
卒業生代表、西野由香里さん

会長「……はい」



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:07:04.65 ID:SmlOtNdC0


オメデトー ソツギョーオメデトー マタアオウネー ホラシャシンシャシン

教師「君は我がクラスの誇りだよ。大学に行っても、それからその先でも、頑張ってくれたまえ」

会長「はい、ありがとうございます」

教師「卒業おめでとう」

会長「……あ、あの」

教師「ん? なんだい?」

会長「平田さんってどうなったか分かりませんか?」

教師「平田……? 退学した平田か? 知り合いだったのか?」

会長「い、いえ。そういうわけでは……」

教師「さあ、突然退学届だけ出して、それっきり行方知らずらしいな。まあ、君が気にするような人間じゃない」

会長「……」



33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:11:19.15 ID:SmlOtNdC0


教師「学校としても、あの問題生徒がいなくなって、楽になったんじゃないかな……あ、こんなこと他所で言うなよ」

会長「はい」

教師「とにかく、卒業おめでとう」

会長「ありがとうございます」

会長「……」

会長「……屋上、まだ行けるかしら」


会長「……ふう、風が強いわね」

会長「……」

会長「いるわけないか」

会長「……どうしてかしら、あんな人のこと」

会長「……」

会長「先生の言うとおり、私の気にするような人じゃないわね」

会長「……ただ、ちょっと、遊んでいただけ」

会長「……帰ろう」



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:15:36.61 ID:SmlOtNdC0


会長「……?」

会長「!?」

女「あら、卒業生代表が屋上で何を?」

会長「あ、あなた……!」

女「今日は風が強いわね」

会長「何故ここに……!」

女「決まってるじゃない。お祝いを言いにきたのよ」

会長「い、今までどこで何を……!」

女「ちょっと、ね」

会長「突然退学なんかして……」

女「色々あるのよ、女の子には」

会長「……」

女「……母さんの具体が、急に悪くなってね」

会長「……!? あれは嘘じゃ……!?」

女「嘘の嘘。ホントの嘘。私も、こんな所で遊んでいられなくなったってわけ」



35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:19:47.07 ID:SmlOtNdC0


会長「なんで言ってくれなかったの……」

女「言ってどうなるの?」

会長「何か力になれることが……」

女「お遊びで付き合っていた、あなたが気にするような人間じゃないのに?」

会長「……聞いていたの」

女「……」

女「……あなたって」



37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:24:15.13 ID:SmlOtNdC0


女「あなたって風車みたいな人ね」

会長「え?」

女「風に向かってくるくる回って、風が強ければ強いほど、よく回る」

会長「……」

女「あなたは何を見ているの?」

会長「どういう意味?」

女「あなたの、本当の心は止まったまま?」

会長「何を言っているの?」

女「分からないのなら、何を言っても分からないわ」



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:27:31.21 ID:SmlOtNdC0


女「とにかく、これでお別れね」

会長「待って! まだあなたとは話したい事があるの!」

女「……私みたいな風で、あなたの風車を回さないで」

会長「何をする気!? 危ないわよ!」

女「私は酷い人間よ。父さんと同じ醜い人間よ。こうやって、家族を捨てるんだから」

会長「金網から降りなさい! 風が……」

女「あなたならきっと、綺麗な風と一緒に回れるわ」

会長「やめて!」

女「さようなら。楽しかったわよ」



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:30:50.92 ID:SmlOtNdC0


ヒュー 

ドサァ



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:34:05.90 ID:SmlOtNdC0


祝福ムードの漂う卒業式の高校、地面に飛び散った血は人々に大きな印象を与えた。

それはまるで、未だ固い桜の蕾の代わりに校舎に咲いた、一輪の花のようだった。

彼女は母親の治療費を稼ぐために、年齢を偽って夜の街で働いていたようだ。

それでも必要な金額に足らず、いよいよ身体を売らなければならないよりは、自らに生命保険をかけて自殺することを選んだ。

その結果だけを聞けば、悲しい親子愛の物語にもみえるだろう。

しかし、それだけではない、と私は思う。


彼女はあらゆるものを恨んでいた。

家族を捨てた父親、自らの負担となる母親、妹。

それに、自らと同じような境遇にいかにも不幸ですという顔をして

それでも精一杯生きているという、悲劇のヒロイン気取りの私。

いとも容易く彼女のことを捨てた私。

その時々で都合のいい方ばかりに綺麗な顔を向けている私。

そしてそんな恨みをどこにぶつけることも出来ずに

私のように生きる事が出来ずに、もがき続ける自分自身を。



42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:37:25.49 ID:SmlOtNdC0


彼女は、そんな恨みも重荷も全て捨て去ることを選んだ。

極々シンプルな一つの手段を使って、あらゆることの清算をしようとした。

きっと、考えあぐねた結果に違いない。

たった一人で、最早死ぬ以外には無いと。

自分が恨む連中を見返してやるには、それ以外には方法が無いと。


彼女は私のことを風車だといった。

風の方角ばかりを向いて、その力で回る風車。

しかし、彼女はそんなことはしなかった。ただ自らの足で一方向だけを向いて立っていた。

彼女にもきっと風は吹いていたはずなのに。



44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:40:33.75 ID:SmlOtNdC0


「まったく、理解不能ね」

死に切れず、ベッドで眠る彼女の砕けた脚をそっと撫でる。

「死んでしまえば全てが終わりなのに、分が悪い賭けだわ」

昏々と眠り続けるその顔は、あの頃屋上で見たものよりもなお一層美しい。

「自殺で保険金が下りるとでも思っていたの? 免責期間というものを知らないのかしら」

それはガラスで出来た彫像の美しさだった。

「所詮、人は風には逆らえないのよ」

強く触れればすぐにも壊れてしまいそうな、そんな美しい顔に指を滑らせる。

「貴女の嘘にはうんざりだわ」

いつか目を覚ますその時隣にいるのはきっと、この私。

彼女が捨てられ、捨てた家族なんかではなく、この私。

くるくると風に煽られ首を回す、この私。

でも、私の心は、ずっと貴女を向いているから。



45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/02/24(日) 18:42:12.47 ID:SmlOtNdC0


貴女がどこをも向かないというのなら、私がそっと後ろから支えてあげるから。

私と同じ方向を向いていなくても、きっとどこかで繋がっていてあげるから。

帰っておいで。

「それまで、少しだけ待っていてあげるわ」

私の心の風車が、貴女の風で回りだすその時に。

私達二人の場所で。

「また、お話しましょうね」

一番風の強い日を選び、どこかの青空の下で、また。


終わり



関連記事
[ 2013/02/24 19:30 ] オリジナルSS | コメント(7)

早とちりで「救われてよかったんだけど、身体売っちゃったか」と思っている人間がいるかもしれない
よく読むんだ。身体は売っていない!
[ 2013/02/24 21:34 ] [ 編集 ]

そんなこと思うのお前だけだよ
寧ろどこをどう読んだらそんな勘違いに至れるのかも分からないんだが…
[ 2013/02/25 01:33 ] [ 編集 ]

非行少女と会長の秘密の関係…まさしく百合ってかんじですね
[ 2013/02/27 08:02 ] [ 編集 ]

この物語の女の子がつく嘘って何か優しいなぁ。
というか、登場人物皆何処かしら僕のツボをついていく…!
[ 2013/03/06 01:50 ] [ 編集 ]

なかなか鬱だなぁ...すばら!
[ 2013/03/06 10:37 ] [ 編集 ]

本当に?本当に少女は救われたのか、私にはまだ、少女が苦しみ続ける
未来が観えてならない…
[ 2013/03/09 18:46 ] [ 編集 ]

生きてて本当よかった!
こういうちょっと鬱だけどすごく精神的な百合は大好きです!
[ 2013/05/28 14:42 ] [ 編集 ]

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