fc2ブログ









みどり「ずっとたまこの事が好きだったの」

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:19:37.85 ID:cy6drAE/o



――春。卒業式。

何となくいつまでも続くと思っていた日々も、もうすぐ終わりを迎える。

たまこはたまやを継ぐつもりでいて、かんなは家業の大工仕事を、史織は大手の製菓メーカーに就職するという目標を持って、勉強に勤しんでいる。

……一方で私は、特に何か将来に対して目標を持っている訳ではなくて、ただ何となく勉強して、大学に行くつもりでいる。

私は本当にこれのままでいいのかな?

いっそお爺ちゃんのお店を継いで、たまこやかんな達と一緒に商店街で生涯を過ごすのも悪くないと思う。




2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:22:04.34 ID:cy6drAE/o



でもそれは最終手段に取っておきたい。

出来れば自分でやりたいと思った仕事に就きたいし。

それにお爺ちゃんは半ば趣味であのお店をやってるから、稼ぎはあんまり無いみたいだし。


……それはそうと、明日は卒業式なんだ。

もっと明るく行かないと。人生の節目なんだし、暗い気持ちじゃダメだよね。

それに、そんな暗い雰囲気で学校に登校するものならば、すぐさまたまこやかんなや史織が飛んできて、心配をされてしまうだろう。

出来るだけ心配はかけたくない。皆大事な時期なんだろうし。



3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:24:06.11 ID:cy6drAE/o


そういえば、私は結局たまこに告白出来なかったなぁ。

一時期は大路に取られないか心配で夜も眠れなかったけど、結局大路も私と同じで告白出来ずにこんな時期にまでなってしまった。

そのお陰で、たまこはまだ独り身。しかし大路は向かいの家で私よりも幼馴染としている時間が長い。

大路は男だ。それも同じ餅屋で、向かい同士で、幼馴染で……。

あまりにアドバンテージがあり過ぎる。私の事なんて気にせずに告白したら多分たまこはOKサインを出してくれるだろうに。

恋愛は早い者勝ちだとついさっき読んでいた雑誌の恋愛コーナーに書いてあった。

それはそうだな、と思う。でも私もたまこも同性で、たまこは私の事をきっと幼馴染で親友だとしか思ってない。それ以上は多分、無い。

今の立場を最悪捨ててまで、たまこに告白する勇気なんて、到底今の私には持てない。

それでも出来る事なら、たまこと付き合いたいなんてわがままを思っちゃうけど。



4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:26:15.72 ID:cy6drAE/o



かんなは私の事をずっと応援して来てくれている。

ジレンマに陥って動けない私の事なんか、さっさと見限ってくれたらいいのに。そしたら気が楽なのに。



……あ、もうこんな時間か。

流石に明日はいつもより少し気合を入れて身だしなみを整えないといけないし、今日はもう寝よう。



5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:28:01.45 ID:cy6drAE/o


 
――――――――――――――――――――――――――――――

ここの通学路は桜並木で、春になるととても綺麗だ。

今までは何となく綺麗だとしか思ってなかったのに、今日は違った。

流石に感慨深い。

たまこ「あっ! みどりちゃーん!」

ああ、たまこだ。

たまこの隣には、かんなと史織が並んでいる。私も含めていつものメンバー。

高校に入ってからはいつもこのメンバーでいろいろ遊んでいたなぁ、なんてふと思い出してしまって、何故だか涙が込み上げてくる。

特に3年生になってからは、クラスが同じになったから余計に一緒にいる時間が長くて。

たまこ「みっ、みどりちゃん!? 大丈夫!?」

みどり「ごっ、ごめん! なっ、何でもない……」

慌てふためくたまこの傍で、私の心中を察したのか、かんなと史織は微笑を浮かべている。

かんな「みどちゃん。今日は明るくいかなきゃ」

本当にそうだ。そう昨日の夜決めたばっかりだったのに。



6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:31:19.29 ID:cy6drAE/o



今はこの場から離れたくない。なんて思ってしまう。

このまま学校に行って、卒業式が終われば、私達は高校生じゃなくなって、それぞれの道を歩むのだ。

皆と離れ離れになりたくない。

学校では皆が教室で待っていて、仲良く喋ったり、部活したり。休みの日は、皆で集まって商店街やそれぞれの家で遊んだり。

そんな事がもう出来ないんじゃないかと想像してしまう。

みどり「うん、ごめん……。そうだよね!」

そんな思いと込み上げる涙を押し殺して、明るく取り繕う。

よく見てみれば、皆だって少し切なそうな表情をしている。寂しいと思うのは、何も私だけじゃないんだ。



7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:34:04.37 ID:cy6drAE/o



私達は特にとりとめも無い会話を交わしながら、桜並木の通学路を歩いていく。

史織「この通学路ってよく見たら、凄い綺麗だよね」

たまこ「そうだね! いっつも意識してなかったからなぁ」

そんな話をするたまこは、桜の薄桃色に映えて、私の目に飛び込んでくる。

気が付けば私はたまこから目が離せなくなっていた。

たまこ「……ん? どしたの? みどりちゃん」

みどり「えっ、いや、な、なんでもないよ!」

危ない危ない。あんまり見すぎると少し不自然に思われるかもしれない。

とはいえ、長い付き合いなんだから、そんなのは大した事じゃないと思うけど。



8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:36:20.53 ID:cy6drAE/o



そうこうしているうちに、私達は学校に辿りついた。

校門のすぐ傍には、「卒業式」と丁寧に書かれた看板が置いてある。

それを前にして、思い出に浸るように喋ってる子。携帯で写真を撮る子。中には、もう顔を赤くしてぼろぼろ泣いてる子もいる。

たまこ「なんか、卒業式って感じだね」

かんな「そりゃあそうだよ。卒業式なんだから」

たまこ「あはは、そうだよね~」

そんな話をしながら、私達は階段を上って教室へと向かう。



9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:38:48.39 ID:cy6drAE/o


教室に入ると、まず飛び込んできたのは「卒業おめでとう」とカラフルに彩られて黒板の中央に大きく書かれた文字。

そしてその周囲に可愛くあしらわれた絵や、誰かに対する誰かのメッセージがある。

教室で皆は、思い思いの相手と話している。

それは私達も例外じゃなくて

たまこ「わーっ! 可愛いね、黒板!」

史織「この黒板の落書きとかは、卒業式の定番だよね」

みどり「そうだねぇ。私達も何か描く?」

かんな「いいね」

たまこ「描こう描こう!」



10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:41:44.78 ID:cy6drAE/o


私達はそれぞれ黒板の前に立って、他の人が使って磨り減ってしまったチョークを持つ。

私は緑色、たまこは白色、かんなは黄色、史織は紫色。

意識してるのかどうか分からないけど、それぞれ好みが出てて面白いと思う。

たまこ「ふんふんふ~ん♪」

みどり「何描いてるの?」

たまこ「お餅!」

みどり「……やっぱりお餅なんだ」

たまこが描いていた絵は、少し押し付けられたような丸型を白く塗りつぶして、そこに赤色のチョークで目と口を描いたお餅のキャラクターだった。

そのキャラクターに吹き出しをつけて『卒業おめでとう!』と書かれている。あまりにも私の予想通り過ぎて、ちょっとにやけてしまった。



11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:44:25.80 ID:cy6drAE/o


私の隣では、かんながかなづちの絵を描いていた。

さらにその隣の史織は、紫色の可愛い兎を描いていた。

……私は何を描こう?

みどり「……」

絵を描くにも、特に思いつかなかったから、私は『皆がいつまでも仲良く一緒にいられますように』なんて書いてみた。

沢山の文字や絵が描かれて賑やかになった黒板に、ちょこんと小さく書いてある私のメッセージは、きっと遠くから見れば分からないだろう。

それでいい。あんまり目立ちたい訳じゃないし。



12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:47:55.84 ID:cy6drAE/o


皆が黒板に描いたものを眺めていると、突然ドアが大きく音を立てて開いた。

そこに立っていたのはいつもと違って、スーツ姿の八木先生だった。

八木先生は、たまこ達が2年生だった時の担任で、たまこ達から見れば持ち上がりの担任だ。

私も何回か八木先生とは面識があった。例えば去年のお化け屋敷の時とか。

八木先生は私が想像した通りの、どことなくピュアな性格で、よく笑い、よく泣く先生だった。授業やホームルームでの話も結構面白かったと思う。

この日の八木先生の表情はいつもよりどことなく落ち着きが無くて、その緊張が私にまで伝わってくるようだった。

八木「はい皆、席についてー」

その先生の指示を受けて、生徒達はそれぞれ自分の席についた。

八木「皆、おはよう!」

八木「今日は卒業式だな! 実は先生、3年生を受け持つのは初めてで……うっ」

そういうと八木先生は涙ぐんで、腕を顔に当てている。

クラスメイト「先生泣くの早いっすよー」

クラスメイトの発言に皆で笑う。それにつられて八木先生も苦笑いを浮かべる。



13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:50:40.16 ID:cy6drAE/o


八木「だっ、だってぇ~……」

子供か。

クラスメイト「先生が泣いてたら、私までなんだか……」

涙を目に浮かべたクラスメイトに、仲の良い周囲の子達が、その子に手を置いて、ぽんぽんと肩を叩いている。

八木「すっ、すまんな……ぐすっ。よし! もう大丈夫だ! ここからは明るく行くぞ!」

八木先生はやっといつもの調子と取り戻し、クラスの今までの思い出をひとしきり語った後、今日の日程について説明している。

卒業式というのは不思議なもので、今まで少しふざけていた奴も、何だかんだで大人しく話を聞いてしまう。

まあそれは、八木先生の人柄のお陰もあると思うけど。



14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:52:47.08 ID:cy6drAE/o


八木「じゃあ、今日の概要は理解したかな? まあ結構前から離してるんだけども」

八木「それじゃあそろそろ時間だから、整列して体育館に向かうぞー」

指示通り、私達は整列して体育館へと歩みを進める。

気持ち悪いくらい皆一言として喋らない。ぴりっとした緊張感が私達を包んでいる。

気が付いたら、体育館の前に来ていて、よくあるありきたりなBGMが漏れ聞こえている。


「卒業生、入場」

その声と共に、体育館の扉が開かれて、私達は拍手を浴びる。



15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:55:01.75 ID:cy6drAE/o



校長「北白川たまこ」

たまこ「はい!!」

少し声が裏返っちゃってる。たまこは昔から緊張するとガチガチになってしまう癖があった。

そういう所も愛嬌があっていいと思うけど。

そんな事を思っていると、あっという間に私の順番になってしまった。

校長「常盤みどり」

みどり「はい」

小学校でも中学校でも経験済みの事だけど、一々壇上に上がるのは少し恥ずかしい。



16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:56:36.57 ID:cy6drAE/o


後は偉そうな大人の長々しい話を聞き流して……、そうしていたら、いつの間にか式は終わりを迎えていた。


たまこ「はぁ~、これで私達も高校生じゃなくなるんだねぇ」

感慨深いと思っているのか、大した事ではないと思っているのか、よく分からない調子で言う。

史織「何だか私、まだ実感湧かない」

みどり「私も」

かんな「私もおんなじ」

たまこ「えぇ!? なんか私だけ仲間外れみたいじゃん!」

膨れた顔でおどけてそう言う。

たまこは小さい頃にお母さんが亡くなってるから、何か失ったり別れたりしても、案外すぐ立ち直れたりする。それに切り替えも早い。

そういう所は素直に尊敬してしまう。私だったらきっとしばらくは立ち直れないと思う。

そんなたまこの強かさに私は惹かれたのかも。



17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 14:57:57.18 ID:cy6drAE/o


教室に戻ると、案の定八木先生は号泣していた。

そんな八木先生をクラス全員で慰めた後、私達は学校の校門を抜けた。

もうここを通ることも無いんだなと思うと、やっぱり少し寂しかった。


かんな「これからどうする?」

史織「私は今日はまっすぐ家に帰ろうかな」

たまこ「そうだね~。今日は私もそうしよう」

流石にこの流れでいつも通り遊ぶって感じにはならないか。

私もこのまま家に帰る事に決めた。

卒業式の保護者の席に、お母さんとお父さんと、後お爺ちゃんも居たし。

たまこ「それじゃあね~」

かんな「ばいばい」

史織「さようなら」

みどり「それじゃ」



20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 19:45:48.87 ID:cy6drAE/o


 
――――――――――――――――――――――――――――――

夜になって部屋に入った私は、真っ先にベッドへ倒れるように横たわった。

まさか自分の卒業式の証書を受け取るシーンを見せられるとは思いもしなかった。

……お爺ちゃんめ。したり顔で、何が『みどりの卒業式のムービーも、きちんと撮っておいたから皆で見ようね~』だ。

お母さんもお父さんもそうだ。

何も10回も繰り返して見る必要は無いでしょ……。

映像で見る自分の顔や声は、変に思えて凄く恥ずかしい。



21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:03:45.50 ID:cy6drAE/o



突然、机に置いてあった携帯が鳴った。

この着信音は……メールか。

差出人は、たまこからだ。

私は少しまどろんでいた自分の頭が冴えるのが分かった。


From:たまこ
To:自分
―――――――――――
みどりちゃん!
今度チョイちゃんとデラちゃんが帰ってくるから、皆で遊ぼうよ♪


私はメールの内容にびっくりした。

チョイちゃんとデラちゃんは3年生の夏休みの時に、王子を置いてはおけないと言って、国に帰ってしまったんだっけ。

また会えるなんて素直に嬉しい。

チョイちゃんもデラちゃんも遊びに来るのが目的なのかな。

デラちゃんは案外餅が食べたいだけだったりして。

私は早速メールの返事を出した。

たまこからの返信はとても早くて、二人が来るのは明後日らしい。



22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:05:16.93 ID:cy6drAE/o


 
――――――――――――――――――――――――――――――

みどり「よっ」

私が来た時には、もういつもの3人は揃っていて、お茶を飲んでいる最中だった。

たまこ「おはよ~みどりちゃん」

みどり「おはよ! いつ頃来るの?」

たまこ「もうちょっとかな~」

私達は杵と臼を出して、簡単に餅つきをすることになった。

久々にここへ来る二人につきたての餅を食べてもらいたいから、だそうだ。

かんな「よしきた。餅つきなら私に任せてよ」

そういうとかんなは袖をまくって、餅をつくジェスチャーをする。



23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:07:30.21 ID:cy6drAE/o


かんなとたまこは餅つき係。

私と史織はその隣で、餅をこねる係をした。

耳を澄ますと、遠くから羽の音が聞こえた。その音に気付いたのは私だけじゃなくて、皆一斉に道路の先を見つめた。

すっと引き締まった体に、南国の日焼けした肌。その上には、重たい体を必死に羽でもたげている白い鳥。

チョイちゃんとデラちゃんだ。

たまこ「やっぱり! お~い!」

デラ「娘よー。元気にして……おっ?」

餅に気付いたデラちゃんが、スピードを上げて近づいてくる。

チョイ「ま、待てデラ!」



24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:08:42.69 ID:cy6drAE/o


かんな「チョイちゃんも、ミスターも久しぶり」

チョイ「お久しぶりです!」

みどり「あれっ……チョイちゃん、ちょっと背伸びた?」

チョイ「分かりますか!?」

まるでそれを言われるのを待ちわびていたみたいに、目を輝かせている。まあ、チョイちゃんは私達の中で一番背が低かったし、身長を伸ばしたいって願望があったのかも。

史織「髪も少し伸びて、大人っぽくなったね」

チョイ「本当ですか!?」

すごく嬉しそうに見えた。



25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:10:30.06 ID:cy6drAE/o


デラ「娘! 餅はまだか!」

たまこ「すっかりお餅大好きになっちゃったね~。はい、お餅」

デラ「待っておったぞ~!」

デラちゃんは羽で器用に餅を持って、くちばしで餅を啄ばむ。

あんまり美味しそうに食べてるから、私まで少しお腹が減ってきてしまった。

デラ「ん~! やはりたまやの餅は美味だ……」

そういえば、今まで気付かなかったけど、南の国に帰ったのに体型が変わってない。

みどり「デラちゃん体型変わってないね」

チョイ「デラの奴、筋肉はついたから占いに支障はないなどと言って、食べる量が増えたのだ」



26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:12:34.95 ID:cy6drAE/o


デラ「しょうがないだろう。一度食べる量が増えたのだから、今更かつてのような質素な食生活には戻れまい」

すさまじいスピードで餅を平らげるデラを横目に、チョイちゃんは少し呆れてため息をつく。

かんな「チョイちゃんもお餅食べたら」

チョイ「あっ、そうですね! じゃあ頂きます」

デラちゃんには食べ過ぎだって注意するけど、チョイちゃんも何だかんだで結構ぱくぱく食べてる。

餅を口いっぱいに含んで、ほっぺたを膨らませてるのが、まだ記憶に新しい。

みどり「そんなに食べると太るぞ~?」

山のようにあった餅を、残り数個にまでしてしまったデラをからかう。

デラ「いいんだ! 私はずっと南の国で、餅が食べたいという欲求を抑えて我慢してきたのだから」

みどり「もっと太ったら史織に嫌われちゃうかもよ?」



27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:17:26.39 ID:cy6drAE/o


デラ「はっ」

さっきまでの幸せそうな表情が一転して、キリッと決めた表情になる。

史織「ええっ、私は別に……」

デラちゃんは史織のことを掛け合いに出すと、途端に弱くなる。というか、デラちゃんがまだ史織のことを諦めてなかったとは。

デラ「史織さぁん! 丸々と太った鳥はお嫌いですかー!?」

史織「あんまり太りすぎると、体にも悪いから……」

デラ「あぁ……何とお優しい! 流石は私のヴィーナス……その容姿だけでなく心もお美しいとは」

史織「えっ、そんな……」



28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:19:46.41 ID:cy6drAE/o


かんな「そういえば、チョイちゃん達はいつまでここにいるんですか?」

チョイ「2週間はまたお世話になるつもりです」

たまこ「私の家に泊まるんだよー」

そんな話をしていて、ふと横を見てみた。

……大路だ。店番だろうか。イヤホンをして肘をついている。

たまこの話によると、最近大路はしょっちゅうイヤホンをつけていて、夕方になるとどこかへ出かけていくらしい。

私と大路は、ある時から膠着状態だ。

確か3年生の間の話だ。

大路は私がたまこのことをただ守ってやりたいだけだと思っていたらしく、私にたまこの好きな物やことをやたら聞くようになった。

あまりにしつこかったから、放課後に呼び出して、『私はたまこのことが好きなの! 大路はわざと私にそんなこと聞いてるの?』

なんて癇癪を立ててしまって以来私と大路は会話を交わさなくなってしまった。



29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:21:30.44 ID:cy6drAE/o


みどり「……」

ああ、ダメだ。こんなことを考えていたら、自然と顔が物憂げになってしまう。

デラ「おい娘、ちょっと後で久々にコーヒーでも飲みに行かぬか?」

このやり取り、前にもしたような気がする。

あの時も、今と同じようなことを思っていた。

相変わらず、この紳士な鳥は人の心の機敏を読み取るのが上手い。何でも筒抜けになってしまうような気がする。

かんな「あれ、デラちゃん。もしかしてみどちゃんのことも狙って……」

デラ「あえっ!? 断じて違うぞ! 私にとってのオンリーワンは史織さんだけですよ!」

史織「えっ……あ、ありがとう」

史織も何かと大変だなぁ。

この鳥の相手をしないといけないなんて。いや、それを言えばたまこもなんだけど。

私にとってはいい相談相手のように思えるけど、史織にとってはそうでもないだろうな。

大体鳥に求愛されたら史織も困っちゃうって……。



30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:27:25.08 ID:cy6drAE/o



それから私達は杵と臼を片付けて、家の中でのんびりお茶をしながら話をした。

例えば、王子の様子。

デラちゃんは通信回路が直って、連絡が取れるようになったこととか。

結局今でも王子の后は見つからないこととか。

王子に国へ帰った時に謝ったら、『全然気にしてない』と言われたらしく、デラちゃんが拍子抜けしてしまった話とか。

まああの王子はどう考えても気性の荒いタイプではないし。

そうこうして、たまやの居間の時計が6時を指した時、お開きになった。

たまこ達に別れを告げて、私とデラちゃんは商店街を歩いていく。

前と違って、デラちゃんは図体の割りにスムーズに飛べるようになっていた。



31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:29:29.39 ID:cy6drAE/o



私とデラちゃんは、蓄音機が窓から見える一軒の店、星とピエロに着いた。

星とピエロは八百比さんという男の人が経営している、レコード屋兼カフェで、たまこ達ともよく集まってコーヒーを飲みながらいろんな話をした。

私はデラちゃんを腕に抱えて、鮮やかな青色が印象的な扉を開く。

店に入ると、欧州の異国情緒を思わせるオーケストラの曲が流れていた。

レコードを棚から取り出して、それを丁寧に拭いている八百比さんはちらっとこちらに目を向けて

邦夫「いらっしゃい」

と一言だけ言う。

そして私達は扉から一番遠い奥の席に座った。



32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:32:00.68 ID:cy6drAE/o



八百比さんから、私にはコーヒー。デラちゃんにはヒマワリの種が出された。

デラ「娘よ、どうだ?」

『どうだ?』が指し示す意味は見当がついたけど、一応私はとぼける。

みどり「……何が?」

デラ「何、餅屋の娘とのことじゃないか」

みどり「……わかってるくせに」

デラ「ふん、可愛くない娘だ。その様子じゃ、未だに告白出来てないのであろう?」

デラちゃんはじりじりと私を追い詰める。

みどり「そうだよ。悪い?」

デラ「……さっきからお主はつんつんしているなぁ。せっかく私が助言をしてやろうと思い立ったのに」



33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:33:26.30 ID:cy6drAE/o


私はこういう時、自分を守るためか、それとも恥ずかしいからか、多分どっちもなんだろうけど、つんつんした口調になってしまう。

みどり「……ごめん」

デラ「何、さほど気にも障っておらん」

デラ「変わっておらぬか? 娘を想う気持ちが」

変わるはずが無い。ずっと昔から変わらない。むしろ、日に日に増していくように感じる。

みどり「うん」

小さく頷いて、私はコーヒーを一口飲んだ。

デラ「その気持ちがあれば十分だと私は思うがな。差し詰め勇気が持てないのであろう?」

みどり「……」




34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/10(日) 20:39:27.61 ID:cy6drAE/o



私が言葉に詰まると、星とピエロの扉が開く。

そこへ入ってきたのは、イヤホンを方耳にだけつけた大路だった。

邦夫「いらっしゃい」

もち蔵「どうも……って常盤?」

お互い出来る限り避けたい相手と鉢合わせてしまった。

私も驚いて、しばらく言葉が出せなかった。

追い討ちをかけるように私を動揺させたのは、大路が背中にギターケースを背負っていることだった。

もうこの時点で大体の予測が出来てしまう。



37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/11(月) 20:42:35.34 ID:M80XCAoio


デラ「まあ青年、ちょっとこっちに来い」

デラちゃんはそう促すけど、そんなことされたらますますややこしくなってしまう。

大路も少し困惑したような表情をしてたけど、結局私の近くの席に座ってしまった。

みどり「大路……それ」

もち蔵「ああ……ギターのことか?」

みどり「うん」

もち蔵「俺さ」

後は言わなくても分かる。

だけど大路の言葉を遮ることは出来なかった。



38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/11(月) 20:49:47.18 ID:M80XCAoio


もち蔵「俺、たまこに告白しようと思うんだ」

あぁ、やっぱり。全身から血の気が引いていくのが分かった。

デラ「……」

もち蔵「それで、歌を作ってるんだ。歌作りのアドバイスを貰いにここに通ってる」

どうやら大路は、たまこのお父さんが昔した告白の方法を踏襲するつもりらしい。

大路の癖にロマンチックな告白の仕方だと思ってしまった。予定調和だけど。

みどり「へ、へえ……。そ、そっか……」

平静を装ったつもりだけど、どもってしまって動揺しているのがバレバレになってないか少し心配だ。

もち蔵「常盤はさ、どうするんだよ」

みどり「どうしてそんなこと聞くの?」

動揺や焦燥感で、顔がおかしなことになってそうだ。視界も涙で少しだけ霞んでいる。

私は悟られまいと俯いて顔を髪で隠しながら話すしかなかった。肩も震えないようにしないと。



39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/11(月) 21:14:28.52 ID:M80XCAoio


もち蔵「常盤もさ、たまこのこと好きなんだろ?」

みどり「……」

もち蔵「だったらさ、常盤も告白しろよ」

大路の発した一言がとても癪に障った。

みどり「なっ、何よ! 自分が有利なことを分かってて、挑発してるの!?」

デラ「お、おい娘……」

みどり「デラちゃんは黙ってて!」

もち蔵「なっ、別に俺はそんなんじゃねえよ!」

理性が保てずに、すぐヒステリーを起こしてしまう。

大路は簡単に「告白しろ」だなんて言うけど、私にとってたまこに告白するのにどれだけの覚悟がいるか、分かるはずも無いのにそんな口を利かないで欲しい。




41 : ◆I4sd8f4h79rU 2013/03/12(火) 17:12:50.03 ID:ErP1/JVUo



もちろん、大路を否定したいわけじゃないけど。

大路だって悩んで決心して今こう至っているのも分かっているつもり。

みどり「ごめん……」

もち蔵「いや……」

私はあまりにも未熟で浅はかで、大路と話すとそれが浮き彫りにされるみたいで胸苦しい。

もち蔵「で、結局お前はどうしたいんだよ」



43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/12(火) 20:46:51.43 ID:ErP1/JVUo


みどり「……」

言葉に詰まる。

確かにたまことはそういう関係になりたい。

でも、私は女で、たまこも女で、例え結ばれたとしても幸せになれるのだろうか。

ましてや私の一方通行な想いでたまこを振り回してしまうなら、大路と結ばれた方が幸せなんじゃないだろうか。

たまこを好きになればなるほど、私はますます動けなくなっていく。

自分の意見を曲げてでも、たまこには幸せでいてもらいたいと思ってしまう。

なら私は、たまこが幸せでいてくれる方を選ぶしかない。

みどり「私は……」

みどり「私はいいよ」

これでもう後戻りは出来ない。



44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/12(火) 20:49:41.79 ID:ErP1/JVUo


もち蔵「……そっか」

みどり「デラちゃん、帰ろ?」

そうして私は、八百比さんに代金を払って足早に星とピエロを出た。

店を出た後、デラちゃんは気まずそうな顔をして、私の顔色をうかがっている。

デラ「娘……」

みどり「いいの! 私は大丈夫だから」

本当は大丈夫なんかじゃない。

自分がしたことが正しい判断だったのか不安で、今にも泣きそうなのに。

せめて、一人になるまでは強い私でいたい。



45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/12(火) 20:51:34.59 ID:ErP1/JVUo


私はデラちゃんと別れて、一人で家へ戻る。

今は不思議と心が軽い。現実感がなくて、夢の中にいるみたいに思う。

あまりのショックに脳がそうさせているのかもしれない。

それとも、夜空の星が綺麗なのがロマンチックだからなのかもしれない。

柄にもなく道路の縁石の上を歩いてみたりして気を紛らわしているのが功を奏しているのかもしれない。

出来ることなら、このまま未練もなく諦められたらいいのに。

もうちょっと大人になったときに、あの頃は青かったなんて言えたらいいのに。

たまこのことが頭から離れない。

今までずっとたまこ一筋だったからそれもしょうがないか。



46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/12(火) 21:10:22.46 ID:ErP1/JVUo



――――――――――――――――――――――――――――――

案の定私は立ち直れずに、未練の塊になって部屋に閉じこもっていた。

泣いては寝て、また泣いて、お腹が空いたらカップラーメンを作って食べる。

お母さんもお父さんも私を心配して声をかけてくれるけど、それに反応する気力すら起きない。

そんな生活を始めてもう何日経つだろう。

私はふと部屋のカレンダーを確認した。

するとたったの二日しか経っていなかったことに驚く。ほとんど何も考えずにいるせいか、時間感覚がない。

外は春の陽気でいっぱいなのに、私ときたら……。

私はありきたりな映画の台詞みたいなことを思った自分を自嘲した。



47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/12(火) 21:26:05.55 ID:ErP1/JVUo



久々に窓を開けてみた。種類はわからないけど、鳥のさえずりが聞こえる。

そして、インターホンが鳴る。……インターホン?

誰かが家の中に入る。どうやらお母さんと話をしているみたいだ。

『上がって』と促すお母さんの声が聞こえた。

家に上がった足音が、軽い音をたてて、私の部屋へと近づく。

「みどちゃん」

私はいきなり名前を呼ばれて心臓が大きく鳴り、ついでに体までびくっとしてしまった。

丸みがあって、優しくて、いつまでも聞いていられるような声をしている。

私はその声の主が瞬時に分かった。

みどり「かんな?」

かんな「そうだよ。入ってもいい?」



48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/12(火) 21:39:40.93 ID:ErP1/JVUo


みどり「えっ!? ちょっとまっ」

私が言い終わる前に間髪を入れずドアが開いた。

かんな「みどちゃん」

みどり「ちょっと待って……私お風呂入ってないから臭うかも」

そういうとかんなは私に鼻を近づける。

みどり「か、かんな……?」

かんな「大丈夫、臭わないよ」

みどり「……どうしたの? いきなり」

かんな「どうしたの? じゃないよ。メール見た?」



49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/12(火) 21:41:34.12 ID:ErP1/JVUo


この二日間、あんな状態だったから、メールをチェックするなんて頭になかった。

私は急いで、二日前から机の上で位置を変えない携帯を開いた。

未読17件……。

かんな「遊ぼうってたまちゃんからメールがあったのに」

ああ、そうなんだ。

かんな「返信はないし、たまちゃんちに行ってもみどちゃんは来ないし」

そりゃあそうだ。確認出来なかったし、仮に出来ていたとしても行かなかったと思う。

メールでは皆、私を心配する内容を送ってきてくれていた。

かんな「それで、私聞いちゃった……デラちゃんに」



54 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/13(水) 21:07:21.60 ID:wQVPdeM9o


みどり「は……?」

まさかあの鳥、あのことを口外してしまったのだろうか。

だとしたら何て口の軽い鳥なんだろう。

かんな「みどちゃんの話題になったとき、デラちゃんがすごい分かりやすく動揺してたから」

デラちゃんは結局紳士なのかそうでないのかやっぱり分からなくなってしまった。

かんな「みどちゃん」

かんなは体を前のめりにして、私に詰め寄ってくる。

かんな「みどちゃんは、それで良かったの?」



55 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/13(水) 21:09:37.48 ID:wQVPdeM9o


みどり「うん……いいかな」

本当は少しだけ後悔していた。

大路よりも先に、たまこに当たって砕けろで告白してもよかったかな、なんて思っている。

でも私は大路の邪魔をしたり、迷惑なこともしてきた。だからその罪滅ぼしになればいいかなとも思う。

かんな「みどちゃん……泣かないで」

そう言われて私は始めて泣いていることに気が付いた。

もう涙は枯れたと思っていたのに、涙は今までで一番多く出た。

大切な友人に私の弱い部分をさらけ出している。なんて惨めなんだろう。

かんな「みどちゃんが悲しいのは、私も悲しいんだよ」

そういうかんなの瞳も、涙で潤んでいた。

どうしてこんなに親身になってくれるんだろう。



56 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/13(水) 21:18:54.11 ID:wQVPdeM9o


かんな「さっき『泣かないで』なんて言ったけど、やっぱり無しね」

かんなは、私との距離をさらに縮めて、私を抱きしめた。

かんなの体温が暖かくて、ふんわり包まれてるみたいで心地がいい。

かんな「泣きたいときは、泣いてもいいから」

それを聞くと、私は肩の荷が下りたように気持ちが楽になるのを感じた。

それでも涙は止まらないから、思う存分に泣いてやった。

今まで押し殺した声の分まで、声を上げた。



57 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/13(水) 21:24:32.32 ID:wQVPdeM9o



私がひとしきり泣いた後、かんなは私の顔を見つめて微笑んだ。

まるでお母さんみたいだ。それで私は駄々をこねる子供。

私はなんていい友達を持ったんだろうか。

いつまでもぐずぐずしていては埒が明かない。

みどり「ありがと」

かんなに礼を言って、最大限の笑顔で返したつもり。

かんな「もう大丈夫だね。約束だよ」

かんなが小指を出した。私はそれに自分の小指を重ねる。

かんな「指きりげんまん、嘘ついたら釘千本飲ーます、指切った」

みどり「く、釘は流石に怖いよ……」

かんな「ふふふ」

これもかんななりの私への元気付けなのかもしれない。

本当、感謝してもしきれない。



58 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/13(水) 21:26:26.16 ID:wQVPdeM9o


かんな「よし、じゃあこれから服でも買いにいこうか」

みどり「えっ?」

かんな「悲しいときは、何か食べたり、何か買ったりしてストレス発散するのが王道ですよ」

……なるほど。結構いい考えかもしれない。

それに最近は服を買いに行こうと思わなかったし、丁度いいから春服を買ってしまいたい。

みどり「いいかも」

かんな「ね。じゃあ行こ」

みどり「あっ、待って! 私お風呂に入ってきてもいい?」

流石に二日間お風呂に入らないと、髪も体もべたべたして気持ち悪い。

かんな「いいよ。じゃ、ここで待ってるね」

みどり「ごめんね!」



61 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 20:49:52.16 ID:LXp0e3Suo


私はさっとお風呂を済ませ、着替えてかんなと家を出る。

私達の目的地は、うさぎ山から少しだけ離れた場所にあるMother Roadという古着屋さん。

少し離れたといっても、十分歩きで行ける距離だ。

去年知ってから、私の行きつけになっていた。

古着屋というだけあって、お財布にも優しいし。

かんな「みどちゃん本当ここのお店よく行くよね」

みどり「だって近いし、たまに掘り出し物もあるからそれが楽しみでね」

店員「いらっしゃい」

いつきてもここの店員は相変わらず無愛想だ。

私達は早速店の棚を物色する。



62 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 20:52:16.50 ID:LXp0e3Suo


かんな「みどちゃん、見て見て」

かんなは服の肩を自分の肩にあてがって私に見せてきた。

かんなの服は、少しだぼだぼとしたベージュでドルマンスリーブのTシャツでとても似合っている。

みどり「いいじゃん! 似合ってるよ」

かんな「本当ですか。買っちゃおうかな」

私はというと、壁一面に並べられた服に目移りしていたけど、少しずつ候補を絞って最終的にはパステルグリーンのワンピースをかごに入れた。

後はTシャツを何枚か選んでレジへ向かった。

かんな「結構買いましたね」

みどり「だね~。これでもうしばらくは服買いに行かなくてもいいかな」

そうして私達は棚と棚の間を進んで出口へ向かう。

たまこ「あっ、ここだよ!」



63 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 20:55:49.82 ID:LXp0e3Suo


もち蔵「ここかぁ」

たまこ「うん」


心臓が止まりそうになるのを感じた。

まるで全て仕組まれてるみたいに思う。そんなタイミング。

私は棚から少し覗きかけていた顔を隠した。

体が自然に後ずさりする。紙袋を持つ手が少し震える。

私がその場で立ちすくんでいると、かんなが私の手を握って、出口へ引っ張った。

たまこと大路は既に店の奥で服を物色していたお陰で、私達には気付かなかったみたいだ。

私達は思いのほか店に長居していたようで、空はすっかり夕焼けで赤く染まっていた。

かんな「みどちゃん……」

かんなは申し訳無さそうな顔をして、私の手を一層強く握ってきた。

みどり「……っ。大丈夫! ……だよ」



64 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 20:58:43.89 ID:LXp0e3Suo


みどり「……それにさ、まだ二人が付き合ってるとはわかんないし」

我ながら苦し紛れの言い訳だ。

私は自分にもこの言葉を言い聞かせたかったのだと思う。

あの二人がそういう関係になったということは、確証は無いけどなんとなく分かった。

でもそれを認めたくない私がまだ心の奥に眠っているのだ。

かんな「……そうだね」

それから、私達はゆっくり歩きながら夕暮れの道を帰った。



65 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 21:00:27.96 ID:LXp0e3Suo


――――――――――――――――――――――――――――――

私は家に帰った後、買った服をたたんでクローゼットへ入れた。

みどり「はぁ……」

なんとなく背伸びをして、体を伸ばした。

しばらくぼーっと壁を見つめて、例のごとくベッドの上にうつぶせになる。

……たまこと大路はやっぱり付き合ってるのかな?

だとしたら前に星とピエロで鉢合わせたときはもう告白寸前だったわけだ。

それなのに大路は私にチャンスを与えてくれた。

どうして? 自分が有利だと分かっているから? それとも単純に優しいだけ?

そのどちらであっても辛いと思ったから、これ以上このことを考えるのはやめた。



66 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 21:02:27.91 ID:LXp0e3Suo



いっそのことたまこに聞いてしまおうか。

私はベッドから少し体を起こして、携帯を手に取った。

携帯を開いて、連絡先からたまこを選ぶ。

いざメールを送るとなると、何て送ればいいのかわからない。

何気ない話題から入って、そういう話題に変えるとか?

……それだと最初からその話題を狙っていたように思われてしまうか。

だったら最初から単刀直入に聞いた方が回りくどくなくていい。

慣れた手つきで『たまこって大路と付き合ってる?』と打った。

後は送信を決定すればいい。しかし親指が直前で止まる。

怖かった。

しばらく時間を置いて、聞かないよりは聞いた方がマシだと自分に言い聞かせて送信した。



67 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 21:03:27.56 ID:LXp0e3Suo



メールを送ってから約5分が経ったとき、携帯が鳴った。

たまこからだ。

私は目をつぶって、たまこからのメールを開く。

そして少しずつ目を開ける。


From:たまこ
To:自分
―――――――――――
なっ、なんで知ってるの!?
ごめんね、言うのが遅くなって

というか、みどりちゃん大丈夫?
最近連絡が取れなかったけど


やっぱりか……。

大きくため息をついた。



68 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 21:06:08.38 ID:LXp0e3Suo


この感覚はクジを引くときに似ていた。

期待なんかしないと言っていても、心の底では実は当たりかもしれないと期待していて、結局はずれてしまったときのあの感じ。

みどり「あぁぁぁぁ」

声を最小限に抑えて叫びながらベッドの上で足をばたつかせる。

そうやった方が気持ちが楽になると雑誌の失恋コーナーに載っていたから。

確かに、じっと受け止めるよりも、この方が意識が動くことに向かって気持ちが暗くならない。

みどり「よしっ」

空元気を出して、たまこに返信を返すことにした。

一応私のことも心配してもらっている以上、このまま無視できない。

適当な言い訳を繕って、今はもう大丈夫だと返した。



69 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 21:08:47.59 ID:LXp0e3Suo



メールを送って約3分、さっきよりも間隔が早い。


From:たまこ
To:自分
―――――――――――
うん!ありがと~

そう?良かった……
私すごい心配したんだからね??


何気ないメールだけど、つい深読みしてしまう。

大路がたまこに歌で告白して、きっとたまこは『ありがと~』と満面の笑みで言ったに違いない。

たまこの意識が私よりも大路に向いていることが苦しい。

万が一最初からたまこが大路のことを好きだったらと想像したら、より嫌な気分になる。

せめて大路とはどっちが先に告白したか、どっちが告白を諦めたかの差で勝敗が決まったことにしておきたい。



70 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/15(金) 21:10:02.38 ID:LXp0e3Suo



もうたまこは私の手の届く範囲にいないのだ。

今までは私の隣にはたまこがいて、たまこの隣には私がいた。

これからは私の代わりに大路がいるんだろう。

そう思うと、また涙腺がゆるんで目に涙が溜まったから、こぼれないうちにティッシュで拭いた。

メールの返信を打った。

しかし、見返してみるとあまりにもそっけない内容になっていたから、破棄して新しいメールを打った。

普段はメールを続けて寝る時間になると、『もう寝るね』みたいな内容のメールをどちらからともなく打ってやり取りを終わっていたけど

流石にまだ寝るような時間ではないし、かといってたまことこれ以上メールを続けるのは今の状態じゃ厳しい。

今日だけは次来るであろうたまこのメールには返信せずにしておくことに決めた。



72 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 03:07:16.25 ID:8s22fRIAo






時計の針は夜中の3時を指している。

何故だか目が覚めてしまった。

やっぱりあんなことがあると眠りも浅くなるのだろうかと分析してみる。

妙に目が冴えてしまった私はしばらく壁に背をもたれて眠くなるまでぼーっとすることにした。







73 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 03:08:40.33 ID:8s22fRIAo



――――――――――――――――――――――――――――――

私がいた小学校はそこそこに人数が多く、クラスが幾つかあって、進級するとクラス替えが行われた。

小学校4年生のときに、私は4年2組に入ることになった。

私の小さい頃は今よりもずっと気弱で、基本的には受動的な性格だった。

みどり「とっ、常盤みどりです。よろしくおねがいします」

それはもう自己紹介なんかで噛んでしまったり、授業中の発表では私だけ手を挙げなかったり。

一方でたまこは誰にでも平等に接せられる人当たりの良い子で皆から好かれていた。

進級し、席が決められてたまこと私は同じ班になった。

同じ班では給食をグループになって食べる決まりだった。

たまこは給食のデザートだと言っていつも餅をラップに包んで持ってきて食べていたっけ。

そんな天真爛漫で温かいふわふわした雰囲気を持つたまこに憧れを抱いた。



74 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 03:11:22.32 ID:8s22fRIAo



ある日、たまこが餅を鞄から取り出して食べようとしている姿をじっと見つめていた。

するとたまこは私の視線に気付いて

たまこ「どしたの? あ、もしかしてお餅ほしいの?」

と笑顔で首を傾げながら私に言ってきた。

みどり「えっ!? えと……あの……」

まさか話しかけられるとは思いもせず、声が上ずった。

たまこ「えへへ、それじゃあ私のをはんぶんこしてあげる!」

そういうとたまこは餅を両手で持って半分にしようとしていたが、餅が長くのびてしまって難儀していた。

結局餅は、極端に大きい方と極端に小さい方に分裂してしまった。

たまこは頬を膨らませて『う~ん』とうなった後、私に大きな方を差し出してくれた。

みどり「……いいの? 私そっちの少ないほうでいいよ?」

たまこ「ううん! 私は家で食べられるから!」

それまで餅なんてお正月くらいにしか食べなかったし、これと言って特別な感情を持ったこともなかったけど、それは今までに食べたどんな餅よりも美味しくて新鮮に思ったことを今でもうっすらと憶えている。

それが美味しくて、今でも憶えているのはたまこから分けて貰った餅だからというのもあるのかもしれない。



76 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:39:09.21 ID:8s22fRIAo



それ以来、たまこは私によく話しかけるようになった。

私は気弱だったとはいえ、心を許す相手とは普通に会話できた。

そうして私達は友達になった。

休みの日にはよくたまこの家へ遊びに行って、餅を一緒に食べた。

小学生のときからたまこは家の手伝いをしていて、そのとき作った餅を私に食べさせてくれた。

私はたまこの作る餅が大好きになって、たまこは美味しそうに食べる私を見て満足げだった。

たまこにお爺ちゃんがトキワ堂の店主だと告げたときは、びっくりした様子で『すごい!』と言ってくれた。

トキワ堂に行くとお爺ちゃんがいつも何かおもちゃをサービスしてくれた。

そのおもちゃでたまこと遊ぶのは慣例になった。



77 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:40:11.82 ID:8s22fRIAo


こうして私達の仲はどんどん親密なものになっていって、友達はやがて親友になった。

小学校の頃のエピソードといえば、もう幾つかある。

例えば、大路の話だ。

大路は私達がたまやの前で遊んでいると、いつも私達にちょっかいを出してきたり、いたずらをしてきた。

ときにはヘビのおもちゃで、ときには二階から癇癪玉を投げてきたり。

今思えば、それは好きという感情の裏返しだったに違いない。

そういえば、大路はいたずらするたびにお父さんから怒られて私達のところへ謝りにきていたっけ。

その謝りようはすごく照れくさそうな感じだった。

たまこが絡めば、『ありがとう』から果ては『おはよう』に至るまで照れくさそうに言っていた。



78 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:41:50.23 ID:8s22fRIAo




私達は進級して5年生になった。

偶然にもたまことは同じクラスで、お互い一緒になれたことを心から喜んだ。

季節は流れて秋になると、クラスでは学芸会の劇の出し物を決めていた。

演目は『眠れる森の美女』。

大まかなストーリーは、ある国王夫妻のもとに女の子が生まれ、祝宴に12人の魔法使いを呼んで贈り物をしていた。
そこに呼ばれなかったことに腹を立てた13人目の魔法使いが現れ、姫に『糸つむぎの針が刺さって死ぬ』という呪いをかける。
しかし12人目の魔法使いが呪いを薄めて、『糸つむぎの針が刺さって100年間眠る』というものにする。
姫は成長し、13人目の魔法使いの罠により針が刺さって100年間の眠りについてしまう。さらに13人目の魔法使いが、二度と城に人が入れぬように、城を茨で埋め尽くしてしまう。
100年後、噂を聞きつけた王子は生きながらえていた13人目の魔法使いに戦いを挑んで勝利する。
13人目の魔法使いは死んで城の茨は消えうせ、城の最上階で眠る姫に王子がキスをして姫が目覚め、二人は片時も離れず長く幸せに暮らす。

劇の脚本を作る子が図書館でいろんな『眠れる森の美女』や童話を読んで新しく作ったストーリーだった。

劇の役を決めるとき、私は男子からそそのかされて王子になってしまった。

そしてたまこは私といつも一緒にいるから、なんて理由でお姫様に。



79 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:43:39.25 ID:8s22fRIAo



私は王子になってしまったことを心から後悔した。

先生に辞めたいと言うと、『一度自分から言ったことだから最後までやり遂げてみなさい』と突っ返されてしまった。

たまこ「みどりちゃんの王子様、私楽しみにするね!」

なんて言われてしまったものだから、尚更後に引けなくなった。

それから私は休憩時間には必ず図書館へ通って王子様の出てくる童話を読み漁った。

王子様とは、かっこいいものでなければならない。そう思っていたから。

家で台詞を読む練習をしたり、童話の映画を見たり、一心不乱だった。



80 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:45:11.97 ID:8s22fRIAo



本番が近づくと、衣装係が作った衣装がそれぞれに配られた。

私の衣装は、布を合わせて作られたカラフルなダブレットに、セロハンで作られたマント。

それはなかなかいい出来で、私を鼓舞すると同時にプレッシャーを与えた。

衣装が配られると同時に、教室の中では本番と同じように演技するリハーサルをするようになった。

私は緊張しやすかったから、何度やっても台詞が飛んだり、決め台詞を噛んでしまった。

演技だけは研究の成果か、我ながら上手いと思えただけに歯痒かった。



しかし悪癖はずっと続き、私は自信をすっかり失って、本番前のリハーサル中に泣き崩れてしまった。

クラス中が騒然となって、皆が私を励ましてくれた。

誰かの手が私の頭を撫でた。

顔を上げるとたまこがいて、私の顔を見て微笑んだ。



81 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:46:31.30 ID:8s22fRIAo


たまこ「王子様は強いんだから、泣いちゃだめなんだよ? 頑張って?」

たまこは私に笑顔を向けたまま、そう言った。

そんな言葉に私は奮い立たされてしまった。まさしく王子様みたいに。

きっとそれは、お姫様、たまこが言ってくれたからだったんだと思う。

みどり「ごめん……。私、頑張るね!」



82 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:47:53.51 ID:8s22fRIAo






ブザーが鳴って、ステージの幕が開く。

私の出番は中盤からだった。


12人の魔法使いがステージに立ち、そこへ13人目の魔法使いが駆けてきて

「ああ、国王様! どうして私をお呼びにならなかったのですか! 私のことが憎いのですか? ならばあなたの娘に呪いをかけましょう!」

そう言って、黒い杖を大きく振る。

13人目の魔法使いは素早くステージから降りた。

「可哀想に……。私の力では呪いを薄めることしか出来ませんが、これを贈り物としましょう」

12人目の魔法使いは大げさな演技で、白い杖を振った。

そして一旦幕が閉じられ、先生も協力してセットを変える。

次はお姫様の出番だった。



83 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:48:46.49 ID:8s22fRIAo


お姫様の服装は、薄いピンク色をしたドレスで、頭には綺麗なティアラを付けていた。

このティアラはクラスメイトが持っていたものを拝借したらしい。



頭を布で隠してローブに身を包んだ13人目の魔法使いがお姫様の前に現れる。

「ああ、お姫様。どうかこの花束を受け取ってください」

そういって花束を差し出す。

「わぁ、とっても綺麗な花束ですね! ありがとう」

13人目の魔法使いは頭から布を剥ぎ取って

「ふはははは! 姫、花束にひそませた針に刺さらぬようお気をつけなさい!」

とわざとらしく言う。

その台詞を言うときには、もうお姫様は花束を持ったまま床に倒れている。

「あらら、少し遅かったようだ」

幕が閉じる。



84 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:50:07.18 ID:8s22fRIAo


幕から語り手が出てきて、ことのあらましを話す。

「お姫様は13人目の魔法使いの手によって100年間の眠りにつきました。13人目の魔法使いはお姫様の眠る城に誰も入れないようにと、城を茨でいっぱいにしました」

「そして、時は流れて100年後。隣の国の王子は、その噂を聞いて城へとやってきたのです」

ついに私の出番だ……。幕が少しずつ開いて、たくさんの人が見える。

頭の中は真っ白だ、もうなるようになってしまえばいい。


「100年ほど昔に、眠ったままにされた姫がいたようだが……これは困った、茨だらけで城に入ることすらできない」

12人目の魔法使いが横から出てくる。

「あなたを待っていました。王子様」

「あなたは?」

「私は魔法使いです。呪いをお姫様にかけた魔法使いの場所を知っています」

「わかった。その魔法使いを倒す! だからその場所を教えてくれ!」

「魔法使いは、この先の森の奥にある洞窟で、ひっそり暮らしております」

「そうか! あ、そうだ……その……姫は、美しいのか?」

会場から笑い声が聞こえる。

「ええ、それはもう女神のようにお美しい方です」



85 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:51:09.20 ID:8s22fRIAo


場面が変わり、洞窟の中。

「魔法使い!」

「誰だ……」

「私は、隣の国の王子だ! 姫を助けるため、お前を倒す!」

「……お前が100年後に迎えに来るとされていた王子か」

腰にかけた鞘から剣を抜いて構える。

13人目の魔法使いは、杖を私に目掛けて振る。

ぼうっと、炎の効果音が鳴る。

「うわあっ!」

「王子とはいえ、所詮この程度か?」

「まだだ!」

私は13人目の魔法使いの懐に駆け込んで、剣を振った。

13人目の魔法使いは無言で倒れる。



86 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:52:25.68 ID:8s22fRIAo


また場面が変わり、城の中。

お姫様は豪華なベッドの上で眠っている。

私はお姫様にキスをしなければならない。

「美しい……。今、助けます」

私はお姫様の顔の上に、自分の顔を移動させる。

そこでゆっくりと幕が閉じられる。

「王子様は、お姫様にキスをしました。お姫様は100年の眠りから覚めて、その場で王子様とお姫様は婚約を交わしました」

「そして、王子様とお姫様は末永く幸せに暮らしましたとさ」

クラス全員がステージ上に登る。

幕が再び開いて、全員で手を繋いで一斉にお辞儀をした。

会場からは大きな拍手が聞こえた。



87 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 10:53:26.99 ID:8s22fRIAo


劇が終わった後、お姫様は私に話しかけてきた。

たまこ「みどりちゃん!! すっごい上手だったよ! 本当に王子様みたいで私憧れちゃった!」

憧れの存在が私に憧れてくれた瞬間だった。

たまこ「なん…… だ……で、み……ことが……き な……たよ」

風景がぼやけていく。

たまこの発する言葉が聞き取れなくなっていく。




――――――――――――――――――――――――――――――

みどり「ん……」

目の前には天井が見えた。

私はどうやら、昔のことを思い出している間に寝てしまったらしい。



88 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 16:50:43.09 ID:8s22fRIAo



懐かしい。思えばこのときから私はかっこよくあろうと決めたのだ。

結果的に私は小学校の頃とは見違えるほど明るい性格になった。

そのお陰で、中学校、高校では自分で言うとうぬぼれみたいに聞こえるかもしれないが、人気は出たと思う。

いろんな人から好かれても、一番好かれたい人からの、一番欲しい『好き』は貰えない。

告白するという手は、意気地なしの私にはできなかった。

そう考えれば、根本的には私は変わっていないのかもしれない。

常に誰かに迷惑をかけて、支えてもらわないと自立できない。

誰かが引っ張ってくれないと行動できない。

この部屋に一人でいると、また気が滅入ってしまいそうだ。堂々巡りももうたくさんだった。

今日は散歩でもしてみようかな。



89 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 16:52:37.50 ID:8s22fRIAo


顔を洗って、鏡を見ながら歯を磨く。

髪を整えて、昨日買った服を着て、靴を履く。

家を出ると、空は雲ひとつない快晴だった。

どこへ行くかは後々考えるとして、とりあえず散歩することにした。


史織「あれ、みどり?」

みどり「あっ、史織!」

史織「どうしたの? こんな所で」

みどり「散歩だよ」

史織「そうなんだ。……あ、そういえば連絡が取れなかったけど何かあった?」

そういえば史織もたまこも私の一件について何も知らない。

みどり「ううん、何でもないよ。心配かけさせちゃってごめんね」

史織「いいよ。みどり、何かあるなら一人で抱えこまないでね?」

かんなはおろか、史織も私の性格を見透かしているみたいだ。



90 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 16:54:16.44 ID:8s22fRIAo


みどり「本当にもう大丈夫だから」

それを証明するために、笑顔を作った。

みどり「それはそうと、史織は何してるの?」

史織「私も散歩してたの。外が気持ち良さそうだったから」

確かにこんなに晴れ晴れとしていて、風も心地よく吹く日はそうそうない。

史織とは散歩する目的が若干違ったけど、きっとこのうららかな雰囲気が私の心を和ませてくれているのだ。

みどり「もしよかったら、一緒にぶらぶらしない?」

史織「いいね」

史織はにこやかに頷いた。



91 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 16:55:51.32 ID:8s22fRIAo


見慣れていると思っていた町並みも、散歩なんてしてみると新しい発見をしたりする。

そんなことを思いながら史織と散歩をしていると、史織の携帯が鳴った。

史織「ねえ」

史織は携帯から目を上げて、私を見る。

史織「お母さんからお使い頼まれちゃったんだけど、これから、たまこの家行ってもいいかな?」

言葉に詰まった。

まだ、たまこのことを想うと胸が疼く。

私はたまこと会って、普通に喋れるだろうか? 普通に振舞えるだろうか?

自信がなかった。



92 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:00:16.82 ID:8s22fRIAo


史織「……みどり?」

みどり「えっ、あぁ! いいよ!」

ついOKしてしまった。

自分で思っていた以上に、私の心の中で、たまこが占める割合は大きかったと気付く。

考えてみれば、今までの私の行動は普段とは正反対だった。

……私はたまこがいないとここまで弱くなるのか。

私らしくない。

史織「みどり、大丈夫?」

みどり「え?」

どうやら、私の口数が少なくなったことを怪しまれたらしい。

みどり「ちょっと考えごとしててね」

『何でもない』なんて言うと余計に怪しまれそうな雰囲気だったから、そう言い逃れた。



93 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:01:23.65 ID:8s22fRIAo



史織と会話していると、いつの間にか商店街に入っていて、気付けばたまやの前に来ていた。

手に汗がにじむのを感じる。

史織がたまやの戸を引いた。

史織がたまこを呼ぶと、たまこがエプロン姿で出てきた。

たまこ「あ、史織ちゃん……! み、みどりちゃん!」

たまこは私に気付いて、こっちに近づいてくる。

近づかないで……!

近づかれたら私の緊張や異変に気付かれてしまうかもしれないから。

自然と目をつぶった。



94 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:02:09.77 ID:8s22fRIAo



手に暖かい感触がした。

私はたまこに手を握られている。

たまこ「みどりちゃん! 大丈夫だった? 何か不安なことでもあった?」

たまこは立て続けに私に気遣う言葉を並べた。

みどり「だ、大丈夫……というか、メールしたじゃん」

心の中のわだかまりが少し解けた気がした。

たまこ「あ、ちょっと待ってて!」

そういうとたまこは、駆け足で部屋へと上がった。

と、思いきや戸から顔を覗かせて

たまこ「あっ、とりあえず上がってて?」

と言った。



95 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:03:05.37 ID:8s22fRIAo


私達はたまこの家に上がり、テーブルの周りに座った。

少しして、たまこは2階から紙袋を降りて持ってきた。

紙袋は、Mother Roadのものだった。

たまこ「これ! 最近みどりちゃん落ち込んでるのかなって思って服買ったの!」

たまこが紙袋から取り出したそれは、今まさに私が着ている服と同じだった。

たまこ「あ……」

史織「同じ……」

みどり「ぷっ……あっはははは」

たまこのやってしまったって顔がおかしかった。

たまこ「ごっ、ごめんね! まさか同じなんて思いもしなくて」



96 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:03:56.90 ID:8s22fRIAo


そういうとたまこは服を紙袋にしまおうとした。

それを私は素早く止めて、服を手に持った。

みどり「ううん……! 大丈夫! すごい嬉しいから!」

目から涙が溢れた。

でもそれは、今までの涙とは違う。

泣いているのがバレないように、服を顔に押し当てた。

たまこ「みどりちゃん……泣いてる?」

なんでこんなときばっかり察しがいいんだろう。

たまこ「……」

たまこは私の肩をそっとさすってくれた。



97 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:05:15.03 ID:8s22fRIAo



この無条件な優しさが、たまこだった。

たまこは、やっぱり私のお姫様だ。

憧れが、やがて友情に変わって、そして恋愛感情に変わった。

笑いながら泣いている私に困惑しているたまこも

餅を楽しそうにこねているたまこも

どんなたまこも



98 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:05:48.83 ID:8s22fRIAo








――――――――。






 



99 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:07:11.39 ID:8s22fRIAo


『好き』、『愛してる』、どんな言葉も陳腐で、この気持ちを表せる言葉はきっと無い。



100 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:08:08.43 ID:8s22fRIAo




――――――――――――――――――――――――――――――


私はたまこの家から出た後、こっそり商店街で時間を潰した。

日もすっかり傾いた頃、私はたまやのある方向へと向かった。

でも目的地はたまやじゃない。

大路のところだ。



101 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:09:12.91 ID:8s22fRIAo


私は『RICECAKE Oh!Zee』の看板を見上げてから、ドアを思いっきり開いた。

さながら気分は13人目の魔法使いに決闘を挑む王子様だった。

店番をしていた大路は、私を見て口をぽっかり開けている。

もち蔵「とっ、常盤どうし」

私は大路の言葉を遮って喋る。

みどり「大路! 私、たまこのことやっぱり諦めないから!」

みどり「絶対! たまこと結ばれてやるんだから!」

みどり「偽者の王子なんかにたまこはあげないから!」

もち蔵「は?」

みどり「それじゃ!」

もち蔵「えっ、ちょっと待」

宣言を済ませた私は足早に店から出て、道路の真ん中を闊歩した。



102 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:10:29.09 ID:8s22fRIAo



私が歩いていると、背後から羽のはばたく音がする。

デラ「娘!」

みどり「でっ、デラちゃん!」

デラ「聞いたぞ~。先ほどの見事な宣戦布告」

聞かれているとは思わなかった。そんなに声を大きくしてしまったのだろうか。

みどり「……聞こえてた?」

デラ「偶然前を通りかかったのだ」

それから考えると、多分たまやまでは聞こえてないだろう。

少し安心した。



103 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:10:59.08 ID:8s22fRIAo


デラ「それにしても、良かった良かった。自分の気持ちには素直に従う方がいいに決まっている」

みどり「だね」

相変わらず紳士な鳥だ。

私達はライトに照らされた商店街を歩く。

デラ「で、いつ告白するのだ?」

みどり「……そうだなぁ。デラちゃんとチョイちゃんが帰ってからにしようかな」

デラ「ええっ!? 何故だ?」

みどり「デラちゃんはともかく、チョイちゃんは遊びに来てるわけだし、下手に混乱させちゃ悪いでしょ?」

デラ「ともかくとはなんだともかくとは」

デラちゃんは不満そうな顔をしながら飛んでいた。

そして何か思い出したように私の前に寄ってくる。



104 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:11:38.30 ID:8s22fRIAo


デラ「いいか? あの娘に告白するときは遠まわしではなく、ストレートに伝えた方が良いぞ」

みどり「……そんなの、私が一番わかってるっつーの!」

そういうとデラちゃんは羽でサムズアップをしてみせた。

デラ「それじゃあ私はたまやに帰るとする」

みどり「ありがとう、それじゃあ」

デラ「健闘を祈っておるぞ」

口から笑みがこぼれた。



105 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:14:10.28 ID:8s22fRIAo



――――――――――――――――――――――――――――――

あれから何日か経って、昨日デラちゃんとチョイちゃんは南の国に帰った。

私は今、商店街を歩いている。

何故なら、私は今日たまこに告白するからだ。

たまこに今は大路がいることも承知の上。

それでもいい。

私は、私の気持ちをたまこに知ってもらえたらそれでいい。


商店街の角を曲がると、たまこの姿が見えた。

たまこには、外に出るようにとあらかじめ携帯で連絡をしておいた。

大路に見せ付けてやる勢いで、大きな声で告白してやる。



106 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:15:12.55 ID:8s22fRIAo



――――――――――――――――――――――――――――――

波の音が静かに響く砂浜。

鳥と小さな女の子が海を眺めていた。

デラ「チョイ様、突然で申し訳ないのですが鳥占いをしていただけませんか?」

チョイ「突然何を言い出すかと思ったら……。何故だ?」

デラ「男には、理由は必ずしも必要とは限らないのですよ」

チョイ「いや、意味わからないぞ」

デラ「まあいいではないですか! 相性占いですよ! では飛びますからね!」

チョイ「あっ、待て! まだ笛も吹いてはおらぬぞ!」

鳥が飛んだ後、一拍置いて笛の音が鳴った。

鳥の羽から2枚の羽が抜け落ちる。

羽は風で左右にゆらゆら揺らされながら、同じ位置に重なり落ちた。



107 : ◆B4MtamakoQ 2013/03/16(土) 17:16:06.80 ID:8s22fRIAo



デラ「はあ……はあ……どうでしたか? チョイ様」

チョイ「とても……いい縁のようです!」






109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/16(土) 20:16:50.23 ID:B4g4cQoDO



余韻を残した感じでいいな
野暮だが結果も見てみたい



110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/17(日) 00:09:24.07 ID:blcHkVlEo


ここから先は想像にお任せ?
気になるけれど、おつ



111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/03/17(日) 00:18:34.19 ID:3acrX8quo


みどたま分が大幅に補完された。非常に乙。
何気に酉がたまちゃんなのな






転載元 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1362892777/

関連記事
[ 2013/03/22 17:30 ] たまこまSS | コメント(6)

[ 2013/03/22 19:21 ] [ 編集 ]

希望は…ここにあったか
[ 2013/03/22 21:26 ] [ 編集 ]

その後みどたまが成立してると信じてる
みどりとたまこの相性は抜群だって、はっきりわかんだね
[ 2013/03/23 01:45 ] [ 編集 ]

最後の2枚の羽のくだりはみどちゃんとたまちゃんを表してるんじゃない? なんてね
[ 2013/03/23 09:33 ] [ 編集 ]

なんかどっちとも付き合いそう
でも結局どっちもそんな真剣に付き合わずに餅ばっか考えてそうな気もする
[ 2013/03/23 12:04 ] [ 編集 ]

かんな→みどり
だといいなー
[ 2013/03/24 01:08 ] [ 編集 ]

コメントの投稿




管理者にだけ表示を許可する


トラックバック:

この記事のトラックバック URL
http://lilymate.blog.fc2.com/tb.php/2565-a1b4ac98


Powered By 画RSS
アクセスランキング ブログパーツ ブログパーツ