1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:02:46.71
ID:wXpNAITL0 幼照「咲、目を閉じて」
幼咲「え?なぁに」
幼照「いいから、目を閉じて」
幼咲「う、うん…」
幼照「……」
幼咲「お、お姉ちゃん…」フアンゲ
幼照「…いいよ、開けて」
幼咲「……」オソルオソル
幼咲「!!」
幼照「咲、誕生日おめでとう」
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:04:33.81
ID:wXpNAITL0 幼咲「うわぁーすごいすごい!きれいな花!」
幼照「コスモスっていう花だよ」
幼咲「コスモス…へぇコスモスかぁ」キラキラ
幼照「うん」
幼咲「どうやって、こんなにたくさん集めたの?」
幼照「んー秘密」
幼咲「えー」
幼照「咲に、似合うと思って」 6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:10:01.44
ID:wXpNAITL0 幼咲「そ、そんな…///」テレテレ
幼照「ほら、よく似合ってる」
幼咲「えへへ、そうかな…?」
幼照「うん。可愛いよ」
幼咲「ありがとう!お姉ちゃん!」
幼照「……」
幼照「ねぇ、咲。咲って名前は…」 8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:15:22.07
ID:wXpNAITL0 --------------
-------
--
照「……っ!!」パチッ
照「ゆ、ゆめ…?」
照「……」キョロキョロ
照「まだ、6時…」
照「はぁー…」
どうして、こんな夢を見たのだろう?
もうずっと、幼いころの夢を見ていなかったのに。
照「あっ…」 10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:17:22.28
ID:wXpNAITL0 照「10月27日…」
そうか、今日は咲の誕生日。
それであんな夢を見たのか。
幼いときの記憶。それは、あまり思い出したくない
でも、大切な記憶。
照「咲…」
咲は、私の妹は、あまり笑わない子だった。
別に、根暗なわけじゃない。ただ、とても人見知りをした。
親戚や近所の人にも、いつもおどおどとしていて
せっかく、親切な人にアメなんてもらっても、泣きそうな顔をする。 11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:20:05.22
ID:wXpNAITL0 けれど、私には違った。
私が思い出せる咲の表情は
恥ずかしそうだったり、嬉しそうだったり、ときには泣きながらだったりしたけれど
どれも、笑っている。
咲は、私の前ではよく笑う、可憐な女の子だった。
そうだ。あの頃、咲を笑わせることができるのは私だけだった。
そのことが、なによりも誇らしかった。 12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:23:40.13
ID:wXpNAITL0 あぁ、でも
「どうして、なにも言ってくれないの…?」
胸が、締めつけられる。
「お姉ちゃん!!」
あの笑顔を見ることは、もう、無い。
私が、母と一緒にあの家を出た日から。
ううん。あの出来事があった日から… 14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:32:17.23
ID:wXpNAITL0 淡「テルー!!」ドンドン
照「」ビクン
ぼーっとしていた。
もう、みんな起きてくる時間か。
照「ど、どうしたの?日曜の朝から」
淡「なに言ってんのテルー?日曜だから起こしてあげたんじゃん!!」
照「ずっと、起きてたよ」
淡「え?そうなの?返事しないから寝てるのかと思った」
照「あぁ、ちょっと考え事してて」 15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:37:23.01
ID:wXpNAITL0 淡「まぁ、起きてたなら話は早いよ!遊びに行こう!」
照「え…休日に?」
淡「休日だから遊びに行くんだよ!」
照「あー…どうしようかな…」
誠子「行きましょうよ!先輩!」
照「え、誠子も?」
菫「そうだぞ、照。休みの日くらい麻雀のことは忘れろ」
尭深「茶葉を切らしていたので、ついでに…」
照「……」
淡「ほらーチーム虎姫全員集合だから!」
照「いや、ちょっと私は…」
淡「テルがサボりとかないよ!」 17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:40:58.38
ID:wXpNAITL0 照「……」
照「あー…なんか、体がダルい…」
淡「えっ、大丈夫?テルー」
菫「ついていた方がいいか?」
照「いや、そこまでじゃ…」
尭深「季節の変わり目ですから、油断しない方が」
誠子「よし!今日は先輩の看病を…」
照「そ、それは大丈夫!!」
菫「そ、そうか?」
淡「気にしなくていいんだよ?テルー」
照「寝てればよくなるから。みんなは楽しんできて」
菫「照…」
照「じゃあ、そういうことで」パタン 20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:45:10.15
ID:wXpNAITL0 ---------
照「はぁーー…」ポフッ
照「サボっちゃったなぁ…」
ダルいのは、嘘じゃない。
頭が、いつもより重くて、とてもみんなと遊びに行く気分じゃない。
照「……」グゥーー
照「…お腹、空いた」
照「……」
人の誘いを断ると、なにもする気がおきないのはどうしてなんだろう?
布団の心地よさも手伝って、体を起こすことができない。
照「…いいや、もう一度、寝よう」
口に出してしまうと、すぅっと意識が遠のいていく。 22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:52:43.07
ID:wXpNAITL0 宮永母「おかえり咲」
幼咲「ケーキだ!!」
宮永父「そうだよ。今日は、咲の誕生日だから」
幼照「ハッピバースデートゥーユー!ハッピバースデートゥーユー!」
宮永母「咲、誕生日おめでとう」
幼咲「えへへ、ありがとー!」
幼照「咲、何歳になったの?」
幼咲「5歳!!」
幼照「そっか、じゃあロウソクは5本だね」
幼咲「えー立てなくていいよー!」 24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:56:56.02
ID:wXpNAITL0 幼照「どうして?」
幼咲「だって、ケーキが崩れちゃう…」
幼照「5本じゃ崩れないよ」
幼咲「崩れるよ!だって去年より多いもん!」
幼照「あはは、そっか」
幼咲「そうだよ!」
幼照「じゃあ、ロウソクはやめにしよう」
幼咲「うん!」
幼照「じゃあ、いただきます」
幼咲「いただきまーす」 25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 00:59:57.79
ID:wXpNAITL0 幼照「……」モグモグ
幼咲「……」モグモグ
幼照「…咲、おいしい?」
幼咲「うん!!」
幼照「……」モグモグ
幼咲「……」モグモグ
幼照「…あれ?咲、プレート食べないの?」
幼咲「ふぇ?」
幼照「これ、食べられるんだよ」パクッ
幼咲「あっ…」
幼照「あ…」 28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:05:55.85
ID:wXpNAITL0 幼咲「…っ…ぐすっ…」
幼照「ご、ごめん!悪気はなくて…」
幼咲「…えぐっ…うえーんー!」
幼照「か、代わりに!…は、ならないかもしれないけど、私のいちごあげるから…」
幼咲「えぐっ…いらない…」
幼照「そんなに好きだったんだ…」
幼咲「ち…ちがう…」
幼照「?」
幼咲「た、たべないで…とっておこうとおもったのに…ひっく」
幼照「え?どうして?」
幼咲「だって…『おめでとう』って…」
幼照「あー…」
幼咲「う、うれしかった…から…」 31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:12:47.19
ID:wXpNAITL0 幼照「…でも、食べ物だからくさっちゃうよ?」
幼咲「えっ」
幼照「大丈夫。そんなに大事にとっておかなくても来年があるよ」
幼咲「ほ、本当に…?」
幼照「うん。来年も再来年も、ずっと」
幼咲「そ、そっかぁ…」ホッ
幼照「…ごめんね。勝手に食べちゃって」
幼咲「ううん。もういいよ」
幼照「やっぱり、いちご、あげる」
幼咲「んっ…」
幼咲「……」ムグムグ
幼照「…おいしい?」
幼咲「うん!」
幼照「そう」ホッ
幼咲「ありがとう!お姉ちゃん!」パァァッ 32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:20:11.52
ID:wXpNAITL0 --------------
-------
--
照「……っ!!」パチッ
照「…また…ゆめ…」
照「来年も、再来年も…か…」
無責任なことを、言ってしまったな。
照「……」ポフッ
照「……」
照「……」ガバッ
今日は、何度寝ても同じような夢を見る気がする。 33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:22:32.85
ID:wXpNAITL0 照「…そうだ。来週までに返さなきゃいけない本」
照「……」ペラッ
照「……」
照「……」ペラッ
照「…あれ?この人誰だっけ?」パラパラ
照「…あぁ、そうだ、妹だ」
照「……」
照「……」パタン
本の内容が、全然頭に入ってこない。 34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:25:58.75
ID:wXpNAITL0 照「麻雀でも…」
照「あ」
照「淡たち、いないんだっけ…」
照「…ネトマでいっか」
PC「対局を開始します」
照「……」カチッ
PC「……」コトッ
照「……」カチッ
PC「……」コトッ
照「……」カチッ 36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:28:44.58
ID:wXpNAITL0 PC「…ロン」
照「」ビクン
照「…ネトマ、嫌い」
だめだ。なにをしても集中できない。
原因は分かっている。
でも、だからって何かできるわけじゃない。
照「…散歩にでも、行こう」 38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:33:34.24
ID:wXpNAITL0 ---------
照「あーあ、淡たちにあぁ言ったのに」テクテク
外に出たら、少し気が軽くなった。
ここには、あの場所を思い出すものがない。
白糸台は、思ったより田舎で、でも長野よりは都会だった。
高層ビルが立ち並び、歩く人はたくさんいるのに、目が合うことはない。
東京はそんなところだろうと、思っていた。
しかし白糸台は、東京でもなかなか外れらしい。
低い戸建はたくさんあるし、人懐っこいおばさんと目が合えば挨拶くらいする。
思っていたより、あたたかい町だった。 39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:36:37.56
ID:wXpNAITL0 でも、星は見えないし、高い山々だってない。
野生のコスモスも、咲いていない。
そうだ。あのコスモスは、野生のコスモスを摘んだんだ。
まだ、咲が行けないような、少し遠いところに咲いていたから。
照「コスモスかぁ…」
照「…え?」
驚いた。
あのときみたいな、コスモスが咲いていたから。 40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:41:20.38
ID:wXpNAITL0 花屋「いかがですか〜」ニコニコ
バケツの中でだけど。
照「…えっと、綺麗ですね」
花屋「ふふ、コスモスですか?」
照「は、はい」
花屋「やっぱり、この季節はコスモスですよね〜」
照「そうですね…地元では、よく咲いていました」
花屋「あれ?お客様はこちらの方じゃないんですか?」
照「はい。実家は長野の方で…」
花屋「へぇ、長野!田舎ですね〜」
照「……」 41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:43:27.92
ID:wXpNAITL0 花屋「あ、ごめんなさい!悪い意味で言ったんじゃないんですよ」
花屋「ただ、そんなに自然が多いところに咲いてたなら、すごく綺麗だろうな〜って」
照「…えぇ、とても綺麗でした」
花屋「ですよね〜。見てみたいな〜」
照「あの、それ、全部ください」
なにを、言っているんだろう?
花屋「え、全部?」
照「はい、そこにあるコスモス、全部ください」 42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:48:49.65
ID:wXpNAITL0 花屋「は、はい、かしこまりました!」
照「プレゼント用でお願いします」
誰に、プレゼントするの?
花屋「はい!」
自分でも、よく分からなかった。
ただ咲が、この花に囲まれているところを想像したら、胸が高鳴った。
贈れるはずないのに。
そうだ、匿名でこっそり送れば?
いや、今日送っても届かない。
そもそも、花なんて送ったら萎れてしまう。
花屋「お待たせしました!」
照「…はい」ズシッ
なかなかの量だった。
本当に、どうするつもりなんだろう?
照「あの、やっぱりこれ…」 44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:53:04.38
ID:wXpNAITL0 淡「あ、テルーじゃん!!」
照「!?」
花屋「ありがとうございました〜」
しまった。
断るタイミングを逃してしまった。
淡「寝てるんじゃなかったの!?」
照「いや、これはその…」
淡「てか、なにその花束!!」
照「あ、えぇっと、これは…」 45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:56:37.01
ID:wXpNAITL0 菫「お、綺麗な花束だな」
尭深「コスモスですね」
誠子「コスモスの花言葉ってたしか『少女の純真ですよね〜」
淡「えっ!誠子って花言葉とか覚えてるタイプなの!」
尭深「…意外」
誠子「どういう意味だよー!」
照「……」
まぁ、いいか。
この花は、部室にでも飾ればいい。 46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 01:58:29.86
ID:wXpNAITL0 淡「てか、テルー元気になったなら、ケーキ買いに行こうよ!」
照「ケーキ?」
尭深「近くに、有名なところがあるんですよ」
照「へぇ…」
誠子「結構前にできてたんですけど」
菫「部活が忙しかったからな」
淡「よーし!そうと決まったら、レッツゴー!!」
照「え、えぇ?」 47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:03:04.57
ID:wXpNAITL0 ----------
ケーキ屋「いらっしゃいませー」
淡「うおーおいしそう!」
尭深「本当だね」
誠子「どれにするか迷うなー」
照「私は、なんでもいい…」
淡「なに言ってんの!このお店といったら決まってんじゃん!」
淡「すみませーん、これ5個くださーい」
ケーキ屋「かしこまりました」
誠子「こら、なに勝手に決めてんだよ」
ケーキ屋「ただいま、こちらのケーキを5個以上お買い上げの方に、メッセージプレートをおつけしております」
淡「ほらー決まりだー」
誠子「う、ううん…?」 49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:06:21.26
ID:wXpNAITL0 ケーキ屋「なにか、入れてほしい言葉があれば、お書きしますよ」
淡「うーんそうだなぁ…」
淡「あっ!!」
淡「『白糸台、優勝!』で」
ケーキ屋「えっ…」
菫「こら、淡。チョコペンで『優勝』はきついだろ!」
淡「えーいいじゃん、サービス業なんだしー」
菫「やな客だな、お前…」
照「あ、あの『おめでとう』でお願いします」
なにを、言っているんだろう?
この自問も本日2回目だけど。
ケーキ屋「あ、はい」ホッ 50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:09:01.20
ID:wXpNAITL0 菫「ん?なんで、おめでとうなんだ?」
照「え…ええと、『白糸台、優勝、おめでとう』のおめでとう?」
淡「なるほどー、ナイステルー」
照「きっと、おめでとうならケーキ屋さんも書き慣れてる」
菫「まぁ、たしかにな」
嘘だ。
『咲、誕生日おめでとう』のおめでとうだ。
ケーキ屋「お、おまたせしました」
淡「お、さすが早い」
誠子「淡!」
淡「〜♪じゃ、帰ろっか」 52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:11:44.81
ID:wXpNAITL0 -----------
コスモスの花束と、おめでとうが乗ったケーキ。
あのときと同じものが、私の部屋にある。
照「どうして、こうなったんだろ…」
淡「ん?なにか言った?」
咲はいないけど。
照「ううん。なんでも」
淡「じゃあ、早く食べようよテルー」
照「あぁ、うん」
分かってる。
自分で揃えたのだ。
忘れたわけじゃない。
とでも言いたいのだろうか。
誰に? 56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:14:48.21
ID:wXpNAITL0 淡「じゃ、いただきまーす!」パクッ
照「いただきます」パクッ
淡「ん〜〜おいしい〜!」
照「……」
淡「どしたの。テルー?」
照「…しょっぱい」
淡「え?」
照「このケーキ、しょっぱい」
淡「あーこれ、そういうのなんだよ」
照「そうなの?」
淡「クリームの甘さと、キャラメルのほろ苦さと、隠し味の塩のしょっぱさが絶妙なバランスで云々みたいな…」 57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:18:08.91
ID:wXpNAITL0 照「……」
照「…甘いのが、よかった」
そうだ。甘いのが食べたかった。
ありふれた、しまりのない、ただただ甘いケーキ。
急に、悲しくなった。
届かないプレゼントを揃えることに、何の意味があるのだろう?
綺麗にラッピングされたコスモスも
食べ慣れない複雑な味のケーキも
急に白々しく感じる。
何をしたって、あの頃には戻れない。 59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:20:58.60
ID:wXpNAITL0 淡「…テルー?」
照「…もう、いい」
淡「え?」
照「残り、食べていいよ」
淡「え!テルーが!?残すの!?えっ」
照「…プレートだけもらう」
淡「え、あぁ、うん。…こ、これは台風がくるぞー」 60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:21:35.79
ID:wXpNAITL0 照「……」ボフッ
眠ったら、また同じ夢を見るのだろうか?
二度と戻らない、あの頃の夢を。
はやく、日付が変わってほしい。
照「おめでとう…ね」モグ
今年も、その言葉を伝えることはできないのだから。
カン 62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:23:17.95
ID:wXpNAITL0 咲「…今日はありがとう。和ちゃん」
和「いえいえ、私だけの力ではないですよ」
咲「でも、企画してくれたのは和ちゃんなんでしょ?」
和「それは、そうですが」
咲「私、こんなにたくさんの人に誕生日を祝ってもらうのは初めて!」
和「龍門渕さんたちの協力があってこそですよ」
咲「お屋敷、広かったもんねー」
和「料理も、豪華でした」
咲「ふふ、楽しかったなぁ…」
和「…さきたんイェイ〜」ボソッ
咲「…あ」
和「こ、これはその!つい!」カァアアッ
咲「あはは、分かる。頭から離れないメロディーだよね」
和「あんなに繰り返されれば、いやでも離れません」 63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:25:01.90
ID:wXpNAITL0 咲「さきたんイェイ〜♪」
和「自分で歌うんですか…」
咲「…和ちゃん」クルッ
和「な、なんですか、咲さん」
咲「今日は、すごく楽しかったよ。本当にありがとう」ニッコリ
和「…それは、よかったです」
咲「じゃあ、私は、こっちだから」
和「はい、ではここで」
咲「おやすみ、和ちゃん」
和「おやすみなさい、咲さん」 65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:29:13.66
ID:wXpNAITL0 咲「……」
本当に本当に、今日は楽しかった。
でも一方で、一日中そわそわと落ち着かなかった。
咲「……」タタタッ
はやく、家に帰りたい。
期待したって、きっと無駄だ。
去年も一昨年も、なにもこなかった。
がっかりしたことも、覚えている。
それでも。 66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:31:09.93
ID:wXpNAITL0 咲「…ついた」
ポストの中を確認する。
咲「請求書」ゴソゴソ
咲「チラシ」
咲「学校からの手紙」
咲「……」
咲「だけかぁ…」
ほら、少し、がっかりした。
咲「お父さん!!」ガチャ
宮永父「あ、おかえり咲、今日はケーキを…」
咲「今日って、なにか届いたりした!?」 67 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:32:47.11
ID:wXpNAITL0 宮永父「えっと、なにも届いてなかったと思うけど…」
咲「そっか…じゃあ電話、鳴ったりしてない?」
宮永父「電話…も鳴ってないかなぁ…」
咲「そっかぁ…」
宮永父「あ、そういえば咲に電話が…」
咲「誰から!?」
宮永父「ほら、咲が欲しがってた本、入荷したって」
咲「あぁ、そう…」
宮永父「なんだ?嬉しくなさそうだな」
咲「そんなことないよ…」
やっぱり、今年も、なにもこなかった。 69 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:35:38.65
ID:wXpNAITL0 宮永父「誕生日に、そんな顔をするなよ。…それ、みんなからもらったのか?」
咲「う、うん…」
宮永父「よかったな」
和ちゃんたちからもらったプレゼント。
「咲さん、誕生日おめでとうございます」
「咲ちゃん、誕生日おめでとうだじぇ!」
「ワハハーおめでとう」
「リンシャ…咲さん、誕生日おめでとうっす」
今までで、一番たくさん言われたおめでとう。
でも
「咲、誕生日おめでとう」
一番その言葉を言ってほしい人からは
今年も何も言ってもらえなかった。 70 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:37:43.83
ID:wXpNAITL0 宮永父「ほら、お父さんからも、ケーキがあるぞー」
咲「あ、ありがとう」
宮永父「結構有名なところでなー、なんでも1号店が東京にあるとかなんとか…」
咲「そ、そうなんだ…」
宮永父「2個しか買ってないけど、一応プレートもつけてもらったんだ。ほら『おめでとう』って」
咲「っ…!お、おいしそうだね」
宮永父「おう、なんならお父さんの分も食べていいぞ」
咲「あはは、1個で足りるよ…いただきます」 72 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:40:02.14
ID:wXpNAITL0 宮永父「ん」
咲「……」モグモグ
宮永父「…どうだ?」
咲「……」
宮永父「…あれ?口に合わなかったか?」
咲「…しょっぱい」
宮永父「え?あぁ、そうなんだよ。なんでも、クリームの甘さと、キャラメルのほろ苦さと、隠し味の塩のしょっぱさが絶妙な…だったかな?」 73 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:40:50.32
ID:wXpNAITL0 咲「……」
咲「…甘いのが、よかった」
そうだ。甘いのが食べたかった。
ありふれた、しまりのない、ただただ甘いケーキ。
涙が、出そうになった。
複雑な味は、私の口にはよく分からなくて
東京との距離は、果てしなく感じる。
一番欲しいものが、一番遠いところにある。 74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:42:14.79
ID:wXpNAITL0 宮永父「…どうかしたか?」
咲「…ごめんね。やっぱり、もういいや」
宮永父「え、ちょっ、咲…」
咲「プレートだけもらう」
宮永父「あっ…」
咲「……」パタン 75 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:43:03.00
ID:wXpNAITL0 ------------
部屋に入ると、懲りずに何か届いていないか、探してしまった。
なにもなかったけど。
咲「おめでとう…か」パク
あのときのことは、よく覚えている。
結局、叶わなかったから。
咲「……」ボフッ
横になっても、全然眠気がやってこない。
ポストに、何か届かないか
玄関が、開かないか
電話が、鳴らないか
耳が、研ぎ澄まされていくだけ。
はやく、日付が変わってほしい。
今年もきっと、なにも届かない。
もいっこカン 76 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:44:04.97 ID:046hTO4F0
乙 77 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:44:14.77 ID:kf0gJpqE0
乙
思いは同じなのに… 79 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:46:02.39
ID:wXpNAITL0 後付けでもいっこ書くけど、無しのがいいかも 80 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:46:54.59
ID:wXpNAITL0 照・咲「…って思ってたのが去年のこと」
照「……」
咲「暗い顔しないで、お姉ちゃん」
照「…うん」
咲「私ね、今の話、聞けてよかったって思ってるよ」
照「どうして?」
咲「プレゼント、用意してくれてたんだなぁって」
照「…届かなければ意味がないよ」
咲「でも、今届いた」
照「咲…」
咲「数年なんて、たいした時間じゃないよ」 82 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:50:38.93
ID:wXpNAITL0 照「思春期の数年でも?」
咲「……」
咲「…そうだね。思春期の数年は大きいね」
照「えっ…」
咲「どうしてくれるの?」
照「え、いや、それは私にも、いろいろあったし…」
咲「あはは、冗談…」
照「そ、それすらたいしたことじゃなくなるまで」
咲「えっ…」
照「ずっと、一緒にいる」
咲「っ…!///」 83 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:52:57.11
ID:wXpNAITL0 照「…ということで勘弁してください」
咲「……くすっ」
照「?」
咲「おつりが出ちゃうなぁ」
照「そんなこと…」
咲「ありがとう、お姉ちゃん」ニコッ
照「…うん」 85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:55:27.34
ID:wXpNAITL0 照「え、えと、じゃあケーキ食べる?」
咲「あ、うん」
照「よくある、普通の、甘いやつ」
咲「…うん」
照「ろうそくは…いらないね」
咲「うん!」
照「じゃあ、改めて今日は」
照「咲、誕生日おめでとう」
もいっこカン! 87 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 02:59:39.40 ID:kf0gJpqE0
乙
やっぱり甘いのがいいよね 91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 03:06:16.99 ID:X70C5Ebi0
乙
さきたんイェイ~♪ 92 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/10/27(日) 03:12:05.39 ID:r1MZrQsL0
乙
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咲さんおめでとう
最後でハッピーエンドになって良かった
咲ちゃんおめでと~
咲さんお誕生日おめでとうございます。
最後に報われてよかった。
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