1 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 00:37:09.82
ID:/WXkBZp4 絵里(ああ、また話しかけられない……)
高校に入学した私は、特に入りたい部活もなかったので授業が終わったらすぐに帰宅している。
毎日が退屈だが、そんな中、最近気になっている娘がいる。
同じクラスの東條希さん。
彼女はとても明るく社交的な性格をしており、今も他のクラスの子と楽しくおしゃべりを
している。元々口数も少なく性格も暗めな自分とはまるで正反対だ。
どうにか、彼女とただのクラスメイト以上の仲になりたいが、その一歩が踏み出せない。
絵里(仕方ないわよね、クラスでも人気の高い東條さんとこの私じゃ、とても釣り合わないわ…)
絵里(でも、東條さんと仲良くなれたら、すっごく楽しくなるでしょうね…)
絵里(どうしよう…)
5 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 00:58:17.70
ID:/WXkBZp4 絵里「ただいまー、亜里沙」
亜里沙「おかえり、お姉ちゃん! すごい笑顔だね!高校ってやっぱり楽しいの?」
絵里「えっ… ええっ!亜里沙が考えてる以上に毎日が新鮮よ!まさにハラショーッって感じね!」
亜里沙「いいな~ 亜里沙も早く高校生になりたい!」
家に帰ると、3つ年下の妹が元気よく出迎えてくれた。
学校が楽しいですって?とんでもない!
でも、かわいい妹の前では、ついつい虚勢を張ってしまう。
絵里「じゃあ、ちょっと片付けてくるわね」
亜里沙「うん!」
・・・・・
絵里「はぁ…」
自室に入ると、制服のままベッドの上にグダーッと寝そべる。 8 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 01:09:04.72
ID:/WXkBZp4 絵里(私って、ほんと駄目ね…)
結局、あの後東條さんに話しかける、なんてことは当然出来ない訳であって。
グズグズしているうちに、時間だけが過ぎていき、貴重な一日が過ぎていった。
絵里「だいたい、お話しするって、何をすればいいのよ…」
絵里にとって、『友人』というものの存在はよく分からない。
幼い頃を日本から遠く離れた北国で過ごした絵里には、これまで幼馴染みなる者はいなかった。
周りに同じ年頃の子どもたちがいなかったのだ。
だから、いつも幼い妹と2人で遊んでいた。
たまの楽しみは、絵里一家が住んでいる街から遥かな里に住んでいるお祖母様の所へ遊びに行くことであった。 10 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 01:18:21.24
ID:/WXkBZp4 お祖母様はとても優しい人だった。
絵里たちが訪れると、いつだってニコニコと出迎えてくれて、そして一緒に絵本を読んでくれたり、ロシア民謡を謳ってくれたりしてくれた。
そしてお祖母様を皆で囲んで、楽しくわいわいとおしゃべりをしながら食事をした。
そして夜は、幼い姉妹でお祖母様を真ん中にして仲良く眠った。いつもは夜が怖がりな絵里も、お祖母様と一緒に寝るだけで不思議とぐっすり眠れるのだ。
絵里も亜里沙も、お祖母様が大好きだった。
しかし、こんな楽しい出来事も、やがて終わりを迎えてしまう。
そう。日本への引っ越しである。 11 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 01:34:04.52
ID:/WXkBZp4 父親に日本支社への異動が出たのだ。しかも、支社長。俗に言う栄転である。
母も、そして電話の向こうのお祖母様も大喜びだった。よく分かっていないだろう妹も、一緒に笑っていた。
しかし、絵里だけは違う気持ちだった。
彼女は日本なんかに行きたくない、と言った。
元々、日本が父親の故郷であり、全く知らない訳ではなかったのだが、馴染み深いこの地を離れることと、
そして何よりお祖母様と離れ離れになってしまうことー
絵里にとって、それは何よりも辛いことであった。
しかし、小さな絵里が1人ロシアに残るなんて事は非現実であり、年老いたお祖母様にも絵里の面倒を見るのは大変だから、という理由で絵里も泣く泣く日本へ行くことになった。 12 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 01:45:42.81
ID:/WXkBZp4出発の日、お祖母様は空港まで見送りに来てくれた。まるで永遠の別れのようにわんわんと泣く2人。
お祖母様は優しく頭を撫でて、こんな言葉と共に御守りをくれた。
-Не плачь. Хорошо там, где вы идете, если вы, ребята. (泣かないで。あなた達ならば何処へ行ってもしっかりできますよ)-
遠くなるけれども、また、いつでも会いに行けるのだから。
この時のお祖母様の言葉は不思議と胸に残っている。
そして、絢瀬一家は日本に向けて飛び立った。この時、絵里はわずか9歳だった。 13 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 01:58:36.73
ID:/WXkBZp4 ロシアでいう初等一般教育生だった絵里は、転校したら小学校3年生として通うことに決まった。
転入初日まで、絵里は期待と不安が高まった、高揚とした日々をすごしていた。
何より、今までは友達と呼べるような子が周りにほとんどいなかったのである。
それが、これからは世界一人の多い東京で学ぶのだ。
絵里にとっては、何もかもがハラショーな世界だった。
そして、転校当日ー
先生について行き、教室のドアをくぐった絵里はザワザワと騒がしい教室をぐるりと見渡す。
活発そうな男の子がたくさん居る。優しそうな女の子もいる。
急に、心臓が高鳴ってきた。大丈夫よ、エリーチカ。お祖母様も言ってたじゃない、私は何処へいってしっかり出来るって。
挨拶を始めようとした、まさにその時、やんちゃそうな男の子が大きな声を挙げた。
「なんで、そんなに髪の毛が金色なんだよ! 宇宙人みたいだなあ」 14 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 02:08:46.49
ID:/WXkBZp4 今となったら、全然気にすることのない発言である。
21世紀になっても、日本でも地方によってはまだまだ金髪の白人は少ないし、世間の狭い幼い少年ならなおさらであろう。
しかし、当時の絵里にとっては相当ショックな言葉であった。
いきなり、初めて会った人に向かって、それも『宇宙人というなんて…』
おかげであれだけ練習していた日本語の挨拶もしどろもどろになり散々な小学校デビューとなってしまった。
席に座ると、女の子たちがこちらを見ながら何やらヒソヒソと話していた。
しかし、小学生の甲高い声ゆえ、断片だが聞き取れてしまった。
「あの子、何言ってるかわかんなかったし、ちょっと怖いね…」
「見た目もみんなと全然ちがうしねー」
その言葉は、小さな絵里に大きな傷を残すことになった。 15 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 02:16:11.59
ID:/WXkBZp4 ・・・・・
・・ちゃん、起きて!
亜里沙「お姉ちゃん、制服のまま眠っていたら風邪ひいちゃうよ!起きないと!」
絵里「あ、亜里沙」
横になっていただけだったのに、つい眠ってしまったようだ。
絵里「ごめんなさい、亜里沙。うっかり眠ってしまったわ」
軽く伸びをしながらゆっくりと起き上がる。お姉ちゃん、頬っぺたシワになってるよ。と亜里沙が面白そうに笑う。
少々恥ずかしい場面を見られたので、つい赤面してしまう。
そういえば、今昔の夢を見ていたな… 懐かしいような、嫌だったような…
亜里沙「お姉ちゃん?どうかしたの?」 28 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 11:43:29.50
ID:/WXkBZp4絵里「…え?」
亜里沙「何だかすっごくやつれてるような…。大丈夫?」
絵里「な、なーに言ってるの。ちょっと疲れてただけよ。さ、着替えるから部屋の外で待ってなさい。」
亜里沙「はーい。」
危ない危ない。何ともないようにうまく取り繕ったつもりだが、私は少し声が上擦ってしまった。
せめて、妹の前ではいつも元気一杯のお姉ちゃんでありたかった。
亜里沙もそれ以上特に何も言わず、素直に部屋を出て行く。
ドアが閉まってから、鏡台の中の自分の顔を覗き込む。
うん、大丈夫。いつもの私だわ。
にっこりと微笑むと鏡の中の私も同じ表情をしてくれた。 30 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 11:55:41.34
ID:/WXkBZp4 亜里沙「お姉ちゃん、もうこんな時間だよ。そろそろご飯にしようよ」
部屋の外へ出ると、待ち構えていた妹が携帯の時計を見せてくる。
あれ、もうこんな時間か。結構寝てしまったようね…。
ごめんね、亜里沙。と頭を撫でると少し擽ったそうに笑う妹。
この子の笑顔を見ているだけで、本当に癒される。学校の事も嘘のように忘れてしまう。
絵里「ごめんごめん。すぐに支度するわね」
そう言いながら、私はキッチンへ向かった。昨日の残りはどの位あったかしら… 32 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 12:15:31.59
ID:/WXkBZp4 幸いにも、昨日の残りがまだ結構残っていた。それを温め直してから食べる事にする。
亜里沙と私の2人で並んでテーブルに座る。
絵里・亜里沙「「いただきます」」
2人きりの食卓にもすっかり慣れてしまった。
当初は、どんなに忙しくても父親はほとんど必ずと言っていいほど家に帰ってくれたので、家族皆で食卓を囲んだ。
しかし、数年前から目に見えて忙しくなった父は滅多に家に帰ってこなくなった。帰ろうにも全国を飛び廻っているのでなかなか帰れないのだ。
母もそんな父を支えるために一緒になって動いている。本当は、まだ子どもである姉妹だけを残すのはどうだろうか、考えたようだ。
大丈夫よお母さん。私はもう中学生なんだから、と笑って心配する母を見送ったものだ。
お祖母様も言ってたじゃない。私ならしっかり出来る、と。 34 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 12:35:21.24
ID:/WXkBZp4 亜里沙「お姉ちゃん? 聞いてる?」
絵里「…あ、ごめん亜里沙。それでどうしたんだっけ?」
まったくもー、と亜里沙が少し膨れっ面をする。
いけない。またボーっとしてしまったようだ。
おかげで亜里沙の話も始めの方を聞きそびれてしまった。
亜里沙「…うん、それでね。亜里沙もせっかくだからその子と一緒に文芸部に入ろっかなーって思ってるの」
絵里「えっ? 亜里沙、部活に入るの?」
亜里沙「うん。ダメかなぁ…」
絵里「何言ってるの。いいに決まってるでしょ。むしろハラショーよ、ハラショー! お母さんたちにも報告しましょうね!」
やった。と妹が笑顔になる。どうやら入部届けはもうほとんど書いており、あとは保護者ーー私の判子を押すだけの状態らしい。
気がつけば何と、妹が部活を始める事になっていた。羨ましいほどの行動力だ。
でも、不思議と私まで嬉しくなる。妹の中学校生活も上手くいっているようでほっと一安心する。
亜里沙「だから、お姉ちゃんも好きな部活に入ったらどうかな?」 35 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 12:50:26.60
ID:/WXkBZp4 絵里「えっ、そ、そうね…。考えとくわ」
亜里沙「だってお姉ちゃん、亜里沙の面倒見るから、って中学のときは何の部活にも入らなかったから」
私だってもう中学生だし、と亜里沙は少し胸を張る。
そうなのだ。私は中学生のときは妹の世話を理由としてどの部活にも所属しなかった。
だが、彼女だってもう立派な中学生だ。これからは彼女の言う通りに好きな部活を始めるのも一つの手かもしれない。
でも、突然そう言われても…。今まで家と学校を往復する生活を繰り返していた私にはとても、仲間と楽しく活動する自分を想像する事が出来なかった。
そして、何より…
絵里「友達、よね…」
亜里沙「?」
私には早速難題が待ち構えていた。 37 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 13:08:33.67
ID:/WXkBZp4 絵里「ええっと判子どこだっけ…?」
ガサゴソと、箪笥の中をあちこち探す。早いうちに入部届けを出しておきたい、という亜里沙の意向に沿って急いで書類を用意してあげることにしたのだ。
絵里「あっ… あった。ここにあったのね」
普段から把握しておかないと、大事なときに困っちゃうじゃないと思いながら箪笥の引き出しを閉めようとすると、クシャッと何かが引っ掛かる音がした。
絵里「…写真?」
どうしてこんなところにと思いながら慎重に取り出す。どうやら大した傷はついてないようだ。
何の写真かしら、と表に向けるとそこには懐かしい顔が写っていた。
絵里「お祖母様…」 39 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 13:24:28.99
ID:/WXkBZp4 空港で別れるときには、毎月にでも会いに行くと思っていたが、現実はなかなかそうはいかない。
せいぜい長期休暇や年末、そしてお祖母様の誕生日位にしか会いに行く事は出来ない。
でも、大学に入ったらすぐにでも飛んで行って好きなだけお祖母様と過ごしたいーー
誰にも言ってはいないが、絵里は密かにそう考えていた。
写真の中のお祖母様をじっと見つめる。優しく微笑むその顔はどこか自分のように見えた。
ポタッ と写真の上に水滴が落ちた。慌てて目元を拭う。
絵里「いけないいけない…」
弱気になっちゃだめよ、絵里。と自分を鼓舞する。亜里沙の前ではこんな顔でいられない。
彼女の前ではいつも元気一杯のお姉ちゃんだから。
折角見つけたものだし、箪笥の中に入れといたままにするのもなんだから、と私は写真を大事に持っておくことにした。 40 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 13:40:12.38
ID:/WXkBZp4 亜里沙「はい、ここに保護者の名前書いてね。判子は名前の横に押すの」
絵里「ええと、ここね…」
サラサラと自分の名前を書く。そして、判子の向きを何度も確認しながら慎重に、慎重にーー
亜里沙「ハラショー、すっごく綺麗に押せてる!」
絵里「ふふ、この位朝飯前よ」
お姉ちゃんは判子押しのプロだね! と亜里沙が冗談なのか本気なのか分からない事を言ってくる。
絵里「ええ!判子押し部っていうのがあったら絶対に入るわ!」
と冗談めかして答えながら、ふと部活動の事を考える。
ほんの少しだけど、私も部活動をやってみたいかも。
後で、入学式の時に配られた部活案内のブックを見てみようかな。
当初は、私には無関係と思って碌に中を見ずに本棚に突っ込んでいたのだが、今日やっと陽の目を見るようだ。 41 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 14:06:17.40
ID:/WXkBZp4 風呂から上がり、髪の毛を乾かしながら本棚からブックを取り出しパラパラと捲る。
絵里「はぁ…」
一通り読み終わると、思わず溜息をついてしまった。
もともと、生徒数が少ない事もあってか部活動があまり盛んではないという事は分かっていたのだがーー
絵里「まさか、ここまでとはね」
盛んではないどころか、今年の新入生の入部状況によっては、廃部一直線となる部もたたあるようだ。
でも、特にやってみたいと思えるような部もない。
いっその事、判子押し部なるものを作ってしまおうか。部長は、私。そして部員は…
絵里「こんな部に入る物好きなんでいるわけないわよね…」
ブックを閉じて、ゴロンとベッドに横たわった。目を閉じて、あれこれと考える。
疲れたな、そろそろ明日の授業の準備もしなくちゃ。部活の事はまた明日でもいいか。でも、あまり迷っていると締め切りが…
絵里「…」zzz 44 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 15:03:20.57
ID:/WXkBZp4トントン!とドアが叩かれビクッとして眼をあける。
お姉ちゃん、もう7時半だよ!起きないと!という亜里沙の声に驚いて、おかげで意識は完全に目覚めた。
絵里「亜里沙ありがとう!」
これは大変、と急いで着替え始める。ああ、昨日考えたまま眠ってしまったようね。
自分がつい嫌になりそうだが、取り敢えず目先の準備が先だ、とその事は考えないようにする。
しまった!授業の支度もしていないようだ。これでは賢くない。
軽く時間割を確認し、学校指定のスクールバッグの中に道具を突っ込んでいく。
よし、これでいいでしょう。と机の上を見ると、昨日発見した写真がそのまま置かれていた。
絵里「…折角だから、持って行こうかな」
そう呟いて、私はバッグの内ポケットの中に写真を入れた。 45 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 15:16:36.17
ID:/WXkBZp4 はあはあ、と息を切らせながら走り、予鈴の音と共に校門をくぐる。
どうやら、ホームルームには間に合いそうだ。
絵里(亜里沙も私を待たなくても良かったのに…)
心優しい妹は、先に出発する事も出来たのに、わざわざ私が出るのを待っててくれたのだ。
急ごう、と分かれ道まで2人は駆けてゆき、そこで私はお礼をいった。
絵里「亜里沙ありがとうね、待っててくれて」
後、入部届けも持ってるよね? と最後の確認をする。
亜里沙「もちろん! 今日出しちゃうからね」
雪穂と一緒に! と満面の笑みで笑う。どうやら、雪穂という娘が文芸部に入る友達らしい。
それは良かったわ、と手を振って妹を見送ってから、私も急いで学校へ向かった。 46 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 15:33:11.56
ID:/WXkBZp4 下駄箱に向かうと同じように遅刻ギリギリで焦っているのであろう生徒たちが数人靴を履き替えていた。
その中の1人に思わぬ顔がいて、私はドキッとする。
ーー東條希さんだ。
希「にこっちー! はようせんと遅刻になっちゃうで!」
にこ「ま、待ちなさいよ希ー!」
東條さんは、相変わらず元気一杯だ。私とは大違いね…。
それでも挨拶くらいはしようか、と迷っているうちに東條さんたちは慌ただしく行ってしまった。
どうやら、私には気付かなかったようだ。
「おーい、何突っ立ってるんだ? もう本鈴鳴るぞー」
生徒指導の先生の声に慌てた私も慌てて靴を履き替え、教室へ向かった。 48 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 15:54:44.95
ID:/WXkBZp4 教室に入り、急いで自分の席に着く。
困ったことに、入学してからというものの、まだ一回も席替えをしていない。
しかも、私の名字は『絢瀬』ーー あ行の始めの方なので、前の席なのだ。
つまり、遅刻した場合、必然的に皆の視線を浴びながら座ることになるのだ。
おはよう、と周りの席の子と挨拶をする。
いくら私だって、挨拶くらいは出来るし、多少の会話をする子もいる。
しかし、それが仲の良い友人なのか、となるとーー 私には何も答えられない。
間に合った安堵感にホッと一息つくと同時にホームルームが始まった。
が、そこで私は驚いてしまう。
担任「そろそろ4月も終わるので、部活の申請届けももうすぐ締め切りとなります。だから、まだ決めてない人は急いでね」 49 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 16:29:05.11
ID:/WXkBZp4 まさか、もう時間がないなんて…。まだどの部活に入ろうかすら決めてないのに…。
ホームルームも終わり、担任が教室の外へ出て行く。
そうだ、一応部の新設について聞いてみようかな。私は担任の後を追う。
絵里「先生!」
担任「なあに? 絢瀬さん」
絵里「あの、部活についてなんですけど…」
そう言えば、まだ絢瀬さんは何処の部にも未加入だったわね、と担任は持っていた書類をパラパラ捲る。
絵里「は、はい…。あの、例えばもし、これから私が新しく部活を作りたい、ということになったら認められますか…?」 57 :
>>1(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 18:21:28.72
ID:/WXkBZp4担任「部活を作りたい…。 既存の部活にいいのはなかったの?」
絵里「え、まあ、ダメという訳ではないんですけど…。もしも、自分で部を作れるならそれもいいんじゃないかと思いまして…」
なるほど、でもね。と担任は優しく答える。
担任「新規の部を作りたいなら、私じゃなくて生徒会に申請するのよ」
絵里「あっ…」
そうだったのか。しかし、ブックには部活への加入方法は載っていたが部の作り方までは無かったので、知らなかったのも無理はない。
担任「それにしても、絢瀬さんが部活を作りたいなんて、意外ね。あなたはいつも、授業が終わってからまっすぐに帰っていたようだけど…」
絵里「…折角の花の高校生ですから、何かやってみたいなと思い始めたんです」
ハハハと渇いた笑い声を出す。
…この先生、まだ若いのに生徒の事をよく見ているようね。 59 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 18:36:07.49
ID:/WXkBZp4 担任「じゃあ、もう授業あるから行くわね。また何かあったらいつでも相談してね」
絵里「はい。どうもありがとうございます」
担任にお礼を言って教室へ戻る。すでにクラスメート達は各々の席に着き、準備を終えている。
そろそろ1時間目の授業が始まってしまうわ。ええと、教科書は…
絵里「…忘れた」
大失態。やっぱり最近の私は賢くない。
先生「…ん? どうした絢瀬。教科書は?」
絵里「わ、忘れてしまいました」
しょうがないなー、隣に見せてもらえ、と先生が困った顔をする。
おそるおそる隣の席の子に頼むと、快く教科書を見せてくれた。
絵里「あ、ありがとうね」
隣の子「別にいいよー」
お互い様でしょ、と言ってくれた。どうしようかと思っていたので取り敢えず一安心。 66 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(2+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 21:47:45.89
ID:/WXkBZp4無事に1時間目も終わり、私は改めてお礼を言った。
絵里「さっきは本当にありがとう。おかげで助かった」
隣の子「いいっていいって。その代わり、私が忘れたときは助けて貰うからね~」
アハハハ、フフフと2人で笑いあう。 だが、それ以上会話が続かない。
絵里「…えーっと、きょ、今日は風が強いよね」
隣の子「…う、うん。そうだね。こういう日って、髪型がくずれちゃって大変だよね~」
当たり障りのない会話が続く。お互いぎこちない笑みを浮かべる。 何故だろう、会話を続けるのが難しい…
私は軽い目眩がした。 67 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 21:49:59.54
ID:/WXkBZp4 その時、離れた席の子たちが隣の子に話しかけた。
途端に、その子の顔がぱあっと明るくなり、その子たちとの会話が始まった。途端に声も段違いに大きくなる。
…今日シフト入ることになってさー。 エーッ、それキツイね~…
どうやったらみんな、こんなにも自然に会話が弾むのだろう。そして、笑顔が溢れるのだろう。
私には見当もつかない。
会話に入りたかったが、タイミングが掴めなかった。
絵里「…次は何の授業だったっけ」
私はのろのろと2時間目の授業を始めた。バッグの中からごそごそと道具を取り出す。
ーーその時。
「絢瀬さん」
誰かが、私に話し掛けてきた。 70 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 23:02:28.92
ID:/WXkBZp4 顔を上げると、そこには思わぬ人物が立っていた。いや、声で予想は出来たのだが…
絵里「と、とと東條さん…!」
おはようさん、と彼女はニッコリと微笑む。大きく二つに結わえられたおさげが柔らかく揺れる。
絵里「…お、おはよう、東條さん…!」
まさか彼女から話し掛けてくるなんて…と私は驚きをかくせない。咄嗟の事態に頭の中がグルグルと廻り、混乱してしまいそうだ。
いや、あのな。と彼女は言葉を続けた。
希「さっき、下駄箱で絢瀬さんが駆け込んでくるのを見たもんやから…」
声を掛けたかったけど、ウチも急いでいたからね…。と申し訳なさそうにはにかむ。
希「うん、取り敢えず挨拶をしときたかったんや。同じクラスメートだからね」
じゃあ、チャイム鳴るから席戻るね。と東條さんは離れていった。
絵里「う、うん! じゃあ、ね…」
あー、もう行ってしまうのか。と少し名残り惜しいのと。
絵里(まさか、東條さんと真近で話せるなんて!)
棚からぼた餅状態だが、憧れの級友と話せて嬉しい! と私の心はうきうきとしていた。 72 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/13(月) 23:35:39.45
ID:/WXkBZp4 ーーお昼休み。
私は、この昼休みが来ると憂鬱な気分になる。何で、わざわざ45分もあるのよ。ご飯なんて人間頑張れば、もっと早く食べられるのに…
1人で食べるお昼ほど、寂しい話はない。
入学当初は、済し崩し的に周りの席の子たちと囲んで昼食を食べていた。
しかし、段々学校の慣れてくると、自然とグループの枠組みは決まってくる。
今では、隣の子も後ろの席の子も皆、教室の反対側のグループに混じって楽しそうに昼食を食べている。
羨ましくない、といえば嘘ではない。でも、あの子たちとワイワイ楽しく昼休みを過ごす自分が想像出来なかった。
食事なんて、早く済ませてしまおう。その後は、チャイムが鳴るまで図書館で本でも読んで過ごすか。
そんな事を考えながら、ガサゴソとバッグを開け、弁当を探る。
絵里「…あ、しまった…」
本日、二度目の大失態。私は弁当を作ることすら忘れてしまっていた。 78 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/14(火) 22:53:10.49
ID:dat620is (やっと時間空きました。少し更新します)
その日は結局、購買部でお昼を購入する事に決めた。
一食くらいならば抜いてしまおうかとも始めは考えたが、正直な自分のお腹はごまかせない。
それに、今朝は全速力で走ったのだ。身体中がエネルギーを欲している気がする。
そして何より、恥ずかしながら私はまだ購買を一度も利用した事がなかった。
折角の機会だ、購買デビューをしてみましょう。
あと、普段、弁当派の人間にとってはたまには違う物を食べるのも新鮮で良いものよね。
そんな事を考えながら購買へ向かった。
・・・・・
授業が終わったばかりだからか、購買部は大勢の生徒で混雑していた。まさに大盛況。
購買というものは思っていた以上に人気があるようだ。
しかし、私は人混みがあまり得意ではない。だから、人が少なくなるのを辛抱強く待つ事にした。
人混みから離れて、柱にぽつんと寄りかかる。そして、煩いくらいに騒がしい生徒達をぼんやりと見つめる。
すると。
「絢瀬さんも、お昼は購買なん?」 81 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/14(火) 23:55:20.00
ID:dat620is 絵里「…と、東條さん!」
突然声を掛けられてビクッと反応する。
ごめんな、驚かせてまったかな? と声の持ち主ーー東條さんが言葉を続けた。
絵里「…う、うん! ちょっとだけ…。 いきなりだったもので…」
まさか、彼女とまた会話が出来るなんて…。 しかも、同じ一日に。
まるで、今日は幸運の女神が微笑んでくれているかのようだ。
しかし、哀しいかな。どう言えば良いだろうか、と慌てて考えてしまう。
普段口数が少ないからだろうか。こういう時に、すらすらと言葉が出てこない自分が恨めしい。
そうか、と東條さんが笑みを見せる。
希「ウチも購買なんよ。もしよかったら、お昼ご飯、一緒にどう?」
…聞き違いかしら。
東條さんと一緒にお昼ご飯ですって…? 83 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 00:34:50.81
ID:VqKc/Ixh 絵里「わ、私なんかで良ければ是非…」
決まりやね、と東條さんが微笑む。
ハラショー! まさか、憧れの彼女と一緒にお昼だなんて!
理解が追いつくと同時に、あまりの嬉しさに私は思わずを歓声を上げてしまいそうになる。
が、ここは我慢我慢。感情を露わにするなんて、普段の学校でのキャラではない。
それでも、私の頬は思わず緩んでしまう。
希「ほな、人も少ななってきたし、買いに行こう」
はようせんと、売れ切れてまうんよ。と彼女は微笑みながら続けた。 87 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(2+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 01:24:59.92
ID:VqKc/Ixh 2人で連れ立って購買部に向かう。私達以外には、生徒はもう誰も残っていなかった。
いらっしゃい、という売店の人が声を掛ける。
私は初めてじっくりと見るショーケースの中を期待と共に覗き込んだ。
絵里「…無い」
希「…ほとんど売り切れ状態やね」
恐らく、人気の高いであろうパン類も、おにぎり等もあらかた無くなっていてーー寧ろ、残っていたのはたった一つ。
メロンパンが一つ、忘れ去られたかのようにチョコンとケースの中に納まっていた。
売店係「お嬢さん達、本当にごめんなさい。今日はもうこれしか残ってないの」
メロンパンを指しながら、数を間違えちゃって…と、面目なさそうな顔をする売店の人。
グズグズしていた私が悪いのだけど、購買デビューが、それも東條さんと一緒のお昼がまさか、こんな形のものになるとは…。
何だか悲しくなってきた、と思わず眼を伏せてしまう。はぁ… どうしてこうなってしまうのかしら。 88 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(3+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 01:27:19.90
ID:VqKc/Ixh 希「大丈夫ですよ」
…え?
希「それを2人で、一緒に食べれば十分です」
絢瀬さんも、それでいいかな…? と東條さんが恐る恐る訪ねてくる。
絵里「…一緒にって、つ、つまり…。 一個のパンを、2人ではんぶんこ!?」
やっぱ、嫌かな。 と伏目がちになる東條さん。
…とんでもない。嫌などころか寧ろ、大歓迎です! 91 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 15:08:37.04
ID:VqKc/Ixh良かった。ほな、買おっか。 安心した顔を見せる東條さん。
こうして私たちは、仲良くパンを分け合う事となった。
希「どこで食べよっか? 教室戻って食べる?」
絵里「て、天気もいいから、折角だし、お外で食べたいな…」
教室だと、ついつい周りの視線が気になってしまう。
それに、私には級友と暖かい陽射しの元、仲良くお昼ご飯を食べてみたい、という夢想をした事があった。
希「おっ、グッドアイディアやね」
レッツゴー、と笑顔で賛同してくれる東條さん。
…ありがとう、東條さん。早速夢が一つ叶いました。
2人連れ立って中庭へ向かう。その途中、並んで歩きながら、私は先程から気になっていた事を思い切って聞いてみる事にした。
絵里「…あの、東條さん」
希「ん?」 92 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 15:29:19.26
ID:VqKc/Ixh 絵里「…どうして、私に声を掛けたの…?」
うーんと、どういう事かな? と聞き返す東條さん。
絵里「えっと…。 だ、だって、東條さん、いつもはグループの人達とお昼食べてるじゃない? でも、今日は私を誘ってくれたから…」
モゴモゴと答える私。普段、口数が少ない代わりに観察力だけは発達している。
いつも、東條さんが楽しくおしゃべりをしながらお昼を食べているのを横眼で見ながら、あの輪の中に入って、東條さんと一緒に笑い合えたら… と思っていた。
しかし、彼女…それどころか、グループの子のと殆ど碌に話したことのない私には、土台無理な話ね… と半ば諦めていたのだった。
それが、今日に限っては彼女とーーそれも、2人きりでいるのだ。
嬉しさ半分と、でも一体どうしてという疑問が残り半分だった。
東條さんが歩みを止めた。そして、私の顔を見る。真剣な表情をしていた。
希「ウチな… 絢瀬さんの事、前から気になってたんよ」 98 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 18:24:45.44
ID:VqKc/Ixh 絵里「私の事が…気になっていた…」
東條さんの言葉をおうむ返しに口に出す。
この東條さんが、私の事を見ていたっていうの…? 全然気がつかなかった!
何だか急に心臓の鼓動が早くなる。
いやあのな… 別に、変な意味や無いんよ。 慌てて視線を動かし、窓の外に見やる東條さん。
希「何て言ったらええんやろ…。 とにかく、音ノ木坂に入って、初めて絢瀬さんの事を見たとき、はっ としたんよ」
希「何だか、まるで他人とは思えない、と言えばええのかな…」
希「一度、お話ししたかったんやけど、タイミングが上手く掴めなくて…」
希「せやから、さっき購買部で絢瀬さんを見つけたとき、ラッキー! って思ったんよ」
ちょっと、誘い方が強引やったけどね… と再び私を見て苦笑する東條さん。
絵里「…ううん。すっごく嬉しい!」
極めて短い返事をしてしまったが、頭の中の私はあまりの嬉しさに飛び跳ねていた。
これぞ、まさにハラショーよ!ハラショー! まさか、東條さんも私とお話しをしたかったなんて…!
ずっと、私とは住む世界の違う人だって思っていたのに!
絵里「わ、私もね… ずっと、東條さんとお話ししたいな、って思っていたの」
私も懸命に言葉を紡ぎ出す。 106 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 22:31:22.00
ID:VqKc/Ixh希「せやったの…。 ちっとも気づかなかった」
再び、東條さんは眼を伏せる。
絵里「い、いいのよ! こうして今、東條さんと話せているから…私ね、今とっても嬉しいの」
暫し、私達は2人とも黙り込む。しかし、決して場の空気が重くなった訳ではない。
…多分、私の顔は今赤くなっているわ。
どうしてかって? 目の前の東條さんも頬を染めているからだ。
えっと… と、慌てて東條さんがしゃべる。
希「…ぼ、ぼちぼち行こか。お昼休みも時間、限られているし」
絵里「…え、ええ! そうしましょう!」
再び私達は歩を進めた。
ようやく中庭に着く。
今朝はあんなにも強く吹いていた風。それが今では、この興奮している頭を冷やすのに丁度良い程度に治まっていた。 107 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/15(水) 23:36:58.38
ID:VqKc/Ixh 中庭には、数える程にしか生徒は居なかった。ここは、案外穴場なのかもしれない。
ウチらの独占状態やね、と冗談めかす東條さん。
木陰のベンチに2人並んで座る。
希「さ、食べよ」
そう言って、東條さんは手に持っていた袋からメロンパンを取り出す。
私はそれを、じっと見つめる。…ふんわりと膨らんでいて、とっても美味しそう。
希「絢瀬さん、分けるのやる?」
絵里「…いいの?」
上手く千切れるだろうか。渡されたパンを両手で持ち、息を整える。 … ほっ!
絵里「…やった!」
希「おっ、分けるの上手やん」
綺麗に等分されたメロンパン。
2人顔を向かい合わせ、ふふっ と笑う。はい、どうぞと千切った半分を彼女に渡す。
希「…ほな」
絵里・希「「いただきます」」
ぱくり。さっそく一口、齧り付く。甘いクリームと風味がぶわっと口いっぱいに広がった。
絵里「…ハラショー! すっごく美味しい!」
何これ! 今まで食べたどのメロンパンよりも美味しい! 私は、思わず満面の笑みを浮かべる。
希「…やっと、笑ってくれたね」 122 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 01:36:32.25
ID:CjUBq3Ff絵里「東條さん?」
希「ウチな、絢瀬さんが素敵な笑顔を見せてくれるのを、ずっと待っていたんや」
希「ウチが知っている限りの絢瀬さんは、いつも退屈そうやった」
こんなに可愛いのに、笑わないのはもったいないやん? 東條さんがにっこりしながら話し続ける。
絵里「…ありがとう!」
こんなにも私の事を気にかけるなんて、東條さんは本当に素敵な人だ。
もう一度、顔を見合わせてふふっと笑う。彼女といると、表情が自然と浮かんでくる。
愛想笑いとは違う、本物の笑顔。 123 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(2+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 01:41:26.42
ID:CjUBq3Ff 突如、鐘の音が鳴り響いた。いけない、もう予鈴が鳴ってしまった。
私たちは急いでパンの残りを頬張り、急いで教室へ戻る。
いつもは長い長い45分間の昼休みが今日はあっと言う間に過ぎていった。 124 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 02:01:09.18
ID:CjUBq3Ff 絵里「亜里沙っ、ただいま!」
亜里沙「おかえり、お姉ちゃん! 何だか、今日はテンションが高いね!」
絵里「えーっ、バレちゃった~?」
軽い調子で答えているが、亜里沙の言う通り、実に高揚とした気分でいる。
普段の私ならばもっと落ち着いている筈。
でも今日ばかりは特別だ。何せ、東條さんとお話し出来たのだ。しかも、私の笑顔を見たかったとまで言ってくれる。まさにハラショー な一日じゃない?
亜里沙「何かいい事でもあったのかな?」
亜里沙もね、無事に文芸部に入部したよ。妹の言葉に、私は部活の事をすっかり忘れているのを思い出した。 125 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(2+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 02:10:13.91
ID:CjUBq3Ff 自室に戻り、ボフッとベッドの上に身体を投げ出す。
ポケットの中から携帯を取り出し、電話帳を開く。今日、久し振りにメモリが一件増えた。
『東條 希』
ディスプレイに写し出されたその名前を見て、思わず頬がだらしなく緩む。
…東條さんの連絡先、ゲットしたわ! 129 :
>>1(家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 21:59:21.12
ID:CjUBq3Ff 帰りの挨拶をし、午後のホームルームが終わった後。
いつもならば、さっさと教室から出て行く私。だが今日は違う。
バッグを手にとり椅子から立ち上がった私はチラリと後ろを見た。視線の先にいる東條さんは、何人かの生徒達と楽しそうに会話をしていた。
声を掛けたかったが、他の子もいるし、今日はもう無理そうだ。
積極的でない私は自分から上手く話し掛けられそうにない。
絵里「…じゃあね、東條さん」
口の中で小さく呟き、教室の外へ出た。
廊下を通り抜け、下駄箱へ向かう。
その時。
「…待って! 絢瀬さん!」
絵里「東條さん!?」
後ろから息を切らせて駆け寄ってくる東條さん。
黙って行っちゃうなんて、ひどいやん。 と彼女は顔を紅潮させながら話す。 130 :
>>1(家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 22:00:18.97
ID:CjUBq3Ff 絵里「え、ええ… でも、東條さん達の邪魔をしたら悪いから」
希「別に、遠慮する事は無いんよ?」
希「ウチだって、もっともっと絢瀬さんとお話ししたいからね」
絵里「…ありがとう!」
東條さんは、本当に嬉しい事を言ってくれる。
希「せや、折角やから、アドレス交換せえへん?」
そう言いつつ、ポケットから携帯を取り出す東條さん。
絵里「あどれす?」
希「連絡先や。お昼休みに交換しよかと思っとったけど、すっかり忘れてしまったんや」
急でごめんな。 そう言って照れ笑いをする東條さん。
絵里「…いいわよ! 是非!」
赤外線通信の操作に多少苦労したが、何とか交換に成功した。
『東條 希 連絡帳に追加しました』
希「改めて、これからよろしくね。絢瀬さん」
絵里「こ、こちらこそ、宜しく!」 131 :
>>1(家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 22:12:49.39
ID:CjUBq3Ff その時、辺りに着信音が鳴り響いた。私ではない。どうやら、東條さんの手に持ったままの携帯から鳴っている様だ。
ディスプレイに発信者名が写し出される。
『矢澤 にこ』
あっ と東條さんが小さく叫ぶ。
ちょっと、ごめんな。一言断ってから彼女は電話に出た。
希「もしもし、にこっち?ーーーうん、堪忍や。すっかり忘れていたんよ。ーーーはいはい、すぐ行くから待ってて」
ピッ。 着信を切る。どうやら終わった様だ。
会話が少し聞こえたが、どうやら彼女には所用があったらしい。
絢瀬さん、ごめん… 東條さんが謝る。
希「今日は友達と放課後に約束していた事、すっかり忘れとったよ…。だから、一緒に帰れない…」
大丈夫! と私は明るい声を出す。
絵里「明日一緒に帰りましょう!」
希「ほんまに、ごめんな?」
また、明日ーーそう言って、私は何処かへ急ぐ東條さんを見送った。
…さて、私も帰るか。 132 :
>>1(家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 23:37:21.76
ID:CjUBq3Ff こうして、今に至る訳だ。
私は寝っ転がったまま、ボーっと携帯の画面ーー『東條 希』の文字列を見つめ続けた。
そういえば、東條さんの友達ーーおそらく、電話の相手である矢澤にこさんーーとの約束って何だったのかな?
私は少しだけ矢澤さんに嫉妬した。
絵里「…着替えようかな」
そう呟いて、起き上がろうとする。
突如、手の中の携帯が鳴り響いた。電話だ。いきなりだったので、ビクッと驚いてしまう。
ディスプレイに送信者の名前が写しだされた。
絵里「と、東條さんからだ!」
急いで電話に出る。何だろう。心臓がドキドキと高鳴る。
絵里「もっ もしもし! 絢瀬です!」 133 :
>>1(家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 23:38:41.62
ID:CjUBq3Ff 電話の向こうでふふっと笑い声がする。
希『もしもし、絢瀬さん。そんなにかしこまらなくてええよ?』
絵里「う、うん。電話には慣れてなくて…」
それで、一体どうしたの? と私は尋ねる。
希『絢瀬さん、確か自己紹介の時、神田の○○中学出身やって言ってたよね?」
良く覚えているなあ、と素直に関心してしまう。
希『ウチな、中学はそこの隣の学区やったんよ』
今は、同じ中学だった子と2人で登校しているんやけどね、と続ける。
希『それで… 近いのも、何かの縁やし、もしよければ、明日から一緒に行かん?」
絵里「…い、いいの?」
私がいては、その一緒に通っている相方の子に悪いのでは…と、つい考えてしまう。
希『ええに決まっとるやろ! 絢瀬さん、やっぱり遠慮しがちやで」
絵里「う、うん。じゃあ、明日から宜しくね?」 134 :
>>1(家)@\(^o^)/ 2014/10/17(金) 23:41:36.17
ID:CjUBq3Ff 待ち合わせる場所と時間を決める。偶然にも、2人の家は学校からほぼ同じ方向だった。
話もトントン拍子にまとまり、じゃあねと電話を切った。
絵里「…」
暫く名残惜しく携帯を眺める。
立ち上がった私は、妹の部屋へ走っていった。
絵里「亜里沙っ、亜里沙!」
亜里沙「ど、どうしたのお姉ちゃん!?」
眼を見開いて尋ねる亜里沙。驚かせてしまったかな?
絵里「頬っぺたを、思いっきりギュッてつねって貰える!?」
亜里沙「な、なんで 絵里「お願い!」
亜里沙「やめといた方が… 絵里「いいから!」
じゃあ、いくよ~、 と同時にぎゅーっとつねられた。
絵里「いたたたたた! 亜里沙、力強すぎ!」
亜里沙「だからやめといたらって言ったのに…」
どうやら夢では無いらしい。だが、確認と同時に思った以上の痛みも味わってしまった。とほほ… 136 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/18(土) 00:42:42.49
ID:LLOAOmu2 赤くなった頬をなぞりながら部屋に戻り、明日の授業の準備をしようとバッグから荷物を取り出した。
絵里「そういえば…」
小さく呟きながら、内ポケットを開く。お祖母様の写真を取り出す。この写真を見つけてから、急に運が良くなった気がする。東條さんとの距離が縮んだのも、ある意味奇跡な話だ。
絵里「…この写真のおかげかも」
そう呟いて、私は再び写真を大切に仕舞い込んだ。 142 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(2+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/18(土) 22:10:24.61
ID:LLOAOmu2ーー次の日。
電話の後、ずっとそわそわしていた私。おかげ様で昨日はあまり眠れなかった。
それでも、眠気よりも楽しみな気持ちの方が大きい。意気揚々と待ち合わせ場所に向かう。
さあ、まずは何て挨拶しようかしら?
そして…東條さんの友達とも、うまく話せるかしら?
一抹の不安を抱えながら歩く。曲がり角を曲がると、遠くにおさげ髪の女の子が立っているのが見えた。
間違いない、東條さんだ!私は走って彼女の元に向かう。 143 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(3+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/18(土) 22:11:33.06
ID:LLOAOmu2 絵里「東條さん! おはよう!」
おはようさん。 彼女はにっこり笑った。
ハラショー! 相変わらず素敵な笑顔だ。思わず、眠気も何処かにふっ飛んでしまう。
そういえば…と、私は辺りを見回した。
絵里「 東條さん、毎朝中学の子と一緒に登校してるって言ってたわよね」
見る限り、東條さんしかいないけど…
希「絢瀬さん、ごめんな。 にこっt… その子、ちょっと遅れるらしいから、待っててやって」
これはお仕置きやね… と彼女が呟く。
絵里「お仕置き…?」
希「せや…。 って、やっと来たようやね…」
のぞみーっ! と1人の少女が走って来た。ツインテールがぴょこぴょこと大きく飛び跳ねる。
にこ「ごめ~ん! またギリギリになっちゃった~! …ま、間に合ったかな…?」
息を切らせながらツインテールの少女が尋ねる。
東條さんは携帯を取り出して時間を確認する。そして、にっこり笑って
希「おはようさん、にこっち。…3分、遅刻やで」
そう言うと同時に、少女にバッと襲い掛かった。
希「そおれ! わしわし~!」 144 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(3+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/18(土) 22:13:07.22
ID:LLOAOmu2 にこ「ひっ!… きゃ、きゃあぁぁ!」ワシワシワシ
希「ほおれ、まだまだ~」ワシワシワシワシワシワシワシワシワシワシ
絵里「ハ、ハラショー…」
信じられないわ!私は目の前の光景に思わず目を丸くする。
何と、東條さんがツインテの子の胸を思いっきり揉みしだいているのだ。…勿論、制服の上からだが。
ひょっとして、日本では、待ち合わせに遅れたら胸を揉む風習でもあったのかしら!? …そんな風習、今まで聞いたことないけど。
そう思うのと同時に、私が今まで持っていた東條さんのイメージも大きく変わる。
彼女って、意外とハジけてるのね…。
希「ふぅ… ま、この位でええやろ」
満足そうに手を離す東條さん。どこかしら、表情がツヤツヤしている。
にこ「…はあっ はあっ やっと終わった…」
逆に、息も絶え絶えになりながら声を出すツインテの子。大丈夫だろうか。 148 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/19(日) 00:38:32.00
ID:QWvvyFPL にこ「ちょおっとー! たった3分くらいでわしわしだなんて、酷くない!?」
顔を真っ赤にしながら東條さんに向かって声を荒げる少女。
あ、どうやら大丈夫みたい。思った以上に元気ですもの。
希「だって、遅れてくるにこっちが悪いんやも~ん」
惚けた口調の東條さん。どこか、嬉しそうだ。
希「それに、にこっち。あんまし大声上げるから通行人の人も見てるで。ウチ、ちょっと恥ずかしいわ」
にこ「目立ったのは、あんたのわしわしでしょうが!」
まあまあ、と東條さんが宥める。
希「ほら、絢瀬さんも見てるからいい加減落ち着き?」
ん? と私の方を見やるツインテの子。
にこ「うわあっ! 気付かなかった!」
脅かさないでよ!と仰け反っている。…別に脅かしてないけど。
えーと、挨拶していいのかな…?
絵里「は、初めまして。絢瀬絵里と申します…」
私は畏って、頭を下げる。
にこ「あー、あなたね。昨日、希が言っていたアヤセさんっていうのは…」
ん? 東條さん、昨日何か言ったのかな?
にこ「初めまして。私の名前は、矢澤にこ よ」 150 :
忍法帖【Lv=0,xxxP】(1+0:8) (家)@\(^o^)/ 2014/10/19(日) 01:53:36.78
ID:QWvvyFPL 絵里「よ、宜しく。 矢澤さん…」
こうやって、面と向かうのは初めてだけど本当は顔も名前も知っていたわよ、矢澤さん。心の中の私がしゃべる。
だって、いつも東條さんと一緒にいるじゃない?
私はずっとそれを眺めていたから…
希「そろそろ行かないと、本当に遅刻するで」
時計を確認する東條さん。
にこ「わかったわ、話は歩きながらね」
3人並びながら、学校へ向かう。
にこ「昨日、希から聞いたのよ」
あなたの事をね、絢瀬さん。 矢澤さんの口から改めて同じ言葉を聞く。
希「ほら、ウチ、昨日こう言ったやん?」
私の事がずっと気になっていたって。
にこ「やっと絢瀬さんと、会話が出来たんや~、ってすっごく嬉しそうに報告してきたわ」
希「ちょっ、にこっち…」
そこは恥ずかしいからあんまり言わんといて… と顔を赤らめる東條さん。
にこ「まあまあ、別にいいじゃない」 169 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 00:56:34.87
ID:0cP6rq+Jにこ「別に減るものじゃないし」
希「そらそうやけど…」
本人の前で言われるとちょっとね… 彼女は益々顔を赤くする。
絵里(私も嬉しいわよ! 東條さん! )
私も答える…心の中で。
そういえば、と矢澤さんが私の顔を見ながら尋ねてきた。
にこ「絢瀬さんって部活は何処か入ってるの?」
絵里「えーと、まだ入っていないけど…」
しまった! 部活の事なんてすっかり忘れていた。
そう、と矢澤さんが答える。
にこ「その… 絢瀬さん、アイドルって興味ないかしら?」
絵里「アイドル?」
アイドルと言うと、テレビでよく見るAK○ や もも○ロ みたいなものかしら? 171 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 01:10:16.15
ID:0cP6rq+J にこ「ええ、歌って踊ったりするあのアイドルよ」
にこ「実はね、私、アイドル研究部っていう部を昨日立ち上げたのよ」
スクールアイドルになりたかったの。 彼女の口から聞きなれない単語が出てくる。
絵里「スクール…アイドル…」
にこ「そうよ! 昨日、やっと部員が集まったんだから!」
希にも入って欲しかったんだけどねー、 と矢澤さんは東條さんの方をちらりと見る。
希「ウチはウチで、他に入りたい部があったんよ」
堪忍や。彼女は申し訳なさそうな顔をする。
にこ「だから、絢瀬さん… あなたも もしよければスクールアイドル、一緒に始めてみない?」
え~!? 突然の展開に私は思わず面食らう。 172 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 01:23:36.44
ID:0cP6rq+J にこ「勿論、無理にとは言わないわよ」
にこ「でも、あなたのルックスならかなり、アイドル向きだと思うんだけどな~」
絵里「か、からかわないで…///」
可愛いらしい衣装に身を包み、舞台の上で踊る自分を想像してみる。
…ムリムリ、絶対に恥ずかしい!
今までの私の性格からいって、そんなハジけた事なんて、絶対出来ないわ!
え~、本気で言ってるのになー と残念がる矢澤さん。
にこ「それなら、見学だけでもしてってよ! 今日の放課後からもう、活動始めるのよ」
おねがぁい。 矢澤さんが上目遣いで頼んでくる。
…こ、これは断れない雰囲気ね。
絵里「えーと…」
私はちらりと東條さんの方を伺う。
彼女はにっこりと笑って
希「勿論、絢瀬さんが行くならウチも一緒に行くよ」
…それならば、見にいってみようかな。 173 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 01:36:50.72
ID:0cP6rq+J にこ「ほんと!? 嬉しいわ!」
絶対来てね! 彼女の力強い言葉に、私は思わず強く頷く。
希「おっ。今日は間に合ったね」
東條さんの言葉で、いつの間にか学校に到着していた事に気付いた。
1年生の教室まで一緒に歩く。
その間、矢澤さんはずっとアイドル談議をしてくれた。
にこ「じゃあ、また後でね!」
そう言って、矢澤さんは隣のクラスへ入っていった。
絢瀬さん、 と東條さんが呼びかける。
希「にこっちが急な事言ってごめんな?」
彼女も一生懸命なんよ。 東條さんが言葉を続ける。 174 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 01:49:33.27
ID:0cP6rq+J 絵里「一生懸命…」
せや、 彼女は大きく頷く。
希「にこっち、中学の頃からずっとアイドルになりたいなりたいゆうてて…。いわゆる将来の夢ってやつや」
希「音ノ木坂に入ったら、まずはアイドル部を立ち上げる事から始めたんや」
希「周りの人に声を掛けて… やっと部員が揃ったんよ」
成る程。私は合点がゆく。
絵里「つまり、昨日の用事っていうのは…」
希「にこっちと一緒に、生徒会へアイドル部の申請をしに行ってきたんや」
それじゃあ、矢澤さんは私のルックスを見て声を掛けてきたっていう事?
私は少しショックを受ける。純粋に、お友達になれると思ったのに…!
希「それは、違うで」 175 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 01:58:32.77
ID:0cP6rq+J 希「にこっちは少し我が強いところがあって、無理を言う事はある」
希「せやけど、ひとに強制をさせる事は絶対にしないんや」
中学からにこっちと一緒だったから、よう分かる。 という彼女の言葉に私は一応納得した。
絵里「それなら、見に行ってみようかしら…」
スクールアイドルか。一体、どんな活動をするんだろう?
…少しだけ、楽しみかも。 177 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 02:09:26.66
ID:0cP6rq+J ーー放課後
私は、東條さんと一緒に、矢澤さんが教えてくれたアイドル研究部の部室へ向かった。
希「…ここみたいやね」
絵里「…ええ」
部室は校舎の奥の奥にあった。1年生の教室からだと結構遠い。
入り口のドアには磨りガラスが嵌っているが、曇っており中の様子はよく見えない。
希「ほな、開けるで」
そう言うと同時に、扉をガチャリと開ける東條さん。
絵里・希「「こんにちは~」」 178 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 02:19:04.15
ID:0cP6rq+J 部屋の中では矢澤さんが座って本を読んでいた。どうやら、アイドル雑誌の様だ。
私達の挨拶に、ん?と顔を上げる。
にこ「…こんにちは! ほんとに来てくれたのね!」
ぱあっと顔を明るくした。
待ってて、今お茶を淹れるわね! バタバタと動き出す矢澤さん。いちいち仕草が可愛いらしい。
希「ありがとさん、にこっち。…そういえば、他の子はどうしたん?」
言われてみれば…と私も部屋の中を見回す。どうやら、矢澤さん以外には誰も居ないようだ。 179 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 02:33:37.31
ID:0cP6rq+J にこ「まだ、来ないのよね~。掃除当番だって言ってたけど」
アイドルとしての自覚が足りないわ! と怒った素振りをする矢澤さん。
希「まあまあ、にこっちも遅刻はよくするんやし、お互いさまやん?」
にこ「そりゃそうだけど…」
その時、廊下が騒がしくなった。
あー、ここかー 等という複数人の声がする。そして
部員A「ごめ~ん、案外時間かかっちゃったよ~」
ドアをガチャリと開けて、女の子達が入ってきた。
全部で4人。予想外の多さに、私は少々面食らう。
にこ「しょうがないわねー」
矢澤さんが小さく溜息をつく。
部員達が、あら、と私達の方を見た。
部員B「もしかして、この人達がさっき言ってた…?」
にこ「そうよ。東條希さんと、絢瀬絵里さん。2人とも今日は見学に来てくれたの」 194 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 23:00:09.56
ID:K4lLL72c絵里「初めまして、絢瀬絵里です」
希「東條希です」
矢澤さんの紹介に続き、私達も挨拶をする。
部員A「2人とも、宜しくね~! でも、にこちゃん。見学といっても、今日はミーティングをやるんじゃなかったっけ?」
その予定だったけど… と答える矢澤さん。
にこ「折角だから、今日から身体を動かしましょうよ」
善は急げと言うしね! と彼女はにっこりしながら喋る。
にこ「よーし、それじゃあ行くわよ!」 195 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 23:11:42.53
ID:K4lLL72c 私達7人が向かったのは、校舎の一番上、つまり屋上だった。
屋上の入り口のドアを、ポケットから取り出した鍵で解除する矢澤さん。なかなか用意が良い。
ガチャリとドアを開ける。
全員「おぉ~…」
絵里(結構広いのね)
ここに来るのは初めてだけど、思った以上に中々広い。
踊りや発声の練習をするには十分の様だ。
にこ「…うん、中々ね」
満足そうに頷く矢澤さん。
部員C「ここから、私達の活動がスタートするんだね…」
部員D「ええ、そうね」
ふふっ と彼女達は嬉しそうに笑う。 196 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 23:25:33.58
ID:K4lLL72c にこ「さっ、今日からバリバリ練習するわよ!」
彼女は俄然張り切っている。
とてもいい事だけど、今日は着替え持ってきてないのよね… 密かに私は思う。
希「にこっち、張り切るのはええけど、今日は制服やからあまり激しい運動は…」
部員B「そうね、流石に汗かいちゃうのは…」
他のみんなもそう思ったのか、矢澤さんに問い掛ける。
う~ん、腕組みをする矢澤さん。
にこ「…よし! じゃあ今日は、軽い柔軟くらいにしておきましょう」
折角のアイドル研究部始動日だけど… と悔しがっている。
こうして、私はアイドル研究部への見学ーー実質、参加ね。ーーをした。 197 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 23:40:40.27
ID:K4lLL72c 帰り道。私は東條さんと2人で並んで校門を出た。
矢澤さん達、アイドル研究部員の人達は部室の整理など作業があるという事で、一足早く別れたのだ。
希「どうやった?」
東條さんがふと尋ねてきた。当然、ついぞの部活動の事であろう。
ええ、と私は返事をする。
絵里「そうね、なかなか楽かったわ。部員のみんなとも、矢澤さん含めて一緒に楽しく運動出来たし…」
それなら、部に入るん? 東條さんがじっと私を見てきた。
絵里「…まだ、迷ってるの。…すぐには決められないわ」
私はゆっくりと、慎重に言葉を選びながら答える。 198 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/20(月) 23:49:26.87
ID:K4lLL72c 正直言って、今日一日見ただけでも矢澤さんのアイドルという目標。その夢に掛ける想い、情熱は相当のものだった事が分かる。
それらが、私にひしひしと伝わってきた。
だからこそ、真剣に夢を追う矢澤さんに、今まで部活の事を考えていなかった私が済し崩しに加わって良いのだろうか?
そう考えてしまう。
それに、何よりも… 私も東條さんの顔をじっと見る。
絵里「東條さんは、アイドル研究部に入らないのよね…?」
希「ウチは、もう他の部に入ってもうたから…」
…出来る事なら、東條さんと一緒に部活動をしたいな、とも密かに思っていた。 207 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/22(水) 14:19:43.94
ID:6B66hLZl肩をポンッと叩かれた。その反動に思わず顔を上げる私。
絢瀬さんの好きにしてええんやで。 彼女はそう言ってにこりとする。
希「にこっちも強制的にひとを集めとった訳やないし、現に絢瀬さんの意思を尊重しとるんや」
希「自分のやりたい事をやるのが一番やん」
絵里「…ありがとう」
私のやりたい事…果たして、一体何だろうか。
答えが出ないまま私は歩を進める。
分かれ道に来た。ここで、東條さんもお別れだ。
希「ほな、絢瀬さん。また明日」
ばいなら、と手を振る東條さん。私もにっこり笑い、振りかえす。
絵里「ええ、さようなら。東條さん」 209 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/22(水) 18:04:20.59
ID:6B66hLZl 家に帰るとおかえりー、と亜里沙がぱたぱた出迎えてくれた。
亜里沙「今日は遅かったね~、部活?」
ええ、そうよ! 妹の前では元気よく答える私。
亜里沙「ハラショー! そう言えば、何の部活だったっけ?」
絵里「ええっとね… アイドル研究部っていうのに参加したのよ」
亜里沙「アイドル…」
お姉ちゃんが? と首を傾げて見てくる。…むむっ、やはり変か。
亜里沙「ハラショー! お姉ちゃんにぴったりだよ!」
凄い凄い! と喜んでいる。
思った以上の好感触に、かえって照れてしまう。
絵里「や、やめてよ亜里沙…/// それにまだ、正式に入った訳じゃないのよ」
そう、まだ決められない…時間がないのは分かっているけど。 211 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/22(水) 20:11:53.23
ID:6B66hLZl ーー翌朝。
少し家を出るのが遅くなった私は、小走りで待ち合わせ場所に向かう。
角を曲がると、2人の少女が待っているのが見えた。
絵里「2人とも、おはよう!」
駆け寄って、元気よく挨拶をする。
にこ「おはよう、やっと来たわね」
希「おはようさん、絢瀬さん」
今日は絢瀬さんが遅いやん、と言われ ごめんごめんと返す。
絵里「ちょっと、昨日から考えこんでて。それでよく眠れなかったの…」
にこ「アイドル研究部の事?」
絵里「ええ、そうよ」 212 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/22(水) 20:39:11.75
ID:6B66hLZl 矢澤さんの顔をじっと見る。彼女は真剣な表情をしていた。
絵里「…まずは、昨日は見学させてくれてどうもありがとう」
絵里「今まで、部活というものをした事がなかったから、とても新鮮だったわ」
大した事やってないわよ、 と矢澤さんは答える。
絵里「そんな事ないと思うわ。それでね、昨日今日と色々考えていたの」
ここで一旦言葉を切り、すぅっと息を吸い込む。
絵里「折角のお誘いだけど、私は…少なくとも、今の私はアイドル活動はしません」
絵里「真剣にアイドルの夢を追っている矢澤さん達は、意識がとても高いわ。だから、かえって私はみんなの邪魔になってしまうと思う」
だから、ごめんね… 彼女の力強い眼を見ながら話した。
絵里「でも、決してアイドル研究部を否定するつもりでは無いわ」
にこ「…分かった。絢瀬さんらしいわね」
あーあ、残念だなー、 と矢澤さんは少しおちゃらけた口調を出す。
にこ「あなたは絶対、アイドルに向いてると思うのに」
例えお世辞でも嬉しい。
ありがとう、と私はお礼を言う。
絵里「だからね、私は… 矢澤さんみたいに頑張っている人たちを支えられる事をやりたい。そう考えたの」
希「えーと、つまり?」
先程からじっと黙っていた東條さんが、小さく口を挟む。 216 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/23(木) 00:16:31.63
ID:JS8Qc075 絵里「残念ながら、部活動ではないんだけど…」
にこ「部活以外のものかしら?」
絵里「そう…生徒会」
希・にこ「「生徒会!?」」
2人の声が見事に重なる。
絵里「そう。生徒会なら、学校全体の事を考えて、かつ個々の部活を応援出来るのではないか、と考えたの」
これが、私なりに考えて出した結論だった。
昨日の矢澤さん達しかり、他の生徒達しかり、皆目標を抱えて部活に打ち込んでいる。
そんな彼女達には、私には追いていく事さえ精一杯だ。
だから、間接的にでも支援出来る事は無いかと思い、最終的に思い当たったのが生徒会であった。
あとは…私はやっぱり、この学校が好きだ。この音ノ木坂をもっと素敵な学校にしたい、多くの人に愛される学校にしたい。そういう思いもあった。 222 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/23(木) 00:40:52.05
ID:JS8Qc075にこ「なるほど… 確かに生徒会は部ではないわね」
希「意外やと思ったけど、案外いいかもしれないわ」
でも、ちょっぴり残念やな。 東條さんの言葉にえっ と反応する。
希「…絢瀬さん、ウチの入ってる部の事全然聞いてくれんから、関心無いのか、と思ってたんよ」
絵里「東條さん…」
そうか、彼女も私がどの部活に入るのかを気にしてたのか…。だから、さっきから妙に静かだったのね。
私はにっこり笑う。
絵里「まだ、生徒会に入ったわけじゃないから。折角だから、東條さんの部にも見学に行かせて貰おうかな♪」
希「…ほんと?」
途端にぱあっと顔を明るくする。その顔を見るだけで、こっちまで嬉しくなっちゃうわ。
やれやれ、と矢澤さんが肩を竦める。
にこ「あなた達、昨日から見てるけど… 本当に似た者同士ね」 223 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/23(木) 01:10:35.50
ID:JS8Qc075 絵里「にっ似た者同士!?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
一体、何処が似ているのかしら? 私と彼女は性格から何やらまで正反対だと思うけど。
東條さんも驚いたのか、目を白黒させている。
希「にこっち、私と絢瀬さんのどこら辺が似とるん?」
にこ「もー、わかんないかなあ」
ピシッと、私達を指差す矢澤さん。
にこ「私も、上手く説明出来ないわ。そうね… 例えば、2人が言いたいけど言えずに終わって、その後ずっと悶々と過ごしたりする。 …どう、当たってるでしょ?」
絵里「ハ、ハラショー…」
凄い、そこだけでも当ててしまうとは… 矢澤さんの観察力に思わず舌を巻く。
にこ「まあ、希の性格は昔から知っていたけどね」
中学の時だって… と、何かを言いかける矢澤さんを
希「うわあ!昔の話はせんといて~!」
必死になって止める東條さん。
にこ「えぇー、どうしよっかな~」
ふっふっふと不敵な笑みを浮かべている。私も何だかすごく気になってきた。
希「わ、ワシワシするで!思いっきり!」
ピタリと矢澤さんの動きが止まる。
にこ「やめておきましょう」
どうやら例のワシワシーーーいわゆる胸揉みーーーには絶大な効果がある様だ。 231 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 01:01:01.48
ID:ymMb7Gwz希「まあ、別に悪い気はせえへんけどな」
希「にこっちも、決して悪い意味で言ったんやないやろ?」
にこ「と、当然よ!」
さ、もう行くわよ! と、誤魔化すかの様に矢澤さんが急かす。
歩きながら、私は隣にいる東條さんに話し掛けた。
絵里「それで、東條さんは何の部活に入ってるの?」
希「おおっ、やっと聞いてくれたね!」
ヒントはこれや、と内ポケットから何かの束を取り出した。
絵里「…カード?」
何だろう。不思議な、神秘的な香りがする。
希「せや、でもただのカードやないんやで?」 232 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 01:19:03.26
ID:ymMb7Gwz 希「絢瀬さん。一枚引いて貰える?」
そう言われ、私はそうっと手を伸ばす。適当にカードを抜く。
カードには絵が描かれていた。
真ん中に輪があり、その周りを鳥やら女神やらが取り囲んでいる。そして、カードの下部には英字がしたためられていた。
絵里「"Wheel of FORTUNE"…」
希「"運命の輪"、やね。意味は、幸運の到来、変化、そして…」
希「出会い、や」
ふふっ と彼女が微笑む。
希「ウチと絢瀬さんの出会い… まさに、このカードの言う通りやん?」
絵里「ちょ、東條さん…///」
分かった。これはカードを使った占いか。
でも、こんな事言われるだなんて、照れるじゃないの…。
にこ「ちょおっとー、私との出会いは!?」 234 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 01:32:05.41
ID:ymMb7Gwz 希「ごめんごめん」
くすくすと嬉しそうにする東條さん。
希「勿論、にこっちとの出会いも、やで」
そして、私の方に向き直る。
希「これはな…タロットカードゆうて、主に占いに使うんよ」
絵里「へえ~。聞いた事はるけど、見るのは初めて…」
成る程、彼女は占い部だったのか。 って、そんな部活あったかしら?
にこ「希が入ってるのは、オカルト研究会よ。略してオカ研ね」
にこっち~! と東條さんが慌てる。
希「何でネタばらしちゃうんや… もう少し溜めたかったのに」
にこ「説明がまどろっこしいのよ! 絢瀬さんに悪いじゃない」 235 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 01:44:02.66
ID:ymMb7Gwz 後でワシワシやね… 小さく呟き、東條さんがえへへ と照れた。
希「せや、にこっちの言う通り、ウチはオカルト研に入ってるんよ」
希「今みたいにカード占いをやったり、超常現象について調べてるんやけど…興味ある?」
私はうん、うんと頷く。
絵里「ハラショー! すっごく面白そう、絶対見にいくわ!」
希「…ほんま?」
嬉しい! と大喜びする東條さん。はしゃぎすぎよ… と、少し呆れる矢澤さん。 236 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 01:53:49.75
ID:ymMb7Gwz 希「だって、にこっちは『こういうの興味ないのよ』 って、見学さえしてくれんかったもん」
にこ「まあ、そう言ったけど… 占いはともかく、オカルトは信じがたいじゃない?」
それにね、 と言葉を続ける。
にこ「運命っていうのはカードが決めるのではなくて、自分で決めていく。私はそう考えているわ」
凛とした目をしている。
絵里(矢澤さん… 何だか、すごくカッコいい)
にこ「だから、私も絶対にアイドルという夢を叶えてみせる!」
にこ「自分で運命を切り開いて、ね」 237 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 02:06:59.88
ID:ymMb7Gwz 希「今日のにこっちは、いつもよりキリッとしているやん?」
まあね…。 と矢澤さんが答える。
にこ「何たって、今日から本格的にアイドル部を引っ張って行くからね!」
絵里「…本当に凄いわ」
矢澤さんって、思った以上にしっかり者の様ね。第一に行動力がとてつもない。実際に部活を創設する所から始めるなんて…
絢瀬さん、と東條さんがこちらを見る。
希「ウチらも、負けてられないね!」
絵里「…ええ、見習いましょう!」
グッと拳を握りしめる。私もしっかりしないとね。 241 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 19:24:30.23
ID:ymMb7Gwzーー放課後。
私は昨日と同じく東條さんと連れ立って、部室へ向かう。
希「着いた、ここやで」
オカルト研究会の部室も、これまた校舎の奥にあった。昨日行ったアイドル研究部の部室とも近い様だ。
東條さんがポケットから鍵を取り出し、ガチャガチャと音を立てて施錠を外す。
希「さあ、どうぞ。絢瀬さん」 242 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 19:35:11.90
ID:ymMb7Gwz 絵里「失礼しま~す…」
わくわくしながら部屋を覗き込む。
部屋の中は至ってシンプルだった。想像していた様な用途不明な不思議な物がそこらかしこに置いてあるわけでもなく、代わりにデスクトップ型のパソコンやコーヒーメイカーといった現代機器が窓から差し込む陽に照らされていた。
絵里「思ったより普通ね…」
私は思った通りの言葉を出す。
一応椅子の数は複数あるが、まだ誰もいない。
他の部員さん達は? と東條さんに聞く。
希「多分… 滅多に来ないんやないかな」
絵里「えっ? どうして?」 243 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 19:47:18.17
ID:ymMb7Gwz 希「今年、この部に入った新入生はウチだけなんよ」
希「あとな… ウチ以外の部員さん達はみんな三年生なんや」
みんな受験勉強があるから忙しいって… と、彼女は寂しそうに笑う。
絵里「え~!? まだ四月なのに、もう?」
驚いた。まだ学校は始まったばかりなのに、ここの部活はもう引退状態なのか。
希「確かに人恋しくもなるけど、今は大丈夫や…」
希「絢瀬さんが居るからね」
ふふっ と笑みを浮かべてきた。 244 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 19:59:55.08
ID:ymMb7Gwz 絵里「東條さん…」
何て声を掛ければよいか分からず、おろおろと狼狽えてしまう。
そうか。彼女も寂しがっていたのか。
…よしっ!ここはひとつ、彼女を元気付けよう。
絵里「東條さん」
私はにっこりと笑う。
絵里「此処へ招待してくてた御礼に、今日はハラショーなロシアの民話を教えるわ」
希「何それ。めちゃ、面白そうやん」
うん、いい反応ね。
絵里「じゃあ、まずはカチューシャから…」
こうして私は、陽が暮れるまで 彼女と心行くまで語り合った。 245 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 20:14:54.36
ID:ymMb7Gwz 数時間後。
絵里「もう、すっかり夜ね…」
ふと、窓の外に目をやると太陽はとうに沈んでおり、春の夜空が広がっていた。
そろそろ、帰る? と東條さんが聞いてくる。
私はポケットから携帯を取り出して確認する。時刻は6時半前を示していた。
絵里「ええ、そうね…」
よっ と椅子から立ち上がる。
本当は、このまま東條さんとずっとお話していたかった。
何故だろう。彼女と話していると、本当に楽しい。他の人とは違う、何かが彼女にはある。
絵里(本当に不思議だ…)
部室を出て、戸締りをする。その時東條さんが あっ! と叫んだ。
希「絢瀬さん、堪忍… 生徒会の事、すっかり忘れてもうた」 246 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/24(金) 20:27:56.30
ID:ymMb7Gwz それを聞いて、私もあっ と思った。
そうだ、今日は生徒会に行く予定もあったのだ。でも、彼女との時間が楽しくてすっかり忘れてしまっていた。
絵里「大丈夫よ。 また、明日行けばいいわ」
私はしゅん、と項垂れている東條さんを元気付ける。
希「でも…ウチのせいだし」
絵里「じゃあ、私のお願いを一つ聞いて貰おっかな?」
え? 東條さんが顔を上げる。 250 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/25(土) 00:36:35.83
ID:p0KhhCIP絵里「今日… 時間はある?」
希「う、うん… 大丈夫やけど」
私は息を吸い込み、一気に言う。
絵里「それなら…。こ、今夜… うちで御飯でも食べてかない?」
い、言えた! 少し噛んじゃったけど…
えーと、 と東條さんが答える。
希「それって… 絢瀬さんの家に御招待って事?」
絵里「そうそう、その通り! べっ、別に変な意味じゃあ無いからね!」
絵里「ただ単に、御夕飯をご馳走したいの」
希「…」
東條さんが黙りこくる。
どうだろう。急な思い付きだから、断られちゃうかな…?
少し緊張をする私。
希「ええよ」
絵里「…えっ」
希「絢瀬さんの家、是非行きたいな♪」 251 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/25(土) 00:48:22.24
ID:p0KhhCIP 絵里「ほ、ほんとに…!?」
勢いこんで確認をする。
希「勿論や! 宜しくね」
そう言って東條さんは素敵な笑顔を見せてくれた。
りょ、了解してくれた!東條さんが家に来てくれる!
絵里「ハラショー!!」
人目も憚らず、思わず大きな声を挙げてしまう。
それでもいい。今はとっても幸せだから。 252 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/25(土) 01:00:45.92
ID:p0KhhCIP 希「絢瀬さんのご家族の方には、迷惑にならんの?」
絵里「それなら大丈夫よ。今は私と妹の2人暮らしなの」
ふと亜里沙の顔が想い浮かぶ。彼女の為にも早く帰らねば…
ええっ と東條さんが驚く。
希「それなら、はよ帰らんと妹さんに悪いやん」
絵里「そ、そうね… 一応、連絡を入れておくわ」
ぱかっと携帯を開き、家に電話を掛ける。
2、3コールで出てくれた。
亜里沙『もしもし、絢瀬です』
絵里「もしもし?私よ」
電話の向こうで お姉ちゃん! とはしゃぐ声が聞こえる。本当に可愛い妹だ。
亜里沙『それで、どうしたの? 私なら大丈夫だけど…』
絵里「勿論、亜里沙の事は信頼しているわ」
絵里「実は、これから学校の友達を連れて行きたいんだけど…」
大丈夫かな? と確認する。
亜里沙なら大歓迎してくれそうだけど。
案の定喜んでくれる。
亜里沙『お姉ちゃんの友達? 是非、会いたいな!』
絵里「ありがとう、亜里沙! 急いで帰るわね」
良かった…と胸を撫で下ろしながらピッと電話を切る。
希「電話越しやったけど、出来てる妹さんやね」
絵里「ふふっ、自慢の妹よ」 257 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/26(日) 03:00:53.43
ID:vj5FtEwv2人並んで我が家に向かう。その間、話題は私の家族になった。
希「へえー、お父さんもお母さんも仕事で居ないんや…」
そうなの、と私は頷く。
絵里「元々転勤で こっちに来たからね。ここ数年は特に忙しくなっているわ」
希「転勤やんか… ウチと同じや」
絵里「東條さんも?」
せや、と彼女は答える。そうだったのか…。
私たちには知らない所で色々と共通点がある様だ。
やがて私の住むマンションが見えてきた。部屋に窓明かりが点いているのが分かる。
亜里沙は待ちくたびれてないでしょうね…。
絵里「あのマンションよ」
彼女は なかなかええ所やん、と感心する。
絵里「そんな事無いわよ… さあ、行きましょう。東條さん」
希「そうやね、え…絢瀬さん」 258 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/26(日) 03:03:09.07
ID:vj5FtEwv 絵里「?」
希「…」
今、東條さん 『え』って言いかけたような…。少しもじもじとしている。
少し気になるわ。一体何だろう。
絵里「東條さ…
希「えりちっ!」 261 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/26(日) 14:54:04.11
ID:vj5FtEwv 胸がドキッとした。
今。
東條さんが私を名前で呼んだ。
ーーー『えりち』って
両親やお祖母様からは絵里、と そして妹からはお姉ちゃん、と呼ばれてきた。
初めてだ。『えりち』と呼ばれるのは。
でも、彼女が言うと何故ろう、しっくりと来る。
まるで、昔からずっとそう呼ばれていたかのように。
希「あ… えっと…」 262 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/26(日) 14:57:13.31
ID:vj5FtEwv 慌てふためく彼女は、耳たぶまで真っ赤に染まっていた。
希「い、妹さんの前で『さん』付け呼ばわりやと、何か距離感を感じさせてまう、ていうか…」
希「それに、いつまでも『絢瀬さん』と苗字で呼ぶのは、ウチは抵抗があるんよ…」
希「だから…この際、下の名前で呼んでもええかな…」
東條さんーーいや、希 は恐る恐る聞いてくる。
絵里「駄目な訳、ないじゃない…」
私はにこりと微笑みながら、ゆっくりと3文字の名前を続ける。
絵里「…のぞみ」 274 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 01:21:45.03
ID:JnMrBNY2希「…///」
希も、私に呼ばると嬉しそうな顔をする。
思えば、亜里沙以外のひとの名前を呼ぶなんて、これが初めてじゃないかしら。
小学校も、中学でも、そしてこれまでもーー私はいつも『さん』付けで級友と呼びあっていた。
だからこそ、今、この時がーー
絵里(何だか、とってもこそばゆいわ)
希「も、もう一回…」
絵里「え?」 275 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 01:37:03.27
ID:JnMrBNY2 あのな、と希 が続ける。
希「えりちに、『希』って呼ばれるとな…ウチ、心がとってもくすぐったいんよ」
希「だから、もうちょっと『希』って言ってくれん?」
絵里(希…)
私も希も、名前を呼びあった時にお互い何とも気持ちのいい、こそばゆい感触を抱いていたのだ。
私はふふっと微笑む。
絵里「亜里沙が待っているから、先に家まで行きましょ」
絵里「その後で、好きなだけ呼んであげるわ」
絵里「希」
うん、私も希に『えりち』ってたくさん呼ばれたいな。 276 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 01:56:48.63
ID:JnMrBNY2 絵里「さあ、着いたわ」
やっと私の家までたどり着いた。
学校を出てからそんなに時間は経っていないはずだけど、感覚的にはとても長く感じた。
だけど、それは私と希との大切な時間。決して無駄ではない。
希「えりち、何かうきうきしとるやん」
絵里「そうかしら?」
隠してはいるつもりだが、さっきからどうしても顔がにやけてしまう。
一つ目は、友達をーーそれも、憧れだったひとを家に上げるだなんて、これは私にとっては初めてかつ、快挙な事なのだ。
そして、二つ目はなんと言ってもさっきの名前呼びだ。
『えりち』と呼んでくれるなんて…。 277 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 02:06:21.77
ID:JnMrBNY2 玄関ドアをガチャリと開け、亜里沙にただいまの挨拶をする。
絵里「亜里沙、ただいま! お友達を連れてきたわ!」
お帰りなさい! と駆け寄ってくる妹。良かった、待ちくたびれて怒ってはいなさそうね。
早速、希を紹介する。
絵里「このひとが同じクラスの東條希さんよ」
希「はじめまして」
可愛い妹さんやね、と微笑む。 278 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 02:15:07.40
ID:JnMrBNY2 亜里沙「はじめまして、絢瀬亜里沙です!」
そう言って、妹は元気よくぺこりと頭を下げる。
希「こんにちは、亜里沙ちゃん。東條希です」
宜しくね、とにっこり笑う。
亜里沙「宜しくお願いします! え~と…」
亜里沙は少し思案気な顔をする。希が助け船を出した。
希「ウチのことは好きな風に呼んでええよ」
亜里沙「じゃあ、東條さん…?」
まるでさっきまでの私みたい…と、思わず苦笑してしまう。
希「そんな堅苦しくなくて、ええんよ? 『希さん』とかで…」 280 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 02:29:45.47
ID:JnMrBNY2 亜里沙「希さん…」
一瞬、口の中で復唱する。
亜里沙「ハラショー! 『東條さん』って呼ぶよりも、『希さん』って言う方がぴったりです!」
良かった、と希 がほっとする。
絵里「ふふっ…さあ上がって、お夕飯にしましょうか」
早速、支度をしなくては。希に、私の手料理を食べて欲しいわ。
すると、亜里沙があっ! と反応した。
亜里沙「お姉ちゃんも希さんも、こっち来て!」
そう言って、私と希の手をぐいぐいと引っ張る。 282 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 02:44:31.96
ID:JnMrBNY2 着いたのはキッチン。
絵里「まあ…」
中を覗いた私はびっくりした。
既に炊飯器のタイマーはセットされており、カウンターの上にはレタスやトマトが入ったサラダボウルが置かれていた。
更に、俎板の上では、人参や玉ねぎといった野菜類が切り刻まれれおり、コンロにはお鍋がセットされている。
まさに、食事の支度が進められていた。これは…カレーかしら?
絵里「亜里沙、これ全部、独りで?」
当たり前の事なのに、つい確認してしまう。
亜里沙「勿論! 私だって、料理くらい出来るんだよ!」
まだ、途中なんだけどね… と言いながぺろりと舌を出す。
遅くなった事に怒るどころか、逆に食事の準備をするだなんて…。
絵里「ハラショー! 亜里沙、あなたは本当に素晴らしい妹だわ!」
そう言いつつ妹をぎゅーっと抱きしめる。
希も本当に出来た妹さんや、と感心している。
亜里沙「お姉ちゃん達も、一緒に作ろうよ!」
ええ、分かったわ! そう答えつつ心の中では
絵里(これじゃあ、どっちが姉だか分かったものじゃないわ…)
大人びた妹に、ちょっぴり嫉妬してしまった。 283 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 02:56:33.45
ID:JnMrBNY2 絵里「ありがとうね、希。 お客様なのに…」
作業の続きは、私達全員で進める事となった。
私は大丈夫だと言ったのだが、希は
希「ええんよ、ウチも一緒に作りたいんや」
そう言って参加したのだ。
希「ウチも楽しいんよ… こうして、みんなでわいわいしながらご飯作るのは」
ルーを入れたお鍋をかき混ぜながら、希が喋る。
絵里「希はいつも、ご飯は独りなの?」
今の台詞が少し引っかかったので私は聞いてみる。
希「せやで… ウチは、今は独り暮らしやから」
絵里「えっ! 希、あなた独り暮らしだったの?」
亜里沙もびっくりしたのか、手をとめて希を見つめる。 284 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 03:11:13.68
ID:JnMrBNY2 うん、まあそういう事や、と希 は答える。
希「えりちのお家と同じで、ウチの親もずっと仕事で家を空けているんや」
希「ウチは一人っ子やからね… 亜里沙ちゃんみたいな可愛い妹も欲しかったけど」
けどな、 そういいつつ くるりとこちらを向く。
希「今、こうして… えりち達と一緒に居るから、ウチは平気やで」
希「だから、変な心配はせんでええよ?」
絵里「希…」
亜里沙「希さん…」 285 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/27(月) 03:19:42.98
ID:JnMrBNY2 まさか、希が独りで暮らしていたなんて。
亜里沙と姉妹暮らしの私でさえ、両親が恋しくなるのに、独りだとなおさらだろう。
それなのに、全く気付かなかった。
普段の学校での様子からは、伺い知れなかった。
それに、さっきの帰る途中での会話も、私のことばかりで、希自身の事は全然話していなかったわ…
私は何と言えばいいか、つい考えてしまう。
希「2人とも」
絵里・亜里沙「「えっ?」」
カレー、出来たで。 そう言って彼女はにっこり笑った。
希「今はご飯を食べるんやから、あまりしんみりとした話はやめとこ?」
絵里「希…」
希は、あー楽しいな~ と言いながらにこにことしている。
絵里(希。あなた、無理してないの? )
私は心の中で希に訴える。
頼りないかもしれないけど、もっと私を頼っていいのよ…。 297 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/28(火) 00:37:11.60
ID:GOilya6l亜里沙「うわあ、美味しそう…!」
テーブルに並べられたカレー皿。それを見て亜里沙が感嘆の声を上げる。
本当ね、と私も同じ気持ちになる。
絵里「さ、お腹も空いたし、食べましょ」
もう、すっかりお腹ぺこぺこよ。
私と亜里沙はいつも通り並んで座り、希はーー今日の大切なお客様は、向かい側に腰を下ろした。
不思議な事に、いつもより1人多いだけで食事が倍に楽しくなってくる。
いたたきます、の挨拶と共にさっそく一口目をぱくり。
絵里「…ハラショー! とっても美味しいわ!」
亜里沙「本当だ、すっごく美味しいです!」
いつも食べているカレーよりも、コクが出ていて味に深みが出ている。
希はやった、と顔を綻ばせた。
希「隠し味が上手く効いてるようやね」
絵里「隠し味?」 299 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/28(火) 00:59:27.85
ID:GOilya6l これやで、 と希はバッグから何かを取り出しテーブルの上に置いた。
絵里「…チョコレート!」
私の大好物が出てきたので、驚いてしまう。
希「せや、この板チョコをな、最後の段階で半欠片入れたんよ」
亜里沙「チョコレートって、まさにお姉ちゃんの大好物だね!」
希はそうやったん? と聞いてくる。
絵里「ええ、私の一番好きな食べ物なの…」
偶然とはいえ、希が私の好物を使ってくれるなんてとっても嬉しいわ。 300 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/28(火) 01:14:35.01
ID:GOilya6l 希も、本当に美味しいやん と言いながらカレーを口に運んでいる。
見た限りでは、家で独り暮らしをしている少女には、とても感じられない。
絵里(希は平気だって言ってたけど、やっぱり気掛かりだわ)
何か言うべきだろうか。
食事の最中に、ひょっとしたら暗くなるかもしれない話題は少し気が引けてしまう。
その時、亜里沙が希さん、と口を開いた。
亜里沙「お姉ちゃんって、普段、学校ではどういう感じなんですか?」 301 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/28(火) 01:27:19.93
ID:GOilya6l 絵里「!?」
思いがけない質問に、私は思わず喉に詰まらせてしまった。
絵里「ゴホッゴホッ… あ、亜里沙…どうしたの、いきなり?」
胸が苦しくなり、目に涙が浮かんでしまう。
希「えりち!」
希が慌てて立ち上がり、私にコップの水を差し出す。
希「お、落ち着いて…大丈夫や、大丈夫」
亜里沙「お姉ちゃん…」
亜里沙も泣きそうな顔をしている。
ああ、いけない… 私とした事が。 302 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/28(火) 01:32:29.33
ID:GOilya6l 暫くして、私はやっと落ち着きを取り戻した。
絵里「2人とも、ごめんなさい。変なところを見せてしまったわ」
希「ええんよ、でも急にどうしたの?」
希「そんなに驚くような事、亜里沙ちゃんは聞いてへんで…?」
そ、そうね… と答える私。だが、内心冷や汗をかいていた。 303 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/28(火) 01:42:52.24
ID:GOilya6l 今、こうして希という友達が出来た訳だがーーきのうまでの私は、ずっと独りぼっちだったのだ。
勿論、全く孤独だった訳ではない。
話をしたり、お昼を一緒に食べるクラスメートはいた。だが、どうしても打ち解けあえず、周りとの溝を感じていた。
亜里沙の前では常に楽しい振りを演じていたが、実際は違う。
当然、希もその事を知っている筈だ。
彼女は私の事をどう見ていたのだろうか?
私はちらりと希を伺う。
彼女と視線が合った。彼女はにっこりと微笑む。
亜里沙ちゃん。 希が静かに話し始めた。
希「えりちは… えりちはな、いつも元気一杯で、とても明るい娘なんよ」
希「そして可愛くて、賢いところが沢山ある」
希「みんなの、憧れの的なんやで」 304 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/28(火) 01:52:56.91
ID:GOilya6l 絵里「ちょ、のぞm…」
予想外の言葉に私は混乱する。
何言ってるのよ! と訂正しようとするが、希は口に人差し指をあて、私を制する。
希「えりち、これはウチが心から思っている事なんやで」
希「決して亜里沙ちゃんにリップサービスをした訳やないんよ?」
そして、希は亜里沙の方を向き、どうや、亜里沙ちゃんのお姉ちゃんは? と聞いた。
亜里沙「まさに… まさにハラショーだよ、お姉ちゃん!」
絵里「亜里沙…」
妹は、大好きな姉が褒められて嬉しいのか、我が事の様に喜んでいる。
私も… 希が私の事をこんなにも思ってくれていただなんて、すっごく嬉しい。
絵里「希… ありがとう!」 316 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/29(水) 00:57:18.08
ID:xZL9NBU/・・・
亜里沙「ふうーっ、お腹いっぱい!」
亜里沙は満足そうな顔をする。
絵里「本当ね。こんなに美味しいカレー、久し振りに食べたわ」
あまりにも美味しかったので、ついつい食べ過ぎてしまった。
まさか、おかわりを2回もしてしまうとは… 体重計に乗るのが憂鬱になりそうだ。
希は? と、私は感想を伺う。
希「勿論、ウチも大満足や」
2人とも、ごちそうさん。 とにっこり笑った。
絵里「それじゃあ、食後のお茶にでもしましょう」
私は2人に提案をした。
亜里沙がさんせーい、と即答する。
絢瀬家では、いつも夕食後にはデザートを食べる事にしているのだ。
希は、一瞬だけちらりと視線を壁に向ける。そこには壁時計が掛かっていた。
希「ウチも賛成や♪」
絵里(今、一瞬 時間を気にした様な…) 317 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/29(水) 01:11:31.32
ID:xZL9NBU/ 絵里「お紅茶にする? それとも、コーヒー?」
お茶の準備を進めながら、私は尋ねる。
希「ウチは、コーヒーをお願いします」
亜里沙「亜里沙もコーヒーが飲みたい!」
亜里沙… 私は妹を嗜める。
亜里沙「冗談だよー」
彼女は頬っぺたをぷくーと膨らませた。
私の家庭では、中学生まではコーヒーを飲んではいけない、と教えられていた。
・・・
幼い頃、私は両親が黒い液体ーー コーヒーの事ね。ーーを飲む様子を見て、密かに憧れを抱いていた。
絵里「エリー、こーひー 飲んでみたい!」
散々駄々をこね続けた結果、根負けした母親が少しだけよ? と言って飲ませてくれた。
カップから漂う不思議な香りに、わくわくしながら黒い液体を啜る。
絵里「…!? にっが~い!」
初めて飲んだコーヒーは、小さな私にはとても苦くて…思わず泣き出してしまった。
それ以来、我が家では『コーヒーは大人の飲み物だから、子供は厳禁』となってしまったのだ。 318 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/29(水) 01:26:16.77
ID:xZL9NBU/ 結局、私は最近までコーヒーを飲む事はなかった。
久し振りに口にしたのは、音ノ木坂に合格した日。
合格祝いの席で、両親に勧められたのだ。
相変わらず、苦かったがーー
母「絵里の大好きなチョコレートを入れてみたらどうかしら?」
素直に、母の助言に従う。
絵里「…美味しい!」
それ以来、私はコーヒーには必ずチョコレートを溶かす事にしている。
・・・
希「亜里沙ちゃん、コーヒーがええんやないの?」
亜里沙「いいんです、亜里沙まだ、中学生だから…」
下を向く亜里沙。
私は、希に事情を説明する。
絵里「私の両親は、中学生までコーヒーは飲むな、 と言っているのよ…」
希「そういう事やったんか」
でも… と、私は亜里沙の顔を覗き込む。
絵里「今日は希が来てくれた、特別な日だから… 特別に許可するわ♪」
亜里沙「ほ、本当!?」
彼女は、ぱあっと顔を輝かせる。
絵里(ふふっ、よっぽど嬉しいみたいね) 319 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/29(水) 01:42:28.43
ID:xZL9NBU/ ・・・
絵里「さあ、どうぞ」
準備を終えた私は、テーブルに人数分のコーヒーカップと、カップケーキを並べた。
希「うーん、ええ香りや」
コーヒーの香りを楽しむ希。
亜里沙「ハラショー…」
おっかなびっくりカップを覗き込む亜里沙。
大丈夫よ、亜里沙。 と私は優しく声を掛ける。
絵里「まずは一口、少しだけ飲んでみて?」
絵里「それでも苦かったら…」
苦かったら? と亜里沙が聞き返す。
絵里「美味しくなる、不思議な食材を入れてあげるわ」
その言葉を聞き、亜里沙は、ゆっくりとコーヒーを啜る。
亜里沙「…に、苦い」
顔を顰める妹。予想通りの反応に、私は思わず苦笑する。 320 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/29(水) 02:00:39.12
ID:xZL9NBU/ 絵里「…じゃあ、これを入れてみて」
亜里沙「チョコレートを?」
そうよ、と答えながら私はチョコレートの欠片を亜里沙のカップに入れる。
再び、カップに口をつける亜里沙。
亜里沙「…ハラショー! 美味しくなったよ、お姉ちゃん!」
良かったわ、亜里沙。と言いながら私は彼女の髪を優しく撫でてあげた。
希は、そんな私達をにこにこしながら見ていた。
希、 と私は声を掛ける。
絵里「希も、チョコレート入れてみる?」
希「えっ… じゃあ、お願い えりち」
勿論。 と私はにっこり笑い、希のカップにもチョコレートを入れる。
彼女もカップに口をつけ
希「ほんまや、めちゃ美味しい…」
希「ありがとさん、えりち」
絵里「ど、どういたしまして…///」
彼女に感謝され、私は思わず赤面してしまった。 321 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/29(水) 02:11:29.73
ID:xZL9NBU/ 楽しいお茶会に、私達は話が弾んだ。
希「へえ、お祖母様がロシア人やったんか…」
絵里「そうなの。いわゆるクォーターね」
ほお~ っと、希は素直に感心した顔をする。
今迄、私は他のひとに対し、あまり細かな出生の話や身の上話をした事がなかった。
日本に来た当時、『異邦人』だった私は、周りからの奇異な視線、そして心無い言葉が大変辛く感じた。
中学に進学しても、周囲の人との異なる容姿に始めは ちやほやされ、やがてそれを心良く思わない一部の女子生徒から揶揄いを受ける事になった。
だから、私はひたすら目立つ事を避けた。そして、心を開く事を避けた。
音ノ木に入学して、希と出会いーーその時初めて、私は心から安心出来る不思議な包容感を感じた。
希になら、何だって話したい、と思う自分がいる。
そして、希の事をもっともっと知りたい自分もいる。 322 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/29(水) 02:20:23.09
ID:xZL9NBU/ そうだ、と私はある事を思い出し立ちがる。
希に是非見てもらいたいものがあったのだ。
スクールバッグを開き、内ポケットからある物を取り出した。
亜里沙「お姉ちゃん、それは…?」
絵里「亜里沙も、これを見るのは初めてだったわね」
私はテーブルに一枚の写真を置いた。
希は写真をじっと見つめる。
希「もしかして…」
希「…この方が、えりち と亜里沙ちゃんのお祖母様?」
ええ、と私は頷く。
亜里沙「え~、亜里沙、この写真知らなかったよー!」
亜里沙「ズルいよお姉ちゃん!」
再び頬っぺたを膨らます亜里沙。
私はごめんごめん、と謝りながら彼女の髪を撫でる。
希「…似とる」
絵里「え?」 324 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/29(水) 02:33:21.41
ID:xZL9NBU/ 希「えりち は、この方によく似てる」
希「えりちと同じ、素敵なひとやって、ウチにはわかる」
素敵なお祖母様を持つ、えりち が羨ましいで。 そう言って、彼女はにっこりと笑った。
絵里「希…」
…大好きなお祖母様に似ていると言われ、私はその言葉が何よりも嬉しかった。
・・・
それから暫くして、希は せや、と言いながらおもむろに立ち上がった。
希「そろそろ、いい時間やし… お暇させてもらおかな…」 325 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/29(水) 02:47:39.20
ID:xZL9NBU/ 絵里「ええっ!?」
亜里沙「希さん、帰っちゃうんですか!?」
私達は2人して、同時に立ち上がってしまった。
希は、驚いたのか目を白黒させている。
希「せ、せやで… もうすぐ9時回るし…」
彼女はそう言いながら、壁時計を示す。
希「あまり長居をするのも、悪いやん?」
絵里「そんな事ないわ!」
私は思わず大声を出してしまった。
希も、ビクッと肩を震わす。
絵里「希… 私達は、あなたを歓迎しているのよ?」
絵里「本当なら、今日は泊まっていって欲しい位だわ」
亜里沙もうん、うんと頷く。
亜里沙「そうですよ。亜里沙も、希さんともっともっとお話 したいです!」 331 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/30(木) 00:52:10.07
ID:jqDCiJsH希「せやけど… やっぱりなあ… 急にお邪魔した訳やし」
希は申し訳なさそうに眉を顰める。
希「ほんまは、ウチもえりち や亜里沙ちゃんとまだ一緒に居たい」
希「せやけど、家帰ってやらなあかんことが残っとるんよ」
希「お洗濯を取り込んでないし、洗い物やら家事も残っている…」
それに、明日も学校あるやん? と、続ける。
希「授業の支度とか、服とかも用意せなあかんから…」
絵里「どうしても、ダメ?」
堪忍や。 希はそう言って、手を合わせて拝むポーズを作った。
絵里「そう…」
希に無理強いをさせたくないので、私もそれ以上は何も言えない。
でも、何故だろう。
希が帰ってしまう。たったそれだけの事なのに、私の心にぽっかりと穴が開いた気がする。それに、何だか胸が苦しい。
希「えりち?」
黙りこんでしまった私に、希は不安気に声を掛けてきた。
…希の前で弱気な事は言えない。
絵里「…希がそういうなら、しょうがないわね」
私は無理矢理 笑顔を作る。 334 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/30(木) 01:08:12.12
ID:jqDCiJsH希も私の笑顔に安心したのか、ほっとした表情を浮かべる。
希「ほんまに、ごめんな…」
そこまで言いかけた所で、亜里沙が無言で希に抱きついた。
亜里沙「…」
希「亜里沙ちゃん…」
亜里沙は、顔を希の身体にうずめたまま、何も喋ろうとしない。
希「…」
また、来るから。 希はそう言って亜里沙の髪を優しく撫でた。
亜里沙「…約束ですよ」
希「…ウチは、嘘なんかつかんよ?」
そして、希は私に目配せをした。
意味を理解した私は、 そっと亜里沙の腕を掴む。
絵里「…さあ、亜里沙もいつまでも抱きついたら、希が帰れないでしょ?」 335 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/30(木) 01:20:42.91
ID:jqDCiJsH 私と亜里沙は玄関まで彼女を見送りに出た。本当は外まで送りたかったのだが、彼女が玄関まででいい、と言い張ったのだ。
絵里「希… これ、受けとって」
靴を履き終え、立ち上がった彼女に私はポケットからあるものを取り出し、手渡す。
希「…これは?」
絵里「バルバリス。ロシアの飴よ。向こうでは有名な飴なの」
へえ、と彼女は飴をつまみ上げ、包み紙に書かれたキリル文字を物珍しそうに眺める。
希「ありがとさん、えりち」
帰り道で、ゆっくり味わうね。 そう言って、彼女はにっこりと笑った。 336 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/30(木) 01:33:44.89
ID:jqDCiJsH じゃあ… と、希が別れの挨拶をする。
希「えりち、亜里沙ちゃん… 今日は、ほんまにありがとさん」
希「2人と一緒に居られてとっても楽しかったで」
私もです! と亜里沙が大声を出す。
亜里沙「私も、希さんと一緒で本当に楽しかったです!」
亜里沙「だから… だから、また来てください! 絶対に!」
約束する。 希はそう答えて、亜里沙と指切りのポーズをとった。
そして、最後に私の顔を見て
希「ほな… また、明日」
そう言って、希はドアから出て行った。 338 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/30(木) 01:46:16.59
ID:jqDCiJsH バタン とドアが閉まる音が響き渡った。
亜里沙「帰っちゃったね、お姉ちゃん…」
亜里沙がぽつりと呟く。
けれども、その言葉は私の頭に入ってこなかった。
亜里沙「…お姉ちゃん?」
どうしたの、と言いかける亜里沙に私は
絵里「ごめん、亜里沙! 少しだけ待ってて!」
サンダルを無造作に履き、外へ飛び出す。
きょろきょろと辺りを見渡すが、希の姿はどこにも見当たらない。
絵里(もう、エレベーターに乗ってしまったのかも)
慌ててエレベーターホールの前まで走る。
一台のエレベーターが稼働していた。階数表示が1階へと下がっている。
希は、これに乗ったのかしら?
だが、他のエレベーターを待っている余裕は無さそうだ。
絵里(階段の方が早い!)
そう考え、ホール脇の階段を数段飛ばしで降りていく。
サンダル履きなので、衝撃が足に伝わってくるが、気にしている場合ではない。
絵里(急げ、急げ…!) 339 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/30(木) 01:54:57.02
ID:jqDCiJsH やっと1階まで降りた。
先程のエレベーターも既に着いており、次の利用客を待ち受けていた。
私は再び辺りを見渡す。
希は…居た!
まさに、マンションの入り口から夜の街へ出ようとする所だった。
絵里「希!」
彼女の背中に向かって、私は必死になって名前を呼ぶ。
彼女は呼び掛けに反応し、こっちをくるりと振り向いた。かなり驚いた顔をしている。
希「えりち…」 340 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/30(木) 02:01:07.80
ID:jqDCiJsH どうしたんや、そんなに慌てて… と彼女は聞いてきた。
絵里「え、えっと…」
はあ、はあ と息を切らせながら、私は答えを考えあぐねる。
絵里「…」
何故だろう。
希が家から出ていった瞬間、彼女に会いたいという気持ちで胸が一杯になったのだ。
だけど、この気持ちは上手く言葉で言い表せそうにない。
希「…えりち」
黙ったままの私に、希が静かに声を掛けた。 341 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/30(木) 02:10:37.18
ID:jqDCiJsH 希「ウチは、大丈夫やから。 見送りとか、別にええんよ?」
絵里「そ、そうじゃなくて…」
希「…?」
意を決して すうっ と、思い切り息を吸い込む。
そして、私は、普段の私らしからぬ大声をあげてしまった。
絵里「約束して!」
絵里「今度は…! 今度こそ、絶対に泊まりに来てよ!」
絵里「あと、希の事を私はもっともっと知りたい!」
絵里「今日だけじゃ、ぜんっぜん足りないわ!」
絵里「私は、希の事が…」
絵里(大好きだから…!)
最後の言葉は、声にならなかった。 343 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/30(木) 02:27:01.88
ID:jqDCiJsH 希「えりち…」
ありがとさん、絶対に約束する。 と彼女は顔を頷かせる。
絵里「うん…」
希「さ、えりち。 今度こそお別れや」
あんまり待たすと、亜里沙ちゃんに悪いやん? と彼女は続ける。
希「ほな…えりち、おやすみなさい」
絵里「…おやすみ、希」
彼女は小さく手を振る。
そして、くるりと私に背を向け、歩き出した。
私は、彼女が夜の闇に消えるまで、ずっと後ろ姿を見つめ続けた。
私は暫くその場に立ち尽くす。
不意に夜空を見上げた。
空一面に広がる星を眺めながら、ぽつりと呟いた。
絵里「大好き、か…」
…私の意気地無し。 353 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/31(金) 01:26:53.66
ID:t3OF5ei+絵里「…私も、帰るか」
いきなり、家を飛び出してしまって亜里沙には悪い事をしたわ。
とぼとぼと引き返し、家へ戻る。
エレベーターを降りて、廊下に出ると我が家の玄関ドアの前に少女が立っているのが見えた。
絵里「亜里沙…」
亜里沙「お姉ちゃん!」
亜里沙が私に気づき、ダッと駆け寄ってくる。
そして、私は思いっきり抱きつかれた。
亜里沙「お姉ちゃん、どこ行ってたの?」
心配したんだよ? と小さく続ける。
絵里「ごめんね、亜里沙…」
彼女の身体は柔らかく、そして微かな温もりを感じた。
さっきの希も、亜里沙に抱きつかれたとき同じ事を思ったかしら?
怖かった…。 ギュッと抱き着いたまま、亜里沙がぼそりと呟く。
絵里「えっ?」 354 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/31(金) 01:57:09.62
ID:t3OF5ei+ 亜里沙「希さんが帰っちゃって…その後、お姉ちゃんが出ていった瞬間…」
亜里沙「何故だか分からないけど、お姉ちゃんが、もう二度と戻って来ない気がしたの」
亜里沙「だから、亜里沙… 怖くて、怖くて…」
いつの間にか、亜里沙は泣き出していた。
小さく肩を震わせ、鼻を啜りあげる。
亜里沙「だから…お姉ちゃんが戻ってくれて、本当に… 良かった…」
我慢出来なくなったのか、ウワーン と泣き出す亜里沙。
絵里「ごめんね、亜里沙。ほんとにごめんなさい…」
私は少し屈み込み、亜里沙の身体をギュッと抱き返した。
私は何て愚かな姉だろう。思いついたままに行動し、その結果大事な妹を泣かせてしまった。
これでは、決して『賢い』だなんて言えたものではない。
何も言葉が出てこない私は、亜里沙の興奮がおさまるまで、その身体をひたすら抱き締め続けた。 355 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/10/31(金) 02:08:09.69
ID:t3OF5ei+ ーー数分後
絵里「…落ち着いた?」
亜里沙「うん…もう大丈夫… ヒック」
時折、しゃっくりをしているが、大分落ち着きを取り戻したようだ。
私は、妹の頭にぽふっ と手を置く。
絵里「亜里沙」
なあに、お姉ちゃん? と彼女は上目遣いになる。
絵里「さっきは、本当に亜里沙に申し訳ないことをしたわ」
絵里「だから、お詫びと言ってはなんだけど…」
絵里「今夜は、久し振りに一緒のお布団で寝ましょうか」
数秒間、黙り込む妹。その刹那、
亜里沙「…い、いいよ」
さっきまでの泣き顔は何処へやら。
亜里沙はいつもの、私の大好きな笑顔を見せてくれる。…良かった。
絵里「ありがとう、亜里沙」
心なしか、亜里沙の顔が少し赤くなっているみたい。 361 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/01(土) 00:48:28.32
ID:SYA74d/eぴゅう と冷たい風がマンションの廊下を吹き抜けてゆく。もう4月も終わりとはいえ、まだまだ夜は寒い。
亜里沙… と私はそっと囁く。
絵里「そろそろ、家の中に入りましょう?」
大切な妹に、風邪を引かせる訳にはいかないわ。
亜里沙「もう少し、だけ…」
亜里沙「お姉ちゃんの身体、すっごく暖かいから…」
ずっとこうしていたい…。 亜里沙はそう言うと同時に、ますます腕の力を強くする。
今日の亜里沙はいつもより甘えん坊の様だ。
私も、彼女の気がすむまでこうして抱き合っていたいが、時間も遅いし何より亜里沙の体調の方が不安だ。
泣く泣く心を鬼にする。
絵里「亜里沙… 流石に寒いから、家に入りましょう」
絵里「続きは後で、ね?」 363 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/01(土) 01:07:24.35
ID:SYA74d/e 絵里「亜里沙、寒かったでしょう? お茶淹れるわね」
ダイニング・テーブルに亜里沙を座らせながら、私は優しく声を掛ける。
亜里沙「別に、大丈夫だよ…」
けれど、その後に小さく ありがとう。 と呟いた事を、私は聞き逃さなかった。
私はふふっと微笑む。
紅茶の茶葉を取り出そうとしたとき、亜里沙が お姉ちゃん…! と叫んだ。
絵里「…どうしたの? 亜里沙」
亜里沙「 折角お茶淹れてくれるなら…亜里沙、またコーヒーが飲みたいな」
私はその言葉を聞き、ええっ! と驚いてしまった。
絵里「亜里沙、あなた…コーヒーが気に入ったの?」
ダメかなあ… と彼女はこちらを伺う。
そうか、希が帰ってしまったからもう特別な時間は終わったと思ったのかも。
…ま、仕方ないわね。今日は特別よ。
私はにっこりと彼女に微笑む。
絵里「とびっきり美味しいコーヒーを、淹れるわね」 365 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/01(土) 01:28:09.24
ID:SYA74d/e ・・・
亜里沙「ハラショー! すっごく美味しいよ、お姉ちゃん!」
絵里「ふふっ ありがとう」
亜里沙は先程の様に顔を顰める事もなく、一口目から幸せそうに顔を綻ばせ、喜んでくれた。
絵里「チョコレートの量を増やしてね、後は亜里沙の大好きなクリームも溶かしたのよ」
それを聞き、へえ~ っと亜里沙は目をぱちくりとさせた。
暫くして。
彼女は、ソーサーにカップを置き、ふうっ と満足そうに目を細める。
…どうやら飲み終わったみたいね。
絵里「…身体はあったまった?」
亜里沙「うん!」
ありがとう、お姉ちゃん! と妹は元気よく答える。
私はふふっと微笑み
絵里「じゃあ、そろそろ休憩も終わりにしましょうか」
絵里「亜里沙、先にお風呂入っちゃいなさい」
お姉ちゃんは? と亜里沙は聞き返す。
絵里「私は後で入るわ」
先に、お夕飯の後片付けをしなくちゃ。 366 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/01(土) 01:43:37.55
ID:SYA74d/e 彼女は はーい と素直に答え、脱衣所に向かった。
私も立ち上がり、キッチンへ行く。
キッチンの散らかり具合を見て、思わず声に出してしまう。
絵里「亜里沙が上がる迄に、終わるかしら…?」
3人で料理をすると、こんなに汚れてしまうのね…
・・・
カレー鍋の蓋を開け、中身を確認する。
思った以上に残りは少なかったが、何とか明日食べる分量は確保出来そうだ。
絵里(希のカレー、本当に美味しかったなあ…)
一口だけ…と、鍋から匙で掬い出しぺろりと舐める。
絵里「う~ん、ハラショー!」
冷めかけのカレーからは、不思議と希の味がする…様な気がした。 368 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/01(土) 02:03:13.08
ID:SYA74d/e タタタッ と廊下に足音が響く。
亜里沙「お姉ちゃん、お風呂空いたよ!」
身体にバスタオルを巻いたままの亜里沙が、勢い込んで入ってきた。
絵里「タイミングいいわね~」
グッドタイミング。私もまさに、最後の一枚のお皿を洗い終えたところだ。
ちゃんとあったまったの? と確認する。
亜里沙「だって、お姉ちゃんと寝るの久し振りだから、楽しみで!」
急いじゃった! と、ぺろりと舌を出す。
妹の気持ちはよくわかるが、少し行動が雑になってしまっている。
姉として、注意しなくては。
絵里「ほら、まだ頭もビショビショじゃない… ちゃんと乾かして」
そう言いつつ、私は屈み込んで亜里沙の身体を拭いてあげようとしたが
亜里沙「大丈夫! 亜里沙、自分でドライヤーかけるから!」
そう答え、するりと私の手から逃れた。
亜里沙「お姉ちゃんも、急いでね!」
慌ただしく自室へ戻っていく妹。
私はやれやれ、と肩を竦めながらも、内心ではうきうきとしていた。
…姉妹一緒に寝るの、私も楽しみだわ。 369 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/01(土) 02:26:40.08
ID:SYA74d/e 全身を洗い終え、まだ熱い湯船に浸かる。
そろそろと両脚を伸ばす。
さっき希を追いかけた際の足の痛みが、まだわずかに残っている。
ふうっ と静かに息を吐き、暫しぼーっとする。
絵里(今日は、とっても楽しかったわ)
思い返せば、今日一日だけで色々な事があった。
希の所属するオカルト研究会への見学。
夜になるまで、2人きりの部室で語り合った。
そして帰り道、彼女の呼び名が『東條さん』から『希』に変わったーー
私は両眼を閉じる。
脳裏に希の顔が浮かび上がった。
絵里(大好きよ、希…)
ふと、私は考える。
『好き』ってどういう事だろう?
それは、友達としての Like 的な意味なのか… それとも…
絵里(急に、のぼせてきたわ)
ザバッ と湯船から立ち上がる。少し頭がくらくらする。
いけないわ。頭の中がこんがらがってしまっている。
絵里「…亜里沙を待たせちゃまずいわね」
誰に聞かせる訳でもなく、私はボソッと呟く。
…さっさとお風呂から上がりましょうか。 370 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/01(土) 02:36:50.75
ID:SYA74d/e 自室のドアの前には、枕を抱えた妹が待ち受けていた。
あらあら、と私は微笑む。
絵里「待たせちゃったわね」
いいのいいの、と亜里沙は首をブンブンと横に振る。
絵里「さあ、入って…」
私はドアを開け、亜里沙を招き入れる。
亜里沙は嬉しそうに、ベッドに腰掛けた。ぽふっ と柔らかくベッドが軋む。
絵里「少し待っててね…」
明日の支度をしなくちゃ、 と私はバッグを用意する。
お姉ちゃん… と、亜里沙が声を掛けてくる。
絵里「なあに? 亜里沙」
亜里沙「さっき見せてくれた、お写真… もう一度見たいな」 371 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/01(土) 02:51:33.82
ID:SYA74d/e お祖母様の写真の事ね。
私はバッグのポケットから写真を取り出し、亜里沙に はい と手渡す。
亜里沙「ありがとう…」
写真のお祖母様の顔を見て、彼女は嬉しそうにする。
私がお祖母様の事を好きなことと同じ様に、亜里沙もお祖母様が大好きなのだ。
絵里「亜里沙は、お祖母様が大好きだものね」
亜里沙「うん!」
だけど…と、彼女は私の顔を見つめる。
絵里「だけど?」
亜里沙「亜里沙…今は、お姉ちゃんが好き!」
そして、私に抱きついてきた。ギューッと、両腕に力を込める。
絵里「うわっ…! と」
亜里沙ったら…まるで、さっきの廊下での繰り返しみたい。
だけど、亜里沙に抱きつかれても不思議と悪い気はしない。
だから、私も先程と同じように妹の身体を抱きしめる。
亜里沙「お姉ちゃん、あったかいよ…」 372 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/01(土) 02:58:40.31
ID:SYA74d/e お風呂から上がったばかりだからね… と、私は頓珍漢な返事をする。
亜里沙「そうじゃなくて!」
絵里「!」
亜里沙「お姉ちゃん自身から心がポカポカとあったまる、不思議なオーラが出ているんだよ…」
そうなのか。だったら、それは多分…
私はボソリと亜里沙に囁く。
絵里「そのオーラは、多分ね… 亜里沙の事が好き、っていう気持ちよ」 380 :
!omikuji(家)@\(^o^)/ 2014/11/02(日) 01:03:49.65
ID:zI69Ax9sえっ! と亜里沙が驚き、ビクリと身体を震わせた。
亜里沙「お姉ちゃん、それって…どういう事…?」
絵里「えっ… うぁっ…!」
何か、変な意味で捉えられたかも。
違うのよ、亜里沙! と、私は慌てて釈明する。
絵里「そう、姉妹として… 『姉』として、亜里沙の事が好きって意味なのよ!」
何故だろう、急に体内温度が上がった気がする。
あー、今夜は暑いわね。と手で顔をパタパタ扇いで誤魔化す私。
亜里沙は私の言葉を聞き、一瞬何か考える素振りを見せるが…
亜里沙「亜里沙も、お姉ちゃんの事が大好きだから!」
そう言って、笑顔を見せてくれた。
亜里沙「…『妹』として、ね…」 381 :
!omikuji(家)@\(^o^)/ 2014/11/02(日) 01:21:07.16
ID:zI69Ax9s 絵里「さあ、そろそろお布団の時間よ」
時計を見ながら、私は亜里沙に話し掛ける。
亜里沙も抱きつきを充分に堪能したのか、素直に私から離れた。
ベッドに枕を2つ並べる。勿論、亜里沙の枕は壁際よ。…夜中に落ちて、怪我をさせない様に。
もぞもぞとベッドに潜り込む。少々窮屈だが、何とか並んで眠れそうだ。
亜里沙「あったかいねー、お姉ちゃん…」
ええ、そうね。 と私はにっこり笑う。
絵里(亜里沙も、成長しているのね…)
隣に横たわる彼女の身体を眺めつつ、私はふと物思いに耽る。
つい、こないだまでは小学生だった筈なのに、こうして見ると大分身体つきが大人びてきたわね。
第二次性徴はとっくに来ている筈だけど、私が気付かなかっただけなのかしら…?
亜里沙「…お姉ちゃん?」 382 :
!omikuji(家)@\(^o^)/ 2014/11/02(日) 01:36:34.94
ID:zI69Ax9s 訝しげに、亜里沙が聞いてくる。
亜里沙「さっきから、じーっと亜里沙の事を見てるけど…」
その言葉に、私は慌てて我に帰る。
いけない、つい妹の身体に見入ってしまった。
だけど、『亜里沙の身体を見ていたのよ』なんて事、言える訳がない。
絵里「亜里沙がとっても可愛かったから、つい、ね…」
亜里沙には悪いが、少々誤魔化させて貰おう。
私の言葉を聞き、亜里沙は
亜里沙「もう、お姉ちゃんたら!」
と答えるが、満更でもなさそうな顔をする。
絵里「ふふっ、本当の事よ…」
・・・
目覚まし時計をセットし、枕元に置く。明日は、姉妹同じ時間に起きましょう。
私も改めて、ごそごそ とベッドに潜り込む。
私と亜里沙、2人で同じ毛布を掛ける。
絵里「さあ、眠くなるまでお話しでもしましょうか」
何の話をしたい? と、妹に聞いてみる。
うーん、 と彼女は暫し考えこむ。
亜里沙「話したい事一杯あって、亜里沙決められないよ…」 383 :
!omikuji(家)@\(^o^)/ 2014/11/02(日) 01:48:57.41
ID:zI69Ax9s あらあら、と私は笑う。
絵里「時間はたっぷりあるから、焦らなくていいのよ」
亜里沙「じゃあ、まずは… 学校の話をしたいな!」
学校、か… そうね、亜里沙の中学校生活を聞いてみたいわ。
絵里「中学校は、どんな感じなの?」
亜里沙「そうだなー、クラスのみんな、明るくて元気のいい子が多いんだよ!」
ちょっと、男子が煩いけどね… と、続ける。
絵里(男子、か…)
その言葉を聞くと、つい、昔の苦い思い出が浮かんできてしまう。
私が音ノ木坂を志望するきっかけとなった、あの頃を。
…いけない。変な事を考えてしまった。
あれはもう、過去の話だ。
私は慌てて、相槌を打つ。
絵里「まあ、しょうがないわね。中学生位の男の子は、力が有り余っているから…」
絵里「亜里沙は、揶揄われたりされてないでしょうね?」
何かあったら、お姉ちゃんに言いなさいよ。 と、私は釘を刺しておく。
亜里沙「大丈夫だよ!」
それなら、いいんだけれど。
亜里沙には、私の二の舞になって欲しくないのだ。 386 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/02(日) 23:34:46.52
ID:zI69Ax9s 一応、妹の交友関係を確認しておこうかしら。
絵里「お友達の方は、どうなの?」
亜里沙「うん、たくさん出来た!」
○○ちゃんと、××ちゃんと~、と指を折って名前を読み上げる。
亜里沙「でもね、一番仲がいいのは、雪穂かな!」
絵里「ゆきほ…?」
聞き覚えのある名前が出てきた。私は記憶力をフル回転させる。
絵里「ああ、同じ文芸部の…」
亜里沙「うん、そうそう。高坂雪穂ちゃんっていうの」
すっごく可愛いんだよ~ 、と亜里沙は続ける。
やっと思い出した。亜里沙と同時に部活へ加入した子だったわね。
亜里沙「文芸部もね、先輩達が優しく教えてくれるから、とっても楽しいんだ~」 387 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/02(日) 23:50:31.43
ID:zI69Ax9s 絵里「へえ~、それは良かったわね」
亜里沙も中学校生活を楽しめているようだ。私はほっと胸をなでおろす。
亜里沙「お姉ちゃんの方は、どうなの?」
突然、亜里沙が私に降ってきた。
絵里「えっ、私?」
亜里沙「うん、部活の事とか…」
亜里沙がきらきらとした眼で私を見る。
…うっ。期待されても、困っちゃうんだけどな。
絵里「…まだね、部活には入っていないのよ」 388 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:09:15.18
ID:ZQaMFLRY そうなんだ… と亜里沙が呟く。
亜里沙「亜里沙てっきり、希さんと同じ部活なのかな、って思っていたんだけど…」
絵里「ああ…残念ながら、違うのよ」
希と、同じ部活か…。
そうだとしたら、私もオカルト研究会に入るっていう事になるのかしら?
絵里(でも、私は生徒会にも興味あるし…)
じゃあ、兼部とか?
でも、部活をしたいから入るのではなく、交友関係の為に部活に入るのでは、意味合いも違ってくる。
例えば、矢澤さんのように目標をもって部活を作った人に失礼な話だ。
何だか、気持ちがもやもやとしてきた。
亜里沙「…さんは」
亜里沙が、何かを呟く。
絵里「?」
亜里沙「…希さんは、また、家に来てくれるんだよね…?」 390 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:21:07.97
ID:ZQaMFLRY 気のせいかしら。亜里沙の瞳が潤んでいるような…
大丈夫。絶対、来るわよ。 と私は頷く。
絵里「今度は、泊まってくれるかもしれないわ」
亜里沙「ほんと…!?」
やった、 と顔を明るくする。
絵里「亜里沙は、希の事が気に入ったみたいね」
勿論! と、亜里沙は声を大きくする。
亜里沙「希さん、優しくて何だか安心感があって」
亜里沙「お姉ちゃんが羨ましいよ… 希さんみたいなお友達がいて」
絵里「亜里沙…」
私は、隣に寝転がる妹の頬をなでながら、でもね、と囁く。
絵里「亜里沙も、さっき、希のお友達になったのよ」
亜里沙「…うん!」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。 392 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:36:39.39
ID:ZQaMFLRY ・・・
絵里「さて、そろそろ寝ましょうか」
時計を見ると、もう日を跨ごうとしていた。
ついつい、おしゃべりに興じてしまったわ。
明日も学校がある訳だし、流石に眠らなければ…特に亜里沙の成長にも影響が出てしまう。
亜里沙もふわあ と、眠そうに小さく欠伸をする。
私は よっ、と一旦ベッドから立ち上がり、机に向かう。
眠る前に、携帯のチェックをしておこうかしら… と携帯電話を持ち上げると、通知ランプが点いている事に気付いた。
絵里「メール…?」
差出人は… 希からだ!
私は慌てて携帯を開く。
東條希 : えりち、今日は本当にありがとう。楽しいひと時を過ごせてとっても嬉しかったです。亜里沙ちゃんにも宜しく伝えてください。それでは、おやすみなさい。
絵里「希…」
私はふふっと笑う。彼女は、メールの時は標準語なのね。
彼女は普段関西弁で話しているけど、関西方面の出身なのかしら?
今度、聞いてみよう。
絵里(『こちらこそ、今日はありがとう…』 っと)
お礼のメールを打ち、携帯を閉じる。
亜里沙「メール?」
私の様子を見ていたのか、亜里沙が聞いてくる。
絵里「ええ、希からよ。今日はありがとう、亜里沙にも宜しく伝えて って書いてあったわ」 402 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/04(火) 00:41:03.89
ID:5B4hdC8I 亜里沙「宜しく、だなんて…」
その言葉に、亜里沙は嬉しそうに笑い、身体をもぞもぞと動かす。
…本当、見ているだけで愛くるしいわね。
私はこの可愛いらしい妹の姿を脳裏に焼き付ける。
絵里「さあ、電気消すわよ」
パチンッと 部屋の明かりを消し、再びベッドに入った。
ほんのりと薄暗い光に包まれる部屋の中。
怖がりな私は、完全に電気を消せないのでいつも豆球一つ点けて眠っているのだ。
そして、ベッドから見える窓の外。そこには春の夜空と都会の街あかりが広がっていた。
私は暫し、その光景に見惚れる。
絵里(綺麗…)
この広い空の下の何処かに、希も居るのだ。
彼女は今、独りきりの家で何をしているのだろう。
もしかしたら、彼女も同じこの夜空を眺めているかもしれない。
お姉ちゃん… と、亜里沙が眠そうに声を掛ける。
絵里「寝る?」
豆球で眩しくないかしら、と私は確認する。
亜里沙「うん、大丈夫…おやすみなさい」
絵里「…ええ、おやすみ。亜里沙」
そして、私は心の中でそっと呟く。
絵里(おやすみ…希) 404 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/04(火) 01:59:07.46
ID:5B4hdC8I・・・
ピピピピピピ… 時計の音が部屋の中に響き渡る。
絵里「…う~ん」
私はもぞもぞと腕を伸ばし、アラームを止める。
眼を擦りながらゆっくりと起き上がろうとしたが、全身がぎゅっと引っ張られた。
絵里「亜里沙…」
亜里沙「…zzz」
違和感の正体は、私の身体にまわされた妹の両腕だった。
どうやら彼女は眠っている間に私に抱きついていたようだ。
絵里「亜里沙ったら…」
ふふっ と笑い、彼女を起こさないように静かに腕を離す。
亜里沙には、もう少し休ませてあげましょう。
窓から朝日が差し込んでいる。今日もいい天気のようね。
絵里「…よしっ」
さあ、今日も1日が始まる。 407 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 00:37:56.70
ID:qU2Tm7p+・・・
朝食の支度を終え、亜里沙を起こしに行く。
部屋に入ると、ベッドの上で亜里沙がもぞもぞと動いていた。
絵里(亜里沙、起きたのかしら…)
毛布が邪魔で、何をしているのかよく見えない。
私は静かに忍び寄る。
絵里「亜里沙…?」
声を掛けると、妹はビクッと身体を震わせ、ぴたりと動きを止めた。
亜里沙「お、お姉ちゃん…」
おはよう…と小さな声で亜里沙が挨拶をする。
絵里「おはよう、亜里沙。それ、私の枕だけど…」
どうしたのかしら?
亜里沙は、私の枕に顔を埋めてふがふが呼吸をしていたのだ。
亜里沙「こ、これは…」 408 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 01:03:11.70
ID:qU2Tm7p+ 亜里沙は顔を赤らめ、枕を抱いたまま黙って下を向く。
絵里「…?」
よくわからないけど、まあいいか。
私はくすり と笑い、妹の頭を撫でる。
絵里「さっきの格好だと、呼吸しづらいわよ?」
朝食が出来たから、そろそろ起きなさい。と付け加える。
亜里沙「わ、わかった…」
お姉ちゃんが鈍くてよかったよ…と、彼女は小さく呟く。
絵里「?」 410 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 01:15:43.80
ID:qU2Tm7p+ 暫くして。
中学校の制服に着替えた亜里沙が、ダイニングに入ってきた。
私と亜里沙、2人並んでテーブルに着く。
昨日のカレーの満腹感が残っていたので、今朝は軽めに、パンとサラダにした。
いただきます、と声を揃えて食べ始める。
絵里「…」モグモグ
亜里沙「…」モグモグ
何故だろう、いつもは食事中は盛り上がるのに今朝はやけに静かだ。
私はそっと亜里沙の顔を伺う。
…少し頬っぺたが赤い事を除けばいつも通りだ。
ねえ、亜里沙… と私は声を掛ける。
絵里「昨日はよく眠れた?」
亜里沙「…う、うん! ぐっすり眠れたよ!」 412 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 01:28:53.37
ID:qU2Tm7p+ 絵里「そ、それは良かったわ」
元気よく返事をしてくれたので、私はひとまず安堵する。
いや、寧ろ元気過ぎないかしら?
…もしかして、無理に元気な振りをしている?
絵里「亜里沙、だいじょう… 亜里沙「お姉ちゃん!」
突然、亜里沙が大きな声を出した。
絵里「な、なあに…?」
亜里沙「あ、あの…」
奇妙な沈黙が食卓を支配する。
静かに亜里沙が話し始めた。
亜里沙「今朝の…お姉ちゃんが亜里沙を起こしに来た時…」
亜里沙「亜里沙が、お姉ちゃんの枕をすーはー しているの、見たでしょ…?」 414 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 01:42:09.51
ID:qU2Tm7p+ ええ、見たわよ。 と私は頷く。
亜里沙「それ見て、どう思った?」
亜里沙「亜里沙の事、変だと思わなかった?」
変も何も、私は単に息がしづらいと思っただけなんだけど…
素直に亜里沙に伝える。
絵里「別に、変になんか思わないわ。ただちょっと、息がしづらいんじゃないかな、って感じたくらいかしら」
ほんと? と、彼女が確認する。
本当よ。 と、私はもう一度頷く。
絵里「可愛い妹に嘘なんてつかないわ… って、亜里沙、どうしたの!?」
よかったぁ… と小さく呟きながら、亜里沙が急に抱きついてきた。
朝から妹に抱きつかれるとは思わなかったので、私も胸がドキドキと高鳴る。
亜里沙「亜里沙…てっきり、お姉ちゃんに嫌われちゃったんじゃないかって思っちゃって…」
何言ってるの、亜里沙は!? 私は内心びっくりする。
くすり と笑い、おばかさんね… と、妹に囁く。
絵里「私が、亜里沙の事を嫌いになる訳ないじゃない…」 415 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 01:54:01.48
ID:qU2Tm7p+ 亜里沙「亜里沙ね… 実は目覚まし時計が鳴ったとき、目が覚めたの」
そうだったのか… 私が見た限りでは熟睡しているようにしか見えなかったんだけど…
それでね、と亜里沙は続ける。
亜里沙「お姉ちゃんが、着替え終えて部屋から出て行ったあと、無性に寂しくなったの…」
亜里沙「その時、お姉ちゃんの枕に顔を埋めたら…」
なんだかとっても安心したの… と、彼女が話し続ける。
絵里「安心…?」
うん、 と亜里沙は頷く。
亜里沙「枕からね、お姉ちゃんの匂いが一杯して、本当に幸せな気持ちになれたの」
亜里沙「だから、つい…」
本当にごめんなさい。 と妹は謝る。
少し、声が震えているような…そんな、か細い声で謝る。
絵里「…亜里沙」
私はポフッ と亜里沙の肩に手を置いた。
反動で、亜里沙が顔を上げる。
私は、彼女の透き通った青い瞳を見つめながら
絵里「私のほうこそ… 寂しい思いをさせて、ごめんなさい」 416 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 02:06:50.60
ID:qU2Tm7p+ 絵里「亜里沙に寂しい思いをさせるなんて、私はお姉ちゃん失格ね」
そんな事ない! と、亜里沙が答える。
私は首を横に振る。
絵里「ううん… 亜里沙と一緒に寝る、って昨日約束したのに結局破ってしまった」
絵里「だから、亜里沙は寂しくなって私の枕の匂いを嗅いだんでしょう?」
うん、まあ… と、亜里沙が答える。
絵里「だから…そんな私を許して貰える?」
亜里沙「えっ…?」
絵里「許してくれるのなら… 私も、枕の件については何も言わないわ」
亜里沙がもじもじと身悶える。何て答えればいいのか、わからなくなったのだろう。
絵里「あとね…」
亜里沙「?」
絵里「私の匂いを嗅ぎたいのなら、私の枕じゃなく… 直接、私に抱きついて嗅ぎなさい」
絵里「流石に枕だと… 恥ずかしいから///」 418 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 02:28:20.11
ID:qU2Tm7p+ 亜里沙「お姉ちゃん…」
本当は匂いを嗅がれる行為自体、私にとってはかなり恥ずかしい事だけど…
可愛い妹の為だ。大目に見ておきましょう。
私はにっこりと微笑む。
絵里「亜里沙…許して貰えるかしら?」
亜里沙「うん… 大好き、お姉ちゃん!」
亜里沙は目をキラキラと輝かせ、素敵な笑顔を見せてくれた。
絵里(ふふっ…)
私は微笑んだまま、ふと、壁時計に目をやった。
絵里(あっ! もうすぐ行かなくちゃ!)
気がついたら、あっと言う間に登校時間が迫っていた。
絵里「さあ、亜里沙! 急いで食べないと!」
亜里沙「う、うん!」
一瞬で現実に引き戻される私達。 419 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 02:38:28.94
ID:qU2Tm7p+ ・・・
急いで支度を終え、家を飛び出す。
私と亜里沙は小走りで駆け、途中まで一緒に向かう。
いつもの別れ道に着いた。
私は じゃあ、気を付けて… と、亜里沙に声を掛ける。
亜里沙「うん…お姉ちゃん、じゃあね!」
バイバイと手を振る妹。私も小さく振り返し見送る。
…さて、私も急がないと。
・・・
恒例の待ち合わせ場所に近づいた。
遠くに2人の女の子が立っているのが見えた。
…そう、あの2人。私の大切なお友達。
私は おーい! と手を振りながら、2人の元へ駆け寄った。
希「おっ、来た来た」
にこ「まったく…遅いわよ」 420 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/05(水) 02:45:20.67
ID:qU2Tm7p+ 希と、ちらりと視線が合う。
彼女は小さく頷く。そして、にっこりと笑い
希「おはようさん…『えりち』」
ええっ!? と矢澤さんが素っ頓狂な声を上げた。
にこ「希、今… 『絢瀬さん』じゃなくて『えりち』って呼んだわね!」
私も小さく微笑む。息をすうっ と吸い込んで
絵里「おはよう…『希』!」
そして、驚いたままの顔をしている矢澤さんーー矢澤にこさんーーの方にも向き直り
絵里「おはよう、『にこ』!」
私はにこっ と笑い、彼女にも挨拶をした。 431 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/06(木) 00:38:41.92
ID:El3/0/Qo名前呼びになったいきさつを説明する私達。
にこ「昨日の帰り道に…なるほど、そういう事なのね…」
へえ~、と矢澤にこさんは頷く。
絵里「ええ、だからね… 折角と言ってはなんだけど」
絵里「矢澤さんの事も親しみをこめて、これからは『にこ』って呼びたいんだけど…」
いいかな? と、私は彼女に伺う。
にこ「えっ… ちょ、いきなりそんな…」
あさっての方を向く矢澤にこさん。
どこか、顔をあからめている。
あれれ~? と、希がわざとらしく声を上げる。
希「にこっち…まさか照れてるの?」
にこ「なっ…!」 432 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/06(木) 01:04:03.74
ID:El3/0/Qo 希「どうやら図星のようやん」
ほら、ちゃんと前向いて、 と希は声を掛けながら、矢澤にこさんの身体に手を廻す。
にこ「…」
私と矢澤にこさんの視線が真っ直ぐぶつかり合う。
にこ「…まっ、しょうがないわね」
絵里「…えっ?」
にこ「これからも宜しくね、『絵里』」
まったく、特別よ… と、矢澤にこさんーーいや、これからは にこーー が精一杯胸を張る。
絵里「…ハ、ハラショー!」
良かった!
嫌だ、って断られたらどうしようかと少し危惧していたが、それも杞憂に過ぎなかった。
絵里… と、にこ が話しかけてきた。
にこ「今は時間がないから…後で、アドレスも交換しましょ」
絵里「…ええ! 勿論!」 433 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/06(木) 01:26:49.61
ID:El3/0/Qo 3人で歩きながら、学校へ向かう。
話題は、自然と昨夜の事になった。
にこ「希のカレーか… 美味しいわよね」
希「にこっちも食べた事、あったっけ?」
にこ「あるわよ!」
忘れたの!? と、にこ が驚いた声を上げる。
希「…う~ん、思い出せんなあ」
にこ「ほら、中学の林間学校で… 班ごとに料理を作ったじゃない?」
ああ! と、希がポンっと手を叩く。
にこ「やれやれ… 忘れないでよね」
希「ごめんごめん」
絵里「…」
2人の話を聞きながら、私はそっと考える。
そういえば、希とにこ は中学の時から友達同士だったのよね。
私には埋められない時間の差が、2人の間にはある。
私の知らない希を知っている。…そんなにこ が羨ましい。
希「…えりち?」 434 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/06(木) 01:44:04.58
ID:El3/0/Qo 絵里「…え?」
希「さっきから静かやん…大丈夫?」
希が顔をずいっ と近づけてくる。
絵里(近い、近い!)
私は少し戸惑う。
だが、まさかにこ に嫉妬心を抱いたなんて言えるわけがない。
絵里「…大丈夫、なんでもないわよ」
私はにこっと微笑む。
希「それならええんやけど…」
まだ何か、言いたげな希。
だが、にこ の発言により遮られてしまう。
にこ「そういえば… 絵里はもう、部活は決めたの?」 435 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/06(木) 01:57:09.45
ID:El3/0/Qo 絵里「あー… 実は、まだなのよ」
にこ「ほんとに!?もう、申請期限日来ちゃうわよ」
わかってるわ、と私は頷く。
絵里「実は、今日生徒会に行ってみようかと思ってるんだけどね」
そうなんだ… と、にこ が答える。
絵里「私が今、何をやりたいかを考えてね…やっと分かったの」
絵里「学校を…音ノ木坂を、生徒の立場からもっともっと良くしていきたい」
絵里「素敵な学校を、つくって行きたいって」
希「…」
そっか。 と、にこ が呟く。
にこ「お互い、やる事は違うけど…目指す方向は一緒よ」
にこ「私も、スクールアイドルの活動で…折角入った音ノ木坂の名を東京に…いや、日本中に広めたい!」
頑張るわよ! と、 にこ が親指を立てた。
絵里「ええ!頑張りましょう!」
私も彼女の真似をして、グッと親指を立てた。 436 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/06(木) 02:06:43.61
ID:El3/0/Qo ーー放課後。
帰りのホームルームも終わった。
生徒達はがやがやとざわめきながら部活や家路へ、それぞれ向かってゆく。
私も席を立ち、教室の後ろへ向かう。
希は机に座り、バッグに手を掛けたまま動こうとしない。
絵里「希…?」
声を掛けるが、聞こえていないのだろうかーー彼女は反応しない。
そういえば、学校に着いてからお昼の時も、休み時間の間もずっと上の空だったような…
私は、彼女の肩をポンっと叩く。
希「…あ、えりち…」
良かった、やっと気付いてくれた。
絵里「希…もう、放課後よ」
行きましょ? と続ける。
私は生徒会へ、そして希はオカルト研究会へ行く用があるのだ。
希「…う、うん」
「どうしたの?」
絵里「…わっ!?」
ふいに声を掛けられ、私はびっくりして振り向く。 437 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/06(木) 02:15:23.06
ID:El3/0/Qo 絵里・希「「にこ(っち)…」」
いつの間にか、私達の傍らに、にこ が立っていた。
ちょっと、絵里… 驚きすぎよ。 と彼女は苦笑する。
にこ「教室覗いたら、2人の姿が見えたから…」
にこ「それで、どうしたの?」
私は簡単に事情を説明する。
絵里「希ったら、さっきからずっと上の空なのよ…」
絵里「私が話しかけても反応してくれなくて…」
にこ「ふう~ん…?」
にこ は眼を細め、じいっと希の顔を覗きこむ。
希「…にこっち、ウチは大丈b…
にこ「わかったわ」 443 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/07(金) 01:10:29.71
ID:9eyYXDTx絵里(わかった…?)
希「何がわかったんや、にこっち」
にこ は、こほんと小さく咳払いをする。
にこ「希、あなた… 絵里に何か言いたい事があるんでしょう」
希「!」
希が驚いた表情をする。
にこ「どうやら図星のようね」
にこ は勝ち誇った顔をし、どこかで聞いた様な台詞を言う。
希「…にこっちには隠せ通せないなあ」 444 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/07(金) 01:22:36.97
ID:9eyYXDTx にこ「当たりまえよ…何年付き合ってると思ってるの」
何気ないにこ の言葉だが、私の胸にズキンと響く。
にこ「ほら、さっさと言っちゃいなさいよ」
私の思いとは裏腹に、希を促すにこ。
希はうん、と頷いた。
私に言いたい事って…一体何だろう?
希「あのな、えりち… 実は、生徒会の事なんやけど」
希「今朝のえりち の話しを聞いて…ウチ、感動したんよ」
希「せやから… もしよければ、ウチもこれから一緒に生徒会に行ってもええかな?」
えっ? それって、どういう事かしら?
私は一瞬、頭が混乱する。
希「だ、だから… えりち がもし、生徒会に入るのなら、ウチも一緒に入りたい」
希「えりち と一緒に、素敵な音ノ木坂を作っていきたいんよ!」 445 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/07(金) 01:46:01.80
ID:9eyYXDTx 机をバンッと叩き、思わず立ち上がる希。
そこで我に返ったのか、あっ… と、彼女は顔を真っ赤にした。
希「ウチとした事が… つい、興奮してしもうた」
やれやれ… とにこ は呆れた顔になる。
にこ「あんた… そんな事でずっとグズグズしていたの?」
希「そんな事とはなんや! ウチだって、恥ずかしくて言い出せない時もあるんよ!」
にこ「私は思ったままに言っただけよ!」
口喧嘩を始める2人。机を挟んでお互い睨みあっている。
私は突然始まったこの事態におろおろと戸惑う。
絵里「ふ、2人とも落ち着いて!」
私は思わず腕を伸ばし、2人の間に止めに入った。
もにゅっ と、柔らかい感触が掌に伝わる。
絵里「えっ? …あぁっ!」 446 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/07(金) 02:20:42.74
ID:9eyYXDTx 希「えりち ったら…案外、大胆やん?」
希が恥ずかしそうに下を向く。
視線を伸ばした先には。
私の左手の中に、希の巨大な山がすっぽりと嵌っていた。
絵里「ち、違うのよ! 私は肩に手を置こうと…」
私は慌ててパッと左手を離す。
ドックン、ドックンと胸の鼓動が高鳴る。顔から湯気が出そうだ。
絵里(す、すごく張りが良かった…///)
これって、いわゆるラッキースケベというものなのかしら!?
今回は女同士だったけど…
にこ「…絵里?」
にこ の言葉に私はえっ? と反応する。
にこ「いつまで触ってんのよ」
私のもう一方の手も、にこ の小振りな お山の中に入っていた。
絵里「あら… ごめんなさい」
絵里(こっちは肩だと思ったわ…) 455 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/08(土) 00:51:03.91
ID:MrSpVmvS 絵里… と、にこ は私をじろりと睨む。
にこ「あなた、今…何か失礼な事を考えてたでしょ?」
絵里(うっ… 鋭い)
彼女は妙に感が冴えているようだ。
絵里「だ、大丈夫よ!」
絵里「なーんも考えてないから! 安心して!」
私は大袈裟に腕を振り、ごまかす。
絵里(にこ を傷つけるわけにはいかないわ…)
私の気持ちを知ってか知らずか、にこ は、はあっ… と溜息をついた。
にこ「まあいいわ… それで、絵里はなんて答えるの?」
絵里「ええ…」
そうだった。今大事なのは胸の事ではない。
私は希の顔を見る。
彼女は、というと…さっきまでの照れた表情はどこへやら、不安そうに顔を歪めている。
…よし、決まったわ。 456 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/08(土) 01:12:33.17
ID:MrSpVmvS 絵里「希…」
私は すっ と右手を指し出した。
希「えりち…?」
絵里「…一緒に、素敵な学校をつくっていきましょう」
宜しくね? と、私は微笑む。
希「…うん! えりち、ウチの方こそ宜しくね!」
希は大きく頷き、私の手を握った。
彼女の綺麗な手は、ほのかに暖かく、そしてすべすべとした触り心地がした。
絵里(ああ、幸せ…) 458 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/08(土) 01:33:32.87
ID:MrSpVmvS にこ「まったく… 面倒な2人ね」
やれやれ… と にこ が溜息をつく。
希「ありがとさん、にこっち」
にこっちのおかげやで、 と希はにこ に笑いかける。
にこ「なっ…/// 別に、私は何もしてないわよ!」
首をぶんぶんと振るにこ。少し照れてるようだ。
その様子を見て、私はほっとする。
良かった。険悪な雰囲気はもうどこかへ行ってくれたようね。
にこ は、わざとらしく携帯を取り出し
にこ「ああっ! 私、もう部活行かなきゃ!」
にこ「じゃあね、2人とも! また明日!」
そう言って、彼女は教室から飛び出していった。
まるで一瞬の風のようだ。
見送った後、希が小さく呟く。
希「にこっちも、なんやかんや言ってえりち の事を気にしとるんやな…」
絵里「…」
私は、返事の代わりに こくりと頷く。
直接言えなかったけど…にこ、どうもありがとう。 460 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/08(土) 01:52:22.63
ID:MrSpVmvS さて、私達もそろそろ行こうかしら…
私は希に声を掛ける。
絵里「希…そろそろ行きましょ?」
希「ええけど… このままでええの?」
えっ? と、私は聞き返す。
希「手… 握ったままやで」
絵里「…!」
しまった! 無意識だったが、さっきからずっと手を握ったままだった!
ご、ごめんなさい… と、私は手を離そうとした。
逆に、ギュッと強く握りしめられる。
絵里「!?」
希「えりち の手… あったかい」
希「ウチ、ずっと握っていたいな…」
冗談なのか、本気なのかよく分からない事を言う。
絵里「希…」
希「…」
希「うそうそ… さあ、行こっか」 461 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/08(土) 02:10:30.95
ID:MrSpVmvS ほんの一瞬、彼女は淋しそうな顔をする。
そして、パッと手を離した。右手が空気に触れ、すーすー と冷たくなる。
絵里(ああ…)
バッグを持ち、歩きだした希に私は思い切って声を掛けた。
絵里「…希」
希「…?」
振り向いた彼女に、私はにこっと笑いかける。
絵里「私も、希の手…ずっと握りたいと思ったわ」
絵里「だから…手、繋いで行きましょ?」
・・・
放課後の廊下。並んで歩く私たち2人。
私の右手と希の左手は固く結ばれていた。
意識はしないようにしているが、横を歩く彼女にちらちらと視線がいってしまう。
ふいに、希と視線があった。
彼女は照れくさそうに笑い、私も同じく笑い返す。
例え言葉がなくても、お互い言いたい事はわかる。
絵里(この時間が、いつまでも続くといいのに…) 463 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/08(土) 02:31:39.99
ID:MrSpVmvS 生徒会室は、職員室や理事長室、それに会議室といった重要な部屋の近くにあった。
ドアの前に立つ私達。かすかに、中から人の声や作業音がする。
希「そろそろ、手、離すよ…」
そう言うと同時に、希がゆっくりと手を離した。
突然、全身が緊張感に襲われる。
別に、ただお話をするだけなのに…
希「えりち… 緊張しとる?」
私の顔を見て、希が何かを察する。
私はこくこく と頷き、同意の意思を示す。
希「ウチが、先に入ろっか?」
今度はぶんぶん と真横に振る。
私が先に言い出した事だから、まずは私から入らなければ、意味がない。
わかった… と、希は頷く。
希「そういう時はな… 掌に『人』という字を書いて、それをゴクッと呑み込むんや」
希「そうしたら、あら不思議… 心がすうっ と落ち着くんよ」
やってみ? と、彼女は促す。 464 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/08(土) 02:52:25.29
ID:MrSpVmvS 絵里「えーと、『人』って書いて… 」
えいっ と呑み込んだ。
絵里「…」
どうや? と希が心配そうに聞く。
絵里「… ハラショーよ、希!」
もう大丈夫… と、私はグッと親指を立てた。
ただのおまじないに過ぎないかもしれないが、何故だろう。希が言うと、万能のお薬のように感じる。
絵里「…行くわよ」
希はうん、と頷く。
私はすうっ と深呼吸をし、コンコン、とドアを叩く。
「はあ~い」
ガチャリ、とドアが開き、1人の生徒が顔を覗かせる。
ショートカットの髪の毛と、制服のひらひらと揺れる赤いリボンが映えている。
この色は、3年生…最上級生だ!
絵里「こっ、こんにちは!」 465 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/08(土) 03:05:36.71
ID:MrSpVmvS 思わず声が裏返ってしまった。
普段、上級生と触れ合う事がほとんどない私にとって、3年生はまるでーー少し大袈裟だがーー雲の上のような存在なのだ。
あらあら… と、その3年生はくすくす笑う。
「こんにちは… 別に、緊張しなくていいのよ」
そして、私の後ろに立つ希にも目を遣る。
「お友達?」
はい、と私は頷く。
絵里「私、絢瀬絵里と言います。彼女は同じクラスの東條希と言います」
絵里「実は私達、生徒会のお仕事に興味があって…今日はやって来ました」
こんにちは、と希もぺこりと頭を下げる。
3年生の子は まあっ と眼を丸くする。
「…もしかして、生徒会への入会希望者?」 466 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/08(土) 03:15:53.12
ID:MrSpVmvS 絵里「あ、はい… そういう事になります」
「よっしゃ!」
そう言うなり、彼女はグッ! とガッツポーズをした。
絵里・希「「!?」」
突然の態度の変わりように、驚きを隠せない私達。
彼女はにこにこと笑いながら、私と希の手を引っ張る。
「さあ、入って入って!」
初めて入る生徒会室。 私は物珍しさキョロキョロと辺りを見回す。
壁際の棚には、様々なファイルや資料が納められている。奥の方には、予定表の書かれた大きな黒板。
コの字型に並べられた長机に、何人かの生徒ーー役員だろうかーーが座っていた。みんな、何やら帳簿をつけたり、ファイルを綴じたりと忙しそうに作業をしている。
一番奥の席に座っていた生徒が、ペンを止め、ちらりと視線を上げた。
肩まで伸びた長い髪の毛。額には、小さなヘアピンが留められている。
そして、出迎えてくれた彼女と同じく赤いリボンを胸に付けていた。
絵里(あの人は…!)
希「生徒会長さんやね…」
希がひそひそと囁く。 479 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 01:25:28.51
ID:I/WtJoXf「みんなー! はい、注目!」
出迎えてくれた3年生がパンパンと手を叩いた。
会長以外の生徒も手を休め、視線は私達2人に集まる。
期待や好奇心の視線だろうか…とにかく、たくさんの熱い眼差しを感じ取る。
生徒会長「あなた達は?」
凛とした雰囲気で、会長は問いかけた。
新歓での挨拶以来だが、相変わらず透き通った綺麗な声だ。
「2人とも、生徒会に興味があって今日は見学に来たんだって!」
「ほら…会長に挨拶よ」
にっこりと笑いながら、3年生の子が促す。
絵里「はい… 1年生の絢瀬絵里といいます。初めまして」
希「同じく、1年の東條希です。宜しくお願いします」
2人揃ってぺこり、と頭を下げる。 480 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 01:44:54.15
ID:I/WtJoXf その後は、生徒会の役員達が自己紹介をしてくれた。
まずは、一番上座に座っていた生徒会長。見た目通り、しっかりとした物腰で『頼りになるお姉さん』という印象を抱かせる。
次に、入り口で私達を出迎えてくれたショートカットの生徒だが…以外にも、彼女が副会長を務めているとの事だった。
普段はおちゃらけて生徒会ではムードメーカーであるそうだが、やるときはきちんとやる、メリハリのついたひとらしい。
そして、残るは赤いリボンの2年生。全部で3人いる。
そのうちの1人は書記長を務めており、他の2人は全体の補佐を務めているそうだ。
会長「あとは、監督をなさる先生が付いているけど、生徒全体では全部で5人なのよ」
あれ…1年生は、いないのかしら? …私は ふと疑問を抱く。
希も同じ事を考えたのか、小さく手を挙げて質問をする。
希「あのー、新入生は まだ居ないんですか…?」 481 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 02:02:28.94
ID:I/WtJoXf 副会長「そうなの、まだだーれも来てくれなかったのよ!」
副会長はくわっと眼を見開き、大袈裟に頷く。
副会長「このままだと、生徒会の存続が危ぶまれるから、2、3人しょっ引いてこようかと思ってたのよ」
こらこら、と会長が静かに嗜める。
会長「…ま、私も不安だったんだけどね」
会長「やっぱり、『生徒会』と聞くと仕事が多くて、学校と生徒の間で板挟みになって大変… という印象をみんな抱くのよ」
会長は苦笑いしながら続ける。
副会長「でも、あなた達がきてくれて良かった! これで来年以降も活動出来るから!」
会長「ちょっと、興奮しすぎよ… まだ入ってないんだから」
そういう会長も、さっきからペンをくるくると回している。どこか浮き足立っているようだ。
絵里「大丈夫です。私達… この学校の為に一生懸命働きたいと思ってますので、絶対に入ります」
ね? と、横にいる希にも確認する。
希も うん、と頷く。
希「はい…ウチも同じです。音ノ木坂の生徒会として精一杯頑張りたいです」 482 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 02:20:07.36
ID:I/WtJoXf 副会長「2人とも、宜しく!」
副会長は、私達の手を掴み、ガシッと握手をする。
2年生達も わーい! と歓声をあげる。
会長「まったく… みんな、喜びすぎよ」
そういう会長も嬉しそうに顔を綻ばせている。
良かった… これからは、生徒会として頑張っていけるみたい。
希「えりち、良かったね!」
希がにこっと笑い掛ける。私は大きく頷いた。
絵里「…ええ!」
・・・
その後は、生徒会の仕事内容を把握したり、今後の予定を聞いて…最後は、全員で仲良くお喋りに花を咲かせた。
ふと、副会長が私に話を振ってきた。
副会長「絢瀬さんって、髪の毛すっごく綺麗だよね! 眼も青いし…」
副会長「ひょっとして、ハーフか何か?」 483 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 02:37:58.56
ID:I/WtJoXf また、この質問か… 日本に来てからというもの、高校に入ってからですら これで何度目だろうか。
私は はい、と答える。
絵里「実は、祖母がロシア人なんです」
書記長「じゃあ、いわゆるクォーター っていう奴なの?」
書記長が おおっ! と驚く。
私は そうです、 と頷いた。
副会長「いいな~、私なんて外国にすら行ったことないな~」
副会長「かいちょー、どこか連れてってよ~」
副会長は羨ましそうな声をあげ、横にいる会長の袖を引っ張る。
会長「生徒会の活動があるじゃないの」
2人の掛け合いを聞きながら、私は、ははは… と苦笑いをする。
そう、この質問が来ると、次は必ずあれを聞かれるのだ。
書記長「じゃあさ、何かロシア語で喋ってみてよ!」
絵里(ほら、やっぱりね)
何かって…一体、何を話せばいいのだろうか?
みんな、そんなに外国語に飢えているのだろうか?
希「…えりち、どうしたの?」
希に話し掛けられ、私は はっ! となった。いけないいけない、また考え事に走ってしまった。
絵里「大丈夫よ、希」 485 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 02:53:59.32
ID:I/WtJoXf 絵里「Здравствуйте. Меня зовут Эри Аясэ. …」
私は適当にロシア語で挨拶をする。みんな、流暢な発音ーー母国語でもあるから、当然だけどーーに、おおーっ! と驚く。
副会長「いやー、すごい!」
副会長がぱちぱちと拍手をする。
副会長「これで、いつ街でロシア人に話し掛けられても大丈夫ね!」
当たり前でしょ、 と会長が軽いツッコミを入れ、副会長の頭をコツンと叩く。
絵里「ふふふ…」
会長と副会長。
ボケとツッコミが絶妙に上手く働いている。まるで、コントみたい…
見てて可笑しさが込み上げてしまい、私は笑いを抑えきれなかった。
副会長「絢瀬さん、どうしたの?」 486 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 03:10:35.27
ID:I/WtJoXf いえ… と、私は口元を抑える。
絵里「お2人とも、とっても仲がいいんですね?」
絵里「見てて、楽しくなっちゃって…」
おほん、と会長が小さく咳払いをした。
会長「…ま、彼女とは幼馴染みというか、昔からの付き合いというか… いわゆる、腐れ縁というものね」
副会長「あー! 会長ったらひどーい!」
もっと、言い方ってのがあるんじゃないの! と、 副会長は唇を尖らせる。
絵里(幼馴染み、か…)
そういえば、希とにこ も長い付き合いがあると言っていたわね。
いつからの付き合いなのだろう…もしかしたら、彼女達も幼馴染みなのだろうか?
私も、希と幼馴染みだったら にこ みたいに胸をわしわしされるのだろうか?
書記長「絢瀬さんと東條さんも、ひょっとして幼馴染みなの?」
ふいに、書記長が質問をする。
絵里「…えっ?」 487 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 03:24:52.11
ID:I/WtJoXf 書記長「えーと、わざわざ2人そろって生徒会に来るくらいだから…」
書記長「実は、私達3人も幼馴染みなの」
ねーっ! と、2年生3人組で顔を見合わせ頷く。
そうだったのか、やけに3人で固まっているなとは思ったが、これも幼馴染みパワーがあるからなのだろうか。
何と答えようか、と私は言い淀む。
希がいいえ、 と答えた。
希「残念ながら、えりち… 絢瀬さんとウチは、幼馴染みじゃあ ありません。初めてあったのも、音ノ木坂に入ってからです」
希「でも、ウチにとって えりち は、大切な、大切なお友達です」
希「まるで、昔から知っている… そんな気持ちがします」
そこまで言って、希は喋りすぎた と思ったのか、静かに俯く。
絵里(希…///)
こんな事を言われるなんて、照れるじゃないの。
副会長「…おぉ、妬けますなあ」 488 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 03:33:41.14
ID:I/WtJoXf 副会長がにやりと笑い、私達を交互に見る。
希「えりち、変なこと言ってごめんね」
希は顔を紅潮とさせ、慌ててフォローをする。
私はううん、と首を振る。
絵里「私、とっても嬉しいわ…ありがとう」
本当に、彼女と幼馴染みだったら良かったのに。
私達は時と場所を忘れ、2人で微笑みあう。
副会長「…おーい、ここは生徒会室だぞ~…」
副会長の声も、耳に入らない。 489 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/09(日) 03:49:34.68
ID:I/WtJoXf 会長「そういう事は、あとでやって貰えるかしら? …気持ちは分かるけど」
絵里・希「「…ご、ごめんなさい」」
冷静に諭され、私達はしゅん となった。
でも、気持ちはわかってくれるのか…
そういえば、会長はさっきから副会長をちらちらと見ているような…
会長って、もしかして…?
そこまで考えたのだが、何かを勘付いたのか、会長はわざとらしく大声を出した。
会長「さ、さあ! もう遅くなったし、帰りましょうか!」
副会長「えっ、仕事は?」
また明日! と、会長は答え、私達の方を向く。
会長「絢瀬さん、東條さん… こんな感じだけど、大丈夫かしら?」
はいっ! と、私達は揃って頷く。
会長「じゃあ、生徒会の入会届けを渡すから、これにサインと判を押して、私のところへ持ってきて頂戴」
そう言って、会長は私達に用紙を手渡した。
会長「じゃあ、2人とも…明日から一緒に、頑張りましょう!」 499 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 01:58:15.42
ID:zrdkHLrPーー帰り道。
校門を出て、他の生徒会員達と別れた私達は、暗い夜道を歩いて帰る。
希「みんな、なかなかええひと達やったね」
希がにこにこと、嬉しそうに話す。
希「特に、副会長さんのキャラが立ってたね」
絵里「…ええ、そうね」
私はさっきから、歩きながら考え事をしていた。
折角、希が話を振ってくれるのに、私は無下に答えてしまう。
希「えりち?」
私の妙な態度が気になったのか、彼女は私の顔を覗き込む。
絵里「あ、ごめんなさい…大丈夫よ」
希「…嘘や」 501 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 02:16:40.41
ID:zrdkHLrP 直後にビシッと否定される。
希「えりち、さっきからずっと上の空やで」
絵里「…」
やっぱり、バレバレだったか。
希「えりち の顔を見たらわかるんよ。何か、言いたいけど言えないことを抱え込んでいるって」
希「…ウチじゃ、相談相手に向かないん?」
絵里「そんな事ないわ!」
でも…私の抱え込んでいる事なんて、他のひとにとっては取るに足らないものかもしれない。
だから、言おうか言わまいか迷ってしまう。
希「…」
黙り込んだ私を見て、希は一瞬何かを考える。
希「えりち、少しだけ時間を貰える?」
絵里「え? ええ…」
亜里沙には、今日も遅くなると伝えてあるから、多少の融通は聞きそうだ。
希「立ち話もなんやから… 落ち着いたところに、移動しよか」 502 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 02:33:26.72
ID:zrdkHLrP 夜風の吹く緑豊かな公園。
都心にあるとは思えないほど、閑散としている。
私と希は、湖のほとりにあるベンチまでやってきた。
私はゆっくりと腰を下ろす。
希も続こうとしたが、ふいに、あっ、と小さく呟いた。
希「…えりち、何か飲み物買ってこよっか」
何がええ? と、聞いてくる。
絵里「いいの?」
希「勿論や」
そうね、何にしようかしら… と、考えるが。
優柔不断な私には、パッと決められそうにない。
絵里「希に、おまかせしてもいーい?」
わかった、まかせて。 そう言い残して、希は小走りで販売機の方へ駆けて行った。 503 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 02:52:56.64
ID:zrdkHLrP 待っている間、私は眼の前に広がる湖面を眺めていた。
暗い色に染まった水面には、月の光が優しく反射している。
絵里(なんだか、吸い込まれそう…)
でも、いくら街灯が点いているとはいえ、暗いところが苦手な私にはあまりいい気分ではない。
絵里(希、はやく戻ってきて…)
「えーりち」
後ろから突如声がし、私はビクッと震える。
絵里「あ…」
良かった、希だったわ。
希「ごめんごめん、驚かせてもうた?」
絵里「ちょ、ちょびっとだけね!」
精一杯、私は強がってみせる。
ふふ、と希は微笑み、はいこれ と私に腕を差し出した。
その手には、スチール缶が握られている。
希「ウチと、同じものにしちゃった」
彼女はぺろり、と舌を出す。
希「だけどな、これはウチのお勧めや。…気に入ってくれると嬉しいけど」
絵里「ジャスミンティー…」
ラベルの文字を読み上げる。 504 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 03:09:27.40
ID:zrdkHLrP せや、と希は頷く。
希「ジャスミンティーってな… 中国原産のお茶で、効用がいっぱいあるんよ」
希「不眠を解消してくれたり、不安な気持ちの軽減。ええと、それから…」
指を折って数え上げる希。
希「自律神経をほぐしてくれる… つまり、リラックス効果」
希「今のえりち にはピッタリな飲み物やと思う」
希「さ、飲もっか」
私は小さく頷き、プルタブをえいっ と引っ張る。ぷしゅっ と景気のいい音が2つ、辺りに響き渡った。
絵里「ハラショー…美味しいわ」
初めて飲んでみたが、思いの他美味しかった。
ジャスミンの香りが鼻腔をくすぐり、ほのかな酸味が味付けを豊かにしている。
ロシアンティーに、どこか似ているような
良かった~、 と希が顔を綻ばせた。
希「ジャスミンの香りが苦手ってひとが多いから、少し不安やったんよ」
絵里「へえ、そうなの?」
いい香りね、と感じた私には理解出来ない。
少なくとも、私にとってジャスミンティーはお気に入りの飲み物になった。 505 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 03:24:08.63
ID:zrdkHLrP 絵里「…」ゴク
希「…」ゴク
それから暫く、私達は黙ってお茶を飲み続けた。
不思議な事に、ひと口飲む度に沈んでいた気分が少しずつ晴れやかになる。
確かに、お茶の効用もあるのかもしれない。
だけど、隣に希が座っているーーこの事が、私にとって一番の効用になっているのかも。
絵里「…ふう」
私は小さくひと息つきをつき、隣に座る希の方を向いた。
絵里「美味しかったわ… どうも、ありがとう」
希「落ち着いた?」
絵里「ええ…」
さて、いよいよ胸の内を明かすときだ。
希はにこりと微笑んだまま、何も言わない。
全ては私のタイミングに任せてくれているのだ。
私はゆっくりと話し始める。
絵里「あのね… 私、自分というものがよくわからなくなったの」 506 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 03:38:18.67
ID:zrdkHLrP 希「わからないって…えりち自身が?」
希は小さく首を傾げる。
ええ、と私は頷く。
絵里「私は、お祖母様が向こうの方だから、ロシアの血が濃く受け継がれているわ」
絵里「だから、自分でいうのも何だけど… 普通の日本人とは異なった容姿をしている」
絵里「小さい頃、日本にやってきてから…こっちでは注目を多々集めたわ」
うんざりするくらいね。 と、私は続ける。
絵里「中学校でも、私はまずひときわ目立っていたわ。…そりゃそうよね。金髪の子なんて、他にいないんですもの」 509 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 14:25:23.66
ID:zrdkHLrP 絵里「入学してから、初めのうちは大勢の子に囲まれたわ。さも物珍しかったのでしょうね」
小学校が一緒だったひと なら慣れもあっただろうが、他の小学校から来た生徒に私の姿はどう写っていたのだろうか。
かなり、珍しかったに違いない。
絵里「みんな…ひたすら、私が『異邦人』である事を望んでいた」
私がせがまれて、ロシア語を話すたびに皆驚き、珍しがる。
まるで、ピエローーううん、見世物小屋の出演者みたい。
私は普通でありたかったのに。
他のひと との間に、何か見えない壁があるーー私はそんな気持ちがした。
私がテストで良い点数を取ったり、体育の授業で活躍する度に、みな羨み、そしてどこか諦めた顔になるのだ。
そして、ヒソヒソと陰口を叩く。
「日本人じゃないから、仕方ないかーー」
「絢瀬さんと私達とでは、違うものね」
その言葉の矢は、私の心にグサリと刺さった。 510 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 14:43:29.51
ID:zrdkHLrP 希「…酷いなあ」
希が、どこかやるせ無い表情になり、ぎりっと歯を食いしばる。
絵里「結局、中学では最後まで仲のいい お友達は出来なかったわ」
中学3年ーー受験の年。
私は、たまたま勉強が出来たこともあって進路選択の幅が広かった。
その気になれば、都内有数の進学校に進める、そう先生に言われたこともある。
お友達と一緒に記念受験、なんていう考えは はなから頭になかった。
絵里「何処に進もうか、と考えていた私が ふとしたきっかけで会ったのが音ノ木坂だったの」
学校見学で、日程が丁度開いた日に音ノ木坂の説明会があった。
参加した私は、期待以上の雰囲気に驚いた。
『国立』と名打っているが、程良い偏差値にお洒落な制服。
資料を見る限り、進学実績もそこそこあるようだ。
そして、何より学校生活を営む生徒の表情が決め手となった。
絵里「みんな、勉強や部活に一生懸命打ち込んでて…楽しそうな顔をしていた」
希「…なるほど」
高校に入ったら、絶対に変わる。今迄とは違う、新しい私が誕生する。
私はそう胸に誓った。 511 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 14:59:04.36
ID:zrdkHLrP そして、受験を終えた私は、無事に音ノ木坂に合格。
まさに第一志望だったので、飛び上がるほど喜んだ。
私にとっては薔薇色の高校生活が始まるーー筈だった。
入学早々、私は学校の注目の的となる。
あのクラスに、異国風の子がいるんだって!
好奇な視線を集め、みな私に寄ってたかって質問を浴びせかける。
私がロシア系だと分かってからは、皆露骨にロシアの事を聞きたがるようになった。
ロシア語を話すことを期待し、求めてきた。
絵里「…私の容姿が異色であって、ひと とは違っているから注目を集めていた」
絵里「私を外見だけで判断し、繋がりを求めてきたわ」
結局、中学時代とまるで変わらない。違うのは、男子生徒がいるかどうかだけ。
仮に、私の髪の毛が黒くて、瞳も青くなかったならばーーつまり、日本人であったとしたら、周りからちやほやされただろうか?
分からない。だけど、少なくとも今とは違う私であった筈だ。 512 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 15:16:31.48
ID:zrdkHLrP 絵里「私は… ほんとは、性格も押しが弱くて意思形成も薄弱な、ひと に流され易い1人の弱い人間なのよ」
ロシア人は、勝気な性格で冷酷なところもあり、何かある度に「ウラー」、「ハラショー」と叫ぶーー「ハラショー」は私も使うわねーーそんなステレオタイプを、みんな持っている。
絵里「私の本当の内面を出せずに、惰性的にここまで来た」
絵里「…希と出会うまでは」
私にとって唯一無二の支えとなった希。
彼女の瞳は、私の内面を見てくれている。
これは、私の直感だ。だが、この直感は間違ってはいない。
絵里「そして、さっきの生徒会」
希「…うん」
彼女は何か察した顔をする。
絵里「書記長も、別に悪気があって聞いた訳じゃあ無いと思う」
純粋に、ロシア語を話せるかどうかが気になっただけなのかもしれない。
だけど、やっぱり私にとっては余り愉快な質問ではなかった。
ロシア語が話せるから何だというのか。
金髪で青い瞳の女の子には、異国の言葉の方が似合っているのかしら。
・・・
絵里「…と、まあ、こんなところかしら」
希「…」 513 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 15:34:27.50
ID:zrdkHLrP 絵里(言ってしまった…)
他のひと に、ここまで私の本音を語ったのはこれが初めてだった。
ついつい、長く話してしまった。
彼女はーー希は、これを聞いてどう感じただろうか。
じっと耳を傾けていた希は、暫く何も喋らない。
都会の喧噪が微かに聞こえてくるばかり。
希は お茶の缶をベンチに置き、やおら立ち上がった。
絵里「…?」
無言で私の後ろに回り込む。
絵里「…!」
次の瞬間。
私は、彼女に抱きしめられていた。
ぎゅーっと力強く、でもどこか優しく、愛おしそうに…
私と希の頬っぺたが触れ合うほど近くなっている。
彼女の暖かい体温が、私に伝わってくる。
絵里「の、希!?」 515 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/10(月) 15:51:01.15
ID:zrdkHLrP 突然の事態に、私の心臓はバクバクと高まる。
この距離なら絶対、希にも胸の鼓動が聞こえている。
えりち… と、希が口を開く。
希「…辛い事を話させてしまって、ごめんな」
絵里「希…」
いいのよ、と私は小さく呟き、抱きしめられるがままにする。
耳元で、希が小さく囁く。
希「えりち は、1人で抱え込みすぎや」
絵里「…うん」
そうかもしれない。周りに相談相手がいなかった事もあるが。
少し力を緩めながら、彼女は喋り続ける。
希「…えりち は、えりち やん」
希「金髪とか、ロシア系とか、そんなのウチには関係ない…あなたは、絢瀬絵里という1人の立派な個人」
彼女はすうっと息を吸い込み、ゆっくりと言葉を続けた。
希「ウチは、そんな えりち が愛おしくて…大好きなんやで」
絵里「!」 529 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/12(水) 00:16:40.04
ID:G4Vian/K絵里「のぞみ…///」
たった今。
彼女がーー希が私の事を『大好き』だと言ってくれた。
…信じられない。そして、とっても嬉しい。
人目も憚らず、思いっきり「ハラショー!」と叫びたい気分だ。
何か答えたいが、私の頭の中での情報処理が追いつかず、上手く言葉が出てこない。
希「…!?」
希「ああっ!…///」
ふいに、希が慌てて立ち上がり、私から離れた。
何事かと後ろを向き、希の方を見る。
希は少し離れた場所で両手で顔を覆い、じっと うずくまっていた。
絵里「ど、どうしたの!?」
私も急いで立ち上がり、彼女の元へ駆け寄っていく。
希は顔から手を離し、呆然とした表情で私を見上げた。
希「…えりち、ごめん! ウチったら、今 一体何を…///」 531 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/12(水) 00:35:02.60
ID:G4Vian/K 絵里「な、何って…/// その…」
口に出すのが恥ずかしいけど、私は思い切って ひと息で言う。
絵里「私の事が、『大好き』だって…言ったわ///」
希「うう、やっぱり…///」
再び彼女は顔を覆う。
指と指の間から僅かに見える彼女の顔が真っ赤になっているのは、多分見間違いではない。
絵里「…希」
私はうずくまったままの彼女の手をとり、えい と引っ張る。
彼女も抵抗せず、素直に立ち上がった。
やっぱり…月明かりでもはっきりとわかる。彼女の顔は赤く染まっていた。
希「…な、なに? えりち…」
彼女はおどおど とした声を出し、視線をあさっての方へ向け、私と合わせようとしない。
絵里「…私も伝えたい事があるの」
絵里「だから、私の顔を見て」 532 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/12(水) 00:52:11.83
ID:G4Vian/K 希「…うん、わかった///」
彼女は諦めがついたのか、ゆっくりと視線を前に向ける。
…駄目だ。彼女の瞳を見ただけで、私の方が恥ずかしさで目を背けたくなる。
しかし、今が私にとっての大舞台だ。
私は深呼吸をし、心を落ち着かせる。
絵里「…私ね、初めて希と会ったときから、ずっとあなたの事が気になっていたの」
絵里「教室でも、廊下でも、放課後も…気がつけば、自然と希の姿を追っていた」
絵里「私、わかったの。これがどういう事なのか」
私はにっこりと、彼女に微笑みかける。
絵里「私も、東條希という1人の個人が好きになったんだ、って」
そして、彼女の瞳を見つめながら、ゆっくりと言葉を続けた。
絵里「希…私も、あなたの事が大好きです」 540 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/13(木) 01:04:40.94
ID:YFCOX9njそう言った刹那、希の瞳孔が大きく見開かれた。
小さく息を飲み込んでいる。
そして、微かに身体を震わせ
希「えりち…/// 嬉しい!」
彼女は思い切り抱きついてきた。
今度は真正面から、飛び込むように。
ぎゅーっと、抱きしめられるが、私も抱き返す。
希の豊かな2つの お山が、私の胸部にぐいぐいと押し当たる。
それを感じながら、私は希の耳元で囁く。
絵里「私も…とっても嬉しいわ///」
絵里「だって…やっと、想いを伝えられたんだもの///」 541 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/13(木) 01:21:28.32
ID:YFCOX9nj 希は無言でこくこく と頷く。
私もそれ以上は何も言わず、希の豊満な肉体を精一杯感受する。
絵里(希って…とってもいい匂いがする)
一体、どんなフレグランスを使っているのかしら。いや、香料だけではない。希自身から芳しい匂いがする。
希「えりち…///」
希も満更ではなさそうな顔をする。
その時。
ヴー! ヴー!
絵里・希「「!?」」
夜の公園に、携帯のバイブレーションの音が響き渡った。
希がびくりと震え、慌てて私から ぱっと離れた。
希「携帯… えりち の方から鳴っているで」
我に返った、とばかりの表情になった希が指摘する。
絵里「う、うん…」
興奮冷めやらない私は生返事をし、ポケットから携帯を取り出す。
絵里「あ…亜里沙からだ」
画面に表示された妹の名前を見て、私も現実に引き戻された。 542 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/13(木) 01:40:06.52
ID:YFCOX9nj しまった、すっかり時間を忘れていた。
メールの受信箱を開くと、私の帰りが遅いから、先に食べているとの旨が書かれていた。
絵里(ごめん、亜里沙!)
急いで返信をする私を尻目に、希は ふうーっ と、長い溜息を吐いた。
私が携帯をパタン と閉じると同時に「えりち…」と話し掛ける。
希「もう遅いし…そろそろ、帰ろっか」
絵里「…」
…そうね、亜里沙も待っている事だし。
私も名残惜しかったが、素直に ええ、と頷いた。
・・・
公園を出た私達は2人並んで家路に着く。
希「えりち…」
希が私の肩をツンツンと突っつく。
絵里「なあに?」
希「さっきのウチら、はたから見たらどう思われてたかなあ…///」 543 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/13(木) 01:54:45.66
ID:YFCOX9nj うーん、と私は唸り声を上げる。
夜の公園で、じっと抱き合っている2人の女子高生。
確かに、誰かに見られていたら何事かと思われるだろう。
絵里「…冷静に考えると、結構危ない事をしていたわね…///」
希「…せやろ?」
だからね… と、希は続ける。
希「今夜の事は、ウチとえりち、 2人だけの秘密にしとかん?」
絵里「2人だけの秘密…」
彼女の言葉を鸚鵡返しに呟く。
希「うん…///」
希はそれ以上は言わず、もじもじと身体を動かす。
私はこくりと頷く。
絵里「…わかった」
希「…ありがとさん、えりち」
希と2人だけの秘密、か…
ふふ。 544 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/13(木) 02:13:29.76
ID:YFCOX9nj いつもの待ち合わせ場所が見えてきた。
朝は出会う場所、そして夜は別れの場所。
嫌だな。希と別れたくない。
絵里「希…」
私は恐る恐る彼女の顔を見る。
希「えりち、どしたん?」
絵里「今日も…家に来る?」
希「!」
少し希は何か考えこむが、
希「ごめん、えりち…」
希「今日は、辞めておく」
絵里(ガーン!)
大ショック。
今日のこの、今迄の流れだったら、希も「うん!是非!」って にっこりしながら頷いてくれるだろう。そして、あわよくばお泊まりというシチュにまでーーそう考えていた自分が甘かった…
希「ご、ごめんな…」
彼女は おろおろと狼狽える。 545 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/13(木) 02:27:33.89
ID:YFCOX9nj 希「そ、そんな見るからに残念そうな顔をせんでもええやろ…」
ああ、自分でも気付かない内にそんな顔をしていたのか。
絵里「だって…」
だって、嫌なんだもん。希と別れるのが。
私も イジイジといじけた素振りを見せる。
希「…えりち」
絵里「…?」
希は何かを決意したような顔をし、私に ぐいっと近づいてきた。
そして、私に顔を近づけーー
チュッ
絵里「!?」 547 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/13(木) 02:42:20.88
ID:YFCOX9nj 右の頬に、熱い衝撃が走った。
希は一瞬だけ接吻をし、私から離れる。
絵里「…///」
私は驚きのあまり、何も言葉が出てこない。
希「やっちゃった…///」
希は小さく呟き、 えへへ、とはにかむ。
絵里「の、希…///」
希に、キスされちゃった…
彼女は、衝動的にやってしまったのだろうか…?
希「…えりちの頬っぺた、とっても柔らかかったで///」 548 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/13(木) 02:59:07.03
ID:YFCOX9nj 絵里「な、何言ってるのよ…///」
私はこう答えるが、胸がドギマギとし、意識がどこかに吹っ飛んでいきそうだ。
嘘やない。 と、希は顔を真っ赤にしながら呟き、私に微笑みかける。
そして、ふうっと 息を吐く。バッグを背負い直し
希「じゃあ、えりち…///」
希「…また明日ね!」
そう言い残すと同時に、ダッ と走り去っていった。
2つのおさげが大きく揺れているのが遠目にもわかる。
私は、彼女の姿が見えなくなるまで暫く動けなかった。
やっと、心が落ち着き多少の冷静さを取り戻した。
絵里「…希の ばか」
誰にも聞こえないように、ボソリと呟き、空を仰ぎ見る。
ズルい。ズルすぎるわよ、希。
…こんな事されたら、あなたの事が益々好きになってしまうじゃない。 561 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/14(金) 01:29:38.39
ID:y5vTf6F3マンションに帰り、自宅の玄関ドアを開ける。
絵里「ただいま~…」
いつもは、おかえり~! と、パタパタ出迎えてくれる筈の妹。
だけど、今日は少し待っても出てこなかった。
絵里「…亜里沙?」
訝しんだ私は、リビングの扉をガチャリと開ける。
亜里沙「…スゥ …スゥ」
彼女はダイニングテーブルに突っ伏して眠っていた。
机の上には、真っ新なカレー皿が2つ置かれている。
絵里(ひょっとして、まだ食べていないのかしら…) 562 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/14(金) 01:51:40.96
ID:y5vTf6F3 メールでは、先に食べていると書いていた筈なのに…
私が帰ってくるまで食べずに待っていたのかしら。
絵里(亜里沙には、悪い事しちゃったわね…)
先に荷物を片付けようと、リビングから出ようとしたとき
亜里沙「…うぅ~ん」
亜里沙が もぞもぞと動き、パチっと眼を開いた。ナイスタイミングね。
亜里沙「あ…おかえり、お姉ちゃん」
んー、と伸びをしてから彼女は私に微笑みかける。
絵里「ただいま、亜里沙…ごめんね、遅くなって」
まだ食べてないの? と、私は確認する。
亜里沙は うん、と頷く。
亜里沙「…亜里沙1人で食べるよりも、お姉ちゃんと一緒のほうが楽しいから」 565 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/14(金) 02:10:50.78
ID:y5vTf6F3 亜里沙「だから…お姉ちゃんが、帰ってくるのを待ってたの」
彼女は無邪気に笑う。
私が遅くなった理由なんて、露知らずに。
絵里「亜里沙…ごめんなさい!」
その笑顔を見るのが辛くて、私は妹の身体をーー強くは、抱きしめられなかった
だから、軽く包みこむように腕をまわす。
どうしたの、お姉ちゃん、 といいつつも亜里沙は嬉しそうに身体を捩らせた。
絵里「私って、悪いお姉ちゃんね…」
私が希と楽しんでいたとき、亜里沙はこの広い家の中で、1人じっと私の帰りを待っていたのだ。
そして、たった今も、これはただの姉妹の戯れだと思っているに違いない。
これに罪悪感を感じないひと はいるのだろうか? いや、絶対にいない筈…少なくとも、私は。
亜里沙「…お姉ちゃん?」
彼女は じっと私を見上げる。
亜里沙「もしかして…泣いてるの?」 566 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/14(金) 02:26:11.56
ID:y5vTf6F3 絵里「…え?」
亜里沙「お姉ちゃんの眼から、涙のようなものが…」
いつのまにか、私は目頭が熱くなっていた。涙の筋が頬を伝っているのが分かる。
絵里「…別に、泣いてないわ!」
私はハンカチを取り出し、慌てて目元を拭う。
そして、亜里沙に向かって笑顔を作る。
絵里「…ほうら、この通り。何ともないでしょ?」
絵里「遅くなったから…少し、疲れているだけよ」
私は懸命に誤魔化しの言葉を並べる。
妹の前で、涙を見せるなんてーープライドの問題とかではない。
亜里沙に、それ以上の理由を聞かれるのが怖かったのだ。
亜里沙「…」
亜里沙「…うん、そうだね!」
一瞬の間があったが、亜里沙は納得したように笑う。
亜里沙「やっぱり、さっきのは見間違いだったみたい!」 567 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/14(金) 02:39:26.23
ID:y5vTf6F3 絵里「ふふ…そうでしょ?」
絵里「じゃあ、着替えてくるからもう少し待ってて」
はーい、と亜里沙がいうのを尻目に、私はリビングから出て行った。
部屋に戻る前に洗面所に行き、鏡を覗き込む。
絵里(少し、赤くなってる…)
私の白目は僅かに赤くなっていた。
これに気づかないわけが無いと思うがーーきっと、亜里沙は私を気遣ってくれたのだろう。
絵里「ごめんね、ごめんね…亜里沙」
私は妹の心遣いに、ただ感謝するしかなかった。 568 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/14(金) 02:51:34.09
ID:y5vTf6F3 私は更に、顔の角度を動かし身だしなみのチェックをする。
絵里「…!」
左を向いたときーーつまり、鏡に顔の右側を映し出したとき。
小さな赤いマークがついている事に私は気づく。
絵里(もしかして、さっきの…!?)
帰り際に、希が私に残した痕跡。
頬っぺたにーーそれも一瞬だったから、形跡は無いと思っていたのに。
絵里(ごめん、希!)
希には本当に失礼だが、私は慌ててゴシゴシと洗い流す。
絵里「…うん、消えた」
消えてしまった…けど、仕方がない。
それにしても、亜里沙の前でこんな顔をしていたなんて…
もしも、亜里沙が気付いていたとしたらーー彼女は、一体何と思っただろう。 569 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/14(金) 03:04:21.44
ID:y5vTf6F3 リビングへ戻ると、亜里沙が やっと来た! と、言いながら駆け寄ってきた。
亜里沙「遅いよ~、早くカレー食べようよ!」
亜里沙「亜里沙、もうお腹ペコペコ!」
彼女は無邪気に私にまとわりつく。
…うん、この分だと亜里沙は何も気付いていなかったようだ。
私は ほっとすると同時に、後ろめたさで再び罪悪感を感じる。
…私は無理矢理気持ちを押し殺し、亜里沙の頭を優しく撫でる。
絵里「…ごめんごめん、片付けに手間取っちゃったの」
絵里「それじゃあ、食べましょうか!」
亜里沙「うん!」
亜里沙の満面の笑み。
いつもの見慣れた顔なのに…今の私には眩しすぎる。 572 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/14(金) 12:10:08.27
ID:y5vTf6F3 ーーキッチンに広がる、カレーの香り。
私は火をとめて、お皿によそる。
残り少なかったが、今夜食べる分には充分だ。
絵里・亜里沙「「いただきます」」
パクリ と、一口含む。…希のカレーは、1日たっても美味しかった。
だけど…今の私には、この味が希の顔を彷彿とさせて逆に辛く感じる。
私は食べかけのまま、スプーンをカチャリと、お皿に置く。そして、ゆっくりと立ち上がった。
亜里沙「…お姉ちゃん?」
絵里「…ごめん、亜里沙。なんだか身体の調子が悪いみたい」
少し、部屋で休んでくる。 そう言い残し、私は立ち上がった。
亜里沙「ま、待って…」
後ろから妹の声がするけど、私は逃げるようにリビングから飛び出した。 573 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/14(金) 12:27:23.20
ID:y5vTf6F3 自室に戻り、ドアを閉める。そのまま、私はベッドの上に飛び込み、眼を瞑った。
…本当は、どこも具合なんて悪くない。寧ろ、すこぶる調子は良い。
私はただ、逃げてきただけ。
亜里沙の顔を見るのがーー彼女と同じ空間に居る事が、急に辛くなってきたのだ。
絵里(亜里沙… 希…)
私は2人の顔を思い描く。
どちらも、私にとっては大切な、大好きなひと。
…やっぱり、どちらかを選ぶだなんて、私には決められない。
私は静かに両眼を開き、むくりと起き上がる。
そして、改めてベッドに座り直した。
携帯を取り出し、とある番号に掛ける。
数コールしてから、相手は はい、と電話に出てくれた。
『もしもし…希です』 575 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/15(土) 00:22:23.11
ID:IbSyHjk1 絵里「もしもし…私よ」
希『…えりち!』
どうしたん? と、彼女は電話の向こうで嬉しそうな声をあげる。
どんな顔をしているのかが容易に想像できる…その笑顔を、私が壊してしまうかもしれない。
だけど、私は意を決して話し始める。
絵里「あのね…今日の、告白の事なんだけど…」
希『うん、うん!』
絵里「…もう一度、ゆっくり考えさせて欲しいの」
希『…え?』
どういう事なん? と、彼女が聞いてくる。電話の向こうからでも、焦っている様子が分かる。
絵里「ごめんね…」
絵里「私ね…また、わからなくなっちゃったの」
絵里「希の事は大好き。本当に好きよ…だけど」
私には妹がいる。…私の事を慕ってくれ、そして何より私を好いている、素敵な妹が。
絵里「亜里沙の事を考えるとね…頭が混乱しちゃって…自分の気持ちに整理がつかなくなってしまうの」 577 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/15(土) 00:38:08.11
ID:IbSyHjk1 受話器の向こうで、希が息を呑む。
希『亜里沙ちゃん、か…』
絵里「…ええ」
突然電話をして、こんな事を言い出す私。受話器の向こうで、希は一体どんな顔をして聞いているだろう。
それを想像するのが怖い。
希『…わかった』
希『今日の事は、ひとまず…保留っていう事にする』
絵里「希…」
拍子抜けする位、素直に分かって貰えた。
ありがとう…希には、気分屋と思われても仕方がない。
だけど、私は亜里沙の事を考えると…これからの、希との先を考える事が出来なくなる。
絵里「…本当に、ごめんね」
私は声を、やっとの事で絞り出す。
希『ええって、別に…』
絵里「…」
希の声は淡々としていて…感情が伝わってこない。
暫く、私達は無言になる。沈黙が辛い。
…ああ、何か話題は無いかしら。 578 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/15(土) 00:52:47.19
ID:IbSyHjk1 希『…そういえば、えりち はもう、生徒会の加入届けは書いた?』
絵里「えっ? …あっ、まだだったわ」
希『もう、明日忘れないでな~』
希が急にトーンを高くし、明るい声を出す。
良かった。希が話題を変えてくれた。…気を遣わせてしまったみたいだけど。
・・・
それからは、当たり障りのない話が続き、最後まで、当初の話題が蒸し返される事はなかった。
希『…ほな、そろそろ』
絵里「ええ…また明日、ね」
おやすみ、と言って ピッ と、電話を切る。
…気が付けば、30分以上も話していた。
絵里「はあ…」
私は通話の切れた携帯を見つめ、小さく溜息をつく。
希に電話を掛けてーー私の考えを、伝えてしまった。
はたして、この行為は正しかっただろうか?
…分からない。 579 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/15(土) 01:08:32.14
ID:IbSyHjk1 その時、コンコン と部屋のドアが叩かれ
亜里沙「…お姉ちゃん、入ってもいい?」
廊下から、亜里沙の声が聞こえた。
絵里「…どうぞ」
返事をするのと同時に、ドアがガチャリと開き、亜里沙が顔を覗かせた。
亜里沙「お姉ちゃん…電話、終わったの?」
絵里「…聞こえてたの?」
うん… と、彼女は小さく頷く。
亜里沙「身体の具合、良くなったのか気になったから様子を見に来たの」
亜里沙「そうしたら、中から話し声がするから、あっ電話だなって思って…」
絵里「そっか…」
亜里沙が側に寄ってきたので、少し身体をずらす。
亜里沙「よいしょっ…」
私の横にポフッと腰を降ろした。 580 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/15(土) 01:22:42.88
ID:IbSyHjk1 絵里「…私なら、もう大丈夫よ」
私は心配そうな顔をする妹に微笑みながら、労いの言葉を掛ける。
亜里沙「…ほんと? それなら、いいんだけど」
亜里沙「お姉ちゃん、さっきから元気が無くなっているから」
今日、本当に何もなかったの? と、彼女はじっと私を見つめる。
…その質問に、何て答えれば良いのかしら。
…私は視線をそらし、「大丈夫だから」と呟く。
亜里沙「…うん、わかった」
そう言いつつも、訝しげな顔をする亜里沙。
…私は、話題を逸らすかのように、逆に亜里沙に質問をする。
絵里「ねえ、亜里沙?」 582 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/15(土) 01:38:36.42
ID:IbSyHjk1 亜里沙「なあに?」
彼女はキョトンとした顔をする。
絵里「亜里沙は、私の事…好き?」
亜里沙「うん! 勿論!」
間髪入れずに答える亜里沙。
絵里「それは… Likeっていう意味で?」
絵里「それとも… Loveっていう意味かしら」
亜里沙「お、お姉ちゃん…?」
亜里沙は、びっくりして眼をしばたかせる。
急に こんな質問をすれば、誰だって驚くに違いない。
私は ふふっ と微笑み
絵里「…ごめんごめん、冗談よ」
亜里沙「んもーっ! 変な事聞かないでよ~」 584 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/15(土) 01:57:26.69
ID:IbSyHjk1 亜里沙「えっと、あのね…」
ふいに、亜里沙が真面目な顔をして こちらをチラリと見遣る。
亜里沙「今の質問… 私は、お姉ちゃんの事、『Like』よりもね…」
絵里「えっ?」
彼女の言葉は最後まで聞き取れなかった。
亜里沙「あ、亜里沙…もう、お風呂入っちゃうね ///」
亜里沙「カレー、そのままにしてあるから! それじゃあ!」
そう言い残し、バッと部屋から飛び出して行った。
絵里「亜里沙…」
私は暫し、座ったまま動けなかった。
そうか。亜里沙もおそらく、私の事が…
絵里(私、わからないわよ…)
結局、一度は受け入れた希の告白を保留させてしまい、更には亜里沙の気持ちにも気づいてしまった。
のろのろと立ち上がりながら、私は心の中で誰かに助けを求める。
誰か、私に教えて…私は一体、どうすればいいのよ… 591 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 01:05:15.66
ID:DRl2Mr5K 再開
---
リビングへと戻る。テーブルに置かれた食べかけのカレー皿には、ラップが掛けてあった。
私は、椅子に座り、妹の優しい心遣いに感謝しながら封を切る。
冷めかけてはいたが、美味しそうな香りが食卓に広がった。
絵里「希…亜里沙…グスッ」
私は悲しみに涙ぐみながら食べ進めた。
一口食べる度に、口の中に希の味が広がる。本当に美味しい。
けれども、この味付けをしてくれたひと と、私との関係はーー明日から、どうなってしまうのだろう。
私はできるだけ考えない様にし、食べ進める。
絵里「…ご馳走様」
食べ終わった私は、小さく呟いて、席を立った。 592 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 01:20:06.15
ID:DRl2Mr5K ・・・
風呂から上がり、部屋に戻った私。
明日の授業の準備をするのと共に、さっき希に言われるまで忘れていた生徒会の加入届けの作成に取り掛かる。
絵里「…よしっ!」
署名と共に押す判が、思ったより綺麗に押せたので私は にっこりする。
…こんなくだらない事でも、今の私には十分気休めになるわね。
絵里(さて、と…)
判を乾かそうと、下敷きを取り出す。
そして、用紙に向かって扇ぎ始めたとき
亜里沙「お姉ちゃ~ん…」
ノックの音と共に、妹の声がした。 593 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 01:36:48.39
ID:DRl2Mr5K 絵里(何だろう…)
私は立ち上がって部屋のドアを開ける。
目の前には、またも枕を抱えた亜里沙が立っていた。
絵里「亜里沙…」
どうしたの? と、私は優しく尋ねる。
亜里沙「あの…亜里沙、今日もお姉ちゃんと一緒に寝たいなぁって思ったの」
亜里沙「…駄目かなあ?」
私は一瞬、どうしようかと迷った。
今日の事を考えると、私と亜里沙が一緒にいたら危険な香りがするような…
だけど…亜里沙の顔を見ると、どうしても断りきれなかった。
ふぅ っと小さく息を吐き、私は笑みを浮かべる。
絵里「…仕方がないわね。明日からは、1人で寝るのよ」
亜里沙「…やったあ///」
さあ、入って。 と、妹を中に入れる。 594 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 01:52:30.46
ID:DRl2Mr5K 彼女は、部屋に入ると、机に置かれた用紙に目敏く気がついた。
亜里沙「…あっ。それって…」
ああ、これ? と私は用紙を指さす。
絵里「生徒会のね…加入届けよ」
亜里沙「へえ~…遂に、お姉ちゃんも部活に入るんだね!」
絵里「部活とは、違うと思うけど…」
妹の可愛らしい勘違いに、私は苦笑いをする。
もう一度、判を確認するとーーOK、もう乾いたようだ。
私は忘れないように、用紙をファイルにおさめ、バッグの中に仕舞いこんだ。
絵里「…さあ、寝ましょっか」
亜里沙「うんっ!」
ベッドに入り、仲良く話しに興じる。
亜里沙は楽しそうに中学校の事を話す。
…うん、彼女は大丈夫そうだ。さっきの事は、忘れてくれたのかも。 596 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 02:07:46.77
ID:DRl2Mr5K 暫くして、妹は眠りに落ちた。
すぅ、すぅ と静かに寝息をたて始める。
絵里「ふふっ…」
私はその顔を眺めて微笑む。亜里沙の顔を見ていると、何もかも 全て忘れそうだ。
今日一日で、本当に色々あった。目まぐるしく移り変わっていき、喜びも そして悲しみも感じた。
まだ、気持ちの整理がつかないけど、私には希の事も、そして亜里沙の事も大切だから…
今は、私事ーー恋愛を、考えるのは止めておきましょう。
でも、明日…希には、もう一度謝ろう。
許してくれるか分からないけどーー彼女には、本当に失礼な事をしたのだから。
絵里(私も、寝ようかな…)
電灯を豆球にし、ベッドに横たわる。
絵里(お休み…亜里沙、希) 597 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 02:18:51.87
ID:DRl2Mr5K ・・・
気がつくと、私はどこか真っ白な空間にいた。
何故か音ノ木坂の制服姿になっている。上靴まで履いているけれど、持ち物は何もない。
辺りを見回しても、周りは白い光に包まれており、全く状況が掴めなかった。
絵里(ここは、一体何処かしら…?)
靴の裏では、しっかり大地を踏みしめており、どうやらここは硬い地面であるみたい。
絵里(取り敢えず、歩いてみようかな…) 598 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 02:33:23.30
ID:DRl2Mr5K 歩き始めるうちに、何だか段々気分が良くなってきた。
相変わらず、景色は何もないけれど、ほどよい明るさが私の寂しさを紛らわせてくれる。
絵里「…Выходила, песню заводила(カチューシャは歌い始めた)
Про степного, сизого орла,(誇り高き薄墨色の鷲の歌を)
Про того, которого любила,(彼女が深く愛する青年の歌)
Про того, чьи письма берегла.(大事に持ってる彼からの手紙)」
いつの間にか、私は歩きながら、歌い出していた。小さい頃にお祖母様から教えられた、古い民謡。
『随分と、ご機嫌そうやね』
絵里「まあね!」
私は元気よく答える。
『それって、何て歌なん?』
絵里「カチューシャ。ロシア民謡よ」
そこまで答えて、私は はっとした。
絵里「…希!」 600 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 02:47:40.62
ID:DRl2Mr5K 希『こんばんは、えりち』
私のすぐ側に、希がにっこりと微笑んで立っていた。いつの間に…
彼女も、私と同じく音ノ木坂の制服を着ている。
絵里「…どうして、希がここにいるの?」
絵里「そもそも、ここは一体どこなのかしら?」
私は1人でなくなったことにほっとしながらも、矢継ぎ早に質問を浴びかせる。
希『えりち、まずは落ち着き…』
彼女は小さく苦笑いをする。
希『…そもそも、ここが何処だってええやん? …例えば、ほらね』
パチンッ! 希が腕を掲げ、指を鳴らした。
同時に、私達は見慣れた景色に移動していた。
誰もいない教室。放課後だろうか…西日が教室に差し込んでいる。 601 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 03:01:10.25
ID:DRl2Mr5K 絵里(…!?)
慌てて、辺りを見回す。間違いない、ここは音ノ木坂のーーそれも、私達の教室だ。
私は、今の状況が理解出来ずに、狼狽えてしまう。
絵里「…わ、わかったわ。今のは、希のマジックでしょ」
必死に頭を回転させ、思いついた事を口走る。
絵里「オカルト研なら、そんな事も簡単に出来ちゃうんじゃない?」
希『…ウチに、そんなスピリチュアルな事は出来んよ』
そう言いつつも、ふふっ と、希は不敵な笑みを浮かべ、もう一度指を鳴らす。
パチンッ!
絵里「あ、あれ…!?」
今度はもっと見慣れた場所ーー自宅のリビングに移動していた。 602 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 03:12:47.09
ID:DRl2Mr5K 希『…どうや?』
希が満足気に にっと笑う。
絵里「『どうや?』って、あのね…」
絵里「す、凄いけど、意味わかんないわよ!」
絵里「希、ちゃんと説明して頂戴!」
少し怒りを感じながらも、希に詰め寄る私。彼女との距離が近くなったけれど、気にしている場合ではない。
希『えりち、静かに…』
彼女が唇に人差し指を当てる。それと同時に、廊下とのドアがバッと開いた。
中に入ってきたのはーー
亜里沙『…あっ! お姉ちゃん!』
絵里「…!?」
…今度は亜里沙まで!? 603 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 03:22:40.35
ID:DRl2Mr5K 亜里沙は、中学校の制服を着ていた。
家の中なのに、どうして制服なのかしら…いや、そもそも私自身、今は制服姿だからひと の事は言えないけれど。
希『えーりち』
亜里沙『お姉ちゃん!』
この状況について考え込んだ私に向かって、2人が声を掛ける。
絵里「な、なによ…」
私は2人の顔を見回す。
希『えりち は…ウチと、亜里沙ちゃんの事、どっちの方が好きなん?』
絵里「えっ…!?」
私は思わず困惑する…いきなり、彼女は何を言いだすんだろう。 604 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 03:33:16.93
ID:DRl2Mr5K 亜里沙『亜里沙も気になるな~… 教えてよ、お姉ちゃん』
亜里沙も、上目遣いをし、じっと私の顔を見る。
絵里「ちょっ…亜里沙まで」
いつの間にか、希と亜里沙、2人ともジリジリと私に詰め寄ってきていた。
希『答えてよ、えりち… 』
亜里沙『お姉ちゃんは、亜里沙の事、大好きなんだよね…?』
絵里「2人とも、ちょっと待って…」
私は後退りをし、2人から逃れようとする。
希も亜里沙も…私は2人の事、どちらも大好きなのだ。
…選べる訳、ないじゃない。 605 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 03:46:45.45
ID:DRl2Mr5K 絵里「そんなの…そんなの、選べないわよ!」
絵里「私にとって、亜里沙も希も大切で…大好きなひと なんだから!」
私は思わず叫んでいた。
そして、ダッと走り出し、2人の間からすり抜ける。
希『…あっ、待って!』
希が何かを叫ぶが、私は足を止めない。
リビングと廊下の間のドアを開け、更に逃げようとするがーー
絵里「…えっ!?」
廊下を踏んだ筈なのに、私の足は何も捉えていなかった。
ドアの向こうには、何もなかった…只々真っ暗な闇が、私を待ち受けていた。
絵里「わああああぁぁぁ…!?」
グルグルと周りながら、私は下へ下へと落ちていく… 606 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/16(日) 04:01:42.93
ID:DRl2Mr5K ・・・
絵里「…ああっ!?」
私は ガバッと、布団から起き上がった。
絵里「ゆ、夢か…」
はぁっ、はあっ … と、荒く呼吸をする。
動悸が激しくなっており、まだ現実との区別がよくつかなかった。
時計を見ると、時間はまだ真夜中。外も真っ暗で、さっきの闇を彷彿とさせる。
亜里沙「…うぅ~ん」
隣で眠っていた亜里沙が寝返りを打ち、私はやっと現実に戻った。
絵里(嫌な夢を見てしまったわ…)
よしよし…と、私は亜里沙の髪の毛を撫でる。彼女の眠りを妨げなくて、本当に良かった。
…暫くじっとしていると、やっと動揺は治った。私はゆっくりと身体を横にし、再び眼を瞑る。
絵里(ダメだ…眠れない)
夢の事を思い出すと、胸の奥がチクチクと痛み、またも動悸が激しくなってしまう。
少しでも、休みたかったけれど…
結局、私は朝まで寝付ける事はなかった。 632 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 00:43:54.90
ID:896VDHu/ ーー次の日。
私は、とぼとぼと歩きながら、待ち合わせ場所へと向かっていた。
絵里「ふわあ…」
思わず、欠伸をしてしまい、私は慌てて口元を隠す。
今朝も、亜里沙が私の顔を見て「お姉ちゃん、大丈夫?」 と心配そうに聞かれたものだ。
直後に、鏡に写した私の目はーー自分でも はっ と息を呑んでしまうほど、充血していた。
一応、妹の前では元気そうに振舞ったが…どうだろう、上手く誤魔化せただろうか。
時間が経って目の充血は治ってきたが、やはり寝不足感は否めない。
まあ、お陰で早起き出来たから、良しとしましょうか… 633 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 00:44:44.34
ID:896VDHu/ 少し早く家を出たつもりだったけど、2人は既に来ていた。
希の姿が目に入った瞬間、私の胸が
キュッと高鳴る。
にこ「おはよー、絵里」
にこ が手を小さくあげ、挨拶する。…彼女はいつも通りね。
絵里「おはよう、にこ」
にこ「なんか眠そうね…夜更かしでもしたの?」
相変わらず、にこ は鋭いわね…私は素直に「まあ…ちょっとね」と頷く。 634 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 00:45:32.04
ID:896VDHu/ にこ「夜更かしは良くないわよ~、お肌にも悪いんだから…」
にこ「ねっ! 希!」
にこ がちらりと希の方を見る。
希「…えっ? …う、うん…そうやね」
希は、というと… にこ に話し掛けられるまで、全く口を聞かなかった。
私は、恐る恐る希の顔を伺う。
絵里(…何だか、窶れているような)
もしかして、怒ってるのかしら…?
いや、気のせいではない。おそらく原因は、昨晩の私との電話ね…
どう声を掛けようか、と私は狼狽える。
しかし、私と目があった途端、彼女はにこりと微笑み、
希「えりち…おはようさん。さ、行こっか」
希は何事も無かったかのように私に挨拶し、ゆっくりと歩き始めた。 635 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 00:46:22.39
ID:896VDHu/ 絵里「ええ…おはよう、希」
昨日の事をもう一度、今度は直接謝りたかったが、切っ掛けが上手く作れなかった。
彼女はさっさと先を行ってしまう。
絵里(ああ、待って…希)
にこ「…」
希が一歩前を歩き、私とにこ は2人並んで彼女の後ろを追う形になった。
上から見たら、恐らく私達は三角形の頂点の位置にいる筈。なんだか、奇妙な登校風景ね。
前に見える希の大きなおさげは、風でひらひら揺れており、私には彼女がどんな表情をしているのかわからない。
にこ「ねえ…絵里」
にこ が、私の肩をツンツン と突く。
にこ「…希と何かあった?」
絵里「えっ?」 636 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 00:47:17.32
ID:896VDHu/ 絵里「な、何言ってるのよ…」
私は あはは、と愛想笑いをし、何事もないかのように応える。
相変わらず、にこ は感が冴えている。
絵里「にこ の気のせいじゃないかしら…?」
にこ「あのね… 希も、さっき変だったのよ」
私の返事を待たずして、にこ は声のトーンを落とし、ヒソヒソと囁いてくる。
絵里「変って…どんな風に?」
にこ「さっき、絵里が来る前なんだけど…私が希に挨拶しても、希 ったらなんだか上の空でね…」 637 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 00:47:55.50
ID:896VDHu/ にこ「何か悩んでいる…っていうか、考え事をしているっていう感じだったわ」
絵里「そうだったの…」
それはきっと、私の事だ…昨日の電話では、彼女は気にしてない風にしていたが、本心では やはり気にしていたのね。
彼女の気持ちを考えると、どうしても胸が重くなってしまう。
絵里(はあ…どうしよう)
にこ「やっぱり…何かあったのね」
私は無言で頷く。
にこ「もしよければ、この私に…
にこ がそう話し始めた途端、ふいに希が後ろを向き
希「にこっち達…さっきから何話しとるん?」 638 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 00:48:47.31
ID:896VDHu/ 絵里・にこ「「…!」」
えーと、と にこ が慌てて返事をする。
にこ「いや、別に…!」
にこ「さ、最近流行りのアイドルについて、絵里と話していたのよ!」
ねっ! と、にこ が同意を求めてきた。
私も調子を合わせ、「そうそう!」と頷く。
希「あっ…2人だけなんて、ズルいやん! ウチも入れてよ」
にこ「勿論! 希にも この私がアイドル談義を聞かせてあげるわ」
にこ は希に元気よく答え、ボソリと私に囁く。
にこ「後で、また…」
絵里(わかった)
私は指で、小さくOKのサインを作る。
絵里(ありがとう、にこ) 639 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 00:49:27.76
ID:896VDHu/ ーー4時限目。
授業終わりのチャイムが鳴り、生徒たちは解放された喜びからか、ガヤガヤとざわめき出す。
お昼休みだから、みんなテンションが張ってゆくのも仕方がない。
私も教材を片付けながら、この後の事を考える。
絵里(…さて、どうしよう)
いつもなら、希と一緒に食べるのだがーー今日は少し気まずい。
だけど、クラス内で希以外のひと と食べるのは…あまり、気が進まない。
絵里(…まあ、関係回復への第一歩よね)
私は いざ決心をし、お弁当箱を持って希の席へ向かう。
希「あ…えりち」
彼女も、丁度席を立ちあがるところだった。 640 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 00:50:10.83
ID:896VDHu/ 絵里「希…お昼、一緒に食べましょう!」
彼女の顔を見ながら、私はいそいそと申しでる。
希「ごめんな…今日は、用事があって、無理なんよ」
絵里「えっ…そうなの?」
なんですって… まさか、断られるとは。
うん… と、希は申し訳なさそうに謝る。
希「昼休みに、オカルト研の集まりがあるんよ。せやから…」
絵里「そ、そっか… なら、仕方がないわね」
希「ほんまにごめん! …放課後は、一緒に、生徒会に紙を出しに行こうね!」
そう言い残して、希はスタスタと教室から出ていった。
あとには、1人ぽつんと残される私。 642 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:00:06.87
ID:896VDHu/ 絵里「…希」
今朝から、薄々感じてはいたが…まさか、彼女は私の事を避けている?
絵里(どうしよう…)
気のせいか、なんだか眩暈がしてきた。立っているのが辛く感じる。
その時、ポケットから振動音がした。…メールだ。
携帯を取り出し、発信者を確認する。
画面には、『矢澤 にこ』と表示されていた。
『矢澤 にこ: 昼休み、時間あるかしら?』
大丈夫。たった今、暇になったから。
絵里(大丈夫、と…)
返信は、すぐに来た。
『屋上で待ってるから』 643 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:03:06.24
ID:896VDHu/ 階段を上がり、屋上の手前まで来た。
私はゆっくりと扉を開け、屋上に出る…ここに来るのは、2回目ね。
初めて来たのは、アイドル研の部活見学のとき。
絵里「にこ…?」
私は屋上に足を踏み入れ、周りを見回すが…誰も見当たらない。…一体、何処にいるのかしら?
絵里「おーい…」
やっぱり返事はない。
違う屋上かしら…と考え、戻ろうと後ろを向いたとき
にこ「わっ!」
絵里「…うわああっ!?」
何処かの物陰に隠れていたのだろうか…にこ が飛び出し、私を勢いよく驚かしてきた。
にこ「ふふん。隙が多いわよ、絵里」
絵里「…もう! 脅かさないでよ!」
心臓は激しく波打っていたが、私はどこかほっとしていた…良かった、やっと にこ に会えたわ。 644 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:04:47.53
ID:896VDHu/ にこ「ごめんごめん、待っている間暇だったから」
にこ「絵里を脅かしたら、どんな反応をするのか、つい試してみたくなっちゃった」
てへっ と、にこ は舌を出す。…その仕草が可愛くて、私は思わず許してしまいそうになる。
絵里「もう! 趣味悪いわよ!」
にこ「ごめんってば…でも、案外普通の反応だったわ」
どういう意味? と、私は聞き返す。
にこ「いや、絵里なら驚かずに平然としてそうなイメージがあるっていうか…」
にこ「…って、それよりも本題よ!」
彼女は自分で突っ込みを入れる。 645 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:06:51.21
ID:896VDHu/ にこ「呼び出した理由は…わかってるわよね?」
ええ、と私は頷く。
絵里「今朝のお話の続きよね」
にこ「そうよ…お昼、食べながら話しましょうか」
そこで私は、にこ もバッグを肩から下げている事に気付いた。
私と にこ は、2人並んで屋上の柵の側に腰を下ろす。
晴れ渡った空が広がっており、なかなかいい気分。
にこ「…そういえば、希は?」
青空に意識を奪われかけていた私に、お弁当の用意をする にこ が話し掛ける。
絵里「えっ? ああ…希なら、今日は用事があるんだって」 646 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:07:42.27
ID:896VDHu/ にこ「ふーん…まあ、希には悪いけど、2人で話すには もってこいね」
そう言いつつ、にこ は自分の弁当箱の蓋を開ける。
絵里「…ハラショー!」
中身を覗き込んだ私は、思わず感嘆の声をあげてしまった。
卵焼きやプチトマトなど、彩り豊かに盛られたおかず。そして、主食のごはんには、切り刻んだ海苔や食紅などを使って猫のキャラクターのようなものが形どられいた。
絵里「それって、キャラ弁っていうものよね! 凄いわあ~」
にこ「そんな、別に凄くないわよ…///」 647 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:09:33.38
ID:896VDHu/ 謙遜しながらも、少し照れる にこ。
にこ「普段から、料理はしているからね…これ位、簡単よ」
絵里「へえ~。でも、本当に美味しそうよ」
私も パカッと弁当箱を開く。
にこ「絵里は、サンドウィッチなのね」
絵里「そうなの…」
対した工夫もしていないので、にこ のを見た後は、比べるのが少し恥ずかしい。
絵里・にこ「「いただきま~す」」
2人声を合わせ、食事を始める。…うん、やっぱりご飯は 独りじゃなく、友達と食べた方が美味しいわね。 648 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:11:14.13
ID:896VDHu/ にこ「…それで、今朝の続きだけど」
お茶を飲みながら、にこ が本題に入る。
絵里「…ええ」
にこ「単刀直入に聞くわよ…昨日、何があったの?」
単刀直入すぎるわよ…! って突っ込みは置いといて…。
絵里「実はね…」
私は、昨日の事を包み隠さず話した
ーー訂正。正確には、告白とキスの部分だけは ぼかしたけど。
その部分は、希との約束だから…誰にも言えない、2人だけの秘密。 649 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:12:46.41
ID:896VDHu/ にこ「…ふうーん、希と喧嘩、ねぇ…」
絵里「え、ええ…そうなのよ」
絵里(ごめん、にこ… そういう事にさせて貰うわね)
私は心の中で、嘘を交えてしまった事をそっと謝る。
にこ「ううーん、案外難しいわね…」
にこ は箸を置き、腕組みをして唸る。
絵里「にこ は、希と喧嘩したとき、どうやって仲直りするの?」
にこ「いや、その… 私、希と喧嘩した事 1度も無いのよ」 650 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:14:44.52
ID:896VDHu/ 絵里「えっ… そうなの?」
驚いた…長い付き合いだから、1度か2度は喧嘩くらい、していると思っていたのに。
にこ「そうよ… わしわし は、しょっちゅう 喰らってるけどね」
にこ「私が、どんなに希に迷惑を掛けても…希は、笑って許してくれる」
絵里「…優しいのね、希って」
うん…と、 にこは頷きながら、プチトマトを口に放り込む。
プシュっと潰れる音と共に、トマトの酸味溢れる香りがした。
にこ「本当に、希は懐が深いというか…情に厚いっていうのかしら…」
にこ「彼女ほど出来たひと は、ほかには知らないわね」 651 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:16:25.29
ID:896VDHu/ そっか… と、私は下を向く。
私は そんな希の気持ちを傷つけるという、大それた事を仕出かしてしまったのね。
にこ「そういえば、絵里って…勉強は得意かしら?」
にこ が突然脈絡のない質問をする。
絵里「…えっ? …ええ、得意な方かしら」
そう…と、にこ は頷く。
にこ「…上手く行くか、わからないけど」
にこ「私に考えがあるわ…まかせて頂戴」
どんな考えだろう…よくわからないけど、取り敢えず にこ には頭が上がらないわね。
絵里「にこ… 本当にありがとう」
絵里「お礼に、1個あげる」
私はそう言って、にこ にサンドウィッチを手渡す。 652 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 01:18:40.04
ID:896VDHu/ にこ「ありがとう… あ、結構美味しいじゃないの」
一口かじり、にこ が満足そうに笑う。
絵里「ふふ…どういたしまして」
絵里「でも、にこ ほどじゃないわよ」
えっ、どうして…? と、にこ が目を丸くする。
私は にこ の空になった弁当箱を指す。
絵里「それだけの料理を毎日作っている…と、言う事は料理上手に違いないわ」
絵里「もしかしたら、毎日 ご家族の食事でも作っているのかしら?」 653 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 02:08:25.86
ID:896VDHu/ にこ「…その通りよ。家は、親が共働きだから私が毎日料理をしているの」
良くわかったわね… と、にこ は驚いた表情をつくる。
絵里「大した事じゃないわ… にこ ってね、雰囲気が何だかお姉ちゃん、っていう感じがするのよ」
絵里「ひょっとして… 下にきょうだい がいるんじゃない?」
にこ は、やるじゃない と素直に感心する。
にこ「私にはね… 幼い妹達がいるのよ」
絵里「『達』ってことは…2人いるの?」
にこ「そうよ…双子の妹でね、こころ と ここあ っていうの」
写真見る? と、 にこ はポケットから携帯を取り出した。 654 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 02:09:39.49
ID:896VDHu/ 携帯のホーム画面には…3人の少女が写っていた。
真ん中の娘は、簡単に分かる。今 目の前にいる にこ ね。
そして、その写真の にこ に両脇から抱きついている少女達は…
にこ「右がお姉ちゃんの こころ で、左が妹の ここあ よ」
絵里「…うっわあ~! すっごく可愛い!」
絵里「にこ にそっくりね!」
当然じゃない 、と にこ は顔を赤らめながらも胸を張る。
にこ「音ノ木坂のスクールアイドル、矢澤にこ の妹なのよ! 可愛くて当然じゃない!」 655 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 02:10:43.39
ID:896VDHu/ にこ「絵里も、お姉ちゃんって感じがするわね」
ふいに、にこ が真顔になり私を見る。
雰囲気で、分かってしまうのだろうか?
絵里「ええ…実は、私にも妹がいるのよ」
絵里「今年から中学生でね…名前は、亜里沙」
私も携帯を取り出し、写真帳を開く。…あったわ、私と亜里沙 2人一緒の写真が。
にこ に見せると、彼女は案の定良い反応をしてくれた。
にこ「…うん、まあまあ可愛いわね!」
にこ「でも、こころ と ここあ に比べたら… うう」
悔しがるにこ に、私は優しく微笑む。
絵里「…こころ ちゃん と、 ここあ ちゃん もとっても可愛いわよ!」 656 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 02:11:41.54
ID:896VDHu/ 絵里「いつか…こころ ちゃん達に会ってみたいわ」
にこ「ありがとう…私も、亜里沙ちゃんに会ってみたいな」
顔を見合わせ ふふっと、微笑みあう。
親バカならぬ、妹バカは、どうやら万国共通のようね。
遠くで、予鈴の音が鳴り響いた。
にこ「…さて、もう行きましょうか」
そう言って、にこ が立ち上がる。
私も頷き、お弁当箱を片付け始める。…ごちそうさまでした。 657 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 02:12:22.11
ID:896VDHu/ 屋上から校舎に戻り、教室へと帰る私達。
にこ の教室に着いた。彼女はポンッと私の肩を叩く。
にこ「それじゃあ…希と仲直り出来るよう、頑張りましょう」
私も うん、 と頷く。
絵里「にこ の方こそ… 練習、頑張ってね!」
彼女は軽く手を振りながら、教室へと入っていった。…私も急がないと。 658 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 02:13:41.38
ID:896VDHu/ 自分の教室に戻ると、大方のクラスメートは既に着席しており、午後の授業の準備をしていた。
私はちらり、と教室の後ろを見る…希も、既に教室に戻っていた。
オカルト研の資料だろうか…黙々とノートを読み込み、何かを書き込んでいる。
絵里(何してるのかしら…?)
私は何か話し掛けるべきかと思ったけど…彼女の様子をみたら、それをするのは憚られた。
絵里(放課後、一緒になるから…今はいいよね?)
そう考えながら、私は静かに席に着く。
…うん、大丈夫。お祖母様も言ってたじゃない、私ならしっかりと出来る、と。
きっと…きっとまた、希と仲良くなれる。 659 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 02:15:04.12
ID:896VDHu/ ーー5時限後のHR
担任の先生が、プリントの束を持って教室に入ってきた。
担任「前から順に、廻して貰えるかしら…?」
そう言いつつ、プリントを配っていく。
絵里(何だろう…)
受け取ったプリントを見ると、そこに印字されていたのはーー『中間試験のお知らせ』。日程や科目の図表も載っていた。
「ええーっ! もうテストなの!?」
「嫌だよー」
クラスの皆、思い思いにザワザワと騒ぎ出す。 660 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 02:16:02.13
ID:896VDHu/ 担任「はいはーい、みんな静かに」
担任は手を軽く叩きつつ、騒ぐ生徒達を落ち着かせる。
担任「見てわかる通り、もうすぐ中間試験があります」
担任「折角の高校生活…いきなり出鼻をくじかれないよう、しっかりと勉強してください」
絵里(そうか…もう、試験が始まるのね)
よく考えると、最近あまり勉強していないかも…少しずつ始めようかな。
その後は、チャイムが鳴るまで試験についての話が続いた。 661 :
さるさんきらい(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 02:17:06.42
ID:896VDHu/ チャイムが鳴り、長かった1日が終わる。
絵里(ふう…やっと終わったわ)
さて…いよいよ、生徒会室へ行く時が来た。
私がバッグに荷物を詰めていると、ふと側に誰かが立つのがわかった。
顔をあげると…
希「えりち…」
絵里「あ…希!」
希が、少しバツの悪そうな顔をして立っていた。
希「今から、生徒会室行くやろ…? 一緒に行こ」 664 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:47:45.98
ID:896VDHu/ 2人一緒に廊下に出る。
今日は、手を繋いでいない…恥ずかしいからではない。ただなんとなく、希から微妙な空気を感じるからだ。
やっぱり、まだ ぎごちない。
希「えりち…さっきは、ごめんな」
絵里「えっ…? ああ、お昼の事ね」
別にいいわよ… と、私は全く気にしていない素振りをする。
本当は、すっごく気にしているけど。やっぱり、彼女は私の事を避けていたのかしら…
希「えりち、どうかしたん?」
絵里「…何でもないわ」 665 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:48:19.75
ID:896VDHu/ それにしても、希の様子を見ているとーー昨晩ほんとうに、私達は告白しあったのかが疑問に思えてくる。
どう見ても、いつも通りの希にしか見えない。
絵里(キスまでしてくれたのに…///)
電話での会話通り、ほんとうに忘れた事にしたのだろうか。
…そんな事を考えているうちに、生徒会室にたどり着いた。
絵里「…私が先でいい?」
一応 希に確認するが、彼女はにっこりと微笑んで頷く。
希「ええよ…えりち の言う通りで」 666 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:48:56.13
ID:896VDHu/ 扉を叩き、「失礼します」と挨拶をし、中へ入る。
副会長「あー! やっと来た!」
嬉しそうに駆け寄ってくる副会長。…相変わらずパワフルなひと ね。
会長「2人とも、こんにちは」
会長もペンを止め、私達の方を見て微笑む。
会長「来てくれたって事は…入ってくれるのね?」
絵里・希「「はい、宜しくお願いします!」」
2人揃って入会届けの用紙を手渡す。 667 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:49:38.45
ID:896VDHu/ 受け取った会長は、ふむふむ と中身をチェックする。
会長「…はい、2人ともOKよ」
副会長「うっはー! やったぜ!」
副会長は嬉しそうに万歳をする。
希「副会長さん、随分と嬉しそうやね」
全く持って、希の言う通りね。私も うんうん、と頷く。
会長「じゃあ、さっそく働いて貰おうかしら?」
はい! と私達は元気よく挨拶する。
…こうして、私と希の生徒会活動は始まった。 668 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:50:44.77
ID:896VDHu/ ーー帰り道。
私と希は西陽が照らすなか、家路を急いでいた。
希「いやー、さっそく こき遣わされたね~」
希が、自分で肩を叩きながら疲れた声を出す。
絵里「本当、疲れたわね…」
まさか、いきなり部屋の模様替えから始まるとは… 重量のある棚を移動させたり、不要なものを倉庫に仕舞いにいったり…
体育会系顔負けのハードな運動をさせられたわ。
そんな事を話しているうちに、いつもの待ち合わせ場所が見えてきた。
…今日も、希は真っ直ぐ帰るのかしら?
そもそも、今日一日、全く昨日の話題をしなかった。
電話で約束したからだろうけど、胸の奥がチクリと痛む。 669 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:51:31.64
ID:896VDHu/ 希「…えりち」
ふいに、希が私の肩を突っついた。
絵里「なあに?」
希「そろそろ、ウチはこの辺で…またね」
そう言って、希は道を曲がっていこうとする。
本当に…本当に、あっさりする位の別れ方だった。
絵里「ちょ…ちょっと待って!」
私は、思わず希の腕を掴む。
希「…どうしたん、えりち」 670 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:52:12.58
ID:896VDHu/ 絵里「いや、あの…その」
どうした、って… いくらなんでも、あっさりとし過ぎているじゃない。
そう思って、見つめた彼女の瞳はーーぞっとする程、冷たかった。
正確にいうと、感情が籠っていないといえばいいのか…深い闇と共に、どこか哀しんでいるような感じがする。
彼女の瞳に、私は一体どう写っているのだろう。
絵里「のぞみ…」
ど、どうして… ああ、希は、本当に怒っているんだわ…
私は思わず、彼女の腕を掴む力を、緩めてしまう。
希「ウチな…」
希がボソッと呟いた。 671 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:52:53.00
ID:896VDHu/ 希「…えりち の事が、わからなくなったんよ」
絵里「…」
私は黙って彼女の言葉を聞く。
希「昨日、えりち から電話があって… 『考えさせて』って言われたとき…」
希「ウチ…えらいショックやった」
希「ほんまに、頭が真っ白になりそうやった」
希「えりち には『保留でええ』って言ったけど…本当はそんな事言いたくなかった」
絵里「…」
夕陽に照らされた希の顔。その瞳は、どこか潤んでいてーー私は直視できなかった。 672 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:54:15.49
ID:896VDHu/ 希「結局、理由もよくわからんままやし… ウチ、このままじゃあ えりち の事…」
最後の言葉は小さかったが、私の耳に はっきりと届いた。
「…どうでも良くなりそうや」
絵里「う…あ…」
私はその言葉に動揺して、思わず呼吸が激しくなってしまう。
そりゃ、そうよね。こんな気分屋である私なんて、見捨てられてもしょうがない…よね。
絵里「の、のぞm…」
それでも、何とか言い訳ーー償いの言葉を言おうとしたが。
希「ごめん、えりち…。そういう事で!」
そう言って、希は後ろを向き勢いよく走り出していった。 673 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/20(木) 12:55:04.51
ID:896VDHu/ 絵里「のぞみぃ…」
追いかけようとしたけど…足がすくんで、その場から動けなかった。
絵里(あ、ああ…)
どうしよう… 益々関係がこじれてしまった。
もしかしなくても…もう、彼女とはもとの仲には戻れない?
まずい。これは、本当に大変な事態よ。
私はヘナヘナと、その場にへたり込んでしまう。通行人が何事かという顔で、こちらを見遣る。
絵里(昨日に戻りたい…)
昨日に戻れたら…このポンコツな私を、懲らしめてやりたい。
天国から地獄へ。まさに、今の私の状況にぴったりの言葉だった。 685 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/22(土) 01:10:18.92
ID:xmPDSP69一体どの位、その場にいただろうか。
時間にしたら大したことはないかもしれない。それでも、私にとっては一秒一秒がとても長く感じられた。
唯ひたすら、希が消えていった方向を見つめ続けていた。
道行くひと が、座り込んだまま動かない私をチラチラ見るが、もはや気にする気にもなれない。
「ちょっ…絵里!?」
突如、後ろから声を掛けられ、私はびくりと背中を震わせた。
…この声は。
恐る恐る、振り向くとーーそこには、私と同じ制服姿の にこ が立っていた。
手には買い物袋だろうか、食材らしきものが入った手提げバッグを持っている。
にこ「綺麗な髪の色だから、もしかしてと思ったけどーーやっぱり、絵里だったわね」 688 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/22(土) 01:27:34.29
ID:xmPDSP69 絵里「にこぉ…」
私は弱々しく彼女の名前を呼ぶ。
初めて会ったときは、ちっちゃくて、何だか妹みたいだと思っていたけど…訂正するわ。
今は、その姿がとても頼もしく見える。
にこ「あんた、こんなところで何してるのよ?」
そう言いつつ、にこ は無造作に右手を突き出す。
にこ「ほら、捕まって…」
絵里「う、うん。ありがとう…」
私は にこ の手を借り、よいしょっと起き上がる。 689 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/22(土) 01:38:42.83
ID:xmPDSP69 にこ が、やっとの事で立ち上がった私をじっと見つめた。
にこ「大丈夫? 足が震えてるわよ…」
絵里「あ、あぁ…」
本当だ。自分でもはっきりとわかるくらい、ブルブルと震えている。
でも、大丈夫なわけない。だって、ついさっき…
絵里「うわあああん! にこおおおぉぉぉ!」
にこ「うわあっ!」
私は思わず にこ に抱きついていた。彼女は驚きながらも、その華奢な身体で懸命に受け止める。
にこ「ほんと、どうしたのよ!? …一体何があったの?」
絵里「のぞみが…のぞみがね…」
私は溢れ出そうな涙を堪えながら、たった今起こった出来事を彼女に伝えた。 690 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/22(土) 01:54:29.35
ID:xmPDSP69 にこ「あちゃー…」
話を聞き終えた にこ は、顔を渋くする。でも、それは一瞬の事。
すぐに表情を緩め、抱きついたままの私の背中をポンポンと優しく叩く。
にこ「辛いのに、よく話してくれたわね…」
絵里「うん…」
にこ は やおら私の身体を離し、私と目線を合わせる。
にこ「でも…もう安心しなさい!」
彼女は にこっと白い歯を見せた。
にこ「友達の一大事だもん。…この私が、絶対に解決してみせるから」
絵里「にこ…」
見つめるその瞳は真剣でーー私は彼女が、とても気休めを言っているようには思えなかった。
彼女なら、それこそ魔法のように解決してくれるのかも。
絵里「ありがとう…本当に、ありがとう」 697 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/23(日) 20:28:01.40
ID:LZx/AUGVにこ「じゃあ、早速…」
彼女は視線を落とし、私の下半身をじろりと見る。
にこ「…スカート汚れてるから、まずはその汚れを落としなさい」
ここで私は、制服が土まみれになっている事に気付いた。
慌てて、手で払い落とす。
その間、にこ は腕を組み、目を瞑ってじっと考えていた。
パチっと開き、私の名前を呼ぶ。
にこ「絵里…今日は時間あるの?」
絵里「えーと… 大丈夫だけど…」
時間は大丈夫。唯ひとつ、亜里沙の事が気掛かりでもあるが…
彼女は私の肩をポフッと叩く。
にこ「…今夜は忙しくなるわ。覚悟しなさいよね?」 700 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/23(日) 20:40:27.63
ID:LZx/AUGV覚悟か…それなら、大丈夫。
希の為なら、なんだってやるつもりよ。
うん、と頷いた私に にこ がテキパキと指示を出す。
にこ「まずは、ご家族の方に連絡をしなさい。あっ、なんなら家に荷物を置きに行ってもいいわよ」
にこ「…今夜は私の家に泊まり込みよっ!」
絵里「わ、わかったわ」
私は亜里沙に連絡をする。横では、にこ も携帯を取り出し、何処かに電話を掛けていた。
数コールしてから、はい、と電話に出る妹。
亜里沙『もしもし?』
絵里「あ、亜里沙…私よ」
お姉ちゃん! と、電話の向こうで亜里沙が嬉しそうな声を出す。
その声から、今、彼女がどんな顔をしているか容易に想像出来る。
私は小さく息を吸い込み、電話の向こうの妹に語り掛ける。
絵里「あのね、亜里沙…よく聞いて欲しいの」 701 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/23(日) 20:51:26.42
ID:LZx/AUGV 絵里「今日、これから用事が出来ちゃって… それで、今夜は亜里沙 独りきりにさせてしまうの」
亜里沙『えぇ~っ! そうなの!?』
絵里「ごめんね… お金は後で請求していいから、今夜は好きなものを食べていいわよ」
う~ん、と亜里沙が電話越しに考える素振りをした。
亜里沙『それじゃあ、さ… 亜里沙も、今夜は友達の家にお泊まりしてもいい?』
亜里沙『実は、前から誘われててね…いつでも来てよって言われてたの』
絵里「えっ…そんな話があったの?」
不幸中の幸いと言おうか… 私は、心の中のどこかで胸を撫で下ろす自分に気付いた。
絵里「もしかして…例の、文芸部の子かしら?」
亜里沙『そう、高坂雪穂ちゃんだよ!』 702 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/23(日) 21:03:27.78
ID:LZx/AUGV あの子か…って、私はまだ名前しか知らないけど。高坂雪穂…一体、どんな娘なんだろうか。
私は亜里沙に心から詫びる。
絵里「ごめんね…急なお願いで」
亜里沙『…いいって、いいって! 亜里沙もお泊まりしたかったから!』
じゃあね! と言う挨拶と共に電話は切れた。…恐らく、これから高坂雪穂ちゃんの家に連絡を取るのだろう。
私は、携帯を見ながらほっと溜息をつく。偶然だけど、亜里沙が独りきりにならずに良かった。
この埋め合わせは絶対にしなければ。
にこ も、ほぼ同時に はぁ…と、息を吐いて携帯を耳から離した。
絵里「にこ…?」
にこ は、私の方を向き、困ったように眉を顰める。
にこ「…駄目ね。希ったら、何度掛けても電話に出てくれない」 706 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 00:25:52.47
ID:J3bDg2xh 絵里「…そっか」
私は力なく眼を伏せ、弱々しく声を出す。
私じゃなくて、にこ からの電話にすら出ないなんて…彼女は今、どうしているのだろう。
にこ「…落ち込まないで。絵里だけじゃなく、希だって辛いんだろうから」
絵里「うん…」
それで…と、にこ が私を見る。
にこ「ご家族の方とは連絡とれたの?」
絵里「ええ…亜里沙も、今日は中学の友達の家に泊まりに行くから、大丈夫だって」 707 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 00:38:05.78
ID:J3bDg2xh にこ「マm…お母さんとかは?」
絵里「…今、家は私と亜里沙の2人暮らしなのよ」
そういえば、にこ には親が不在だって話はしていなかったわね。
そうなの…と、にこ は軽く驚く。なんだか、反応が希とそっくりね。
絵里(希…)
彼女の事を考えると、胸が苦しくなってくる。
にこ「取り敢えず、亜里沙ちゃんについては大丈夫なのね」
にこ「私も今すぐ動きたいけど、まずは家に帰ってご飯の支度をするから…」
にこ はバッグから、メモ用紙を取り出し、サラサラと何かを書き込む。
にこ「はい、これ…家の地図よ」
絵里「…えっ?」 708 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 00:46:38.98
ID:J3bDg2xh 渡されたメモには、簡易ながらもわかりやすい地図が描かれていた。
にこ「今いる場所からの道順を書いたから。まずは着替えて、用意が出来たら…私の家まできなさい」
そう言って、にこ は軽く微笑んだ。
にこ「一旦、家に帰るでしょ?」
絵里「にこ…」
私は にこ の顔を真っ直ぐ見つめる。
彼女もじっと見返して来た。
にこ「いいから… 後で、必ず来なさいよ」
にこ「家の中でひとり泣く、なんて事は…絶対にしちゃ駄目だからね」 709 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 00:54:49.23
ID:J3bDg2xh そして、にこ は再び私の肩を叩く。
にこ「くよくよしてないで、真っ直ぐ前を見なさい!」
絵里「ありがとう…また、後で」
私はそう言って、我が家へ向かって走り出した。
にこ も軽く手を挙げて、私を見送る。
…うん、にこ に会えたおかげで、少しずつ元気が出てきた。
くよくよせず、真っ直ぐ前を見て。そして私は、希と…
希と… 711 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 01:01:38.64
ID:J3bDg2xh やっと家に辿り着いた。私は はあ、はあ と息をしながらポケットから鍵を取り出す。
恐らく、亜里沙は既に出掛けた。そう思ったからだ。
しかし、私が鍵を差し込むと同時にドアがガチャリと開き、中から亜里沙が顔を覗かせた。
亜里沙「あっ… お姉ちゃん! お帰りなさい!」
手には、お出掛け用のバッグを持っている。
絵里「亜里沙…丁度行くところなの?」
うん! と、大きく頷く妹。
亜里沙「入れ違いみたいだね! でも、お姉ちゃん…今日は帰ってこないんじゃなかったの?」
絵里「一旦、荷物を置きにきたのよ。また直ぐに、出発するわ」 712 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 01:10:08.64
ID:J3bDg2xh そして、私は妹の頭を優しく撫でる。
絵里「亜里沙…ごめんね、私の勝手でお友達にまで迷惑を掛けてしまって」
亜里沙「大丈夫だよ~。電話したらね、雪穂もすっごく喜んでたもん!」
亜里沙「明日はお休みだから、今日は目一杯遊ぶんだ~!」
そう言って、膨らんだバッグをパンパンと叩く妹。中には恐らく、様々な道具が入っているのだろう。
そう…と、私はにこりと微笑み掛ける。
絵里「ありがとう、亜里沙…楽しんできてね」
亜里沙「うん! …亜里沙、もう行くね」
行ってきまーす! と私に手を振り、亜里沙はエレベーターの方へと駆けて行った。
私もその後ろ姿を見送り、家の中へ入った。 713 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 01:17:40.82
ID:J3bDg2xh 絵里「え~と…」
取り敢えず制服から私服に着替えはしたが…さて、何を持っていくかで、つい考えこんでしまう。
誰かの家に行くなんて、考えてみたらこれが初めてかも。
絵里(だけど…遊びに行くわけじゃないから)
こうしている間にも、希はどこかで苦悩の声をあげているかもしれないーー私のせいで。
私は最低限の荷物ーーすなわち、着替えとコスメグッズ、財布をバッグに詰め込む。そして、携帯と にこ から受け取ったメモ用紙を握りしめ、玄関のドアを開けた。
大分 陽は落ち込み、夜の陰りが見え始めている。
絵里(…よしっ!)
エレベーターに向かって走り出す。
待っててね、希。
例えあなたに嫌われようと、私は絶対あなたを… 714 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 01:27:03.51
ID:J3bDg2xh 万世橋近くの公営住宅。メモ用紙の地図によると、どうやら にこ の家はここらしい。
絵里(…あった!)
私は住宅の敷地に入り、1階脇に取り付けられている、郵便受けを1つずつチェックしていく。
その中に『矢澤』というネームプレートが貼られたものがある事を確認する。
絵里(ここで間違いないみたいね)
「…どなたですか?」
ふいに、声を掛けられ、私はビクッと身体がを震わせた。
絵里「べっ別に怪しいものでは…って、 あなたは!」
後ろを向くと、そこには白いビニール袋を抱えた1人の少女ーー昼休みに、にこ の携帯で見た子供がーーそこに立っていた。 719 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 14:51:38.01
ID:J3bDg2xh勝ち気そうなその瞳は、どこか にこ を彷彿とさせる。
少女は私の顔をマジマジと見つめ、ぱあっと顔を輝かせた。
「…もしかして、お姉ちゃんのお友達のひと ですか?」
絵里「…矢澤にこ さんの妹さん、よね?」
え~っと、双子だっていうから こころ ちゃんなのか ここあ ちゃん のどちらかには間違いないんだろうけど…
絵里(どっちなのかしら?)
「はい! 矢澤ここあ といいます!」
ここあ「初めまして!」
そう言って、女の子ーーここあ ちゃん は、ぺこりと頭を下げた。
幼いのに、なかなか礼儀正しい子だ。
絵里「初めまして… 絢瀬絵里といいます」 720 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 14:59:39.00
ID:J3bDg2xh ここあ「さっき、お姉ちゃんから…えーと…絢瀬さんが来るって話は聞きました」
ここあ「だから、お姉さんの姿を見て、もしかしたらと思って声を掛けてみたんです」
絵里「そうだったの…」
雄弁に語るここあ ちゃん。
でも、どうやら私を何と呼ぼうか迷っているみたい。
私は ここあ ちゃん、と呼ぶ。
ここあ「は、はい。なんでしょう?」
絵里「…私の事は、『絵里さん』とか、『お姉さん』とか好きに呼んでいいわよ」
そう言って、私は にこりと微笑み掛ける。 721 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 15:06:57.88
ID:J3bDg2xh ここあ ちゃんは、私をじいっと見上げ、恐る恐る口を開く。
ここあ「…じゃあ、『絵里お姉ちゃん』って呼んでもいいですか?」
いいわよ、と笑顔で頷くと同時に私は ここあ ちゃんの幼い身体に抱きつかれていた。
ここあ「わあ~! 絵里お姉ちゃん、宜しく~!」
絵里「…おっとっと… ふふっ」
絵里(か、可愛い…///)
可愛くて、本当に人懐っこい娘ね。
小動物みたいに、モフモフとした感触がする。
にこ のセリフではないが、流石は音ノ木坂のスクールアイドルの妹ね。 722 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 15:14:09.75
ID:J3bDg2xh 私は ここあ ちゃんの案内で、公営住宅の階段を登る。
その間、ここあ ちゃんとのお喋りを楽しむ。
絵里「へえ~、お使いを頼まれてたの…」
ここあ「はい! お姉ちゃんも買い物はしてきたんですけど、追加の物があるから買ってこいって…」
絵里「偉いわね~」
私が褒めると、ここあ ちゃんは顔を赤らめ、恥ずかしそうに「ありがとうございます…///」と呟いた。
ここあ「つ、着きました…/// …ここです」
ドアの脇には、矢澤と書かれた表札。ここあ ちゃんは勢いよくドアを開けた。
ここあ「にこにー、ただいま~!」 723 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 15:23:49.40
ID:J3bDg2xh 奥の方から、「お帰り~」と にこ の声が響いた。
そして、ひょっこりと本人が顔を出す。
にこ「ここあ、頼んだ物は買えた…って」
ここあ ちゃんの後ろに立つ私に気づき
にこ「…いらっしゃい、絵里。ここあ と一緒だったのね」
絵里「そうなの。下で、偶然出会ってね」
ここあ ちゃんが にこ の元へ駆け寄り、はい、とビニール袋を渡す。
ここあ「にこにー、絵里お姉ちゃんってとっても優しくてね、ここあ の事『偉い』って褒めてくれたんだよ~!」
にこ「あらあら…」 725 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 15:32:31.69
ID:J3bDg2xh にこ にベタベタと纏わり付く ここあ ちゃんの姿は、はたから見ているだけでもとっても心が癒される。
あら? そういえば、もう一方の双子の妹さんは…?
にこ「…こころ も隠れてないで、こっちに来なさいよ」
にこ が後ろを向き、奥の方に向かって呼びかける。
よく見ると、柱の陰に1人の女の子が隠れていた。
チラチラこちらを伺っている。
絵里「もしかして、あの子が…?」
にこ「そう。こころ よ」 726 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 15:41:49.62
ID:J3bDg2xh 私は女の子ーーこころ ちゃんーーに向かって手を振る。
絵里「こころ ちゃん、こんにちは!」
絵里「にこお姉ちゃんのお友達の、絢瀬絵里といいます。宜しくね!」
こころ「こ…こんにちは。矢澤こころ です…」
こころ ちゃんは一瞬だけ顔を出し、ぺこりと頭を下げる。
そして、恥ずかしそうに再び柱の陰に隠れた。
にこ「ごめんね…あの子、恥ずかしがり屋なのよ」
にこ「全く、双子なのにどうして性格が違うんだろう」 727 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 15:51:23.56
ID:J3bDg2xh 私は いいじゃない… と、にこ に笑い掛ける。
絵里「ここあ ちゃんも、こころ ちゃんも、性格は違ってもそれぞれ良いところがあると思うの」
絵里「…にこ の性格を半分ずつ受け継いでたりして」
その言葉に、にこ も口元を緩める。
にこ「まあ、2人とも私の大事な妹だからね。どんな性格でもいいんだけど」
そして、にこ は靴箱からスリッパを取り出した。
にこ「さ…どうぞ、上がって」
絵里「ありがとう、にこ…お邪魔します」 728 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 16:06:48.66
ID:J3bDg2xh 案内されたのは、キッチンと一体型になった矢澤家のリビング。
隣の部屋からは、こころ ちゃん と ここあ ちゃんの声が聞こえる。恐らく、2人で遊んでいるのかしら。
にこ「…もう少し待ってて。いま、こころ達の夕御飯作っているから」
キッチンの料理台では、調理中の食材が並べられていた。…そうか、ずっと料理をしていたのね。
エプロンを締めるにこ。 その表面には、『25』と数字がデカデカと刺繍されている。
絵里「ごめんね、にこ。忙しいのに…」
にこ「いいっていいって。待ってる間、好きな事してていいわよ」
絵里「うん… わかった」
お言葉に甘えるとして…私は携帯を取り出した。 729 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 16:16:47.63
ID:J3bDg2xh ぱかっと携帯を開く。少しだけ期待しらけどーー希からの着信は…やっぱり無い。
…ならば、こちらから連絡を取るのみ。
小さく深呼吸をして、電話帳を開く。『東條 希』の項目を選び、震える手で発信ボタンを押した。
絵里「…」
携帯を耳に当て、必死に音を聞き取る。
…駄目だ、出てくれない。
もう一度、またもう一度…
絵里「にこ…どうしよう。何度掛けても、希が出てくれない」
にこ「…落ち着きなさい」
こちらに背を向け、お鍋の中身をかき回しながら にこ が答える。 730 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 16:27:52.18
ID:J3bDg2xh 絵里「でも…」
にこ「着信拒否じゃないんでしょ? …希にも出れない事情があるのよ、きっと」
そんな事言ったって… どうして にこ は落ち着いていられるのよ。
頭を抱える私。そばに、誰かが立つ気配がした。
「絵里お姉ちゃん…」
絵里「…?」
顔を挙げると、そこには双子が並んでいた。…正確にいうと、こころ ちゃんは、やや ここあ ちゃんの後ろに隠れているが。
ここあ「…どうしたの? 頭、痛いの?」
ここあ「こころ がね、教えてくれたの。リビングで、絵里お姉ちゃんがさっきから元気ないって…」
ここあ ちゃんの後ろで、こころ ちゃんがコクコクと頭を頷かせる。 731 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 16:39:49.28
ID:J3bDg2xh 絵里「あなた達…」
双子はじいっと私の顔を見る。純真な4つの瞳に、私は思わず息を呑む。
絵里「絵里お姉ちゃんね… お友達と、喧嘩しちゃったの」
えぇ~っ!? と、双子は顔を見合わせる。
ここあ「絵里お姉ちゃん、喧嘩しちゃ駄目だよ!」
ここあ「にこにーもいつも、言ってるよ! みんな仲良くって!」
こころ「…そうだよ。お友達とは、仲良くしなきゃ…」
こころ ちゃんも、小さい声ながらも必死になって私に助言をしてくれる。 732 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 16:51:01.45
ID:J3bDg2xh 絵里「2人とも…ありがとう。悪いのはね、私の方なのよ」
絵里「私のせいで、お友達と喧嘩になっちゃったの」
こころ「絵里お姉ちゃん…」
私は手で目元を拭いながら答える。心なしか、声が震えてる様な…
にこ「…もうすぐ出来るわ。こころ も ここあ も、お片づけをしなさい」
は~い、 という返事と共に双子は隣の部屋へと戻っていった。
にこ「絵里…どうせ泣くなら、後にしなさい」
にこ「子供達の前で、大人が泣くなんて… 賢くないわよ」
絵里「…うん」
私はそっと、ハンカチで目元を拭う。
ありがとう、にこ。あなたには、助けられてばかりね。 733 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 17:01:56.83
ID:J3bDg2xh にこ「…それで、この後の予定なんだけど」
絵里「ええ」
私はハンカチを仕舞いながら返事をする。
にこ「夕飯が出来たから、こころ達はお食事。そして、私たちは…」
そう言って にこ は、布切れに包まれた箱を持ち上げた。
それって、もしかして…
絵里「…お弁当?」
にこ「そうよ。これを持って、2人で希の家に行くわよ」
絵里「…」
絵里「…えぇ~っ!?」
私は驚いてしまい、思わず椅子から立ち上がってしまった。 734 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 17:12:40.08
ID:J3bDg2xh こほん、と咳払いをする にこ。
にこ「結局ね… 色々考えたけど、やっぱり1番大事なのは 直接会って、話し合うこと」
にこ「そして、誤解を解いたあと、謝るのがいいんじゃないかって、思うの」
確かに、そうかもしれないけど…
絵里「でも、ここあ ちゃん達を置いていく訳には…」
にこ「大丈夫!」
にこ は ふふん と鼻を鳴らし、小さく胸を張った。
にこ「今日は金曜日だから、マm…お母さんの仕事が早く終わるのよ。だから、もうすぐ帰ってくるはず」
にこ「それに… こころ 達も、もうお留守番位 出来る年齢だから。彼女達なら、信用出来るわ」
にこ「…ねっ! 2人とも」
そう言って、にこ は私の方に向かって呼びかけた。 735 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 17:21:58.18
ID:J3bDg2xh 後ろを向くと。そこには、こころ ちゃんと、ここあ ちゃんが並んで立っていた。
ここあ「大丈夫だよ、にこにー。こころ と一緒なら」
こころ「わ…私も、ここあ が居ればお留守番出来るよっ!」
にこ「分かったでしょ…? だから、安心して」
そう言って、にこ はエプロンのホックを外す。
にこ「私が付いているから… 2人で、一緒に希と仲直りをしましょう」
そして、再び双子に呼びかける。
にこ「そういう訳で…2人とも、お留守番宜しくね?」
こころ・ここあ「「うん、任せて!」」
双子は元気よく頷いた。 736 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 17:32:18.58
ID:J3bDg2xh テーブル並べられた、数々の料理と、それを食べる こころ ちゃん達。
やはり、にこ は料理上手だ。
とっても美味しそうだけど、これからの事を考えると…今は食欲が湧かない。
にこ は、「支度をしてくる」と言って、自室に行ってしまった。
私は、にこ が戻ってくるまでの間、双子が食事をする様子を微笑ましく眺める。
こころ「…絵里お姉ちゃん」
こころ ちゃんが ふと、私の方を見て、そっと呼びかけた。
絵里「…何かしら?」
こころ「…頑張ってね」
ここあ ちゃんも箸を止め、うん と頷く。
ここあ「そうだよ! 絶対に、お友達とは仲直りしてね!」 737 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 17:43:04.53
ID:J3bDg2xh 絵里「…ありがとう」
私は、笑顔で頷き、そっと親指を立てた。
双子も笑って、同じポーズを取る。
3人で笑いあっていると、リビングのドアがガチャリと開き、にこ が顔を覗かせた。
手には、お弁当の入った袋を持っている。
にこ「ごめーん、遅くなって… さあ、出発するわよ」
絵里「…わかった!」
私はバッグを持ち、立ち上がる。
にこ は、こころ ちゃん達の頭を撫でながら
にこ「それじゃあ、行ってくるわね。…いい子にしていなさいよ」
こころ「もー、大丈夫だよー」 739 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 17:52:39.08
ID:J3bDg2xh 私はもう一度 にこ に謝る。
絵里「ごめんね、もう夜なのに、付き合わあせちゃって…」
にこ「大丈夫だって! …絵里と希が仲直りしてくれないと、私も困るんだから」
そう言って、にこ は双子の頭から手を離す。
にこ「さ、行きm… こころ「絵里お姉ちゃん!」
にこ の声を掻き消すかのように、こころ ちゃんが叫んだ。
こころ「また…家に来てくださね」
こころ「…短い間だったけど、とても楽しかったです」
ここあ「私も私も! 今度は、一緒に遊びたいな~!」
絵里(2人とも…///)
絵里「絶対に、また来るわ!」
にこ もヤレヤレ…と首を振った。
にこ「さ、今度こそ行くわよ」 741 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/24(月) 18:02:39.70
ID:J3bDg2xh 玄関のドアを開け、一歩外へ踏み出す。
陽は完全に沈み、景色はもう、すっかり夜の街に様変わりしている。
少しだけ風が冷たい。重ね着をしてきてよかった。
にこ は、手短かに携帯を操作し、ポケットにしまった。
絵里「…メール?」
にこ「そう。一応、希に送ったの。『今から行く』って…」
にこ の口から『希』という単語が出てきた瞬間、私は思わずビクッと身体を震わせてしまう。
にこ「大丈夫だって!」
にこ はポンっと、私の背中を叩く。
にこ「絵里1人じゃなくて、私も一緒にいるから…ね?」
絵里「…うん」 764 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/26(水) 01:11:11.65
ID:ZGLspfmj私達は、ネオンサインの瞬く夜の街を歩く。
この街は、常にひと が活動している…眠る事を知らない、まるで不夜城の街。
だが街の喧騒も今夜ばかりは耳に入らない。
希の家は、にこ の住む公営住宅から程近い場所にあった。
外神田にある、とあるマンション。
先導していた にこ が立ち止まり、そっと建物を見上げる。
にこ「…着いたわ」
私も にこ の隣に立って同じく見上げる。
…ここか。ここに、希は住んでいたのね。
あちこちの部屋で、窓明りが灯っている。その1つに、希もいるのだろうか。
にこ が手を伸ばし、とある部屋を指す。
にこ「あそこの角部屋よ。…だけど、電気が点いてないわね」 765 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/26(水) 01:19:16.95
ID:ZGLspfmj ほら、あそこよ。 と、にこ に教えて貰い、私も確認をする。
確かにその部屋は真っ暗だった。
絵里「…希」
思わず、彼女の名前を呟いてしまう。
そもそも、彼女は家に帰っているのだろうか? もしかしたら、まだ帰宅していないのかもしれない。
にこ も同じ事を考えたのか、私の名前を呼ぶ。
にこ「絵里… 一応、部屋の前まで行って、居るか確認しましょう」
にこ「もし居なかったら…そうね、2人で探すしかないわね」
絵里「う、うん…」
私は意を決し、マンションの中へ足を踏み入れた。 766 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/26(水) 01:28:42.68
ID:ZGLspfmj 管理人室の前を通るが、部屋の中には誰も居ない。管理人さんも夜は不在のようだ。
エントランスにある住人用の郵便受けの前で にこ が立ち止まる。
にこ「ちょっと待ってね…」
そう言うと、にこ はバッグからペンライトを取り出し、ある郵便受けの口に突っ込み 中を照らした。
中々用意がいい。
私は、それが希の家の郵便受けだと瞬時に察する。
にこ「…うん、手紙とかが入ったままになっているわね」
ペンライトのスイッチを切りながら、にこ が報告をする。
絵里「…やっぱり、帰ってないのかしら」
にこ「まだ分からないわよ、取らずに家に帰ったのかもしれないし」
そう言って、にこ は私の手を取る。
にこ「さあ、希の部屋まで行くわよ」 767 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/26(水) 01:37:47.37
ID:ZGLspfmj にこ が、エレベーターホールの前で『上』行きのボタンを押す。
機械が降りてくるまでの間、私はそっと深呼吸をした。
…ああ、それでも胸がドキドキしてしまう。
にこ「…」
にこ は黙って私を見る。そして、そっと掌を出してきた。
絵里「…?」
にこ「緊張したときはね…こうやって、掌に『人』って字を書いて…」
にこ は指で字を書き、ゴクッと呑みこむ仕草を演じる。
にこ「…こう呑み込むの。そしたら緊張が治まるのよ」
にこ「まあ、おまじないみたいなものね」
絵里「…」 768 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/26(水) 01:47:55.29
ID:ZGLspfmj その時、私はどんな顔をしていたんだろう。
少なくとも、口元を隠すのを忘れてしまうくらい驚いていた筈だわ。
思わず目を丸くして、数秒間 にこ の顔を見続けた。
にこ が私の顔を覗き込む。
にこ「…絵里? 聞いてるの?」
絵里「それ…」
にこ「…えっ?」
私はゆっくりと言葉を続ける。
絵里「そのおまじないね…希も教えてくれたの」
にこ「…」
確かに、今 目の前にいるのは にこ の筈なのに… 掌を呑み込んだとき、私は一瞬、その姿が希と重なって見えていた。
初めて生徒会室に入るとき、緊張していた私に教えてくれた…とっても素敵なおまじない。 769 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/26(水) 01:55:43.09
ID:ZGLspfmj にこ「なんだ、知ってたの…」
にこ「実はね、これを私に教えてくれたのは…希なのよ」
そう言って にこ はペロリと舌を出す。
にこ「彼女…中学のときから、オカルト系が好きでね…」
にこ「おまじないとか、夢が叶う呪文とか…しょっちゅう、色々な事を教えてくれたわ」
絵里「そうなんだ…」
私が答えると同時にブザーが鳴り響き、エレベーターのドアが開いた。
乗り込みながら、にこ が私に笑い掛ける。
にこ「この おまじない、よく効くわよね」
にこ「…希にあったら、御礼を言おうかしら」
私も笑顔で頷く。
絵里「…うん、 私も!」 770 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/26(水) 02:05:14.50
ID:ZGLspfmj ドアの横には、部屋番号と共に『東條』と記されたネームプレート。
今、私達は希の家の前に立っている。
…駄目だ。いざこの場に居ると、やっぱり緊張で身体が震えてくるわ。
私は必死で掌に『人』という字を繰り返し書いては、口の中に呑み込む。
にこ「…何度もやっちゃ、あんまり意味ないわよ」
携帯を取り出し、画面を覗きながら にこ が注意をする。
にこ「おまじないはね…1回1回大切にやるから効き目があるのよ」
そして、小さく溜息を吐きながら携帯を閉じる。
にこ「駄目だわ… 全く返信が無い」
私はそっと、ドアスコープから中を覗き込む。…って、外からじゃ意味無いわね。
けれど、家の中は真っ暗で 誰かがーー希がーー居るかどうかは窺い知れない。 771 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/26(水) 02:13:54.57
ID:ZGLspfmj にこ が、ずいっと私に近寄った。
にこ「…ちょっと、いいかしら?」
絵里「え、ええ…」
私はドアから離れ、にこ の後ろに立つ。
にこ は無言でインターフォンを押した。
辺りに響き渡る、鐘の音。…しかし、中からは何の反応もしてこない。
にこ「…う~ん?」
にこ がドアノブをガチャガチャと引っ張る。
絵里(ちょっと、流石にそれは まずい様な…)
注意しようかと口を開きかけた瞬間、ガチャリという音と共に、ドアが少しだけ開いた。
にこ が驚いた顔をして、私の方を振り向く。
にこ「嘘…鍵、開いているわよ」 808 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/29(土) 00:28:14.13
ID:Dg+qkU1G絵里「ええっ…! そんな…」
私は急いで にこ の元に寄り、そして一緒にドアノブを引っ張った。
ギィー… という音と共にゆっくりと開いたドア。鍵どころか、ドア・チェーンすら掛かっていない。
絵里・にこ「「…」」
恐々と家の中を覗き込む私たち。
やはり明かりは点いておらず、中には真っ暗な闇が広がっていた。
絵里(なんだか、怖いわ…)
思わず、にこ の腕をギュッと掴んでしまう。
この暗い闇のどこかに、果たして希は居るのだろうか?
にこ「ちょっと待ってて…」
そう言って、ポケットをゴソゴソと探り、再びペンライトを取り出す にこ。 810 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/29(土) 00:40:50.54
ID:Dg+qkU1G にこ が手元を操作する…カチッと音がして、ペンライトのスイッチが入った。
それと同時に、真っ暗だった玄関が明るく照らされる。
にこ「絵里…」
にこ が たたき を指す。
そこには、一足の靴が左右バラバラに脱ぎ散らかされていた。この靴には見覚えがある…
絵里「希の靴、だわ…」
にこ「やっぱり帰っているのね」
そう呟き、にこ は私の方を向く。
にこ「…中に入りましょう」
絵里「…うん」
私はコクリと、小さく…だけど、しっかりと頷く。
ここまで来たのだ。今更、引き返す訳にはいかない。 812 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/29(土) 00:53:36.88
ID:Dg+qkU1G 靴を脱ぎ、玄関から廊下の上へとあがる。
その際、私は自分の靴と共に、こっそりと希の靴も揃えておいた。
…靴の汚れを綺麗にはたき、そして、私たちの靴の横に並べて置く。
にこ「何してるの? …置いてっちゃうわよ」
一歩先をゆく にこ が立ち止まり、こっちを振り向く。
絵里「ごめん、すぐ行くわ…!」
慌てて にこ の側まで走り、再び彼女の腕を掴んだ。
・・・
希の家のつくりも、ほぼ一般的な構造のマンションであった。
玄関から正面のリビングまで真っ直ぐ伸びる廊下。
途中にある いくつかの部屋を覗きこみ、にこ がライトで室内を照らす。
だが、どの部屋からも ひとの気配は全くしなかった。 813 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/29(土) 00:59:20.44
ID:Dg+qkU1G 絵里「…居ないわね」
にこ「そうね…自分の部屋にいるのかしら」
にこ が小さく呟く。
絵里「希の部屋…? それって、どこなの?」
にこ「廊下の向こう…リビングの奥にあるのよ」
即答してくれる にこ。中々詳しいのね…
にこ「中学の頃から何度か来たことあるからね」
絵里「そうなんだ…」
私は、希の家で遊ぶ2人の姿を思い浮かべ、思わず胸がキュッと痛む。
…そこに、私は居ない。私の知らない、にこ と希の2人の世界。 814 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/29(土) 01:09:03.38
ID:Dg+qkU1G ついに、廊下の突き当たりまで来た。1枚の扉が、リビングと廊下を隔てている。
にこ がドアノブに手を掛け、ゆっくりと開けた。
そして、リビングの中に入り
にこ「…明かり、入れるわよ」
部屋のスイッチを点ける。
絵里(…)
闇から光へ。私は、明かりの眩しさに思わず目を細めてしまう。
リビングの真ん中にはテーブルが置かれており、椅子が2脚向かい合っている。
室内はあまり散らかっておらず、調度品も小綺麗に片付けられていた。 815 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/29(土) 01:18:28.52
ID:Dg+qkU1G ざっと見回してみたが、相変わらず誰も居そうにない。
絵里(ここにも居ない…)
取り敢えず、私たちはテーブの上へ荷物を置く。
リビングの横に併設されているキッチンの方も確認するが、希の姿はやはり どこにも見えない。
私は黙って にこ の方を見る。
にこ「あとは、ここだけね…」
にこ はリビングの奥にある扉の前に立っていた。
そして、唇に人差し指を当てつつ、もう一方の手で私を誘い寄せる仕草をした。 816 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/29(土) 01:27:15.07
ID:Dg+qkU1G 私は静かに にこ の傍により、扉の前に立つ。
にこ が私の耳に顔を近づけ、そっと囁いた。
にこ「耳を澄ませてみて…」
そして、にこ が扉に耳を近づける。
私も にこ の真似をして、神経を聴覚に集中させた。
「… うっ…… ぐすっ……」
…聞こえる。中から、彼女の泣き伏せる声が。
突然、私の胸の鼓動が足早く波打つ。
絵里「希…!」
私は隣に立つ にこ を見る。にこ は、黙って頷き扉に手を掛けた。
そして、私の右腕を取り
にこ「入るわよ…一緒に」 817 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/29(土) 01:37:05.38
ID:Dg+qkU1G 私は左手を胸に当て、瞳を閉じる。
そして、深く深く深呼吸をした。
…よし。
私はゆっくりと眼を開け、にこ の顔を見返した。
絵里「…行きましょう」
扉に掛ける指に力を込める。
そして、2人同時に扉を開けた。
部屋の中は真っ暗で、始めは何も見えなかった。
外からのーーリビングからのーー明かりに照らされ、部屋の内部がボヤッと浮かび上がる。
机やら、箪笥や飾り棚などが配置されているのが分かる。
その机の上には、見慣れたスクールバッグが乱雑に置かれていた。 818 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/29(土) 01:48:47.24
ID:Dg+qkU1G そして、ベッドの上にうずくまる1つのシルエット。
私の視線は、真っ直ぐその影に向かった。
暗くても、はっきりと分かる…その影が小さく縮こまり、そして小刻みに震えながら、嗚咽を漏らしている事が。
絵里「…のぞみっ!」
やっと…やっと、あなたに会えたわ。
私のあげた声は、おそらく悲鳴に近かった。
隣で にこ も小さく息を呑んでいる。
私の声に、シルエットがビクリと震え…静かに頭を上げた。
リビングから射し込む明かりに僅かに照らされるその顔。
だけど、私の瞳にはその表情までもがはっきりと映った。
彼女が、しゃくりあげながらも小さく返事をする。
希「え、えりち…?」 825 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 00:15:13.42
ID:7zhgeLG1 彼女は未だ、制服姿のままだった。
じっとうずくまりながら、クッションを腕の中に抱え込んでいる。
希「そ、れに… にこっち、まで…」
希「な…なんで、ここに…?」
驚いたのだろうか、涙で真っ赤に腫れ上がった瞳が大きく揺れる。
絵里「えっと…希、あのね?」
私は一歩前へ出る。そして、事情を説明しようと口を開いた途端。
希「…嫌っ!」
希の叫び声と共に、私の身体目掛けてクッションが飛んできた。 826 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 00:26:19.98
ID:7zhgeLG1 にこ「危ないっ!」
にこ が咄嗟に叫ぶ。
だが、避ける間も無く、私は柔らかい衝撃をお腹に受けた。
希「こ、来ないで…!」
希「なんで2人が家の中にいるの…!?」
希「は、やく…出てってよぉ!」
彼女が悲鳴に近い声をあげながら傍に積んであったクッションを次々と投げつけてくる。
にこ「希、落ち着いて!」
にこ が必死になって止めに入ろうとしたが、彼女の勢いは止まりそうにない。
涙で顔をクシャクシャに歪ませながら、いくつも、いくつもクッションを投げつけてくる。
絵里「…」
私は黙って、彼女の怒りを受け止め続ける。 827 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 00:37:56.11
ID:7zhgeLG1 希「はあっ… はあっ…」
クッションのストックと共に、希 本人も体力が切れたのか…彼女はがくりと頭を垂れ、肩で大きく息をする。
時折、ヒックヒックとしゃくりあげながらも じっと俯いていた。
絵里「希…」
私は、その様子を見ながらゆっくりと話し始めた。
絵里「私はね…只、あなたにもう一度謝りたい。それだけのつもりで来たの」
絵里「勝手に家の中に上がったことは…本当にごめんなさい。でもね、鍵が開いていたから…思わず、入ってしまったの」
そうよ! と、にこ も同調の声を上げる。
にこ「そもそも、どうして返信しないの…?」
にこ「私も絵里も、何回 希に連絡したと思っているのよ」 828 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 00:46:28.17
ID:7zhgeLG1 希「れん、らく…?」
希「携帯…バッグの中、だから…見てない」
俯いたまま、希が小さく答える。
私は静かにベッドの側へと歩みよった。
にこ「絵里…」
心配そうな声をあげる にこ に、私はそっと微笑み掛ける。
絵里(大丈夫よ、にこ…)
絵里「ねえ、希…」
ベッドの上で、皺々になった制服姿のままの女の子。
私は彼女の脇に立って、そっと声を掛けたが彼女は黙ったまま顔をあげない。 829 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 00:56:36.96
ID:7zhgeLG1 希「…」
絵里「少しの間だけ…私の話を聞いて欲しいの。いいかしら?」
彼女は何も答えなかったが、私はそれを肯定の意思だと捉えて、にこりと笑い掛けて言葉を続けた。
絵里「ありがとう…そうね、何処から話そうかな?」
私は暫し、考える。
…うん、話すとしたらまずはあそこからだ。
私は後ろを向き、にこ に目線で問い掛ける。
にこは、ふっ と小さく笑い、私に向かって頷いた。
にこ「まあ、私も乗り掛かった船だしね…思う存分、聞かせて頂戴」
そう言って、壁に寄りかかる にこ。
絵里「ありがとう、にこ」 830 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 01:08:27.24
ID:7zhgeLG1 そして、私は再び希の方へと向き直った。
絵里「ねえ、希…」
絵里「…あなたと始めて出会ったのは、音ノ木坂に入学した日だったわね」
絵里「ううん…正確に言えば、私があなたの事を知った日、かな…」
もうすぐ一ヶ月か… 桜の舞う季節に私はこれから始まる高校生活にそっと期待と不安を抱きながら、音ノ木坂に入学したのは。
絵里「教室に入ったら、同じクラスになった ひと をグルリと見回してね…」
絵里「ああ、色んなひと が居るわ…って、思った。明るそうなひと、運動が好きそうなひと、大人しそうなひと…そして」
私は希に向かって にっこりと微笑む。
絵里「友達に、なりたいな…って、思ったひと」
希「…」
彼女は俯いたままなので、どんな表情をしているかは窺い知れない。
私は、心の中でそっと続ける。
絵里(あなたの事よ…希) 831 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 01:16:27.51
ID:7zhgeLG1 絵里「希と、すぐにでもお話ししてみたかった…だけど、中々出来なかった」
絵里「あなたは、クラスの人気者。明るくて、話も面白くて…」
そして、何よりも。
絵里「希の傍には、いつも にこ が居た… 隣のクラスなのに、しょっちゅう希の所へ来ていて」
絵里「羨ましかった…だけど、私はそれを、遠くから眺めているだけだった」
にこ「絵里…」
にこ が、小さく息を呑む。 832 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 01:25:37.71
ID:7zhgeLG1 絵里「何でしょうね、この気持ちは…『嫉妬』って言えばいいのかしら…」
絵里「不思議よね…高校生になるまで、まるっきり接点は無かったのに…」
絵里「まるで、あなたの事を昔からよく知ってる様に思えたわ」
近いけど、遠い存在。私にとって歯痒い日々が続いた。
だけど…ついに、私にも幸運が訪れた。
絵里「何日か前… 朝、私が 希と、そして にこ が慌てて下駄箱に駆け込む所を見た後」
絵里「その日の休み時間…初めて、希が話し掛けてくれたわよね」 833 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 01:34:23.03
ID:7zhgeLG1 初めて掛けてくれた言葉は、今でも忘れられない。
『絢瀬さん』
『おはようさん』
たった、二言か三言。
ごくごく短い会話だったけど、私にとっては他のどんな物にも変えられない貴重な時間よ。
絵里「嬉しかった…」
絵里「憧れだった『東條さん』と話せている…そう考えただけで、私は感激で心が躍っていたわ」 834 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 01:45:02.06
ID:7zhgeLG1 そして、その日のお昼休み。
絵里「…私は うっかりして、お弁当を忘れてしまった」
絵里「初めて購買部に行って、何か買おうかと思ったけど…すっごい人混みだったわ」
あの人混みに私は圧倒され、少し離れた場所で待っていたのだ。
絵里「そんなときよね… 希が、再び私に声を掛けてくれたのは」
『…もしよかったら、お昼ご飯、一緒にどう?』
絵里「中庭へ行って、2人で分け合って食べたメロンパン…」
絵里「とっても、とっても美味しかった」 835 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 01:54:18.91
ID:7zhgeLG1 一口かじって、驚いたっけ。
こんなにも美味しい食べ物が、この世にあったなんて!
教えてくれた希には、感謝仕切れない。
絵里「そして、その次の日よね…」
私はチラリと後ろを見遣り、にこ の顔を伺う。
にこ「…?」
にこ「あ…あの日ね」
絵里「そう、にこ とも初めて出会った日」
『… 絢瀬さん、アイドルって興味ないかしら?」』 836 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 02:03:51.10
ID:7zhgeLG1 私に尋ねる にこ の顔は真剣で…私は思わず返事に詰まってしまった。
絵里「放課後、私と希と2人でアイドル研究部の部室へ行ったわよね」
絵里「屋上へ行って、一緒に運動までして…」
結局、アイドル研究部に入ることは無かったけど…
絵里「にこ…あのときは、どうもありがとう。とっても楽しかった」
にこ「別に…大した事じゃないわよ」
にこ が腕組みをして、そっぽを向く。
リビングからの明かりに照らされる横顔。
はっきりとは分からないが…少々赤くなっているみたい。 837 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 02:13:50.82
ID:7zhgeLG1 絵里「あれから、部活の方はどうなの…?」
にこ「ちゃんと毎日、屋上で踊りの練習しているわよ。…部員のみんなも、なんとかついて来ているわ」
その言葉に、私は小さく微笑む。
絵里「そう…さすが にこ ね。」
絵里「…頑張ってね?」
にこ は無言で指を挙げる。
…どうやら、『任せて頂戴』と言っているようだ。
私は再び前を向き、今度は希の方を伺う。
…大丈夫。彼女も聞いてくれているようだ。 838 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 02:24:17.57
ID:7zhgeLG1 絵里「…翌日は、オカルト研究会の方も見学させて貰ったわ」
絵里「小さな部室で、夜まで2人で語り合ったわよね」
そして、その帰り道。
私のお願いに快く応えてくれて、彼女が家に来てくれる事になった。
絵里「私ね…今まで、お友達を家に招待するなんて事、殆どなかったから…」
絵里「希が来てくれるって言ってくれたとき、とっても嬉しかったの」
絵里「だけどね…それよりも、もっと嬉しかったのは」
ここで、私は指で軽く目元を拭う。
…少しだけ、目元が濡れてきたから。 839 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 02:33:09.05
ID:7zhgeLG1 絵里「希が…私の事を、『えりち』って呼んでくれた…」
絵里「その事が、何よりも、他のどんな事よりも嬉しかったわ」
絵里「希との 心の距離がグッと縮まった… そう思えると、本当に嬉しくてね…」
『絢瀬さん』、『東條さん』から『えりち』、そして『希』ーーお互いに名前で呼びあったその瞬間から。
希が、本当に掛け替えのないひと となった。
絵里「『えりち』だなんて…まるで、幼馴染み同士みたいな呼び名よね」
絵里「だけど、そう呼んでくれて…ありがとう。希」 852 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 13:38:48.53
ID:7zhgeLG1希「…」コクリ
希が、小さく頷いた。
絵里「…!」
彼女が無視せずに、反応してくれた…それだけでも、今の私には充分過ぎるほど、嬉しい。
こほん と、1回咳払いをして、気を取り直す。
絵里「続けるわね…」
絵里「家に来てくれたあと…あなたは、私や亜里沙と一緒にカレーを作ってくれたわよね」
絵里「覚えてる…? 隠し味といって、チョコレートを入れてくれたの」
あのカレーからね…なんと言えばわからないけど、希の味がしたのよ。
愛情、真心…数々の想いがこもった、とってもスピリチュアルな味。 853 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 13:51:39.17
ID:7zhgeLG1 絵里「その後は…私たち3人で、ずっと語り合ったわよね」
絵里「亜里沙も、あなたにとっても懐いてくれたわ… あなたが帰ってしまった後、あの子ったら寂しがっていたのよ」
絵里「また遊びに…今度は、泊まりに来て欲しいって」
再び、彼女が頷いたような気がした。
絵里「その次の日よね…2人で一緒に生徒会室まで行ったのは」
絵里「生徒会の部屋に行くまで…2人で、手を繋いでいったわよね」 854 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 14:02:35.80
ID:7zhgeLG1 絵里「希の手はね…温かくて、抱擁感があって…ずっと、繋いでいたいなあって思った」
絵里「生徒会室の前では、緊張する私に 心が落ち着くおまじないを教えてくれたわよね…」
にこ「あっ… それって…」
にこ が思わず口を挟む。
私は にこ に向かって小さく頷く。
絵里「そうよ…さっき、エレベーターホールで にこ が教えてくれたおまじない」
絵里「希には、このとき教えて貰ったの」
絵里「とっても効くわよ…ね! にこ!」
まあ、そうね…と、にこ も素直に賛同する。 855 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 14:15:23.37
ID:7zhgeLG1 にこ「アイドル研究部の設立届けを出すときや…あと、部活の練習の前はいつも掌に『人』って書いて、緊張を解いているわ」
にこ「私もお世話になっている…ありがとうね、希」
希「…」コクリ
にこ「…!」
少しずつ、希が心を開いてくれているーー私には、そんな気がした。
絵里「凛とした雰囲気の会長、キャラの立っている副会長…書記長たち2年生のメンバー」
絵里「人数こそ少ないけど、みんな学校の為に精一杯努力している…そんな意気込みが伝わったよね」 856 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 14:30:07.72
ID:7zhgeLG1 そして、その日の帰り道。
絵里「私の様子が変だ、って気付いた希は…私を公園に誘ってくれたわよね」
絵里「そこで、私の話を親身になって聞いてくれた」
絵里「自分というものがわからない…みんな、私を内面ではなく、ロシア系という外見で見ているんじゃないか…そう、私は言った」
にこ「絵里…」
にこ が心配そうな声をあげる。
そうか… にこ に話すのは、初めてだったわね。
絵里「もう大丈夫よ…にこ」
絵里「そう言った私の身体を、希はギュッと抱き締めてくれて…こう言ってくれた」 857 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 14:41:09.35
ID:7zhgeLG1 『…えりち は、えりち やん』
『金髪とか、ロシア系とか、そんなのウチには関係ない…あなたは、絢瀬絵里という1人の立派な個人』
そして。
『…そんな えりち が愛おしくて…大好きなんやで』
絵里「信じられなかった…! だけど、たとえ夢だとしても、とっても嬉しかった…!」
絵里「私ね…このまま、時間が止まってくれればいいのにって、本気で神様に頼んだのよ」
あの後、希は恥ずかしそうに私から離れていったわよね。
絵里「ねえ、希…私がその後で、何てお返事をしたか、覚えてる?」
私はそう言って、彼女をじっと見つめた。 858 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 14:53:32.47
ID:7zhgeLG1 希が…少しだけ顔をあげた。
希「…忘れる訳、ないやん」
彼女が、応えてくれた。
希「ウチが…そんな大事なセリフを…忘れる訳、ないやん!」
絵里「…そ、そうよね。へんな、こと…聞いて悪かったわ」
何故だろう。一生懸命、我慢しているのに…さっきから、目から『汗』が止まらない。
絵里「…」
私はそっと目頭を押さえ、言葉を続ける。
絵里「あの後…私は こう言った」
『…私も、あなたの事が大好きです』 861 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 19:50:24.75
ID:7zhgeLG1 絵里「希ったら、嬉しそうに抱き着いてきたわよね…」
絵里「あのとき、とっても いい匂いがしたわ… どんなフレグランスを使ってるんだろうなあって考えちゃった」
いつの間にか、私の話は『危険な領域』にまで進んでいた。
しかし、にこ も、そして希も何も言わない…私は独り、語り続ける。
絵里「…それで、家に帰る途中」
絵里「別れ道で、私の頬っぺたに…」
突然、私は右の頬ーー彼女の接吻を受けた場所ーーが熱く感じる。
にこ「ま、まさか…」 862 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 20:00:57.94
ID:7zhgeLG1 にこ がゴクリと息を呑み込み、何かを察した声を出す。
私は うん、と頷き…すうっ と息を吸い込んで、言葉を続けた。
絵里「私の頬に…キスを、してくれた」
希「え、りち…?」
希が狼狽えた様子を見せる。
…言っちゃった。
ごめんね、希…だけど、この際 にこ にはこれ以上、隠し事はしたくなかったの。
にこ「…」
にこ は目を見開き、一瞬 口をパクパクと動かす。 863 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 20:09:12.58
ID:7zhgeLG1 にこ「…驚いた。そんな関係まで進んでいたの」
絵里「…ええ」
私は頷き、肯定の意思を示す。
そして、そっと天井を見上げた…涙が溢れそうだったから。
絵里「ここまで…ここまで、希に愛して貰っているのに」
絵里「私は…どうして、あの子の事も好きになってしまったんだろう?」
ヒック… 私は、思わずしゃくりあげてしまう。 865 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 20:21:00.57
ID:7zhgeLG1 にこ「絵里…あの子って?」
にこ が腕組みをしたまま、静かに問い掛ける。
その質問に答えたのは、私…ではなくて、傍らに座っている希だった。
希「亜里沙ちゃん…えりち の妹さん」
希「そうやろ…えりち?」
絵里「…」
私はポケットからハンカチを取り出し、口元を押さえながら目線を天井から離す。
希「…」
彼女は黙ったまま…だけど頭をあげ、じっと私の顔を見つめていた。
彼女の瞳が、私のそれと真っ直ぐにぶつかる。 866 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 20:32:09.17
ID:7zhgeLG1 絵里「本当に…本当に、ごめんなさい」
絵里「私は、希と亜里沙…2人の事を好きになってしまった」
絵里「告白して、くれたのに…キスまで、してくれたのに…」
絵里「そんな、希の気持ちを踏みにじってしまった…」
絵里「今日はね…その事を、謝りたかったの…話を聞いて貰えれば、それでよかった…」
…両眼から、『汗』がーーいや、涙が、止まらない。
私は希の瞳を見つめ、最後にもう一度頭を下げる。
そして、ハンカチで目元を拭き、ポケットに仕舞った。
カチッ…カチッ…
時計が秒針を刻む音だけが、部屋の中に響く。 867 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 20:42:38.17
ID:7zhgeLG1 私は ずびっと鼻を啜りあげた。
絵里「ごめんなさい…つい、取り乱しちゃった」
私は希と、そして にこ の方を交互に見る。
絵里「思った以上に…長くなっちゃったわね」
絵里「ごめんね、2人とも…聞いてくれて、ありがとう」
私はそう言って、希に背を向ける。
そして、ゆっくりと部屋の外へと歩み始めた。
…うん。果たして、希が許してくれるかどうかは分からない。
だけど、彼女は私の言葉に耳を傾けてくれた…それで十分だ。
にこ「…待って」 868 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 20:53:47.68
ID:7zhgeLG1 にこ が すっと腕を伸ばし、私の動きを止める。
にこ「話はまだ、終わってないそうよ」
にこ はそう言って、私の後方を見て 微かに微笑んだ。
にこ「ね…? 希」
絵里「…」
私は恐る恐る振り向く。
希「えりち…」
いつの間にか、希がベッドから立ち上がっていた。 869 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 21:04:03.28
ID:7zhgeLG1 絵里「のぞみ…」
私は、彼女の名前を呼ぶ。
彼女はツカツカと、こっちに向かって歩み寄る。その表情は明かりが少ないせいで、よくわからない。
…何だろう。まさか、御礼参り?
思わず、眼をぎゅっと瞑ってしまう。
絵里「…!」
…痛くない。それどころか、あったかい?
私は恐る恐る両眼を開ける…私の身体は、希の中に抱かれていた。
ギューっと、強く、だけど どこか優しく…希の香りが私の鼻腔をくすぐる。
絵里(…!?) 870 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 21:15:45.14
ID:7zhgeLG1 抱き締められている…これは一体、どういう事かしら?
希「えりち、あのな…」
彼女がヒックと、しゃくりつつも 話し始める。
まだ、横隔膜の震えが治らないようだ。
希「ウチ… えりちと、にこっちが来てくれて…本当は すごく嬉しかったんよ」
絵里「…」
希「夕方、別れ道で…えりち に向かって『どうでもよくなりそう』って言ったよね?」
私はコクリと頷く。
希「言った瞬間…後悔してしまった。そんな事を言うつもりはなかったのに、口が止まらなくて」
希「走りながら…泣いていた。涙が止まらなかった。周囲の目線とかとても気にしている場合じゃなくて…」 871 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 21:26:15.78
ID:7zhgeLG1 希「どうしよう、えりち に酷い事を言ってしまった…」
希「ウチ、これからどうすればええんやろうって」
希「ずっと、ずっとそう考えていて…やっと家まで辿り着いた」
ここで、彼女は一息つく。…大丈夫、ちゃんと聞いているわよ。
希「家に帰ってからも、何もやる気が起きなくて…ずっと、部屋の中で震えていた」
にこ「希…」
にこ が心配そうに口を挟む。
希「鍵を開けていたのは… ウチが、閉め忘れていたっていうのもあるけど」
希「本当は…助けに来て欲しいっていう心の本音が表れてしまったのかもしれない」 872 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 21:35:03.46
ID:7zhgeLG1 希「だから…えりち 達が、部屋に入ってきたとき…」
希「嬉しかった… だけど、何でウチって素直じゃないんやろ…」
彼女が啜りあげる。
私の肩に、熱い液体が溢れ落ちた…彼女の瞳から、流れ落ちているようだ。
希「追い返そうとしてしまった… えりち に物を投げつけてしまって、傷つけようとしてしまった」
希「ごめんね、えりち… 痛くなかった?」
絵里「…うん。たかが、クッションじゃない」
絵里「…だい、じょうぶよ」
私も、込み上げる熱い感情を押さえながら必死になって返事をする。
絵里「だって、私は…」
絵里「賢い、可愛い、エリーチカですもの…」 873 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/11/30(日) 21:46:14.83
ID:7zhgeLG1 希「よ、かった…」
希「ごめん…ごめんね」
彼女は遂に抑えきれなくなったのか、私の胸の中に頭を埋め、咽び泣く。
希「わああぁぁん! えりちぃぃぃ!」
絵里「…」ヒクッ
…ああ、駄目だ。私も もう限界。
絵里「う…うわああぁぁん! のぞみいぃぃぃ」
涙で顔をクシャクシャに歪ませながら、私も希の身体に顔を埋める。
にこ「うぅ…」
私から、姿は見えないけどーーにこ も、微かに震えながらそっと目頭を押さえている。 884 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 00:58:04.57
ID:QrNaxCSF暫くの間、私たちは我を忘れ、抱き合ったままひたすら わんわん と泣き続けた。
・・・
絵里「…ヒック…希」
希「…ぐすっ…えりち」
興奮もピークを越え、私たちの心は少しずつ平穏さを取り戻す。
相手の身体に腕を回したまま、お互いに顔を見合わせ…泣いてしまったという恥ずかしさも相まって、クスリと笑いあってしまう。
希「えりち…涙で綺麗な顔が、くしゃくしゃやで」
絵里「…そういう希こそ、可愛いお目目が真っ赤よ。髪の毛だってボサボサになっているわ」
お互いに指摘しあって…私たちは、思わず ぷっ、と吹き出してしまう。 885 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 01:09:27.40
ID:QrNaxCSF 不意にポンっと、肩を叩かれた。
横を振り向くと…にこ が私と希の肩に、それぞれ片手ずつ置いていた。
にこ「…もう、大丈夫そうね」
そう言って、にこ は私たちに微笑み掛ける。
にこ「私の好きな言葉にね…こういうのがあるの」
にこ「 "Old solders never die, but fade away."」
にこ「…『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』」
にこ「私の役目はここまでよ。後は…2人で何とかなるでしょう?」
えっ…それって、つまり…
希「にこっち…帰っちゃうん?」
希が再び顔を曇らせる。
にこ が手を肩から離し、 まあね… と、頷いた。 886 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 01:21:34.24
ID:QrNaxCSF 絵里「希の言う通りよ…どうして? …ねえ、どうして行っちゃうの?」
私も必死になって にこ に問い詰める。
にこ「言ったでしょ…私の役目は、2人の仲を取り戻す事」
にこ「この状況なら…もう、大丈夫よ。この私が保証するわ」
それにね… と、にこ は顔を背けて明後日の方向を向く。
そこには、壁時計が時を刻んでいた。
にこ「これ以上、ここに居たら…私まで、泣いちゃうから」
にこ「我慢出来そうにない…だから、私は帰らせて貰うわ」
そう呟き、にこ はハンカチでそっと目元を拭う。 887 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 01:30:13.01
ID:QrNaxCSF 絵里・希「「にこ(っち)…」」
にこ の名前を呼び掛ける、私たちの声が1つに重なった。
にこ がもう一度、私たちに微笑む。
にこ「…まあ、私もアイドル研の活動があるからね」
にこ「明日…って、もうすぐ土曜日か。昼から、部活動があるから帰って休まなくちゃ」
最後の方は、無理矢理言い訳をしているようにも思えるが…。
にこ「絵里… 希の事、頼んだわよ」
にこ が、私の目を真っ直ぐに見つめる。
にこ「あなたなら…希の事、しっかり守れると思う。中学から一緒だった私が言うんだから、信じなさい」
にこ「あと、最後に…2人とも、おめでとう」
そう言って、にこ は片目を瞑り、ビシッと親指を立てた。 888 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 01:42:17.91
ID:QrNaxCSF お、おめでとう、って…つまり、それって…ああいう意味よね。
絵里「…///」
私は急に体温が高くなり、胸が高鳴る。
…いけないわ、絶対頬っぺたが真っ赤に染まっている。
にこ「2人とも、なに照れてるのよ… まったく」
私は横目でそっと希を伺うと…彼女も頬を染め、もじもじとしていた。
にこ「…じゃあ、私は帰るわよ。お弁当置いていくから、2人で食べなさい」
にこ「容器は…そうね、休み明けにでも返して貰えれば いいわ」
そう言って、にこ は部屋から出て行く。
絵里(にこ…)
私は心の中で にこ の名前を呼ぶ…
…と、本人がぴょこん と柱の陰からツインテールを出し、「ちょっと!」 と呼び掛けて来た。
にこ「私が出て行ったら…鍵、しっかり掛けときなさいよ」 889 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 01:49:48.82
ID:QrNaxCSF にこ「…邪魔が入ったら、萎えちゃうでしょ?」
希「もう! にこっち ってば///!」
希が顔を真っ赤にしながら軽く怒った声を出す。
にこ「じょーだんよ、じょーだん…」
にこ「じゃあね?」
そう言って、玄関の方へ歩き始めた にこ の背中に、私は言葉を掛ける。
絵里「…待って!」
私は急いで にこ の元へ駆け寄る…その前に、リビングのテーブル上に置いてある、私のバッグから ある物を取り出した。
絵里「これ…受け取って欲しいの」 890 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 01:58:19.71
ID:QrNaxCSF にこ「…飴、かしら?」
にこ は、その手に受け取った大袋入りの飴玉をまじまじと眺める。
私は ええ、と頷く。
絵里「バルバリスって言ってね…私の故郷、ロシアの飴なのよ」
絵里「たくさん有るから…こころ ちゃんや、ここあ ちゃんにも分けてあげて頂戴」
絵里「希にも、前にあげた事があるのよ」
そう言えば、希から飴の感想を聞いたかしら…?
にこ「ありがとう…大事に舐めるわね」
にこ はそう答えて、にっこり と笑ってくれた。 891 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 02:08:02.86
ID:QrNaxCSF 私と希は 玄関まで、にこ を見送りに出た。
靴を履いている にこ に、私はもう一度御礼の言葉を掛ける。
絵里「にこ… 本当に、ありがとう」
絵里「にこ が居なかったら、私…もう駄目だったかもしれない」
にこ「…しつこい女は、嫌われちゃうわよ///?」
にこ が、照れ隠しのつもりか、精一杯の皮肉を返してくる。
…全く。にこ だって、素直じゃないじゃないの。
あれ…? と、希が たたき を見下ろし不思議そうな声を上げる。
希「靴が、揃えてある…」
希「もしかして… 2人が、揃えてくれたの?」
交互に私たちの顔を見る希。 892 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 02:17:36.29
ID:QrNaxCSF にこ「私は知らないわよ?」
にこ「そういえば、絵里…さっき、玄関で何かゴソゴソやっていたわね…」
希と にこ の視線が、私に同時に集まる。
…そうよ。私が揃えたのよ。
絵里「…だって、バラバラに脱ぎ散らかっていたから」
絵里「べっ別にいいでしょ? それ位…///」
にこ「…ふ~ん。まあ、いいけどね」
何だか、にこ がさっきから口元を緩めてニヤニヤ笑っている気がするわ。
希「えりち…ありがとさん///」
絵里「や、やめてよ…これ位、当たり前よ///」
希にまで御礼を言われてしまった…だけど、その言葉もとっても嬉しい。 893 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 02:27:08.18
ID:QrNaxCSF にこ が、ドアノブに手を掛け、こっちを振り向いた。
にこ「じゃあね、2人とも…また、月曜日に会いましょう」
絵里「ええ、お休みなさい…夜だから道も暗いけど、気を付けてね?」
絵里「あと…部活の方も頑張ってね」
希「お休み…そして、ありがとな、にこっち」
わかってるわよ…と、少し膨れっ面をしながら にこ が頷く。
私たちは互いに小さく手を振り合う…そして、にこ は最後にもう一度親指を立て、外へと出て行った。
…バタン
玄関ドアがゆっくりと閉まる。 894 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 02:36:24.42
ID:QrNaxCSF 希「…」
希が腕を伸ばし、ガチャリと鍵を閉めた…ご丁寧に、ドア・チェーンまで掛けている。
絵里「…///」ドキドキ
絵里(こ…この状況は…!)
夜の家で、希と2人きり…そう認識した途端、私は急に、胸が鼓動を大きく立て始めた。
慌てて、この気持ちを誤魔化すかのように希に声を掛ける。
絵里「ねえ、希…お腹、空かない?」
絵里「にこ がね…ここに来る前、わざわざ お弁当を作ってくれたのよ」
絵里「一緒に食べましょう?」 896 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 02:47:27.38
ID:QrNaxCSF 時間的には、もう日を跨ぎそうなのだ。
先程から、私のお腹も空腹を訴えている。
希「…ええの?」
希「そうやね。せっかくやから、頂こっかな」
希「…ウチも、お腹空いとったんよ」
鍵を掛け終わって こちらに向き直った希。
その顔も、心無しか緊張しているように思えた。
・・・
希「はい、お茶をどうぞ」
絵里「…ありがとう」
リビングの椅子に、2人して向かい合って座る。 897 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 02:56:30.10
ID:QrNaxCSF 未だに制服のままの希。
その瞳は、時間が経った今でも少し腫れている…恐らく、私も同じような目をしているだろうな。
愛情、友情、そして劣情…私はこの複雑な想いから、正面に座る彼女の顔が、眩しくて直視出来ない。
私は少し下を向き、いそいそとお弁当の蓋を開けた。
絵里「うわあ…美味しそう!」
希「おぉっ…流石は にこっち やね」
中身を覗き込んだ私たちは、その出来栄えに感嘆の声をあげた。
主食の白いご飯と共に、海苔の巻かれたおにぎりが4つ、ちょこんと並べられている。
おかずの方も、唐揚げ やミニ・ハンバーグ、煮物に卵焼き…そして、プチトマトと、バラエティーに富んでいる。 898 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 03:06:25.74
ID:QrNaxCSF でも…と、希が呟く。
希「作った本人が食べないだなんて、なんか おかしな話やね」
絵里「そうね…」
颯爽と帰っていく にこ は、最後までカッコよかった…本当に、感謝仕切れないわ。
箸を手に取り、いただきます…と 食べ始める。
勿論、作ってくれた にこ に対しての感謝も込めて。
絵里「…! 美味しいわね!」
卵焼きを一つ、口に含んだら…ふんわりと、柔らかくて程よい甘さが口一杯に広がった。
希「あ、えっと…」
私の目の前に、煮物の人参が突き出された。
前を向くと、希が恥ずかしそうな顔をしつつも、私に向かってそっと箸を差し出していた。 899 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 03:15:06.63
ID:QrNaxCSF 希「え、えりち…口開けて///」
絵里「!?」ドキッ
はい、あ~ん… と、希が箸を伸ばしてくる。
私はドキドキしながらパクリと人参を口に含んだ。
希「お…美味しい…///?」
希が頬を染めながら、恐々と伺う。
絵里「…う、うん! すっごく美味しいわよ///」
希「良かった…嬉しい///」
…嘘よ。本当は、味なんて全く分からなかった。
希の手から食べさせてくれた、というシチュエーションに頭がショートしそうだったから。
私もお返しに…と、プチトマトを1個手に取り、希の口元に持っていく。
絵里「はい…あ~ん して」 900 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 03:25:28.39
ID:QrNaxCSF 希「えりち…///」
彼女は一瞬恥ずかしそうに目を瞬いて…口を小さく開けた。
私はその可愛らしい口の中に、トマトをゆっくりと入れる。
希「うん…美味しいよ、えりち///」
彼女がにっこりと笑う…良かった、私まで嬉しくなってしまう。
2人で、にこ の料理に舌鼓を打ち続ける。
おかずを食べながら、私はそっとおにぎりを見た。
これも食べてみたかったが、私はこの海苔というものがどうも好きになれない。
希「えりち…おにぎりさん、食べへんの?」 901 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 03:33:40.14
ID:QrNaxCSF 絵里「うーん…ちょっとね」
言い淀む私。
美味しいよ…と、言いつつ希が1個手に取り、パクリと口に含む。
希「うん、塩が効いてて美味しいなあ」
その様子を見て、私は思わずゴクリと唾を飲み込む…美味しそう、一口だけ食べてみようかな?
絵里「…」
おにぎりをひとつ手で持って、恐々と見つめる。
思い切って、一口齧ってみた。
モグモグと、歯で海苔を噛み千切る。
希「…どう?」
絵里「…うん、味は美味しいけど…とても興味深い食べ応えね」
残りは、ゴクリと丸呑みする。
やっぱり、私は海苔だけは苦手だ。 902 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 03:40:18.05
ID:QrNaxCSF 空になった弁当箱…お腹いっぱいよ。
希も、満足そうにお茶を飲んでいる。
希「美味しかったなあ…ありがとさん、にこっち」
絵里「そうね…ご馳走様でした」
そうだ、と希が私の顔を見る。
希「食後にコーヒーでも飲まん?」
希「今ね、家に丁度、キリマンジャロのお豆さんが有るんよ」
絵里「…いいわね!」
私は、彼女の提案にありがたく乗っかる。 903 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 03:47:23.28
ID:QrNaxCSF キッチンで、希が準備を始めた…サーバーにドリッパーをセットする。
そして、お湯をゆっくりと注ぎ始めた。家中に広がる、コーヒーのいい香り。
少しして、希がカップを持ってキッチンから出てきた。
希「はい、どうぞ」
絵里「ありがとう!」
カップを手に取り、コーヒーの香りを楽しむ。…とっても甘い。
希が、テーブル上にチョコレートの箱とスプーンを置いた。
希「キリマンジャロってな…香りに相反して、意外と酸味が強いんよ」
希「せやから…一応、チョコレートを置いとくね」
私はカップに口付け、黒い液体を飲む。 904 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 03:55:00.65
ID:QrNaxCSF 絵里「ハラショー…確かに、苦いわね」
私は、そっとチョコレートに手を伸ばし、カップに投入する。
希「…ふふっ」
その様子を、彼女は笑って見つめている。
私も照れ臭さを隠す為に、恥ずかし気に微笑み返す。
ああ…私って今、とっても幸せだわ。
・・・
さてと…と、希がおもむろに椅子から立ち上がった。
希「もうこんな時間やし…お風呂入って、寝よっか」
希「えりち…お先に入ってええよ」
絵里「えっ…う、うん///」
『お風呂』、そして『寝る』…この言葉に、私は敏感に反応してしまう。 905 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 04:02:48.45
ID:QrNaxCSF 絵里「わっ私は、別に…後でいいわよ。希に悪いし」
希「うーん… ウチは、お洗濯物を畳みたいし…それに、えりち は大事なお客様やから」
彼女の言葉に、私は渋々頷く。
絵里「わかったわ…先に、頂くわね」
・・・
脱衣所でヘアゴムを取り、ポニーテールを振り外す。
そして、衣服を脱ぎ捨てて丁寧に折り畳み…私は一糸纏わぬ姿となった。 906 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 04:08:13.09
ID:QrNaxCSF ガラリとお風呂場の入り口を開ける。
絵里「…あらら」
希ったら、お湯を張り忘れているわ…まあ、いいか。
バスタブにお湯を溜めながら、私はシャワーの栓を捻る。
絵里(…)
ほとばしる熱いお湯。
シャワーを浴びながら、私は眼を閉じる…そして、今日1日に起こった出来事に思いを馳せた。
本当に、今日は様々な事があった。 907 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 04:17:23.54
ID:QrNaxCSF 一旦は希との仲にヒビが入ってーーもう駄目かと思った。
だけど、にこ が居てくれたおかげで また、彼女との関係を修復する事が出来た。
絵里(色々あったけど…本当に良かった)
終わり良ければ、すべて良しって…これは違うか。
顔を擦り、バスタブの方を確認する。…うん、こっちもそろそろ良さそうね。
シャワーの栓を閉め、私は足先からゆっくりと湯船に身体を沈める。
絵里「~♪」
汗とともに、疲れも流れ落ちてゆくようだ。気分が良くなり、私は思わず鼻歌を歌ってしまう。
コンコン… お風呂場の入り口が叩かれた。
希『えりち~、お湯加減はど~う?』 908 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/02(火) 04:28:44.27
ID:QrNaxCSF 私は顔をあげ、声のする方を見る。
磨りガラスの向こうに、希の姿がぼんやりと写っていた。
絵里「大丈夫…とっても気持ちいいわよ?」
絵里(希も、一緒にどう? …なんちゃって///)
後半のセリフは、心の中だけに留めておく。
ガラスの向こうから『良かった』と、返事が返ってくる。
希『脱衣所に、バスローブ置いといたから…もし良かったら着てな? サイズ合うとええけど』
希『ウチ、もう少しかかるから…ゆっくり浸かってってな?』
そう言って、希は入り口の前から離れていった。
絵里(…残念。行ってしまったか)
私は顔を半分 湯船に沈め、ブクブクと息を吐き出す。
肝心なセリフを言えない、だなんて。
…私にもう少し、度胸があればなあ。 921 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 00:36:12.70
ID:t0Yng/5Sお風呂を堪能し、気分もさっぱりとして上がった私。
脱衣所で、まずは希が用意してくれたバスローブを身に付ける。
そして、バスタオルで頭を拭きながら、リビングへと戻った。
絵里「のぞみ~、あがったわよ~」
彼女に、お風呂が空いた事を伝えに行ったのだが…
…あれ、返事がないわね。
そもそも、希の姿が見えない。私はキョロキョロと周りを見回す。
リビングから更に、希の部屋へと覗き込む私。
…居た。希は、私に背を向ける形で椅子に座っていた。
何やら、手元を動かしているのが分かる。
どうやら、私の呼び掛けに気付いてないみたい。
絵里(何をしているんだろう…?)
私は そうっと希に近づく。 922 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 00:56:35.28
ID:t0Yng/5S 絵里「希…?」
希の真後ろに忍び寄り、ポンっと肩を叩いた。
同時に、手元を覗き込む…彼女は、何か小型のノートの様な物に、書き物をしていた。
うわっ! と、彼女はビクリと震わせながら大声を出す。
希「えっえりち… いつの間に!?」
絵里「さっきから居たわよ!?」
絵里「お風呂…どうぞって、言いにきたの」
わ、わかった…と、狼狽えつつも彼女はノートの表紙を閉じる。
…いや、ノートじゃない。表紙には、横文字で『Diary』とつづられているのが見えたから。
絵里(日記…?)
希「ご、ごめん…ちょっとだけ、外で待ってて貰える///?」
顔を赤らめながら、希が申し分けなさそうに頼んできた。 923 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 01:11:20.34
ID:t0Yng/5S 部屋の前で、暫しぼうけを喰らう私。
そっとドアに近づき、中の様子に耳を澄ませる。
…駄目ね。ゴソゴソと荷物を片付けるような音しか聞こえないわ。
多分、日記を隠しているんでしょうけど。
やがて、音が止み ガチャリとドアが開く。
そして希が荒い息をつきながら顔を覗かせた。
希「お待たせ! …ええよ、中入って」
絵里「う、うん…」
私は二つ返事で部屋に戻る。
机の上は、綺麗に片付けられていた…何だか、見ていて物悲しい。
絵里(そんなに見られたくないものかしら?)
夏休みの宿題以外で『日記』というものを書いたことのない私には、よく分からない世界だ。 924 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 01:24:03.40
ID:t0Yng/5S 希が よし…と呟いて、私の顔を見る。
希「それじゃあ、ウチも…お風呂頂こうかな?」
希「本棚にある本とか、好きなもの読んでてええからね」
絵里「ええ、分かったわ」
希は小さく手を振りつつ、部屋から出て行きかける…と、一瞬足を止め、私の方を向きつつ小さく呟いた。
希「髪を降ろしている えりち も…とっても、可愛いで///?」
絵里「なっ…///!?」
ほな~、と 希は はにかみながら部屋を出て行った。
私はドキドキしながら黙って見送る。
絵里(これって、揶揄われてるの…///?) 925 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 01:36:22.84
ID:t0Yng/5S ベッドの上にちょこんと腰掛けながら、う~ん…と深呼吸した。
…うん、だいぶ興奮も治まってきたわ。
私はキョロキョロと室内を見渡す。
こうして、改めてみると…希の部屋は 整頓されているというか、無駄なものが少ない。
唯一目立つのが、部屋の隅に置かれている大きな鏡台だ。
絵里(…)
私は鏡台の前の椅子に座り、そっと三面鏡を覗き込む。
鏡の中に、バスローブ姿の自分が写り込む。
ストレートに降ろした髪の毛を、手櫛で掻き分けた。
絵里(…可愛いって///)
ついさっき言われた言葉を思い出す。
折角なら…これからは、髪を降ろして過ごすのも、悪くはないかも?
絵里(亜里沙が どんな反応をするかしらね…)
ふふっ と笑いながら立ち上がり、今度は本棚の前へ向かった。 926 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 01:47:23.14
ID:t0Yng/5S まずは ざっと本棚全体を見回す。そして、目についたものを手に取る。
絵里「へえ~、希ったら こんなのも読むのね…」
私はジャニーズ系の雑誌を開き、パラパラと捲る。
てっきり、占いに関する本ばかりを読んでいると思ってたんだけど…
パタンと雑誌を閉じて、棚に戻した。
絵里(…!)
他にも、文庫本や漫画、なかよし などが並んでいる。私はその中に、立派な背表紙の冊子を見つけたーー卒業アルバムだ。それも、2冊。
絵里「…」
誰もいないのに、私は思わず辺りを見回してしまう。
…ちょっとだけ、見ちゃおうかな? 927 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 01:58:46.89
ID:t0Yng/5S 絵里「よし…」
意を決し、アルバムを1冊取り出す。
他人の過去を、勝手に覗くという背徳感のせいかしら…指先がぷるぷると震えているのが分かる。
表紙には、私の学区の近くの中学校名が書かれていたーー家が近いのふだから、当然と言えば当然だけど。
パラパラっとページを捲る。
最初に、学年全体を写した俯瞰図が現れた。
絵里(そういえば、希と にこ は同じ中学って言っていたわね…)
私は、2人の姿を探す。
にこ の方は、直ぐに見つかった。全体の前の方で、何人かで同じポーズを取っている。
絵里「にこ ったら…」
目立ちたがりの性格のようで、思わず苦笑いをする。
一方、希は…奥の方に写っていた。後ろの方なので、顔は不鮮明だが あの特徴的な おさげ と、そして膨らんだ胸部で判別が着く。 928 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 02:10:13.70
ID:t0Yng/5S 更にページを捲ると、クラス毎の写真になった。
氏名と共に、数十人の顔写真が並んでいる。
2人は、同じページに写っていた。どうやら、同じクラスだったみたいね。
にこ の方は、落ち着いているけど、どこかツンと澄ました顔で…一方、希は やや緊張した面持ちで写っている。
でも、よく考えると これが撮られたのはつい数ヶ月前の事なのだ。
よくよく見ると、少しだけ今の方が大人びた表情になっている気がする。
最後に、3年間の思い出を集めたスナップ写真。
運動会や遠足、そして普段の学校生活の様子だろうか… 生徒達が、思い思いの表情で写っている。
意外にも、にこ の姿をよく見かける…どうやら、彼女はよく目立つみたい。
希の姿があまり写っていないのは気になるけど…
絵里(…面白かった) 929 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 02:13:36.08
ID:t0Yng/5S 私はパタンとアルバムを閉じ、本棚へ戻した。
絵里(こっちも、気になるなあ…)
もう1冊の方にも手を伸ばす…こっちは小学校のアルバムかしら?
絵里(あら?)
確かに、小学校の卒業アルバムのようだったがーー表紙には、東京ではなく、とある地方都市の小学校名が記されていた。
絵里(どういう事かしら…?)
本当に、希のかしら…と、中を開こうとすると。
廊下の向こうから、足音が聞こえる…どうやら希がお風呂から上がったみたい。
私は慌ててアルバムを戻し、ベッドに腰掛けた。
同時に、希が部屋に入ってくる。
希「お待たせ、えりち…」
絵里「お、おかえりなさい…」 930 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/04(木) 02:22:04.78
ID:t0Yng/5S 私はさっきまで、希の過去を覗いていた背徳感から、一瞬 言い淀むが…
絵里「ハラショー…///」
彼女の姿が目に入った途端、そんな事も忘れ、思わず歓声をあげてしまった。
風呂上がりだからだろうか…普段のおさげ から、髪を結んでいない状態の希。
バスローブからは、素足がチラリと見える。
普段と違うその姿は妖艶で、どこか妖しく見える。豊満な肉体は、とても高校1年生とは思えない。
希「えりち…あんま見んといて…///」
彼女が恥ずかしそうに身体を手で覆う。 936 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/05(金) 23:11:57.01
ID:FAVDuYzW・・・
鏡台の前に座る希。
彼女は鏡の中を覗き込みながら、その長い髪を櫛でそっと梳かしている。
私はその様子を、ベッドの上で漫画を読むふりをしながらチラチラと眺めていた。
絵里「…」
本に集中したかったが、私の意識はどうしても、目の端に写る その綺麗な髪に飛んでしまう。
いけない、いけない…
希「ねえ、えりち…」
絵里「…な、なあに?」
櫛を動かしながら突然、彼女が呼び掛けてきた。
私は少し、返答する声が震えてしまう。
鏡の中の希と目があった。彼女は ふっと微笑む。
希「えーと…えりち、明日は予定あるん?」
首を傾げながら、鏡の向こうで彼女が尋ねる。 938 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/05(金) 23:28:30.55
ID:FAVDuYzW 予定、か…。
絵里「特にないわよ。強いて言えば、希と一緒に居るくらいかしら///」
少しだけ、冗談めかしてみる。
希「…嬉しいこと、言ってくれるね」
希が手の動きを止め、くるりと私の方を向いた。
バスローブがふわりと揺れて、一瞬中が見えそうになる。
希「もし よければ、明日…ウチと、どっかお出かけせん?」
絵里「お出かけ?」
彼女の言葉を反芻する。
…希と お出かけですって? 願ってもない事だわ。
絵里「それ、いいわね! 是非行きたいな」
希「にこっち は部活があるから…ウチと2人きりやけど」
絵里(そっか…///)
希と2人きりか…これは、『デート』と呼んでもいいんじゃないかしら?
希「何処か、行きたいところは あるん?」 939 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/05(金) 23:47:31.09
ID:FAVDuYzW 絵里「そうねえ…」
私は腕を組んで、うーん と考える。
でも、すぐにはいい考えが浮かばない。
絵里「…2人で一緒に考えましょ?」
せやね、と希も嬉しそうに頷いてくれた。
・・・
交代で部屋を出て、寝巻きに着替えた私たち。
彼女は その髪の色と同じ淡く紫に染められたパジャマを着ている。
希「えりち、ベッドとお布団どっちがええ?」
希が納戸を開けながら、尋ねてきた。中には畳まれた布団が僅かに見える。
えーと、それだと…
絵里「…一緒に寝るっていう選択肢は無いの?」
希「一緒に!?」
希が少し声を上擦らせる。
変な事、聞いてしまったかしら? 940 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 00:03:29.49
ID:FAVDuYzW 絵里「いや、あの…/// 一緒じゃないと、明日の相談とかしにくいんじゃないかなあ って」
希「そ、そういう事か…///」
希「それなら、別にええけど… ウチのベッド、2人で寝るには狭いよ?」
お布団、2組敷こうか? と彼女は提案してくる。
絵里(うん、それもいいけど…)
絵里「折角だから、希のベッドで寝たいわね…」
わかった、と希は了解して納戸を閉めた。
2人並んで、ごそごそとベッドにあがる。
希が先に潜りこみ、そして次に私が。
もともとの大きさがシングルサイズとだけあってか、高校生が2人寝るには やや窮屈である。
希「…えりち、大丈夫? 落ちない?」
絵里「大丈夫よ…いざとなったら、希に抱き着けばいいんだから」
希「…!」
希「せ、せやね…。それなら、安心や///」
彼女が顔を赤くする。 941 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 00:15:50.04
ID:1kgDiIiF 絵里・希「「…」」
私たちは暫く、天井を見上げていた。
よく考えると、年頃の女の子が同じベッドに並んで横たわっているのだ。
しかも、お互い『好き』と告白しあった仲だ…自然と心の中の高揚感が増してくる。
時計の音だけが部屋の中に響く。
緊張しそう…そうだ、明日どこ行くかの話をすればいいんだわ。
絵里「…希! 明日の事を… 希「えりち?」
同時に、希が顔をこちらに向け、声を被せてきた。
絵里「…?」
希「改めて、お礼を言わせて…今日は 本当にありがとう」
絵里「希…」
私は ふふっと彼女に笑い掛ける。
絵里「もう…その話は大丈夫よ」
希「けどな…えりち達が来てくれたおかげで、ウチは立ち直れた訳やし」
希「こうして今、えりち と一緒にいる… どう御礼をしたらええのか、分からないんよ」 942 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 00:25:37.01
ID:1kgDiIiF 絵里「希…」
私は希の長い髪の毛にそっと手を伸ばした。
絵里(綺麗な髪の毛…)
無心で触っているうちに、私は思わず、大胆な事を口走ってしまう。
絵里「じゃあ…御礼として、キスしてもいい?」
えっ… と、希は一瞬言葉を失った。
希「え、えりち…」
絵里「御礼したいんでしょ…? だったら、私のお願いを聞いて欲しいな~♪」
希が、ゴクリと息を飲む。
希「そ、それなら…ええよ///?」
心無しか、彼女は瞳を うるうるとさせている…
絵里(…!)
絵里「じゃ、じゃあ…行くわよ?」
希が コクリと頷き、眼を閉じる。
絵里(お、落ち着くのよ、私…)
絵里(…よし) 943 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 00:34:06.43
ID:1kgDiIiF 私は彼女の口に唇を近づけ… そっと逸らし、『頬っぺた』の方にチュッと口付けをした。
希「あっ…そっちか///」
希が眼を開き、小さく呟く。
絵里「ふふ…こないだの御返しよ」
私はニヤリと笑い、希の顔を覗き込む。
絵里「希ったら… いったい、どこにキスすると思ったのかしら?」
希「知らない、知らない///!」
彼女が顔を赤らめ、毛布の中に顔をうずめる。
…お、怒らせちゃったかしら?
毛布の中から、チラリと希が顔を覗かせた。
希「でも、えりち…嬉しかったで」
希「ありがとう///」
絵里(…!)
そう言って、彼女は静かに眼を瞑る。
希「おやすみ…えりち。 また明日」
絵里「う、うん…おやすみなさい///」 945 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 00:45:12.76
ID:1kgDiIiF もやもやとした、奇妙な気持ちを抱えたまま、私も毛布を被る…
本当は、頬っぺたじゃなくて、唇にしたかったんだけど。
肝心な所で、意気地が無くなってしまった。
絵里(これじゃあ、私ってヘタレーチカね…)
だけど、これでも精一杯やったつもりだ。
私らしからぬ、思ってもいなかった行動に自分で胸がドキドキする…
私はそっと身体を傾け、希の体温を感じる。
絵里(おやすみ、希…)
そっと瞳を閉じる…さて、今夜はどんな夢を見るんだろう?
・・・
小鳥の囀りが聞こえる。
絵里「…う~ん」
私はゆっくりと目を覚まし、おもむろに起き上がった。
瞼を擦りながら、小さく欠伸をする。
絵里(…あれ、ここって何処だっけ?)
すると…部屋のドアがガチャリと開いて、希が顔を覗かせた。
…って、なんで希が? 946 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 00:54:19.30
ID:1kgDiIiF 希「あっ、えりち…やっと起きたんやね!」
希「おはようさん」
そう言って、彼女は にっこりと微笑み掛ける。
絵里「お、おはよう…」
まだ状況が掴めないが…取り敢えず、希に挨拶を返す。
絵里「…あっ!」
全てを思い出した私。突然心臓が高鳴り始め、身体中が熱くなる。
希「えりち…昨日は、大胆やったね///」
希「えりち の方からキスするなんて…ウチ、驚いたで?」
絵里「…そ、その話は///」
高揚感に溢れていたとはいえ、まさか私の方から接吻を求めるとは…思い返すと、顔から火が出る程恥ずかしい。
希「もうすぐ朝ごはん、じゃなくて、お昼ご飯…出来るから」
希「じゃあ、また後でね…///」
そう言って、希はバタンとドアを閉めた。
絵里「…///」
暫しベッドの上でじっとうずくまり、呼吸を整える。 947 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 01:04:55.55
ID:1kgDiIiF 大分 落ち着いてきた…もう、大丈夫かしら?
壁時計を見ると、もうすぐ12時を周ろうとしていた。
ベッドから起き上がり、部屋のドアを開けた。
キッチンに希の姿が見える…彼女は既に着替えており、上はカジュアルなシャツに、そして下は彼女のヘアーカラーと同じ…紫色のショートパンツを着用していた。
胸元にはクロス・タイプのペンダントがキラリと光っている。
絵里「ハラショー…希の私服姿も、可愛いわ」
希「ありがとさん…///」
彼女は褒められて嬉しいのか、恥ずかしそうにそっぽを向く。
希「さ…着替えたら、一緒に食べよ?」
絵里「ええ、そうね」
私は希の部屋に戻り、バッグから替えの服を取り出す。
上は英字入りのT-シャツ…ジーパンにベルトを通し、そして胸元からはペンダントを下げておく。
…実はこのペンダント、開閉式になっており、開くとお祖母様の顔が出てくるようになっているのだ。 948 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 01:15:21.47
ID:1kgDiIiF その足で洗面所へ向かい、顔を洗う。…そして、細やかながら化粧を施す。
最後に口紅を塗り、髪をいつものポニーテールに結わえた…よし。
絵里「お待たせ~、希」
リビングへ戻り、希に声を掛ける。
希は一瞬、チラリと私の全身に目を遣り、そっと逸らした。
希「えりち の方やって、すっごく可愛ええやん…///」
絵里「…あ、ありがとう///」
希に褒められ、私は嬉しさに頬が緩む。
希「さ、食べよっか…///?」
希がキッチンから出てくる。
テーブルの上には トーストや目玉焼き、サラダ、そしてコーンスープといった軽めの朝食がが並べられていた。
絵里・希「「頂きま~す」」
私は窓の外に目を向けながら、コーンスープをゆっくりと味わう。
どうして、前を向かないのかって? 949 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 01:24:40.47
ID:1kgDiIiF それはね…希の顔を、直視出来ないから。
彼女の顔を見ると、昨晩の事がどうしても頭にちらついてしまう。
希「えりち…何処行くか、考えた?」
トーストを手に持ったまま、希が聞いてくる。
前を向き、彼女の顔を見る…頑張れ、私。
絵里「うん…大丈夫よ。昨日、寝付けなかったからね…あれこれ考えたの」
希「そ、そうなんか…///」
希もどこかしら、そわそわしているように思える。
何も知らないひと が見たら、この2人はどうして恥ずかしがっているんだろう、と思うでしょうね。
希「それで…決まったん?」
私は頷いて、コップをテーブルに置く。
そして、そっと単語を呟いた。
絵里「…海」 950 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 01:35:46.31
ID:1kgDiIiF 希「うみ?」
絵里「…うん。希と、海を見に行きたいわ」
希は一瞬だけ思案げな表情を浮かべ…そして にっこりと笑う。
希「海…ええ案やね!」
希「それやったら…ウチの知っているところで、オススメの海があるんやけど」
希「そこで、ええかな?」
勿論! と、私は大きく頷く。
彼女と顔を見合わせ、思わず笑みが零れる。
決定。今日は、2人で海を見に行く事となった。
・・・
2人で一緒に洗い物を済ませる。
その後、私は先に玄関で、希の支度が終わるのを待っていた。
私の持ち物は…バッグと、お財布と、あと携帯。
希「お待たせ…」
奥から現れた希は、肩からバッグを下げるとともに…頭に白いベレー帽を被っていた。
絵里「ハラショー…///」 951 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 01:43:51.00
ID:1kgDiIiF 私は思わず、その姿に見惚れてしまう。
希「似合う、かな…///?」
彼女は帽子の角度を調整しながら恐る恐る尋ねてくる。
私は大きく頷き、彼女の手を取ってそっと囁いた。
絵里「とっても素敵よ、希…///」
ありがとさん、と彼女は嬉しそうに口元を緩ませた。
絵里「さあ、行きましょう!」
マンションを出て、近くのJRの駅まで向かう。
今日は、休みだからか…秋葉原の街は、いつもより賑わっているようだ。
人混みの中、私と希は手を繋いで歩く…もはや、ごくごく自然の行為。
彼女と顔を見合わせ、ふふっと笑いあう。 953 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 01:54:20.91
ID:1kgDiIiF JRの駅に着いた。切符売り場で、私たちは路線図を見上げる。
私はワクワクしながら、関東一円の駅名を眺めた。…さて、希は一体何処の海へ連れて行ってくれるのかしら。
希「えりち…」
希が指を伸ばし、オレンジ色と、赤色の走る路線のとある駅を指した。
希「ここの駅の近くにな…とってもスピリチュアルで、綺麗な海岸があるんよ」
希「東京からやと、大体1時間半掛かるんやけど…どうかな?」
私はお財布を取り出し、指を立てる。
絵里「是非…そこへ、行きましょう」
秋葉原から京浜東北線で、東京駅へ。
そこで一旦電車を降り、7番線ーー東海道線東京発熱海行・普通列車の車輌に乗り換える事となった。
遠くで、発車ベルが鳴っている。どうやら、もうすぐ電車が出発してしまうみたい。 954 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 02:05:23.89
ID:1kgDiIiF 希「えりち、急ごっ!」
希が少し足を速める。
そして、ベレー帽を押さえながら、もう片方の手でギュッと私の手を強く握りしめた。
絵里「…うん!」
私も握り返し、慌ててホームへと向かう。
私たちが乗り込むと同時にゆっくりとドアが閉まった。
ガタン、ガタン… と、走りだす電車。少しずつ速度を上げてゆく。
希「ふぅー、間に合った」
希がハンカチを取り出し、汗を軽く拭う。
絵里「もう、急ぎすぎよ…」
希「ごめんごめん…おっ、あそこに座ろっか」
そう言って、希は車輌の奥にあるボックス席を指した。
2人向かいあって、窓際の席に腰を下ろす。
バッグを隣に置いて、ふう とひと息ついた。
休みだというのに乗客は疎らで、ほとんど私たちの独占状態だ。
これから、私たちの旅ーー『デート』が始まる。 956 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/06(土) 02:11:02.33
ID:1kgDiIiF絵里(…)
私はそっと窓の外へ目をやった。
都心のオフィス街が、前から後ろへと流れてゆく。
真横を、真っ白い特徴的な形をした高速車輌が追い抜いて行った。
絵里「あっ…新幹線よ!」
希「ほんまや…立派やね~」
普段は中々見ない光景に、思わずはしゃいでしまう私たち。
暫く、外の景色を眺めるのに夢中になっていた。
車窓から差し込んでくる午後の日差しは、段々と強くなっていく。
希「…えりち」
もうすぐ、品川駅に着く頃だろうか。彼女が、静かに私の名前を呼んだ。
絵里「なあに? 希」
私は じっと希の顔を見つめる。
彼女は改まって、真剣な表情をしていた。
希「その…少し、昔の話をしてもええかな?」 962 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/07(日) 23:52:29.37
ID:J6AcQkeV 絵里「昔って…希の?」
うん、と 彼女は頷いた。私は小さく笑みを浮かべる。
絵里「是非、聞きたいな…お願いします」
希「ありがとさん…」
彼女は御礼を言い、窓の外を一瞬見る。そして、 一呼吸をし私の目を見つめてきた。
希「話の前に…まず、えりち」
希「昨日の夜、アルバム見たやろ?」
絵里(…!)
希の口から飛び出した単語に、私は思わず目を見開く。
絵里「…」
希「別にな、怒ってるわけやないんよ。本棚の物は好きに見ていいって言ったのはウチの方やし」
希は私から目を逸らし、窓の外を見る。
ごめんなさい…と、私は頭を下げた。
絵里「でも…どうして、分かったの?」
希「朝、何気なく見たときね…アルバムの順番がひっくり返ってたのに気が付いたんよ」 963 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 00:19:09.18
ID:HpOZo+D/ なるほど…多分、急いで棚に戻した際に、誤って入れ替えてしまったのだろう。
希「まあ、ええんよ…それで、えりち は それを見て何か思った?」
私は うん、と頷く。
絵里「中学は地元のアルバムだったのに、小学校のは遠くの街だったわ」
絵里「もしかして、転校した…とか?」
彼女は黙って頷き、窓の外を見続ける。
電車は丁度、橋を渡っているところだった。大きな川が目下、流れているのが分かる。
河川敷に標識が立っているーーー『多摩川』という字が読めた。
希「ウチな…両親の仕事の都合で、小さいときから転校を繰り返していた」
希「…って、ここは前にも言ったっけ」
私は 大丈夫よ…と、微笑む。
希「うん… まさに、転勤族と言っても良かった」
彼女は遠い目をし、ゆっくりと語り始める… 964 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:06:46.88
ID:HpOZo+D/ ・・・
幼稚園の頃からかなーーウチの家は、両親が異動の多い会社に勤めていたという事もあって、毎年…いや、毎学期の様に引っ越しをしていた。
ほんまに色んな街へ行ったんよ…北は札幌から、南は那覇まで、日本全国を周っていた。
大きな街には、大体行ったかな…だから、方言とか聞けばね、結構区別は付くんよ。
頻繁に引っ越すもんやから、小さい頃のウチにとっては、また お引っ越しするのか…次はどこに行くのかなって、感じで楽しみになっていた。
でもね。
小学校に上がってからは、段々とそれが苦痛になってきた。
お友達が、出来ない…いや、出来たとしても また転校するから、直ぐに離れ離れになってしまう。
ほんまに嫌やったよ… どうして、ウチの家はしょっちゅう引っ越すんやろう。どうして、どうして…って。
何度、両親を恨んだ事か。
だからね、ウチは心に決めたんよーーどうせ転校するから、深い付き合いはせんでもええかって。
ウチは独りでええんやって。
後で気付いたけど、それは大きな間違いやった… 965 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:09:01.06
ID:HpOZo+D/ 例え、短い付き合いだったとしても、同じクラスの子とは仲良くした方がええんよ。
お陰様でね、ウチには、小学校時代の思い出は殆どないんよ。
いや、記憶に残ってないって言えばええのかな…
引っ越した街の景色は覚えているけど、クラスメイトの顔とか、名前とか…誰独りとして、思い出せない。
だけど、今更過去は変えられない。
ウチにとっては、後悔するしかない過去やね。
だから、あのアルバムはウチには殆ど意味はない。
一応、ウチは写っているけど、そこの小学校のそこのクラスに『間借り』しているだけ…ページを捲っても、ウチの姿は何処にもいない。
変化が訪れたのは、中学校にあがるときやった。
両親がね…特にウチの父親が、中学生になったら、もう大人やから独りで暮らしてみてもええって言ってくれたんよ。
無茶苦茶やん…だって、中学生やで? せいぜい、電車が大人料金になるって位で、あとはお子様と何も変わりはせーもん。
なにより、未成年や… 子供の一人暮らしなんて、何が起こるか分からないと思うけどね。 966 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:10:56.60
ID:HpOZo+D/ だけど、どっちかと言えばウチの両親は少し、放任主義な所があったんかな。
そして何より、ウチ自身が ええよって賛成したんや。
一人暮らしに憧れていたっていうのもあったし、このままやと落ち着いて勉強も碌に出来へん。
あとは…もう、転校するのは充分やった。
心が疲れ切っていた…引っ越して、学校が変わるたびに また、一からやり直す。
また、ゼロからスタートする…そんなん、もうウンザリやった。
母親はめっちゃ心配した。まだ小学校を卒業したばかりの、それも女の子が一人で暮らすなんて、そんなの無理やって。
だけど、ウチは大丈夫やって…もう中学生やから心配せんでもええって胸を張った。
父親も賛成してくれて…最終的には母親も、親戚のひと が時々様子を見に来るって事で納得してくれた。
両親もウチの気持ちを分かってくれたんかな…OKしてくれた。 967 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:12:32.91
ID:HpOZo+D/ 丁度そのとき、小学校を卒業したあとで…次の引っ越し先の東京に来たばかりやった。
だから、折角なら いい部屋を借りようって事で…今住んでいる、あのマンションの一室を借りたんよ。
両親は謝ってくれた。今まで転校ばかりさせて、本当に悪かった…中学校だけでも、同じ学校に3年間通う喜びを味わって欲しいって。
その言葉で、ウチは、心に決めた。
これからは、変わろうって。
部活ににも入って、お友達を一杯つくって、そして、そして…
中学生になって、初めて学校が楽しみになった。
春休みも、一生懸命シュミレーションをして、大丈夫やって思ったんやけど…
入学式のあと、ウチは急に不安になってきた。
本当に、お友達が出来るかなって…ガチガチに緊張して、身体がぷるぷる震えてしまった。
結局ね…自己紹介も上手く出来なくて、おまけに転校したばかりやから知っている子も全くいなくて…ウチは、独りになってしまった。
まだ、始まったばかりなのに、クラスで孤立してしまった。 968 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:14:08.62
ID:HpOZo+D/ 部活にも入ることなく、授業が終わったら直ぐに家に帰っていた。
結局、転校していた頃と変わらないやん…そう自虐していた。
そんなウチの唯一の楽しみやったのは、休みの日にお出掛けをする事…色んな電車に乗って、色んな街へ行った。
遠くへ行って、寂しかった自分の心を紛らわそうとしていたんかな。
転校したのが大きな街ばかりやったから、その反動かな…小さい駅ばかりで降りて、その小さな街を探検した。
実はね、今日これから行くところも、ウチが適当に降りて、歩いていたら、ふと見つけた綺麗な海岸。
ほんまに偶然やったんよ。こんな遠くまで来て、家に帰っても怒るひと なんていないから、日が暮れるまでずっと浜辺に座って海を見ていた。
気が付いたら、お巡りさんに声掛けられてね…お家は何処かって。
初めてやね、交番に連れていかれたのは。
両親は仕事で、独り暮らしをしているって答えたら、お巡りさんびっくりしていた…今思うと、とっても滑稽やったで。 969 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:16:59.71
ID:HpOZo+D/ そんな事ばっかり繰り返していた、ある日ね…ウチに、声を掛けてくれた子がいた。
そう…ちっちゃくて、髪をツインテールにしている、とっても明るい元気な子ーーにこっち や。
休み時間、独りで座っているウチの前に、突然現れて…『おはよう、東條さん』って。
なんで話し掛けてきてくれたのか分からない…でも、初めて誰かに話し掛けられた。
嬉しかった。だけどね、ここでウチは考えたんよ。
もしーーウチの話が詰まらなかったら、この子は離れてしまうのではないか、また、ウチは独りになってしまうんやないかって。
だから、ウチは『自分を変える』事にした。
・・・
えりち… と、希が私の顔を見る。
希「ウチの話す言葉遣い、どう思ってる?」
絵里「えっ…? うーん、大阪とか、関西出身なのかしらって思ってるわ」
そうよね? と、私は希の顔を見て確認する。
そっか… 希は小さく頷いた。 970 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:50:06.58
ID:HpOZo+D/ 希「もしも、それが…えりち の予想が、違っていたとしたら?」
希「もしも、『私』が関西人じゃないとしたら…えりち は、どう思う?」
絵里「…!」
希が寂しそうに笑う…いつの間にか、彼女の口調が変わっていることに、私は只々驚く。
絵里「驚いたわ…」
希「ごめんね。ウチ…いや、私は。 関西出身じゃないの」
希「本当の…昔の私は、ずっとこっちの話し方だったの」
・・・
関西弁で話したら、面白く見えるんじゃないか…って、始めはそんな軽い気持ちだった。
実際、短期間やけど大阪市内にも転校した事があるから、イントネーションとかは まあまあ自信があったの。
そうしたら、意外にも受けてね…特に、にこっち には大受けだったみたい。
いつの間にか、にこっち を通じて友達も増えてーーだから、私は独りじゃなくなった。
嬉しかったけど…時々、自問自答した。 971 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:52:52.99
ID:HpOZo+D/ もし、話し方を標準語に戻したら、にこっち 達はどう思うんだろう。
周りのひと は、そんな私を見てどう思うんだろう…って。
そう思うと、何だか怖くなっちゃって…結局、今に至るまで、関西弁のままで過ごしてきた。
・・・
希「ごめんね、えりち…」
希「結局私も、自分自身に嘘を付いて過ごしてきた。本当の自分に蓋をして、すごしてきた」
希「えりち の思っているほど、私は凄い人間じゃない…にこっち が居てくれたおかげで、今の私がある」
希「気持ち悪いよね…関西人でもないのに、『ウチ』とか使っちゃって…ごめんね」
絵里「…のぞみ」
私はそっと彼女を制する。彼女は静かに口を閉じた。
絵里「希は…本当に、嘘を付いていたのかしら?」
希「…えっ?」 972 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:54:04.53
ID:HpOZo+D/ 私はそっと窓の外を見た。電車は再び河川を渡っている…今度は『馬入川(相模川)』という標識が見えた。
絵里「私はね…関西弁でしゃべる希の言葉、とっても板についてて、自然だなあって思っていたわよ」
絵里「逆に、関西人じゃないっていう方が、信じられないくらい」
絵里「何より、その表情。その言葉で話す希の姿は、全然辛そうに見えなくてーー寧ろ、楽しそうに見えた」
希「楽しそう…」
彼女が私の言葉を繰り返す。
絵里「うん… 希は希。別に、どんな言葉を使ったっていいじゃない…」
絵里「私がロシア語を使わないのも自由だし、希が関西弁で話すのも、また自由」
それにね… と、私は彼女の目をしっかり見る。
絵里「私、好きなのよ…希の話す関西弁が」 973 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/08(月) 01:57:19.32
ID:HpOZo+D/ 希「えりち…///」
彼女は顔を赤らめる。
あっ…また、好きって言ってしまった…まあ、いいわよね。
絵里「勿論、希自身の事も好きよ///」
絵里「決して恥ずかしがる事ないじゃないわ…どんな言葉を使っていたって、希は希なのよ。決して、蓋をしている訳じゃない筈」
希「…ありがとう」
希はニコリと笑い、窓の外に目をやった。
電車は、丁度駅に着く所だった。
プラットホームに、駅名表示板が見える。
希「えりち…いよいよ、次の駅『やで』」
表示板を見ながら希が恥ずかしそうに…だけど、しっかりとした声で関西弁を話す。
うん。それでこそ、希よ。
私も微笑み返す。
絵里「わかったわ…いよいよね!」
窓の外に、家々が並んでいる。
その向こうに、キラキラと光る青い水平線が見えた。
もう、海はすぐそこだ。 976 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 20:47:14.94
ID:2Lwr+iotガタンガタンと、レールの繋ぎ目の度に小刻みに揺れる電車…段々と、速度が落ちてゆく。
やがて、アナウンスが車内に響いた。
『まもなく、にのみや、にのみや…お出口は右側です』
希「もうすぐやね…そろそろ、降りる準備しよっか」
そう言って、彼女は荷物の確認をする。
そうか…やっと着いたのね。
絵里「ええ、分かったわ」
私たちが降りたのは、二宮という小さな駅舎であった。
プラットホームに立ち、う~ん…と伸びをする。
駅の外に見える景色は、都内と異なり建物よりも緑が多い。
絵里(のんびりしていて、鄙びたところね…)
息を吸うと、ほのかに潮の香りが漂ってくる…ような気がする。
希「えりち…疲れてない?」
私は 大丈夫よ、と答える。
希「良かった…ほな、行こか」
希が改札の方を見ながら、私を促した。 977 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 20:53:24.52
ID:2Lwr+iot 絵里「希…」
私は微笑みながら右手を差し出した。
希「あ…///」
彼女は一瞬嬉しそうに笑い…私の手を取った。
改札を出て、駅前に出る。
小さなロータリーには数台のタクシーが客待ちをしている切りであった。
ちょっと待ってね…と、希が案内図を覗き込む。
指を空で動かしながら、しげしげと地図を眺めている…どうやら、ルートの確認をしているようだ。
希「お待たせ…なんとか思い出せて良かった」
絵里「駅からだと、どのくらいかかりそう?」
希「歩いて10分くらいかな…」
絵里「それじゃあ、歩いていきましょうよ」
今日1日は出来る限り、希と2人きりで行動したい。 978 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 20:58:12.94
ID:2Lwr+iot カンカンと照りつける太陽の下、手と手を繋いで歩く2人の女子高生。
道行くひと の視線も何だか暖かく、東京と違って殆ど気にならない。
自動車がひっきりなしに通る国道を横断し、細い路地に入る。
希「もうすぐや…」
小高い坂を登りながら、希が私を励ます。
一歩一歩、前に進むたびに潮の香りがはっきりとしてくる。
坂を登りきると、急に視界が開けた。
そこには…海岸沿いに走るバイパスの向こうに、どこまでもどこまでも続く青い海が広がっていた。
絵里「ハラショー…」
初めて見た、湘南の海…それは、キラキラと陽の光を反射させながら淡い青色をどこまでも拡げている。
…凄い。私はなんと言えばいいのかわからない。
心境は、かつて松島を訪れて『いずれの人か筆をふるひ詞を尽くさむ』と言った松尾芭蕉と言ったところか…
希「ここはね…袖が浦海岸っていう名前があるんよ」
希が そっと囁く。 979 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:03:53.61
ID:2Lwr+iot 希「多分、地元以外のひと にはあまり有名やないと思う…あまり大きくないし」
希「まあ、隠れた名所っていえばええんかな」
私は ポンポンと、希の被っているベレー帽を叩く…柔らかくて、気持ちいい。
絵里「とっても綺麗な海よ…希」
絵里「素敵なところを教えてくれて、ありがとう」
希「どう…いたしまして///」
浜辺へ続くなだらかな階段を降り、私たちは砂浜の上へ立った。
シーズン前だからか、辺りには誰もいない…はるか遠くに、幾人かの釣り人の姿があるのみだ。
絵里「ねえ、希…折角だから、海水に触ってみましょうとよ」
私は こみ上げる興奮を抑えきれずに、希の手を引っ張る。 980 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:09:30.72
ID:2Lwr+iot 希「ええけど…まだ、冷たいと思うよ?」
彼女は少し困った顔をしながらも、私の後ろについてくれた。
波打ち際につき、私は腰を屈める。
絵里(綺麗ね…)
じっと目をこらすと、海の底が見えるかのようだ。
そうっと手を伸ばし、海水に触れてみた。
絵里「キャッ… 冷たい!」
希「ほら、やっぱり…はい、タオル」
希は苦笑いしながらも、バッグからタオルを取り出し私に渡してくれた。
私は はにかみながらも御礼を言う。
絵里「ありがとね…希」
暫く波打ち際で遊んだ後、希が さて…と、再びバッグの中に手を入れる。
希「…疲れたやろ。そろそろひと休みしよっか」 981 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:15:12.44
ID:2Lwr+iot そう言って、バッグの中からお茶の入ったペットボトルと、レジャーシートを取り出した。
シートを広げ、希と並んで座る。私たちは浜辺に打ち寄せる波にじっと目を奪われた。
そして、試しに砂の中に手を入れる…
絵里「…あっ! 見て、貝殻よ!」
希「ほんまや…綺麗やね」
絵里「記念に持って帰ろうかしら」
亜里沙の分も、持って帰りましょう。喜んでくれるかしら? 982 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:21:08.42
ID:2Lwr+iot ・・・
私たちは それから暫しの間、次々に表情を変える天気と、透き通った海の景色に夢中になっていた。
希「えりち…」
少しずつ、太陽が傾き始めた頃。
隣に座る希が、ふいに私の名前を呼んだ。
…何だか改まった声ね。
絵里「…なあに?」
私は小首を傾げ、彼女の顔を見た。 983 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:27:12.74
ID:2Lwr+iot 希はというと…じっと、前を見ていた。
沈みゆく夕陽を眺めながら、彼女は口を開く。
希「さっきな…えりち に話した後、ウチ、心に決めたんよ」
希「もっと、もっと…ウチ自身が、素敵な人間になろう」
希「亜里沙ちゃんに負けられない、えりち の心をウチだけで満たせるくらいのひと になろうって」
そう言って、私の方を向いた。
海風が吹き、希の長いおさげが ヒラヒラと揺れる。 984 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:33:22.18
ID:2Lwr+iot 彼女はベレー帽を抑えつつ、しっかりと私の目を見つめてきた。
希「…東條希は、宣言します」
希「いつか、この綺麗な海に負けない くらい綺麗な女性になって…そして、絢瀬絵里さんと…釣り合うようなひと になります」
絵里「…」
しばし、お互い無言で顔を見つめ合う。
絵里(希ったら…何を言い出すの?)
何だか、急に可笑しくなってきた。
絵里「…ふふ、ふふふ」
希「え、えりち!?」 985 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:39:22.63
ID:2Lwr+iot 駄目だ。笑いが抑えきれない。
私は口元に手をやりながら、ふふふ…と笑い声を上げてしまった。
絵里「希ったら…一体、急にどうしたの?」
希「どうしたの、って… ウチは真剣なんよ///!」
希が顔を真っ赤にしながら焦った声で答える。
絵里「ごめん、ごめん…でもね」
私は そっと手を伸ばし、風に舞う希の髪の毛に触れた。 986 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:45:47.95
ID:2Lwr+iot 絵里「私はね… 希がそんな事を言うなんて、逆に悲しくなっちゃうな」
絵里「電車の中でも言ったでしょ? 私は、『今の』希が好きなんだって…」
絵里「別に、無理をして背伸びをしなくてもいいじゃない」
でも…と、言い淀む希。
私は そんな彼女に微笑みかける。
絵里「今の希が好きだっていう証拠…見せてあげるわよ」
私は じっと希の瞳を見つめた。
彼女の瞳が一瞬潤む…決して、私の思い過ごしではない。
私と希はどちらからともなく、お互いに顔を近づけーー 987 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:52:16.18
ID:2Lwr+iot ・・・
夕焼けが、浜辺に座る2人の女の子ーー私と希を眩しく照らす。
波打ち際で、犬を連れているおじさんがさっきからチラチラとこっちを見ている気がする… 構うものですか。
私と希は、夢中で抱き合い、ただひたすらに唇と唇と重ね続ける。
この瞬間が、永遠に続くかのような気がする。
まるで、時間の神様までもが私を祝福してくれているようだ。
唇を離し、希に向かって微笑む…
希「えりち…///」
彼女の目は、トロンと微睡んでいた。 989 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 21:59:12.36
ID:2Lwr+iot その顔を見て、私は今、自分が世界一幸せだと改めて噛みしめる。
その幸せをもっと感受する為に…私は彼女に向かって微笑み掛けた。
絵里「…これからも宜しくね…///?」
希「ウチの方こそ…宜しく///」
顔を紅潮させ、恥ずかしそうに微笑みあう。
再び唇を重ね、今度は舌を絡ませる… 浜辺に伸びる私と希の影が、ひとつ に重なった。 990 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 22:05:04.63
ID:2Lwr+iot 私と希、二人三脚で歩む『一生』という名の旅路。
それはまだまだ始まったばかり。
これからも、不安や困難…様々な事が待ち構えているだろう。
だけど、私にはもう不安なんてない。
だって、これからは私の隣にーー
希「大好きやで、えりち…」
絵里「私も大好きよ…希」
私の最愛なるひと がずっと寄り添ってくれるから。
---おわり 991 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 22:07:00.98
ID:2Lwr+iot 以上です。2ヶ月近く掛かってしまいましたが、一応これで おしまいです。
長いことお付き合いしてくださった方、どうもありがとうございました。 994 :
名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2014/12/10(水) 22:14:37.02
ID:2Lwr+iot ちなみに…最後に登場した「袖が浦海水浴場」は、かつて神奈川県中郡二宮町に存在していた海岸でした。
小さいながらも美しい砂浜が広がっていましたが、2007年に台風で大きな被害を受け、砂が全部攫われてしまいました。もう、かつての姿は残っておりません。ここは現在も閉鎖中となっています。
海へ出掛けたシーンは2期11話と重ねて、自分の昔の記憶を頼りに書きました。
袖が浦海岸が元通りになる見込みは薄いと言われておりますが、いつかまた、二宮の綺麗な海を見る事が出来たらなと願っています。
長文失礼しました。
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