1 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:00:22.06 ID:6Xi8Rr/20
厚い雲が冬空にかかる日、何の気まぐれか、私はまた結衣の元へと遊びに来ていた。
「ただいま」
買い物についていき、一緒に部屋に戻った私の口から出たのはその一言。
「ここはお前の家じゃねえ」
「わりいわりい」
「ホントにお前ってやつは」
「もう何度もここに来てるからかな、安心感が違うんだよね」
「普段1人で過ごすのに慣れるの、お前のおかげで結構時間かかったんだよなあ」
「なんだよ、照れるなあ」
「褒めてない」
2 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:04:35.42 ID:6Xi8Rr/20
これから夕ご飯を作るという結衣をのんびり待ちながら、私は部屋の暖房をつける。
「えっ、お前またそれやるの」
「パッと思い浮かんだのがこれだったから。別にいいでしょ?」
「いいけど····。やるならボス戦前のレベル上げしてくれない?」
「えー?つまんないよそんなの」
「そのゲーム、まだ全クリしてないんだよ私」
「なんだ、ネタバレとかが嫌ってことか」
「そうそう」
「それなら大丈夫だよ、私のデータを進めるからさ」
「いつの間に作ったんだ、そんなの」
なかなか部屋が温まらないなあと思いつつ、私はそのままゲームを始めた。
しばらくプレーを続け、いざ新しいダンジョンに行こうとした時だった。
3 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:05:56.73 ID:6Xi8Rr/20
ばたっ
4 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:09:22.97 ID:6Xi8Rr/20
「····!?」
突然の物音に驚いてリビングを出てみると、結衣が台所の前に横たわっていた。
「結衣!おい大丈夫か、結衣!?」
火がついていたのをいったん止め、私は結衣を抱き起こす。
手を当てた結衣の額の熱は、予想を大きく超えるものだった。
(大変だ、布団を敷いて早く寝かせなきゃ····!)
結衣を寝かせたあと、私は何か風邪に効く物がないか探し始めた。
5 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:13:09.94 ID:6Xi8Rr/20
「····んん」
結衣がそのあと目を覚ましたのは、1時間ほど経った頃だった。
「結衣、大丈夫?」
側に寄り、声をかける。
「あ、ああ。まだ少し、くらくらするけど····」
「どっか調子悪いとことかは?」
「咳も出ないし、鼻も特に····」
「そっか。····はい、シチュー。火通し直しといたから」
「ありがとう····」
「あーんしてやろうか?」
「い、いいよ····」
熱以外に目立った症状がないらしいとはいえ、私にそう応える結衣はとてもツラそうだった。
6 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:19:15.99 ID:6Xi8Rr/20
「あったかい····」
シチューを口に運び、そう零す結衣。
しかし私はあまり落ち着かなかった。
「結衣、こっから一番近いドラッグストアってどこだっけ」
「····え?」
「風邪薬、買いに行ってくるよ」
「········」
「食器も私があとで片付けるから、食べ終わったら結衣は寝てて」
「····わかった」
結衣が何事もなくご飯を食べているのを確認し、息を整えた私。
念のために暖房の設定温度を上げてから、外に出る支度を始めた。
7 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:23:03.88 ID:6Xi8Rr/20
「うわああっ····!!?」
いつの間にここまで天気が悪くなっていたのだろうか。
マンションを出た私に、凄まじい強風が吹きつける。
その風はたくさんの雪をも運んできていた。
街路灯はおろか、周囲の木々さえも全く見えない。
夜の暗闇とも相まって、外に出てはいけないと言わんばかりの猛吹雪だった。
でも、ここでへこたれてなんかいられない。
結衣の風邪を治す手伝いを、してあげなきゃ。
今それができるのは、私だけだ。
そう意を決し、私は吹雪の中を一歩一歩歩き出した。
「京、子····」
8 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:26:13.70 ID:6Xi8Rr/20
後ろから私を呼ぶ声に気づき、驚いて振り返る。
「結衣!?なんで出てきたの!!?」
「京子、やっぱりだめ····」
私よりも更に重々しい足取りで、結衣がこっちに向かってくる。
倒れそうになる結衣を私はぎりぎりのところで支える。
「めちゃくちゃふらふらじゃん····!」
「京子、頼む····」
「ちゃんと寝てなくちゃ――」
「私、眠れない····。――行っちゃだめ····」
結衣はそう言うと、私の腕の中で寝息を立て始めた。
9 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:31:51.40 ID:6Xi8Rr/20
「ん····」
ふと気がついた時、私は結衣と一緒に布団の中にいた。
まだ夜のようだが、どのくらい時間が経っただろうか。
雪風の吹きつける音は聞こえない。
結衣の熱がどうなっているか確かめるために手を出そうとして、私はそこで初めて気づいた。
(結衣、私をこんなに····)
私は結衣に抱きしめられて眠っていた。
その腕は、思ったよりずっと細い。
しかし私を抱き締める力は、案外しっかりと感じられた。
結衣の額と私の額に、それぞれ手を当ててみる。
両方とも、いつもより少しだけ温かいくらいだ。
私は、抱き締められているよりも少しだけ強い力で、結衣の身体を抱き締め返す。
「京子····」
10 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:36:56.10 ID:6Xi8Rr/20
うわごとを呟いた結衣の顔が、そのまま私の顔に近づく。
その瞼には、決して開く素振りがなかった。
その頬は、心なしか赤く染まっているように見えた。
その唇が、やがて迷いなく私の唇を捉えた。
「ふ········ぁっ····」
「ん····」
(結衣····)
結衣と小さい頃からずっと一緒にいたことを、私は久しぶりに感じる。
何も隔たりのない結衣を、直に感じる。
私の感覚が全て結衣へと向けられる。
私の体温と心音が結衣のものへ混ざり合い、蕩け出す。
私の意識は溢れ出る感情に飲み込まれ、再び薄れていく。
結衣とたった2人だけの夜。心地よく晴れる明日を、私はその間ずっと祈り続けていた。
11 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/02(土) 14:39:49.14 ID:6Xi8Rr/20
ありがとうございました。
短めですが、以上です。
ではでは。
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