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雪歩「えへへ……真ちゃん、大好きだよ」

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:14:35.68 ID:bfbhe1zF0





ぱちぱちぱちぱち……。



熱い油の跳ねる音がキッチンに響きわたり、私はそれを聴きながらこんなことを思っています。
ああ、こんなにも甘くて、こんなにもやさしい音が存在するんだ。
そしてこの音色は、私が作り出したんだ――と。


普段はお菓子作りなんてあまりしない私ですが、今日だけは特別です。
だって明日は一年に一度の、とても大切な日ですから。


明日はセント・バレンタイン・デー。
私はついに明日、真ちゃんに……この胸に秘めた、小さくて大きな思いを伝えます。





3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:20:18.90 ID:bfbhe1zF0





バレンタインは、女の子がお姫様になれる特別な日。
そしてお姫様は、かっこよくて、やさしくて……そんな王子様へ、静かに思いを伝えるのです。



「えへへ……真ちゃん、大好きだよ」



真ちゃんは、私にとっての王子様。
いつだってどんなときだって、私たちは一緒です。
どんなに困ったときだって、一番に私を助けてくれるのは、いつでも真ちゃんです。


私は女の子で、真ちゃんも女の子だけど、そんなこときっと気にしません。
だって真ちゃんは、とってもやさしいから。


こんな風になっちゃった、こんなにダメダメな私を、真ちゃんはいつでも見ていてくれるから。



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:25:39.04 ID:bfbhe1zF0





バレンタインのプレゼントは、ドーナッツ。
お口でとろけて、心にまで沁みこんでしまいそうな、甘くて甘い……そんなスウィート・ドーナッツ。



「ぱちぱちぱちぱち……」



やがてドーナッツは、心をも焦がすような狐色にその姿を変えていくでしょう。
でも、最初は真っ白。どんな色にも染まってしまう、そんな色。


真ちゃんは、いつか私に言ってくれました。雪歩は真っ白で、とても綺麗だ、と。
だから私は白が好き。白い私でいればきっとまた……あなたが褒めてくれるから。
あなたが私を、見てくれるから。



5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:31:01.79 ID:bfbhe1zF0





「……あ……こんなに早く、揚がっちゃうんだ……」



私の予想よりもずっと早く、ドーナッツはその色を変えてしまいました。
小さな気泡が無数に生まれ、そして消えていきます。
くるりとひっくり返して、また数分……真ちゃんへのバレンタイン・プレゼントは、ついに揚がりきってしまいました。


それでも私は、この子を摂氏180℃の海の中から取り上げられません。
だってなんだかこの姿が、自分にそっくりだったからです。


私のこの心と、あまりにも瓜二つだったから……
ほんの少し、びっくりしてしまったのです。



6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:36:08.47 ID:bfbhe1zF0





「……ゆきやこんこん、あられやこんこん……」



窓の外で、しんしんと雪が降っているのがわかります。今年最初の、そしてきっと、最後の雪です。
体の芯まで凍らせてしまいそうな、そんな景色を……ぱちぱちという音を聞きながら、私はただ眺めていました。


私はきっと、こんな風に降り積もる白い雪。けれども、いまでは少し違います。
この身は、この心は……こんなにも、あなたに恋い焦がれてしまっているのです。
ちょっぴり焦げたこのドーナッツと同じ様に、深くて濃い色に染まってしまうほど……
こんなにも、真ちゃんのことを想っているのです。


それでもあなたは、こんな私のことを褒めてくれるのでしょうか?
雪歩は綺麗だと、言ってくれるのでしょうか?



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:41:17.64 ID:bfbhe1zF0





ぴりりりり。



どこまでも静かで穏やかな空間に、携帯電話の着信音が鳴り響きます。
なんて無粋な音なのでしょう。私と、私のいるこの場所の邪魔をしないでください。
などと、いつもでしたら憤慨する私ですが……いまだけは、少しばかり違います。


なぜなら、電話をかけてきてくれるのは、真ちゃんだから。
この携帯電話は今日から、真ちゃんからの着信しか受け取らなくなったのです。



「雪歩……?」



真ちゃんの声が、この小さな耳に入ってきました。
私だけに向けられた、真ちゃんの優しいハスキー・ボイス。
私はついつい、ずっと聞いていたいな、とそんな風に思ってしまいます。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:46:57.72 ID:bfbhe1zF0





その声の響きは、息の仕方を忘れてしまうほどにこの胸を締め付けます。
私はうまく言葉を発することができません。
それに、こんな私のダメダメな声で、真ちゃんの声を穢したくありませんでした。



「雪歩……聞こえてる? そこにいるんだよね?」



私はここにいるよ。
あなたにそう伝えたいのに、伝えたくない。
真ちゃんに私の存在を知っていてほしい、けれども同じくらい、真ちゃんに私の存在を探してほしい。
相反する願望はこんな風に、いつだって私を苦しめます。



9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:52:31.73 ID:bfbhe1zF0





「今日はどうしたのさ……みんな雪歩のこと、心配してるよ」



今日、私はみんなに黙ってお休みをしてしまいました。
だって、明日は特別な日。バレンタイン・デーだから。
特別な日を大切な日にするためには、準備がとっても重要なんです。


プロデューサーは、そんな私に何度も何度も電話をかけてきました。
無視したままでいると、今度はメール。ですから今日の午前中は、着信音がずっと鳴りっぱなし。
私は真ちゃんのために、明日真ちゃんを喜ばせてあげるために、携帯電話の設定を変えたのです。


えへへ。真ちゃん、こんなこと教えてあげたらどんな顔するかな?
きっと、嬉しいよ雪歩、って言ってくれるんだろうな。



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:53:25.22 ID:1qd4sYV60


病んでる・・・?


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 04:57:48.48 ID:bfbhe1zF0





「雪歩……大丈夫? 体調崩したりしてない?」



真ちゃんが、こんなダメダメな私を心配してくれています。
他の誰の心配よりもなによりも、真ちゃんからの気遣いこそが、私の心を弾ませるのです。
やっとやっと、私を見つけ出してくれたんだね。



「真ちゃん心配してくれてありがとね、私は元気いっぱいだよ」



私はやっとの思いで、言葉を振り絞ります。
しかしながら、自然といつもより早口になってしまいました。
やっぱりこんな声で、真ちゃんの耳を汚したくはなかったからでしょう。
私は、真ちゃんが喜ぶことだけをしていたい。ただそれだけなのです。



「……そっか、それなら良かったよ。雪歩、ちょっと様子おかしかったからさ。昨日のあのときから――

「昨日? 何を言ってるの真ちゃん? 昨日なんてなかったよね?」



14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 05:04:01.64 ID:bfbhe1zF0





ぱちぱちぱちぱち……。



沈黙が、私たちの間にのっそりと横たわりました。手を伸ばせば触れられそうです。
真ちゃんの静かな息遣いと、誇大化された私の呼吸音。
そしてドーナッツがあげる、熱くて痛いと叫ぶ声だけが、この私の感じられる世界のすべてです。


ですが私は、その沈黙すらも愛します。それは彼女と私を繋ぐものだから。
あなたと共有するものならば、私は死すらも愛しましょう。



「…………雪歩。いいかい、よく聞くんだ」



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 05:09:40.87 ID:bfbhe1zF0





「昨日、ボクと雪歩が話した――――――――――――――――――――――――――いないんだ」



真ちゃんが話す声が、電話の奥から聞こえてきます。
けれども私には、それが何を意味する言葉なのか、理解できません。



「だけ――――歩のことをとて――――――――――――――――わかる」



それはとても心地よい響きだったので、私はBGM代わりにただ耳を傾けているだけでした。
でも、こんなことじゃだめですよね。



「ボク―――――と仲直り―――――――――――――――――――たい』



真ちゃんが、こんな私なんかのために言葉を紡いでくれているんだから。
ちゃんと意味を理解して、考えて、そして返事をしなくちゃ。でも……。



19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 05:14:49.19 ID:bfbhe1zF0





「――――――――――のか、ボクに教えてほしい。――――――――――――わないから……」



私は一生懸命に、その言葉のひとつひとつの意味をすくいあげようとしました。
けれどもどうしても自分の中で、それははっきりとした形を持つことができません。



「だってさ……――――――――――――だけは――――――なんだから」



真ちゃんの言葉は、まるで砂のように……
さらさらと私の手の中から零れ落ちていってしまいました。



「ボクと雪歩は――――――――――――――――?」



ぷつん。
ぷー……ぷー……ぷー……



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 05:19:59.10 ID:bfbhe1zF0





気が付けば、通話は切れてしまっていました。
いいえ、正確には違います。私が、この指で電源ボタンを押したのです。


真ちゃんが何を言っていたのか、私にはよくわかりませんでした。
ですから、意味がわからないまま電話させるなんて、真ちゃんに悪いな……と、そう思ったのです。



「真ちゃん、急に電話切られて怒ってないかな? 私のこと、嫌いになったりしてないかな?」



私は、とても怖くなってしまいました。真ちゃんに嫌われたら、私には生きる希望がありません。
でも、明日はバレンタイン・デー。仲直りするには、絶好のチャンスです。



23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 05:25:25.06 ID:bfbhe1zF0





「スウィート・ドーナッツ……ふんふふんふんふ……♪」



ついに、真ちゃんへのバレンタイン・プレゼントが完成しました。
私はいま、鼻歌交じりにそれを眺めています。
さっきまでの憂鬱はどこへやら、今にも躍りだしそうなくらいに私の心は弾んでいました。


味も、デコレーションも完璧です。真ちゃんが好きそうな、女の子らしい……とても赤い色になりました。
いつもだったらこんなに女の子っぽいもの、真ちゃんには似合わないと思います。
ですが昨日から、私はその考えを少しだけ改めていたのです。


真ちゃんが、喜ぶことをしたい。私が、喜ばせてあげたい。
甘い香りに包まれたこの暖かいキッチンの中、窓の外で静かに降り積もる雪を眺めながら……
私は、にっこりと微笑みました。



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 05:30:22.79 ID:bfbhe1zF0





明日はセント・バレンタイン・デー。
私はついに明日、真ちゃんに……この胸に秘めた、小さくて大きな思いを伝えます。


バレンタインは、女の子がお姫様になれる特別な日。
そしてお姫様は、かっこよくて、やさしくて……そんな王子様へ、静かに思いを伝えるのです。



「えへへ……真ちゃん、大好きだよ」



夜、布団の中に潜り込みながら、私はもう一度呟きました。


今日は何を聞きながら寝ようかな? やっぱり、真ちゃんの声がいいかな?
そうだ、さっき録音したばかりの通話記録にしよう。
こうやって繰り返して聞いて、真ちゃんが話していた意味を少しでも理解しないと。



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 05:36:16.89 ID:bfbhe1zF0





ざー……ざざー……



『……昨日、ボクと雪歩が話したこと。それがどんな意味だったのか、ボク自身よくわかっていないんだ』

『だけど、あの顔を見たら……雪歩のことをとても傷つけてしまったんだということはわかる』

『ボクは、雪歩と仲直りがしたいんだ。だから、ちゃんと顔を見て話したい』

『どんな風に傷ついたのか、ボクに教えてほしい。思いっきり責めてくれて構わないから……』

『だってさ……昨日言ったことの中でも、これだけは本当の本当なんだから』



『ボクと雪歩は、これからもずっと……“友達”だろう?』



ぷつん。
ぷー……ぷー……ぷー……




おわり



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 05:39:40.72 ID:bfbhe1zF0


雪歩のスウィートドーナッツを聴いてティンと来て書いた
正直スマンカッタ

雪歩はちょっとか弱いとこもあるけど一生懸命な頑張り屋さんだよ



26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/20(火) 05:38:40.69 ID:EKQyxIas0



儚く綺麗でした



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